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12話 過去

 こんなに長い時間異性と手を握っているのは初めてだ。

 意識しているわけではないが、ハイド様の表情を見ている限り放っておけない。

 そして、ハイド様も握られている手を離そうとはしてこなかった。

 ようやくハイド様の重かった口が開く。


「まずはレイチェルのことを聞きたい」

「え? 私のことですか?」

「ジェシーはなにかレイチェルに対して、文句のひとつでも言っていたのだろう?」


 ハイド様がこんな状態だというのに、私のことを心配してくれている。


「話すためにも、まずはハイド様とジェシーさんの間になにがあったのかを聞きたいです」

「そうか、わかった」


 ジェシーの殺意ある視線で『絶対に許さない』と言われたことについて、伝えるべきか悩んでいる。

 過去にどのようなことがあったのかがわからない以上、無闇に話すわけにもいかなかった。

 取引経験を多くしてきたせいで、どのような状況であっても話を聞くことを大事にしてしまう癖がここでも出てしまう。

 いや、どう考えてもハイド様が変なことをしただなんて思えないけれども。


 ハイド様はひと呼吸して、ゆっくりと話しはじめた。


「五年前、私が十五歳の時だった。ベック男爵が理不尽な国政を命じられていてな。手伝うために何度も彼の家に通っていた」

「その少し前でしたよね。ハイド様が他国との紛争を止めたのは」

「ああ。それからというもの、金や権力目当ての縁談が多くなってしまったよ。ジェシー令嬢は特にだったな。ベック男爵は止めてくれていたが」


 ハイド様の手汗が徐々に止まっていく。

 話したことによって少し落ち着いたようだ。


「当時のジェシーは使用人が手を焼くほどワガママだった。だが私の言うことだけは聞いてくれていた。そのため、国務に加えて教育係としても少々面倒をみていた。それが間違いだったのかもしれない」

「ああ、なるほど。そのことがきっかけで」

「恋人と勘違いされ、何度も求婚されるようになってしまった。もちろん断っていたし、恋人でもないと何度も忠告をしていた」


 ふとガルムのことを思い出してしまった。

 私がガルムのことを愛しているのだと、ガルムは勘違いをしていた。

 愛されていると勘違いしたことがキッカケで、私のことを好きになってしまった。


「今度はあることないことを周囲に語るようになってしまってな。今まで断ってきた者たちも私の悪評を広め続けている」

「言われてみれば、ハイド様の噂はあの頃から耳に入るようになったような……。とは言っても」


 そういう噂話がちょっとあった程度だ。そんなにおおごとにはなっていない。

 もちろん当事者にとってはたまったものではないが。


「脅迫、脅し、理不尽な嫌がらせ、色々あった。以降、異性と無闇に関わらないよう推奨された。だが、それでも縁談が止まらなかった。そういう経緯で、すまないとは思っていたがレイチェルと契約結婚を申し出たのだよ……」

「そうだったのですね」

「迷惑をかけてしまっていることは重々承知だ。だからこそ、レイチェルには自由にしていてほしい」


 規模は違えど、似たような経験談があるからこそ、ハイド様の気持ちが良くわかる。

 おかげで、私に対して気を使われてしまっていることに気が付いた。


「良くわかりました。もっと自由にしますね」

「ああ、そうしてほしい」


 よし、ジェシーやその他の人たちから迫られる件を解決できる方法を考えることにしよう。

 ハイド様の過去を知ることができた。

 お互いに恋愛感情はないしお飾り妻であるとはいえ、一緒に住んでいるのだし家族同然。

 その家族がこうして打ち明けてくれたのだから、この問題に向き合っていかなければと思う。


「ところで、レイチェルはなにを言われた?」

「どろぼう扱いされてしまいましたね……。私がハイド様を奪ったのだと勘違いされています」

「処刑させる方向に誘導するしかなさそうだ……!」


 見たこともないような怒りの表情が、隠し切れないほどになっている。

 いやいや、ちょっと暴言吐かれたくらいでそれはないでしょう。


「私は平気ですよ」

「いや、ダメだ。私への侮辱や嫌がらせなら構わないが、レイチェルにまで被害がこうむるようでは……」


 これは平和的に解決できるよう、しっかりと考えなければ……。

 だが、こんなにも怒ってくれることに関してはちょっぴり嬉しかった。

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