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2 桃井すず

 さすがに女子が好みそうな服までには手を付けていないけれど……顔は、大事にしている方だと思う。

 それこそ、ケアとか……少々やり過ぎなんじゃ?と思うこともあるけれど、二度とアトピーだらけの顔にだけはなりたくなかった。

「?」


 それは、とある大学での講義の時間。まあ、大学生って言ってもめちゃくちゃ真面目系もいれば、遊ぶことが目的で大学に入っているようなヤツもいるぐらいで、講義の時間ともなると前辺りの方の席はガランとしていることも多い。よっぽど興味のある講義、人気のある講師でもいなければ前辺りの方の席は空席ばかりとなってしまっていることがほとんどだ。

 今日も、そんな感じ。

 たまたま、俺が教室に入ることが遅れてしまっていて、いつもならば後方辺りの席を確保しているのだけれど、あいにくのところ後方の席は既に他の学生たちによって埋まってしまっていた。仕方なく、前辺りの席の何処に座ろうか……と視界をきょろきょろとさせていけば、何処かで見たような顔を見つけたものだからついつい『彼女』の隣に座ってみることにした。


「……隣、いい?」


 さすがに、友達か誰かでも待たせていたら申し訳なく感じたから声も無く座るわけにはいかず、彼女に声を掛けていったのだけれど、おもむろに眼鏡を掛けた彼女は俺の方へと向かって顔を上げていくと『どうぞ』と朗らかな笑みとともに応えてくれた。その言葉に甘えて、座ることになったのだが、ふと視界に飛び込んで来た彼女のノートらしきモノ。……ほとんど、字が書かれていない?教科書の類はしっかりと準備はされているようだけれど、ノートはほとんど真っ白で使われていないような状態なのが目に入ってきた。

 このままスルーしてしまうのも良かったのかもしれないけれど、ちょっとばかし真っ白なノートが気になってしまった俺は隣の席の彼女に声を掛けていくことになる。


「ノート……もしかして、普段使っているヤツは忘れてきたのか?」


「!あ。コレは……えっと……前の方の席にいても、なかなか読み書きすることが難しくて……ほとんどノートは使わないんです。一応、こうして準備はしているんですけれど……」


「……確か、目が悪いんだったっか?この前、眼鏡取られてからかわれていた女子だよな、アンタ?そんなに目が悪いのか?」


「……目が悪い、というか……目に、ちょっと障害がありまして……視野も狭く、眼鏡を取った裸眼状態になると本当にモノが何処にあるかどうかも分からないほどになってしまっていて……」


「視覚、障害……ってヤツ?」


「…………はい」


 どうやら、単にめちゃくちゃ視力が悪いっていうだけじゃないらしい。視力に障害を持っているらしく、授業の読み書きもまともに出来ないこともあって苦労しているとか。さすがに、全盲……全く見えていないというわけではないから盲導犬を必要とする域にまでは達していないらしいとのことだけれど、毎年視力の検査を受けていくたびに視力も視野もどんどん悪くなっていくばかりで、どんなに治療らしい治療を施そうとしようとも効果のある薬だったり、治療法といったものは今のところ存在していないらしい。


 俺が、先日、意地悪をしていた女子から眼鏡を取り返して彼女に差し出したときも彼女は眼鏡が何処にあるか分からなかったようだったし、俺が片手を取って『ここにある』と教えてあげると、ゆっくりと眼鏡の形を指先で確認してからようやく自分のモノであると理解することが出来たのか安心して眼鏡を掛けていったよな……。

 なるほど、視力に障害があると……ただ、単に視力が悪いとかって問題だけじゃないんだな。


「……でも、こうして大学の講義には出ているんだろ?ノートとかどうしているんだ?」


「そこは、スマホで録音させてもらったり。あとは視力の具合が良いときに教科書を読み返したりすることが多いですね。講義を一度聞いただけではなかなかに理解することも難しいですし、それに講師の先生たちがホワイトボードとかに書き込みされていることも全て見えているわけじゃないので……どうしても教科書頼りになっちゃってます……」


「……大変だな。あ、俺、灰原那月はいばら・なつき。アンタは?」


「桃井すず(ももい・すず)といいます。灰原くんは、一応同じ学年なんですよね?」


 こうして俺に顔を向けて桃井は話し掛けてくれているが、果たして俺の顔はきちんと桃井の視界に入っているんだろうか?

