海底から舞い上がる
俺が…海底洞窟にてエースさんと生活してから早7日が経った。
この7日間、何とかエースさんを外に出せないかと奮闘したが…難しかった。
エースさんもエースさんでリハビリをこなしAGがなくても歩けるくらいにはなったが長時間の遊泳は無理があった。
俺が背負って行くのもありだが…上に上がるためには洞窟から空洞に入り、俺が開けた穴に入って海上に浮上するしかない。
…水中でのAG起動はできないから俺が何とか泳ぐしかないが、そもそもエースさんの酸素が持つかどうかも怪しい。
それに…本当は俺が沖まで泳いで誰か助けを呼ぼうとしたのだが、そうはいかなかった。
何か大きな船が3隻、小舟が8隻がこのあたりを回っていて何かを探しているようだった。その時はどう考えたって怪しすぎるのですぐさま俺は海底洞窟に戻った。
「…一週間ですか」
「一週間って意外と早いんだね、んぐんぐ…」
大の字で寝っ転がる俺の横で、焼いた魚をもぐもぐと食べているエースさん。
食事や水に困ることはなかった。
魚は海に潜れば大量にいるし、栄養は取れる。
水も蒸留法を使って海水を水にすれば飲めるし、塩も魚の味付けに使えるしそのまま舐めれば塩分チャージにも使える。
やっぱ訓練ってすごいな、こんな時にこそ生きる知識かもしれないけどお陰様で今日も生きてられる。
「…」
正直、IGD学園に戻らないと色々な意味でヤバい。
捜索届もそうだが…タービュランスの目的を外部に露出するわけにもいかない。
しかも俺たちの上にいる船の連中に見つかる可能性もある。
(…本格的に賭けと覚悟を決めた方がいいかもしれないな)
そう思ったのでエースさんに話す。
「エースさん」
「なに?」
「正直このままだとこの場所から出れないのもそうですけど…色々な意味でマズいので、賭けに出ませんか?」
「賭けって?」
「俺が…ここから海上に上がる穴を開けます」
「…出来るの?」
「そこが問題です。黎蝶じゃないんですけど、前に俺は黎蝶に似た赤い蝶を宿していた時があってその時の武装は鉄のコンテナを悠々と裂き、海を割ることが出来ました。ただ、黎蝶で行けるのかどうかっているのが問題です」
「なるほどね」
一番の賭けは…俺が海底洞窟の天井をぶち抜けるのかどうか。
計画は立てているが…前提条件として俺が天井に風穴を開けなければならない。
それが出来なければ作戦の意味がなくなり、中途半端に破壊すれば海水が洞窟内に侵入し、強制的に泳がされるような状態になってしまう。
そうなるとエースさんの命が危ない。
「…」
「わかった、九条春斗君の案に乗るよ」
「え」
「こういう時は即断即決って言うんだよね」
「ま、待ってください!こう…確率云々とかそういう反論は…」
「ないに決まってるよ、当たり前じゃん」
「当たり前って…」
俺がエースさんの反応に驚いていると。
「『仲間』だからね」
「!」
「勝手に仲間扱いするなって君が思ってるかもしれないけど、私は君を仲間だと思ってる。だって私を目覚めさせて6日間ずっと君は私と一緒に生活してくれた。私がリハビリに頑張っている間に危険も顧みずに食料を取りに行ったり…色々な事をしてもらったから」
「…」
「だから私は信じる。それが『仲間』でしょ?」
…そういわれてしまった。
なんも言い返せない、というより言い返してはいけない。
エースさんは俺の事を信じてくれた。6日間で芽生えた絆に。
なら…。
「分かりました。なら…ベストを尽くします」
それに報いよう。
俺は考えた…この天井を一撃で粉砕できる武具を。
アクセラレータ、蒼刃剣、パイルバンカー、魔剣、ディザスター…。
(スターゲイザー…!)
