いざ魔法学校へ
冬は思いのほか長く、そして穏やかに過ぎた。
毎朝の稽古は欠かさず続き、剣術と格闘の交互稽古もすっかり村の習慣となっていた。
夜にはバルドの店で、健二は厨房に立ち、リーファは堂々とホールを仕切るようになっていた。
ギルも相変わらずの愛嬌と頑張り屋ぶりで、健二の教える魚の締め方に「どうしても俺がやると死体になる」と悩みながらも、計算業務や配膳ではバルドすら舌を巻く有能ぶりを発揮していた。
──春が訪れるまでは、そんな風に静かな幸福が村に根を張っていた。
* * *
旅立ちの日は快晴だった。
健二とリーファは村の広場で見送られながら、用意された二頭立ての馬車に乗り込む。
バルドは豪快に笑いながらハムの塊と干しパンを渡し、ウィリアムは無言で予備の鞘をひとつ差し出してきた。
「困ったら剣を抜く前に言葉でなんとかしろ。それでも駄目なら、迷わずぶん殴れ」
「……あんたらしいな」
健二は笑いながらそれを受け取り、リーファは静かに頭を下げた。
最後に、ギルがやってきた。すでに仕事着ではなく、鍬を背にしている。
「俺は、残るよ。村にも、まだやれることがいっぱいあるし……何より、ここが好きだ」
彼は珍しく真面目な顔でそう言った。
「たまには来いよ」
健二が言うと、ギルはいつもの調子で笑って答えた。
「もちろん。今度は馬じゃなくて俺が走って行くからよ」
馬車が出発する。村の子どもたちが手を振り、リーファは名残惜しそうに窓からそれを見つめていた。
* * *
──ハワード領。
侯爵が用意していたのは、学院にほど近い静かな住宅街の中でも特に恵まれた区画にある一軒家だった。
白い外壁に赤い屋根、石造りの外塀と広い中庭。
何より、台所と鍛錬場が別々に備えられているという配慮は、明らかに健二とリーファの生活スタイルを理解したうえでの設計だった。
「……なんか、贅沢すぎねぇ?」
「うん。でも、ありがたいね」
健二は荷物を下ろすと、大きく背伸びをした。
リーファは台所を覗いて目を輝かせる。
「ここで、いろんなもの作れるね。あたし、まだまだ覚えたいこといっぱいある」
「剣に、格闘に、料理に、魔法か……盛りだくさんだな」
「うん。全部、やりたい」
彼女の瞳は、どこまでも真っ直ぐだった。
健二はその姿に、半年前の小さな村で初めて出会った頃のことを思い出していた。
あの時と比べて、少女の背は少しだけ伸び、言葉にも自信が宿るようになっていた。
──これから何が待っていようとも、この日々が無駄にはならない。
健二はそう確信していた。
そして二人の新しい生活が、静かに幕を開けた。