 前回、ちょっと無視することが出来ずに手助け……のようなことをしてしまったけれども、そのときに『綺麗』って言われたのだが、それは本当に俺の顔を目にした感想だったのだろうか?それがどうしても気になってしまった。


「あぁ、ここにいるってことは同学年だろ。……こうして知り合ったばかりだし、手助け出来ることがあれば手伝える範囲なら手伝うから言ってくれ」


「え?でも、灰原くんの迷惑になってしまうんじゃ……」


「迷惑だって考えていたら最初から手伝うなんて言わないっての。……それに、今まで桃井みたいな人とは出会ったりしたことが無かったから、どれだけ大変かなんて分からないし……一応、知り合いになったからには手助けぐらいならしてやるから」


「!ありがとうございます。やっぱり、灰原くんは『綺麗』ですね」


 また、だ。

 桃井は俺のことをしっかりと視界に入れているのかどうかは分からないけれど、俺に向かって『綺麗』だと言う。

 俺は毎日のように顔のケア、そして最低限の化粧ぐらいはしているから男の娘なんて周りからは言われていたりするけれど、なかなか『綺麗』とは言われないんだよなあ。


「……綺麗、か?えーっと……それって、俺の見た目?」


「あ。すみません。この距離でも、灰原くんの顔をしっかりと視界に入れることは難しいんです。私が言う綺麗っていう意味は……灰原くんの優しさだとか、心が綺麗だと感じたんですよ」


 あー……やっぱ俺の見た目のことは、はっきりと視界には入っていなかったらしい。まあ、俺を目にしたら『綺麗』よりも『可愛い』って言葉の方が口にしたくなるもんだもんな。それにしても、俺の心が『綺麗』?……そうだろうか?


「……でも、この前ちょっと手に触れてしまったんですが……とてもなめらかで、すべすべしているのは分かりました。私はこの時期になるとどうしても乾燥してしまって、ガサついてしまうことがあるのでクリームが必要になってしまうんですよね」


「ふぅん?どんなクリーム使ってんの?今、持ってる?」


「あ、はい。……こちら、です」


 肩掛けバッグの中から、さらにちょっとした化粧ポーチを手探りで取り出していくと、一つのクリームをテーブルの上に出してくれた。俺は失礼して、そのクリームをまじまじと見ていくものの、思わず眉を下げてしまった。


「コレは、あんまオススメ出来ないかも。確かに潤い成分は入ってるっぽいけれど、乾燥には弱いからすぐに乾くタイプなんじゃね?なあ、桃井はこの講義の後ってまだ予定とかってあるわけ?」


「いえ。これが終われば帰るだけになりますけれど」


「だったら、ちょっと買い物行こうか。桃井に合わせた化粧品……っつか、ケア用品を見繕ってあげるから一緒に買い物に行こう」


「え、私とですか!?で、でも……」


「視力が不自由だと、どんな化粧品があるか、どんなケア用品を使えば良いのかも分からないんじゃね?いいよ。それぐらいなら俺も付き合うから。それに……確かに、ガサついているから……このままだと、あかぎれとかも起こすかもしれないし」


「えっと、じゃあ……お願いします」


「ん。お願いされた」


 講義が始まると、お互いに講師の説明、授業には真面目に聞き耳を立てていったが、やはり講師がホワイトボードにあれこれ必要な要素を書いて説明するものの桃井の視界にははっきりと入ることが難しいらしく、教科書をじっと見つめながら講師の話に耳を傾けているって感じだった。もちろん桃井のノートには何か書き込まれる様子も無いし、ただ広げられているって感じだった。

 視力に障害があるっていうのは、あまり詳しくないけれど、ここまで生活に苦しいものがあるんだな。今回は、大学での講義の受け方についてもあれこれ話を聞いてみたけれど、どんどん話を聞いていけば買い物一つするだけでも苦労をすることが多いらしい。特に、買い物一つするだけでも表示されている値段なんかもはっきりと視界に入れることが出来ないときには予想外の買い物をしてしまうこともあるとかで財布の中身が一気に飛んでいってしまうこともあるそうだ。……大丈夫か?コイツ。

 よっし!取り敢えず、お互い自己紹介は出来たね!一応、知り合い……には、なれたかな?これから友情を育んでいってください!そして純愛を築いていってくださいね!!


 良ければ『ブックマーク』や『評価』などをしていただけると嬉しいです!もちろん全ての読者様には愛と感謝をお届けしていきますよ!

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