そうだ、キャッスルのバリアを突き破り壁に大穴を開けたあの質量砲ならいけるかもしれない。
そう思い、俺は黎蝶を使ってあの時のスターゲイザーのデータを元に生成し始める。
膨大なエネルギーは黎蝶でカバーしよう。
「これが破壊できる兵器?」
「エースさんが眠っている間に起きた戦いである意味、その戦いのMVPの兵器です。まだ完全に生成できてませんけど…」
「へぇ…そんなにすごい物なんだ」
マジマジとスターゲイザーを見るエースさん。
今から目に物を見せてやると心の中でニヤつく。
「今はスターゲイザーを作成中ですので一旦作戦を伝えます」
「うん、どんな作戦?」
「この天井を抜いた後、エースさんは海水を喰らわずに上に上がれる方法があるんですよね?」
「方法…あ、バリアの事?」
「それなら行けますか?」
「うん、バリアを高密度に作ればビームや虫、更には海水も中に入れずに行動することは可能。でも…エネルギーの消費が激しいから…」
「俺がいるじゃないですか」
「あっ!そっか、春斗君がいるなら消費も関係ない!」
今、改めて思うが…俺の存在って結構ヤバいのかもしれない。
AGのエネルギーは黎蝶で回復、自身強化の渇望などなど…。
(今考えるのはやめよう…ただ無事に帰ったらちょっと自分の事を調べるか)
ほんのちょっぴり世間の俺の評価が気になった。
「じゃあ春斗君が天井に穴をあけたと同時にバリアを展開して上に上昇して…そこからどうする?」
「とりあえず今はここから脱出することだけを考えましょう」
「OK!」
「では…行きますか?」
「うん!魚は全部食べ切ったし、コマンドストリームもエネルギー全快!」
「了解です!」
白夜を装備し質量弾を黎蝶で作成。それをスターゲイザーに装填し、スターダストを生成してスターゲイザーと連結。
「チャージ開始…!」
黎蝶をスターゲイザーのバレルに集約させて、エネルギーを流し込む。
するとバレルの周囲から黒い粒子と、光が漏れ始め視界が歪み始めた。
(もう少し…!)
生半可な威力じゃエースさんの命を危険にさらす。
この天井をぶち破る…いや!この先にある海水全てを蒸発させる勢いで黎蝶とエネルギーを集中させる。
…ダメだ。もっとだ、もっと…!
「渇望…しろ…!」
全てを守る。
全てを奪い返す。
その言葉に嘘偽りはない。
ただ…まだ奪い返していないものがあった。
――それだけだ。
俺はすべてを奪い返す。
――例えそれが過去に失われたものだとしても。
――奪われたものであるならば…奪い返す。
「ッ…!!」
全身からみなぎる力とエネルギー。
それと同時にスターゲイザーの先端に黒色の光が灯された。
本能的に分かる。
「いつでも撃てます!!」
「九条春斗君!お願い!」
「…?」
「私を…三人に会わせて!」
「!!…任されたァァァッ!!!」
トリガーを引き、放つ。
――ドキュウゥゥゥゥゥゥゥンッ!!
黒い光が神々しく瞬いた瞬間、質量弾が超音速でスターゲイザーから放たれ、すぐさま海底洞窟の天井に着弾。
――ドゴォンッ!!
そんな天井を諸共せずに質量弾は天井を貫いていき…!
――ボゴォッ…!!
発射した先から大量の海水が流れ込んできた。
「かぁっ…!!」
「春斗君!海水が上から来てる!」
「了…解です、エースさん!」
「任せて!」
すぐさまエースさんは俺の傍に駆け寄り、コマンドストリームを装備。
そして俺とエースさんの周りをバリアが包み込んでいく。
海水がバリアにかかるが…俺とエースさんは水滴一つとして垂れていない。
これが…超高密度のバリアか!
