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ゴブリン襲来

それは、深夜の霧が森を這うように降りた晩であった。


「見張りが戻らねぇ……ゴブリンだ。間違いねえ」


村に緊急の鐘が鳴る。十名にも満たぬ村の男たちが、剣や斧、鍬などを手に集まった。


女と子供たちは、ウィリアム邸へ避難させられた。分厚い石壁のある唯一の屋敷――守るためではなく、守らせるための場所である。


健二は腰に片手剣を二本、手には棍棒と例のフラッシュライトを装備していた。


「本気でそれを持って戦うのか」


ウィリアムが呆れたように言った。


「気休めだ。ちょっとは怯むかと思ってな」


健二は薄く笑った。やがて、森の奥から“それ”はやってきた。


――ゴブリン。

背丈はまばらで、最も大きな個体でも150センチに届かぬが、全身を覆う土色の皮膚、ぎらついた眼光、歯むき出しの唸り声は、野獣そのものであった。


その数、ざっと四十。


「来るぞ!」


最初に斬りかかったのはウィリアムだった。大剣を振るい、一閃で二体を叩き伏せる。


健二は棍棒で一体の膝を崩し、喉元にかかと落としを叩き込んだ。骨の砕ける音。


だが、やはり剣は使いにくい。


持ち慣れぬ武器での応戦は、たちまち粗が出る。一本目の剣は、斬りつけた瞬間に刃こぼれし、二本目は、棍棒代わりに叩きつけた拍子に根本から折れた。


「ちっ……!」


それでも引かぬ。フラッシュライトをゴブリンの顔面に当て、一瞬の隙に回し蹴りを打ち込む。膝に肘を打ち込み、背を取って締め落とす。

格闘家としての健二の本領は、刃を捨ててからだった。


血を浴び、息を荒げながら、彼は倒れ伏す敵の数を数えていた。

十……十五……十九体。


横を見ると、ウィリアムも息を切らしながら十四体の骸の中に立っていた。


「……お前、剣折ってなきゃ三十いけたんじゃないか」


ウィリアムがそう言って、苦笑した。


健二もまた、膝に手をついて笑う。


「いや、無理だ。……俺には、お前みたいな剣筋はない」


二人は、死臭と血の中で、しばしその場に立ち尽くしていた。


夜が明けるころには、残りのゴブリンも村の男たちの手で撃退されていた。

勝利――それは確かに手にした。しかし、村には静かで重い疲労が残っていた。


そして健二には、一本の教訓が残った。

――己に合った武器でなければ、生き残れない。


それが、この地で生きていく者たちの常識であり、最初の“洗礼”であった。

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