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4話 交渉

「奥様が厨房を!?」


 今度は執事長に交渉中。

 彼は三十代後半くらいで美形とピシッとした姿勢が魅力的。

 やはり執事長もどこか徹底しすぎているような雰囲気があって、とても大変そうに見える。

 交渉してみたものの、状況はかなり厳しそうだ。執事長の普段から厳しそうな顔がさらに険しいものになっている。

 ここでの交渉は負けられない。


「料理も好きでして、ヴィニア伯爵家にいた頃はほぼ毎日作っていたのですよ」

「奥様のお気持ちは重々承知です。しかし、公爵夫人となられている以上、立場的なことを考慮すると……」

「誰か来客したり表向きには黙っていますから……ね?」


 自分勝手すぎて執事長を困らせてしまっている点は、本当に申し訳ないなと思っている。

 だが、ハイド様は生活面は好きにしてくれて構わないと言ってくれていたし、公務の一切に関わらなくて良いとも言っていた。つまり、公爵夫人としての公務も免除されるのでは? と、都合の良いように解釈しておいた。

 それくらい、家事料理は生きていく上で今後ともやっていきたいイベントなのである。

 ただ今はそれよりも、執事長が大変そうな激務を少しでも和らいでもらいたいなと思う。せめてハイド様が帰られるまでだけでも……。

 今が勝負所。

 もう一歩押さなければ。


「ね……、お願いします、……ね? ねっ?」

「わ、わかりました……。仮に禁止したとしても実家で料理をすると言い出しそうですし」

「あはは……バレてましたか」


 私らしくないおねだり交渉をしてみたが、うまくいった……と考えて良いのかな?


 無理やりとはいえ許可ももらえたため、一度ヴィニア伯爵家に材料を取りに帰った。


 数日ぶりのお兄様は、私の顔を見るなりとても心配しているようだった。


「レイチェル! この大金はどうしたんだ!? 先日ハイド様が置いていったのだぞ?」

「結納金かと……」

「それにしては額が多すぎるではないか。なにか知っているのだろう?」

「それは……」


 あっさりバレた。

 結納金が目当てで結婚したわけではないことだけはハッキリと告げておいた。


「……そうか。ハイド様の思惑がこれでわかった」

「男に興味のない私だから楽だとお考えで結婚をしたのでしょう?」


 ある意味大変な毎日になってしまったが、自由ではあるため充実している。

 ところがお兄様は、別の視点から話を始めたのだ。


「ハイド様は、父上の領地を気に入られている。国を救った経験があるようなお方だから、今度は領地を復興させようと考えておられたのだろう」

「え!? では私は結納金を渡すための口実で?」

「それはまた別だと思うが。そこそこの付き合いがある私から見ても、ハイド様は女性に対して本当に散々な目に遭ってきていたと思う。だから私の妹なら安心できると思ってくださったのだとは思うよ」


 お兄様の話は真実味のあるものばかりだし、今回の話もきっとほぼその通りなのだろう。

 ただのお飾り結婚と言っては申し訳ない気持ちにすらなってしまった。

 ハイド様が戻られたら、確認をして事実ならば生涯かけてお礼をしなければと思う。

 領地の復興に関与してくださったのだから。


 その恩返しとは別に、まずは使用人たちが喜んでいる姿を見たい。

 公爵家で料理をするとお兄様に言ったら驚かれていた。


 やっぱり公爵夫人が料理をするのは、他の方にはバレないようにしなければ……。


 ♢


「こ……これを奥様が……!?」

「お口に合えば良いのですが」

「とんでもございません! とっても美味しいですわ!」


 長時間厨房をお借りするわけにもいかないため、簡単な物を作った。

 お父様の領地自慢の塩と砂糖で味を引き出しているため、調味料に助けられている。


 執事長とエネ、そして使用人さんや公爵家で働いている人たちみんながおいしそうに食べてくれていたことが嬉しい。


「このスープ、どのように味付けをしたら良いのですか?」

「ほとんどお父様の領地で作った塩です。私はそれを使っただけですので」

「とんでもございません! 調味料は貴重品ですが、それだけでこの味付けは難しいかと。奥様は料理のお上手なのですね」


 料理を通して、ほんの少しだけ会話がはずんだ。

 これもとても嬉しい。


「もしよろしければ、レシピを教えますよ」

「良いのですか!?」

「もちろんです。作り方を独占しているわけではありませんし、今後メニューのひとつに入れてくださったら嬉しいです」


 使用人のみんなが笑顔になっているのを見てホッとした。

 初めて公爵家に来た時、暗い雰囲気なイメージだった。今後も定期的に料理はさせてもらい、みんなに食べてもらおう。

 私も元気が出るし。


 今日の良かった出来事を思い出しニヤニヤしながら、ふかふかのベッドに横になれた。

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