「このまま浮上するから春斗君も付いてきて!それとバリアからは絶対に出ないでね!」
「わかりました!」
スターゲイザーを黎蝶にしてすぐさま回収し、エースさんと共に流れ込む海水を諸共せずに上へ上へと上がっていく。
◇◇◇
場所は変わり、IGD学園。
一週間の改修工事は終わり、IGD学園はいつも以上にピカピカになった。
しかし…ピカピカじゃない人たちがいる。
「―――。」
今、全校集会で全ての教員と学年の生徒が体育館に集まっているが全員顔が暗い。
そう…一週間たってもなお、春斗が帰ってこないからだ。
白夜からの信号は定期的に受信できるが本人が無事なのかすら不明。
もしかしたら…なんてネガティブな思考になってしまうのも無理もない。
「…大丈夫なの、この学園」
「ダメかもな…」
「…気持ちはわかるわ」
御影とテンペスタが会話する。
ただ一人の青年の行方が不明というだけでIGD学園の大半の気持ちが沈んでいる。
されど青年一人の存在の大きさがわかるのも確か。
それは…タービュランスの三人も理解していた。
「ダーリン…」
「…チッ」
ハリケーンの様子も何処かおかしいし、サイクロンも何処か居心地が悪そうに椅子に座り込んでいた。
そうして全校集会を始めようとした御影。
次の瞬間。
――バァンッ!!
体育館の扉が勢いよく開き、柊木先生が息を切らしながら入ってきた。
「…柊木?」
「み、御影先生!!」
「どうした?」
息を整えた柊木先生は…体育館にいる全員に聞こえるように大きい声で話した。
「白夜の反応があった海域が大爆発したとともに九条君と白夜、そしてもう一機AGが高速でIGD学園に接近しています!」
「―――。」
一瞬、御影は何を言っているのか理解できなかったがすぐさま理解した。
そして端末を使い、春斗の状況を理解するために白夜の回線を強制的にオープンにする。
『エースさん、大丈夫ですか!?』
『全然大丈夫!もっとスピードを出してもいいよ!』
『い、いや…これ以上スピードを出したら身体が滅茶苦茶になりますけど!?』
『じゃ、じゃあいいや…』
春斗ともう一人の女性の声。
その声に反応したのは…。
「エース!!?」
テンペスタことジュリアス。
春斗の無事もそうなのだが、それ以上にエースが生きていたという事実に驚く。
「…はぁぁぁぁっ」
「…あ…ぁぁ…」
「えぇっ!?ちょ、ちょっと!?」
安心しきったのか御影とテンペスタはその場に座り込む。
『後ろのアイツらは?』
『まだ来てる。しかも…AGだねアレ』
だが…この二人の会話を聞く限り何かしらの敵勢力に追われていることは確か。
すると。
『どうするの?』
『…エースさん』
『?』
『戦えます?』
春斗がエースと言われる女性に問いかけている。
戦えるのかと。
『もちろん、むしろ今は身体を動かしたい気分』
『了解です。ならIGD学園の大橋で戦いましょう、あそこなら最悪の時に備えることもできますから』
『OK!なら…春斗君』
『はい?』
『もっとスピード出そう!コマンドストリームでもここまでのスピードは出せないから!』
『だから身体が滅茶苦茶になりますって!!』
どうやらこの二人はIGD学園の前にある大橋で戦うようだ。
だが…それ以上に。
「「「「「「「「「―――。」」」」」」」」」
怒れる乙女が9人いた。
何を考えているのかは…考えるまでもなく、同じことを考えているだろう。
◇◇◇
「着陸します!」
「はーい!!」
俺の背中に乗っているエースさんに一言告げながら大橋に着陸する。
何故俺がエースさんを背に乗っけたのか。
簡単だ。エースさんのコマンド・ストリームの機体データを受け取ったのちに判断した結果、これが一番合理的だ。
コマンド・ストリームの機体性能的に動く際のスピードはかなり速い。多分俺が今まで戦ってきたAGの中で一番のスピードを持ちつつ、唯一無二の特性として他のAGを回復する専用アビリティ『乱気流の中に愛を』。
あまりにも汎用性の塊すぎる。
ただ、黎蝶を纏った白夜の方が早くさっきのバリアでエネルギーを消費したので俺が背中に乗せつつ黎蝶でエネルギーを回復しながら飛んだ方がいいので、背負った…というわけだ。
「ふぅ…大丈夫ですか?」
「私は大丈夫…だけど」
そうして俺たちの反対側に着陸した5機のAGの方を見るエースさん。
「あっちは私たちに一息つける余裕を作る気はないみたい」
「…でしょうね」
エースさんに一息つかせてやれよ。
8年寝てたんだぞ?
