ストリームとストリーム
私は…あの二人に似ている青年を起こそうと身体をゆすった。
「…ん?」
「あ、起きた?」
「…」
「…」
静寂が流れる。
青年は私を見て一度目をこすり、再度私を見た。
…じーっと見つめ合い数秒。
「…ば」
「ば?」
「ば、化けて出た?」
「え、何が?」
「あぁ…そうだった」
一体何が化けて出たのか分からないけど、何か納得したような反応をして身体を起こした。
「ストリーム…えっとエースさんで間違いない?」
「え」
私の名前…しかもストリームならまだしも本名を当てられて驚きのあまり絶句してしまう。
「その反応から見るに合っているな?」
「う、うん…」
「はぁ…よかった、見つかった」
とガスが抜けたかのように息を吐いてまた倒れこむ青年。
「君は?」
「九条春斗です」
「く、九条春斗!?」
「はい」
その名を聞いてまた驚く。
その名前は…克樹博士と夏樹博士の息子の名前。
あの時は少年だったのに、今目の前にいるのは青年。あの頃と全く違う。
「あの時の赤ちゃんがこんなに大きくなっているなんて…わ、私が眠ってから何年たったの?」
「正確な年数はちょっと分からないが、大体8年くらい」
「8年!?」
私は8年ずっとここで眠っていたらしい。
…確かに思えばあの時の少年が8年も時間を重ねればここまで立派に育つよね。
「あ、そうだ!タービュランスのみんなはテンペスタ、サイクロン、ハリケーンは!?」
「みんな無事だ。ジュリアス、アテナ、イルの三人は頑張って生きています」
「よかった…あれ、何で三人の本名を?」
「…縁です」
「縁?」
「そう、縁」
九条春斗君は何故三人の本名を知っているのかという質問に対して『縁』と答えた。
縁なんて…あったかな?と疑問に思う。
「えっと聞きたいことが山ほどあるんだけど聞いてもいいかな」
「俺に答えられる事なら」
そう言って九条春斗君は座りながら私に眼だけではなく身体も向けてくれた。
よし、聞きたいことを全部聞いちゃおう!
ーーー
「…ということがあって今に至ります」
「へぇ…三人とも、私の仇討ちの為に戦ったんだね?」
「はい」
「まさか私の死に際のメッセージを契約書として持っておくなんて…でもそれもジュリアスらしいか」
そうして私は色々な事を聞いた。
ここは何処なのか、この8年間で何が起きたのか、克樹博士と夏樹博士はどうなったのか、タービュランスはどうなったのか、九条春斗君はどんなことをしてきたのか等々。
どれも興味がわく話ばかり。特に…九条春斗君の左腕の事かな。
「ねぇ、九条春斗君」
「はい?」
「その左腕は…桐生の二人のせい?」
「その二人が生み出したものを飲み込んだ証と、俺が運命に勝ったっていう証です」
「あれだね、話の中にあったbutterflyっていう薬の事」
「…あんなもの二度と作ってほしくないですけどね」
「それもそうだね、その話をしているときの九条春斗君の顔つきが明らかに険しいし」
「そ、そんなに…!?」
「うん」
私よりも年下なのに、私より濃い人生を歩んでいる。
それに…私たちの過去を聞いてもなお恨み一つ思わず、優しい。
うん、やっぱりこの子はあの二人にそっくりだ。
「それで…これからどうするの?」
「そこなんですよねぇ…」
上を見上げる。
九条春斗君から聞いた通りここは海底洞窟。
しかも出口はあるといえばあるけど、AGを装着しながらの潜水は不可能。強制的に上に浮上しちゃうからね。
…しかも過去のログを見てみたら私がこんなところにいた理由は海底に沈みこまれた後、丁度そこが海の中の壁の沿っている部分で、上に浮上しようとしたら丁度そこにAG一機が通れそうな隙間があって…それで浮上してここに来ちゃったみたい。
そりゃあの三人でも見つけられないよね...仕方ない。
勿論泳ぐことも考えたけど、私は8年も寝たきりだった。
身体は全然いうこと聞いてくれないし、今はAGを脱ぐこともできない。
現状AGを着ながらじゃないと私は動けないから。
本当…頑張って帰ってきた割には色々不運過ぎない?
