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1 幼い頃から続けた結果……男の娘と呼ばれるようになった

 きっかけは、小さな頃に酷かったアトピー治療だった気がする。

 いろいろな皮膚科に行ってもなかなか改善出来なくて、最後に頼った皮膚科からは『少々高額になりますが、こちらの基礎化粧品を試してみませんか?』と処方されたスキンケアを使い出してからはみるみるうちに顔のアトピーが消えていった。

『!ねぇ、あの子だよね!今日も綺麗な顔してるー!』

『でも、男の子でしょ?女子よりも化粧をマメにチェックして直しているなんて、ちょっとやり過ぎじゃない?』

『そこが良いんじゃない!別に、最近は化粧をする男子だって珍しくなくなってきているでしょ?』


 俺が大学の敷地内をあちこち歩き回っていくと、嫌でも耳に届くのは俺に対しての褒め言葉と呆れたような言葉だった。基礎化粧品はもちろんのこと、最近は薄っすらとだが口紅まで付けるようになってきているせいで、周りからは『男の娘』として把握されるようになってきている。おかげで、気持ち悪がれるヤツもいれば、今なんて男の子の化粧もそう珍しくは無い!と言いながらも俺とは必要以上なまでに距離を詰めようとは考えていないヤツらばかり。

 結局は、周りとは違う俺という異質な人間とは関わりを持ちたくは無いと考えているんだろう。大学では、基本的に勉強と将来をどうするか、と考えるために通っているだけだから特に友人関係を築こうとは考えていない。それに、一人だからってそう困るものでもないのが大学生活というものだった。これが中学だとか高校とかって話になってくると難しいのかもしれないけれど、俺は自分から孤独を望んでいるし、別に友人も欲しいとは考えていないから苦ではない。


 ただ、文句があるとすれば……。

 俺が『男の娘』になったからといって、男が好きだとか、実は女には興味が無いのでは?なんてワケの分からない噂が広まっているということ。俺はそんなこと一言も言った覚えは無いというのに、どっかのバカがデマを流したんだと思う。別に『男の娘』だからといってゲイだとか女に興味が無いって話は=で繋がるものなんだろうか?絶対に違う気がする。


 母さんも父さんもそこそこに整った顔立ちをしているから、ちょっと手を加えてやれば『男の娘』に出来上がってしまったってだけだ。それに、俺が美容とかを気にしはじめたのは、小さな頃のアトピーが関係している。皮膚炎も体中のあちこちに酷かった覚えがあるし、顔そのものにもアトピーが出て来てしまったときには、あちこちの皮膚科にかかって医師からはいろいろな薬を処方されたものだったのだが、あまり効果は出なくて、アトピーに効果がある薬って実は無いんじゃないか?と考えていたものだった。が、半ば諦めつつまだ訪れていなかった皮膚科医からは処方薬というものよりも、少しばかり高額だったスキンケア商品というものを勧められたことを今でも覚えている。それは、毎日決まったときに忘れずにきちんとスキンケアをするということ。今なら分かるが、化粧水・乳液・そしてクリームといったものをまとめて購入することになったから母さんからすればあまりにも高額な値段に最初はびっくりしていたかもしれない。それでも、俺が毎日欠かさずにスキンケアをおこない始めていくと、じょじょにだがそれでも確実に顔にあらわれていたアトピーが消えるようになってきた。それに喜んだのは俺自身よりも母さんの方だったのかもしれない。もちろん父さんもあちこちの皮膚科に行くより、最初からこの先生に相談してみれば良かったな!と喜んでくれていた。


 そこから、俺は美容というものに興味を持つようになったんだと思う。二度とアトピーだらけの顔に戻るなんて想像するだけでゾッとしてしまうし、少しでも気候の関係で肌が荒れそうだと思えば、トイレに向かいスキンケアを欠かさずおこなうようになった。たまに中高時代に、教室の中でスキンケアをしているところをクラスメイトたちに見られて『何をしているの?』と聞かれたことがあったのだが、そのときには肌荒れが酷いからケアをしているだけ、と言っていただけだったはずなんだが、その話があちこちに出回るようになると同時に、あれこれと俺が言っていないようなことも噂として出回るようになってしまったらしい。

