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お飾り結婚だからと自由にしていたら、旦那様からの愛が止まらない  作者: よどら文鳥


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19話 ハイド様との夜

「夜から引っ越しをしてもらいたい」

「は、はい!?」


 朝食を二人で嗜んでいると、ハイド様がいきなりそう告げてきた。

 昨日お飾り結婚はおしまいにして、ハイド様の妻としてラフィーネ公爵夫人として一生添い遂げますと宣言したばかりだというのに。


「今夜からは私の部屋で……一緒に寝ようという意味だ」

「え、あ、あああああ……!」


 言っている意味はすぐに理解できた。

 かつて何度もしつこくガルムからせがまれてきたのだから。もちろん全部嫌だから断っていた。

 だが、ハイド様にそう言われると緊張が優ってしまいただただ変な声しか出せないでいたのである。


「レイチェルと歩んでいく人生、一秒でも長く一緒にいたいんだ」

「え、ええと……つまり……」

「可能なら朝も昼も夜も共に過ごしたい。だが、どうしても昼間の時間が開けられない……」


 ハイド様が悔しそうにしている。

 国のために今もなお大きな活躍をしているハイド様。

 それは昨日の夜会でより知ったのである。


 ハイド様は国中を周り、生活に不自由な村や災害で被災した場所にすぐ支援や部隊を派遣し、生活が少しでも安定するよう動いているのだと。

 またその規模は自国にとどまらず、近隣の友好国でもなにかあったと知ればすぐに調査し最善策を作り動く。


 ハイド様が具体的にどのようなことをしているのかは私も知らなかった。

 そんなにすごいことをしているのに話してくることもなかったのである。

 ただ『国に貢献する活動だ』としか話してくれていなかった。


「正直なところ、全てを放棄してでもレイチェルと四六時中一緒にいたいと思ってしまうほどだ」

「そ……それは」

「だが、民があってこその貴族。レイチェルと共にこれからも過ごすためには今の活動を放棄することはどうしてもできない」


 それを聞いて安心した。

 私も今まで異性に対して全く興味がなかった。

 しかし、ハイド様に対してはなんというか不思議な感覚がある。


 離れたくない。

 そばにいたい。

 話したい。

 ハイド様のことを知りたい。


 こんな気持ちは初めてだ。

 だからこそ夜の心の準備がまだなのである。


「夜……一緒に寝るということですよね」

「そうしたい」


 ハッキリと言ってくる態度に否定することはできなかった。

 嫌だというわけではない。

 いずれそうなるとも思っている。

 ただ私のワガママのような気持ちだけなのだから、ここはわかりましたと伝えた。


 ♢


 ハイド様のお部屋にお邪魔する。

 今日からここで一緒に寝る。

 そして……。


 緊張のあまり、私の心臓の鼓動がなにもしていなくとも激しくうるさい。


「レイチェル……。朝まで一緒にいられると思うと幸せだよ」


 そう言ってハイド様はギュッと私を抱きしめてきた。

 さあここから始まるんだ。

 まだ覚悟はできていないが、ハイド様がお相手ならそれでも良い。


 今まで寝ていたベッドよりもさらにひとまわり大きいサイズ。どの方向でバンザイ状態になったとしても、手足がはみ出すことがないほどだ。

 私が先にベッドに入るよう誘導され、入る。

 ふかふかで寝心地がよさそうなのは今までのベッドと変わらない。


 大きく違うのが、今日からは横にハイド様がいるということだ。

 そして寝る前にはもうひとつ未経験の作業が待っている。


「失礼するよ」

「は、はい」


 ハイド様もベッドに入ってきた。

 私のすぐ隣に黒い髪がある。

 ちらりと私を見つめ、そのまま手を握ってきた。


 覚悟しなければ……。

 やっぱり少し怖い。

 いくらハイド様のことを好きになったんだと思っていても、身体がまだ……。


 ところがハイド様はそのままそっと『おやすみ』と囁いてから目を瞑ってしまった。

 思わず失礼なことを言ってしまった。


「はい?」

「眠くないのか?」

「い、いえ。覚悟はしていましたので」


 ハイド様が再び目を開き、私のことをじっと見つめてきた。

 赤色の瞳は恐怖を与えるようなイメージが強かったが、今はとても優しい。


「本心で話すと、このまま抱きたい。レイチェルの全てが欲しいほど好きだよ。だが、私はレイチェルが心を許すまではただ手を繋いで一緒に寝たいんだ」

「…………」

「急ぐ必要はない。震えることを我慢する必要もないのだよ」


 バレていた。ハイド様のことを拒否しているわけではない。それなのにどうしても緊張で震えていた。

 だが、仕草で拒絶していると思われたくなかったため、平常心を保つことに集中していたのだが……。


「ハイド様はそれでよろしいのですか?」

「ああ、構わない。レイチェルが安心してくれるのが一番だ。だが、これくらいはさせてもらうよ」


 ハイド様はそっと私の頬に近づき、一瞬だけ唇が頬に触れた。


「おやすみレイチェル」

「ありがとうございます……」


 ハイド様の優しさに触れ、ドキドキしながらもゆったりと眠ることができたのであった。

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