「…何かないかな」
「エースさんも何も手がない感じですか?」
「うーん…密閉バリアで無理やり海の中を突破するのもありだけど、この広さじゃむしろ逆効果。狭すぎてバリアに干渉して動けなくなっちゃう」
「…これじゃ狭すぎるんですね」
「うん…」
そうして九条春斗君は座り込んで悩み始めた。
勿論、私も。
はぁ…ここから上方向に巨大な穴でもあけば脱出もできそうなのにな…。
「とりあえず、いったん休む?外は今何時?」
「今は…午前1時丁度ですね」
「日は跨いでるんだ」
「…エースさんはそもそも年を跨いでいません?」
「それもそっか…にしても冷えるね、海底だからかな…?」
「一応温めおきましょうか」
「出来るの?」
「もちろんです」
そういって九条春斗君は純白のAGを展開する。
「やっぱり乗れるんだね」
「まぁ…唯一男性でAGを活性化できる奴ですので」
といいながら刀を抜いて、その刀身を地面に突き刺す。
それと同時に刀身から炎があふれ始めた。
「これであったまるかと」
「結構、力業だね。二人にそっくり」
「えぇ…?」
何て言いつつ、九条春斗君の刀身に身を寄せて温まる。
…温かい。
「ねぇ九条春斗君」
「はい?」
「君はさ、AGに乗っていたし戦っても来た…そうだよね?」
「まぁ…」
「何のために戦ったの?」
「…」
どうしても気になった。
世界を守るためにAGやインフィニティ・ギアを作り出した克樹博士と夏樹博士。
であるならば息子である九条春斗君は何のためにAGで戦ってきたんだろう。
血のつながりとかそういうのではなく純粋な疑問。
「俺は…家族や友達を守るために戦いました」
「守るために?」
「…最初は俺は周囲の人間をこれ以上失わないために死に物狂いで刃を振るいました。敵がどれだけいようとも、敵がどれほど強大でも」
「…」
「その信念で刀を抜いて、戦い抜いて…やっとの思いで手に入れたのが今です。親のせいで人をなくしてしまった姉妹、自称天才のせいで人生を捨てられた子供たち、二人の身勝手で死んでしまった人…そのすべてを奪い返したんです」
そう言って九条春斗君は自分の黒い結晶の左手を握りしめる。
「…何のために戦ったのかと言われたら、最初はみんなの為でしたが、最終的には世界のために戦いました。俺の親は世界を守るためにギアやAGを作ったんです。ならその親の背中を見て育った俺も世界を守るべき…なんて思いましたから」
九条春斗君の目を見ればわかる。
どれほど戦ってきたのか、どれほど傷ついたのか、どれほどの人たちの人生を奪い返したのかを。
しかも…最後の『死んでしまった人』っていうのは私の事だと理解できる。
…本当、君はそっくりだよ。
あの二人に。
「そっか…優しいんだね、君は」
「それはそっちもですよね?」
「え?」
「鴉の囮になって3人を助けたじゃないですか」
「君のよりも私の方が小さいでしょ?」
「守ったことには変わりないじゃないですか」
「…生意気だね君は」
「えぇ...」
そんな雑談をかわしつつ、私と九条春斗君は海底洞窟の中で一夜を過ごした…。
◇◇◇
翌朝。
…朝なのか?時間的には午前9時だから朝か。
「エースさんはまだ寝てるか」
どうやら俺が先に起きたようでエースさんはコマンド・ストリームに包まれながら眠っていた。
…さてこれからどうするかが問題だ。
「…」
昨日のエースさんの話を思い出す。
密閉バリアで無理やり海の中を突破する、という話。
聞く限りでは密閉バリアなら海水の中に入ってもAGが使えるという事だろう。
…密閉バリア内なら海水も何も入ってこないからだと勝手に予想を立てる。
しかし、この広さでも厳しいと。
最悪、これ以上の穴をぶち開けるのも考えたが…。
「行けるのか…?」
左手を見る。
