8話 朝食での会話
エネたちと一緒の食事だった頃は、みんなでワイワイと楽しく食べていた。
ハイド様との食事は、特に会話をすることもなくただ黙々と互いに食べている。
私はそれでも構わないし、気が楽だ。
食事を誰かと一緒に嗜むことができればそれで十分だと思っている。
ハイド様との無言の食事も何度か経験し、慣れてきたところ。
ところが、今日の朝食では初めて会話が始まった。
「ひとつ聞いても良いかい?」
「どうなされましたか?」
「私がこの家に帰ってから、変化が多い」
「と、言いますと……?」
やばい。私が使用人たちと仲良くなりすぎて対等にしていることがバレてしまったか!?
食事の手を止め、ハイド様の言葉に集中した。
「例えばこのスープ。今までになかったメニューだ。しかも味がしっかりと染み込まれていて美味い」
私が使用人たちに初めて作ったスープか。このレシピを教えていて、私の希望で作ってもらっている。
「なんとなくだが、使用人たちの雰囲気もなにか違うように見える」
「と……言いますと……」
「今までは私をあえて避けるようにしてもらっていた。だが、それがなく挨拶もされるしその雰囲気がなんとなく明るい」
なんとなく困ったような表情を浮かべている。
なにかに心配しているかのようだ。
「挨拶されることが嫌いなのですか?」
「いや、嬉しいしありがたいことだ」
「困っているように見えますが……」
「そうだな……」
ハイド様は、ふと下を向きしばらくなにか考えているようだった。
フッと強く深呼吸をした後、決心するかのように強い口調で喋る。
「いや、ここで働く者達なら大丈夫だと信じたい!」
「はい?」
「あぁすまない。決心のようなものだ。それにしてもここで働いている者達を明るくしたのはレイチェルか?」
うんと頷けばどうやったか聞かれてしまうのがオチだろう。
バカ正直に喋ってしまったら、せっかく築き上げてきた使用人と一緒に働きましょうライフがパァになりかねない。
いくらお飾り結婚とはいえ、公爵夫人としていかがなものかとは自分でも自覚している。
「みんなが楽しく働けるような雰囲気になるよう、誘導してしまいました」
「ほう。どうやって?」
「そ、それは……」
やけに食いついてくる。まるで会話を楽しんでいるかのようだ。
いやいや、そんなはずはない。
これは詮索だ。せんさく!!
留守の間、公爵家での生活状況を確認するための詮索に決まっている。ああ、私は洗濯がしたい。
嘘はつかず、それでもってうまく誤魔化さなくては。
「お父様の領地秘伝のおいしいレシピを教えたり、朝礼をしたりですかね」
「朝礼?」
「毎朝、みんなでおはようと挨拶をして、一日を始める習慣を……」
それにはもちろん私も参加している。
使用人も執事長も住み込みだし家族同然。
毎日会えるのだからみんな揃っておはようと元気よく挨拶を。それからみんなで朝食を摂る。
……とは言わずに、使用人達だけで挨拶をという雰囲気でお伝えしておいた。
ハイド様が帰られてからは私がそれに参加できていないため、少々調子が狂ってきている。
「そうか、やはりレイチェルのおかげだったのか。ありがとう」
「はい!?」
まさかのお礼の言葉を聞き、驚いてしまった。
しかも、驚かされたのはそれだけではない。
「今日、時間はあるか?」
「へ? 特に決めていませんでしたが……」
ハイド様が滞在されている場合は使用人ごっこができない。
最近ではお父様が領地の管理をほとんどやるからと、私のお手伝いも激減してしまっているし、なにもすることがないのだ。
「一緒に……でかけないか?」
愛が重いヒーロー企画作品の今作、ようやく愛の雰囲気が若干出てきましたでしょうか。まだまだ重くはなく序の口ですが、今後も温かく見守っていただけると嬉しいです。