『灰原は男のくせに化粧をしている。男の娘なのでは?』

 っていう感じの噂だったと思う。俺はそこまで男の娘を主張するつもりは無いけれど、そこら辺にいる女子よりかはスキンケアには気を付けていると思うし、気候には敏感な方だ。気候によってスキンケアの内容だったり、使用している化粧品の類も変わってくるからだ。


 ちょっと中性っぽい見た目をしているから、そして化粧をしているからって理由だけで男の娘って括りにされるのはどうかと思うけれど、無駄に『灰原くんってどんな化粧品使っているの?』とたずねられるよりかは、一人で過ごす方が気が楽で良い。女子は、他人の使っている化粧品にはウザったいぐらいに興味を持つものだし、それが良いモノであればあるほどに、『ちょっとだけちょうだい!』とか『少しだけ貰えないかな?』なんて言い出すに決まっている。つまり、自分で買うつもりが無いんだ。そんな面倒な女子に構われないだけマシなんだろう。


 ウザったい女子に囲まれないのは良いと思う。が、明らかに誤解をしている男子たちは俺がゲイだとか、男に注目されたくて化粧をしているのでは?なんてバカみたいな妄想をしているヤツらに囲まれたことがあったが、その時には確か急所を蹴り飛ばしてやったんだったか?誰がゲイだ。それに男の気を引くために化粧をしているだと?バカバカしい。男ってこんなにバカな生き物だったっけ?俺も一応、男だけれど、こんなバカな連中と一緒にはされたくないんだよなあ。


「ちょ、返してよ~……」


「あはは!ほらほら、こっちこっち!ほんとに見えないの~?」


 学生たちがよく集うカフェテラスの一角において、何やら騒ぎを起こしている女子たちがいた。一人は困ったようにあちこちに視線を向けているものの、一人は高い位置で眼鏡を持っている。おそらく、困っている彼女の眼鏡を無理やり外させて、視力の悪さをバカにしているのかもしれない。

 まったく……この大学には、バカしかいないんだろうか。


「おい。ちょっとアンタ。それ、そっちの女子のモノなんじゃないのか?」


「え。あ!アンタ噂の!」


「噂なんてどうでも良い。いい加減、返してやれよ。そっちの女子の眼鏡だろ」


「ちぇー……でも、良いモノ見られちゃった!やっぱお肌綺麗だよねぇ!今度、どんな化粧品使っているか教えてよ!学年も一緒でしょ?」


 はぁー、と深い溜め息を吐きながらバカ女の手にしている眼鏡を無理に奪ってやると、未だに困っているらしい女子に近付いていけば『ほら』と差し出してあげた。が、彼女は視線をあちこちに向けて眼鏡が何処にあるかが分かっていない……?相当視力が悪いんだろうか?


「……ほら、ここにあるだろ?」


 仕方なく、困っていた女子の片手を取ると俺のもう片方の手のひらに乗せている眼鏡にそっと触れさせてみれば、しっかりとその形を確認するように指先であちこち触れていけば安心したように手に取ると改めて眼鏡を掛けていった。


「あ、ありがとうございます。助かりました」


「別に。ただ、目の前でバカみたいなやり取りをしていたら黙って見ていられなかっただけ」


 彼女は、相当目が悪いんだろうか。眼鏡自体は普通のモノっぽい感じがしたけれど、裸眼になると近くにあるモノでもかなり気を配って触れていかないとそれが眼鏡なのかどうかも分からないのかもしれない。


「そっちのアンタも、あんまイジメとかすんな。大学生にもなって恥ずかしいとか思わないのか?」


「っもう!別に良いじゃない!ふんっ!!」


 まったく、小学生か……。

 眼鏡を掛けた女子は、まだそこにいたらしく俺を見上げては、ぽかーんと口を小さく開けていた。もしかして、俺の見た目にビックリしているのかもしれない。


「……綺麗ですね!こんなに綺麗な人に助けてもらえるとは思いませんでした、本当にありがとうございました!」


 綺麗?

 男の娘になってからは、『可愛い』だとかってことはたびたび言われることはあったけれど、綺麗っていうのはあまり言われたことが無かったなあ。そっか、綺麗って言葉も俺には当てはまるんだなあ。


 ぺこぺこと頭を下げてお礼を言い続けていく女子に軽く片手を上げると大学での講義に戻って行った。

 男の娘になる理由は、人それぞれ。でも、今回の灰原くんの場合はアトピーが原因だったようです。


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