『タービュランスのストリームだな』
と脳内で反論していると相手のAGからの声が聞こえてきた。
てか、どっち?タービュランスのストリームって。
俺も元はストリームだけど、エースさんもストリームだ。
「私の事?」
『あぁ』
良かった、いや良くはないけどエースさんが返事をしてくれたしエースさんの方だった。
『その機体を私たちに寄こせ』
「何故?」
『あの九条克樹と夏樹が作り上げた機体の一つらしいからな、さっさと寄こせ』
「いやだけど?」
『なんだと?』
エースさんは即答で断った。
まぁ…そりゃそうだ。
「そもそも私のこの機体はあの二人からの貰いものだし、それに…」
「…?」
エースさんが俺の事を見たと同時にウィンクしてすぐさま相手のAGの方を見た。
「ただで渡すわけにはいかないかな」
『なら…力ずくで奪い取ってやる!もちろん、他のタービュランスの機体もなぁ!!』
「!」
すると5機のAGはそれぞれ武器を取り出して構えた。
「…行ける?春斗君」
「勿論です」
俺の回答に反応したかのようにエースさんは右腰に付けられたシリンダーからレイピアを取り出し、その先を5機に向けた。
「知っていると思うけど、私はタービュランスのストリーム。貴方たちは私だけではなく、仲間たちに危害を加えるつもりということがわかったわ…」
――絶対に生きて返さないから。
「!?」
急にエースさんの声が低くなり、明らかにキレていることがわかる。
びっくりした…。
「春斗君?」
「は、はい?」
「大丈夫?」
「大丈夫ですけど…」
エースさんに大丈夫かと聞かれて反射で大丈夫って言ったけど正直驚きが勝ってます。
「あ、春斗君。君も名乗りなよ」
「な、何故!?」
「ほら…相手をビビらせるためにも!」
今度は俺に名乗れって言ってきたんだけど!?
い、一応名乗るか…エースさんを怒らせたらヤバいってこともわかったし。
「一応、俺も名乗る…俺は九条春斗。九条克樹、九条夏樹の実の息子であり…タービュランスの元ストリームだ」
「え?」
『なに?』
「ストリームに喧嘩を売った…ということは俺にも売ったという事だな?」
相手よりも横にいるエースさんの方が驚いている。
「春斗君、ストリームなの?」
「元ですけどそうですね…タービュランスに入った際に付けられた名前が『ストリーム』。何でもエースさんと似ているからだと」
「そうなんだ…ということはタービュランスのストリームが今ここに二人いるって事?」
「そう…なりますね」
「ということはこう言う事だね?」
「へ?」
そう言うとエースさんは俺の右手を握り、一気に俺に接近して話した。
近いし…何がとは言えないが当たってる…!!
「私…いや!私たちはタービュランスの『デュアルストリーム』!」
「!!?」
「貴方たちを…一方的に倒す者よ…!!」
そんな驚く俺を気にせずエースさんは話し続ける。
何かしれっと二人で一つみたいなこと言わなかった!?
『貴様ら…!』
「春斗君、いや…ストリーム」
「!!」
俺の名前ではなくエースさんが俺を『ストリーム』と呼んだ。
「また聞くけど…行ける?」
その問いは…俺がどのようなストリームなのかを知ろうとしているんじゃないかと思い。
「…聞くまでもないと思いますが?」
覚悟を決める。
「じゃあ…行こう、『ストリーム』」
「はい…『ストリーム』」
そうして俺も焔を抜刀し、構える。
…この5機のAGにデュアルストリームの恐ろしさを刻むために。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