俺は幾度と戦ってきたが、黎蝶を使った戦闘はまともな回数をこなしていない。
何せ、AGと戦うときはもう生身である必要もないし白夜がある。
身体能力も普通の人よりも何十倍も動ける…と御影先生に言われたのでそういう事だろう。
黎蝶…なら行けるのかもわからない。
「…朝食に何か取ってくるか」
レーションやブロック食等は残念ながら持ってきていない。
だが幸いにもここは海の中だ。魚はわんさかと居る。
…黎蝶でモリを作って刺して焔で焼けばまぁ食えるだろ、多分。
「…んん」
「あ、おはようございます。エースさん」
「おはよう…早いね」
「もう9時ですけどね…」
シュノーケルとかを装備しているとエースさんが目を覚ました。
「どうしたの?」
「朝…って言われても日も当たってないので分からないと思いますけど、とりあえず朝食を取りたいので魚を狩ってきます」
「え、出来るの?」
「…頑張ってみます」
「何か、私もした方がいい?」
「うーん…あ、ならエースさんはAGを使いつつ自分の身体を動かしてください。軽いリハビリになると思いますし」
「分かった」
「それじゃあ、行ってきます。あ、焔はこのまま突き刺しておくので温まりたいときはどうぞ」
「え、でも九条春斗君のAGのエネルギーが尽きちゃうんじゃ」
「…俺にはこれがあるので」
そういい俺は黎蝶を纏う。
「あ、昨日の話であった蝶々だよね?確か無尽蔵のエネルギーの生成と吸収が出来るって」
「AGのエネルギーも作れますし、黎蝶のエネルギーでコマンドストリームのエネルギーも回復させましたから」
「そういう事だったんだ!ごめんね、何から何まで」
「いいんですよ。じゃあ今度こそ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そうして俺は洞窟の出口に向かいつつ、装備を確認した。
シュノーケルに懐中電灯…持ってきた装備はこれしかないが足りないものは黎蝶で代用しよう。
「…!」
そうして俺はボウガンと小さいモリを三本ほど作り出した。
「行けっかな…」
一応動作確認の為、ボウガンに装填して…トリガーを引く。
俺の予想通りきちんと森は飛んで洞窟の壁に突き刺さった。
「行けそうだ」
モリが足らなくなったら海中で生成すればいいか。
さて、昨日ぶりの海だ。
心の底から獲物がいると信じてまた俺は海に飛び込んだ。
◇◇◇
場所は変わり…IGD学園。
「…状況は?」
「海で定期的に白夜の反応をキャッチできますが…それ以上は」
「…そうか」
職員室では九条春斗捜索の情報共有が行われていた。
「AG行動隊の方は?」
「白夜の反応がある場所で捜索はしましたが…反応があるだけで白夜と九条春斗はいませんでした…」
「…あのバカ、どこに行った」
職員室はかなり切り詰めた雰囲気になる。
無理もない。
忘れちゃならないのが教員及びAG行動隊の殆どが九条春斗に恩を感じている。
大人である私たちの代わりにたった一人の青年が世界を救った。
大人としては恥じるべきかもしれないが、彼はきっとこの場にいる大人たちに恥じてほしくはないだろう。
彼は優しく、そして明るい少年だからだ。
故に…心配が勝る。
そして切り詰めた雰囲気があるのは職員室だけではなかった。
ここで各専用AG持ちの様子を見てみよう。
「「「「「「「「「―――」」」」」」」」」
全員そろって生気を失っていた。
各々予定があったはずだが…流石にこんな状態で行けるわけがないので保護者達が気を利かせて休ませてあげている。
場面は戻り職員室。
「情報が少なすぎるな…」
「はい…AG行動隊にアガポフさんの所属部隊MS部隊の方々にも協力してもらいましたが、これといった情報も…」
「…」
