剣と拳と交わる意思
朝の稽古場に、少女の姿は欠かせなくなっていた。
リーファ。十四の少女は、他の誰よりも早く広場に現れ、健二――マチオの動きを見つめていた。
「……あたしにも教えてくれないか。料理も、格闘も。全部」
そう願い出たのは、彼が村に来て三日目のことだった。
少女の瞳に浮かぶものは、興味でも憧れでもなかった。執念――それに似たものだった。マチオは、ゆっくりとうなずいた。
それからというもの、リーファは朝の稽古も、夜の厨房仕事も、すべてを傍で見て、聞いて、真似た。手先の器用さは天性のものか、包丁の扱いも筋の通った拳の打ち方もすぐに形にしてみせた。
「どうして、そこまでやる?」
ある夜、片付けの手を止めてマチオが問うと、リーファは言った。
「……あたしは、成人したら旅に出る。長老も、それを認めてくれた。何も知らずに出るのは愚かだろう? だから今、吸えるものはすべて吸いたいんだ」
言葉に迷いはなかった。
マチオは「いい動機だ」とだけ答え、それ以上は問わなかった。
村に、緊張が走り始めたのは、それからまもなくだった。
周囲の森にゴブリンの足跡が見つかり、遠くの集落で家畜が襲われたとの報せが届いた。
「村を守る剣が、いま必要だ。お前の力では間に合わない時もある。剣を持て、マチオ」
サー・ウィリアムの言葉に、マチオは黙って頷いた。
彼にとって剣は未知ではなかった。少年の頃、映画と漫画で覚えた素振り、武術の型に合わせて持った竹刀――しかし、それは“技術”ではなく“模倣”だった。
ウィリアムは嘆くでもなく、笑うでもなく、ただ黙々と剣の扱いを教えた。
「刃を振るうな。まず“間”を読むんだ。剣は斬る前に、敵の心を斬れ」
重たい片手剣の扱いに、最初は苦戦したが、健二は格闘の経験を応用し、着実にコツを掴んでいった。
一方で、組討ちや地上戦になると、ウィリアムは健二に手も足も出なかった。
「すまん、やっぱり投げられるとダメだ……」
「じゃあ、投げられないように構え直せ」
そんなやり取りが続くうちに、二人の間には確かな“信頼”と“学び”が芽生えていった。
朝の広場では、今やリーファ、ウィリアム、健二――三人の姿が揃っていた。少女は剣も興味深そうに観察し、ときおり軽く振ってみせた。思いのほか様になっていた。
「将来、あたしは格闘する料理人で剣士になるんだ」
そう無邪気に言い放った少女に、二人の男は顔を見合わせて、苦笑した。
やがて、村に忍び寄る気配が濃くなる。
焚き火の煙が高く上がる静かな夜。マチオは眠れぬまま、剣の鍔を握った。
彼はまだ知らない。この異世界で、剣と拳を携え歩む旅路が、これからどれほど深く長いものになるかを――。




