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魔導士と剣と祝杯

魔導士としての証書を得たその日から、健二の生活は一変した。


――いや、正確には「さらに過酷になった」と言うべきかもしれない。


早朝、まだ街が寝静まる頃。健二は剣を背負い、剣術道場の門を叩いていた。

入門は形式的なものだったが、彼は弟子の中でも飛び抜けて年長でありながら誰よりも真剣だった。


理由は明確だ。

炎と雷の剣は、ただ出すだけならば彼の魔力量と集中力で可能だった。

だが「戦うための剣」として、それを生かすには技術が足りなかった。

本物の剣士との鍛錬を通して、真に実戦で通用する力に昇華させる──それが彼の目指す道だった。


剣筋を磨き、体の動きを合理化し、打ち込み、受け、斬り合う。

日が暮れるまで剣と汗を交え、時折小遣いが底をつくと、街の貴族の子弟に家庭教師として魔導の基礎を教えることで糊口を凌いだ。


「雷と炎の先生」として、教え子には意外と人気だった。


一方のリーファは、学院で目覚ましい成長を見せていた。


もとより秀才肌ではなかったが、健二の背中を追いかけるように、努力と根気で知識を積み上げてゆく。

講義を終えれば自習室にこもり、実技の後も居残りで魔力操作の反復練習を重ねる日々。

そして単位をひとつ、またひとつと取得してゆくたび、誰よりも健二がそれを喜んだ。


「祝いだ、祝い。お前、よく頑張ったな」


そう言って、彼は街の酒場やレストランへリーファを連れ出すのだった。


リーファははじめこそ遠慮していたが、次第に健二のそういう不器用な労いを「嬉しい」と思うようになっていた。

二人で囲む食卓。

ふとした拍子に、健二が見せる照れくさい笑顔。


それは彼女にとって、どんな魔術の秘奥よりも心に残るものだった。


こうして、剣と魔術を携えた日々は、確かに春の陽差しのように穏やかで、だがどこか緊張を孕んでいた。


──まるで嵐の前の、静けさのように。



順調に見えた学院生活に、思わぬ影が差したのは初夏のある日だった。


風魔法の基礎課程を修了し、風刃を自在に操るようになったリーファは、晴れて中級課程への進級を果たしていた。

だが次に直面したのは、彼女にとって思いもよらぬ「壁」だった。


──光の癒し。


魔法の系統の中でも、もっとも繊細で、もっとも穏やかなもの。

だがそれは、戦いや破壊を目的としない分、魔力の調律と感情の制御を強く求める。

リーファは、どうしてもその微細な感覚が掴めなかった。


「……また失敗した。花びらが、焦げた……」


うなだれたまま、リーファは肩を落とす。

練習に使った鉢植えの小さな花は、彼女の光魔法に反応せず、むしろ力に押し潰されるように黒く萎れていた。


そんな彼女の様子を見ていた健二は、ある日ふと学院の中庭から枯れかけた花を拾って帰ってきた。


「リーファ。光魔法の練習、これでやってみろ」


「これ……みんな、枯れてるじゃない。こんなの……」


「だからいいんだよ。もうすぐ散る花なら、ダメにしても気にするな。むしろ、うまくいけば……生き返るかもな」


リーファは目を丸くし、それから――静かに頷いた。


それからの日々、健二は朝の剣術道場に向かう前や、夜の家庭教師の仕事が終わった後、毎日のようにどこかで花を集めてきた。

枯れかけた花、風に飛ばされた花弁、誰にも見向きもされない草花たち。


リーファのために。


彼はそれを無言で机の上に並べると、何も言わず背を向けて食事の支度を始めた。

彼女がどれほど悔しそうな顔で花に向き合っているか、言葉にしなくても伝わっていたからだ。


「ありがとう、健二。……明日も、頑張る」


ある夜、リーファがぽつりと呟いた。

彼はいつものように「おう」とだけ応えたが、その声には、わずかに安堵と微笑が滲んでいた。


やがて、枯れかけていた小さなスミレが、リーファの掌の中でふわりと色を取り戻すその日まで――

彼女は毎日、光を花に宿す努力を続けたのだった。


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