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最後の手紙

作者: あまねこ

僕が母の手紙を受け取ったのは、20歳の誕生日の朝だった。

薄い茶色の封筒には、母の名前が書かれていた。亡くなった母が、僕に残した最後の手紙だ。


母が他界したのは僕が10歳のときだった。突然の病だった。葬儀の日、母の友人だという女性が僕に言った。

「お母さんはね、あなたに20歳になるまで毎年お誕生日に手紙を届けるよう頼んでいたのよ。」


最初の手紙が届いたのは11歳の誕生日。そこにはこう書かれていた。


「お誕生日おめでとう!お母さんがいなくても、ちゃんと強く生きてる?友だちはできた?転んでも大丈夫、君なら必ずまた立ち上がれるから。」


僕はその手紙を胸に、母の代わりに僕を励ましてくれる言葉だと思いながら生きてきた。

それから毎年、母の手紙が届いた。


12歳には「初恋をしたら教えてね」

15歳には「高校生活楽しんでる?」

18歳には「君の夢は何?」


手紙はどれも僕の心を優しく包み込んでくれた。


そして、今日。母から届く最後の手紙を、僕は少し震える手で開いた。


「20歳のお誕生日おめでとう。最後の手紙になっちゃうね。寂しいけど、きっと君なら大丈夫。」


そこまではいつもの母の調子だった。でも、次の一文に僕は言葉を失った。


「実は、お母さんがいなくなった理由を、君に伝えなきゃいけないと思っていたの。」


手紙は続いていた。


「お母さんは病気だった。本当は治療を受ける選択肢もあったの。だけど、それには大きな代償が必要だった。君の教育費や生活を支えるお金を使わなきゃいけなかったの。お母さんは迷ったけど、君を守ることを選んだ。それが私の生きた証だから。」


僕の手は震え、手紙の文字が涙で滲んでいった。

母は僕を守るために、自分の命を犠牲にした。僕が知らなかった真実。


最後に、こう書かれていた。


「これが正しい選択だったかどうか、お母さんは今でも分からない。でも、君が笑顔でいてくれるなら、それだけで十分。君の未来が明るいものになりますように。愛を込めて。お母さんより。」


僕は手紙を胸に抱きしめ、泣いた。母のいない10年間、僕はひとりだと思っていた。でも、母はずっと僕の中にいて、僕を守ってくれていたんだ。


それから数時間、僕は母の手紙をすべて読み返した。そこに込められた愛を改めて感じながら、僕は心に誓った。

母が望んだ通り、精一杯生きてみせると。母が命を懸けて守ってくれた僕の人生を、決して無駄にはしないと。


僕は手紙を丁寧に箱にしまい、空を見上げた。そこに母の笑顔が見えた気がした。

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