ブラックコーヒーをすすりながら御影は眉間にしわを寄せて、情報が記された書類を眺めた。
すると。
「み、御影先生!」
他の先生が職員室の扉を勢いよく開けて入室してきた。
「…なんだ」
「お、お客というより…タービュランスの三名が『九条春斗に会いたい』といってIGD学園正門前で立っているのですが…」
「タービュランスだと?」
あまりにも急な来客で少し驚く御影。
「ど、どうしますか?」
「…ここに連れてこい」
「よろしいのですか?」
「…九条の話題が出たということは何かしら情報を握っている可能性が高い。今は…藁にすがりたい気分なんだ」
「わ、分かりました!」
そういって先生は職員室から飛び出し…タービュランスの三人を連れてきた。
「お久しぶりね、御影紗月」
「あぁ…」
「…元気が無いようだけど、どうしたの?」
「私のことは良い。それで…九条に何の用だ?」
「本人はいらっしゃらないの?春斗君にしか共有できない情報だから困るのだけど」
「…」
タービュランスの反応を見た御影は瞬時に理解した。
この三人は…今、九条春斗がどのような状況なのか知らないと。
だが…少ない情報でも引っ張り出すべきだと思い。
「…今、九条は消息不明状態になっている」
「――は?」
テンペスタがとてつもないくらい低い声で反応する。
「冗談にしては趣味が悪いわよ」
「私が冗談を言うと思うか…?」
「じゃあ…本当に?」
「あぁ、昨日九条の置手紙を発見しそこから捜索が始まった。定期的に白夜の反応をキャッチしているが…本人と白夜は見つからず1日がたった」
「…」
御影紗月の反応を見てテンペスタは九条春斗が消息不明であることが本当の事だと思い少し焦る。
すると
「ねぇ、テンペスタ」
ハリケーンがテンペスタに小声で話しかける。
「何かしら」
「ダーリンはさ…探してるんじゃない?あの海域をくまなく」
「…可能性は高いわね」
その小話を
「何を話している?海域を探しているだと?」
世界最強のAG乗りが聞き逃すことはあり得ない。
すぐさま職員室に広がる冷たい空気と御影紗月の殺意。
「…言うべきね。私たちとしても春斗君の行方知らずが一番恐ろしいから」
「…」
「大まかなことは言えないけど、一昨日に春斗君を交えて少しお茶会をしたわ。その時に私たちタービュランスの探し物の話をしたの」
「探し物…」
「8年前に捜索を諦めた大切な宝物。その話を春斗君にした時に『俺も探していいか?』って言われたの」
「…」
「もし私たちの予想が正しければ…今、春斗君は私たちが宝物を探した海域をくまなく探している可能性があるってことよ」
「なるほどな、その海域はここか?」
そういって御影は最後の白夜の起動場所の海域を示した場所をテンペスタに見せた。
「確かにその辺りね」
「はぁ…やっとまともな情報が出たな。決まりだ、AG行動隊と捜索部隊でこの海域を隈なく探索を」
と御影が指示を出そうとしたが。
「待ちなさい」
それを止めたのはテンペスタだった。
「…何だ?九条の身の安全が大切じゃないのか?」
「えぇ、大切よ。でも…今、その海域に行くのはやめた方がいいわ」
「どういうことだ」
「…貴方たちは知らないだろうけど、今タービュランスに対して宣戦布告した企業がいるの」
「それがどうした?」
「どこで嗅ぎ付けたのか知らないけど、私たちの宝物を狙ってその海域に拠点を作って飛び回っている。AG行動隊や貴方たちのような教員が行けば一方的に倒せるかもしれないけど…問題はその海域までエネルギーが持つかどうかよ。一番近い場所からの射出装置でさえまともに戦闘が出来るかどうか怪しいわ」
「…」
「…悪いことは言わないわ、止めておきなさい」
テンペスタのトーンが低くなった。
…これは本気のお願いだと。
「ならどうすればいい!!」
力強く机を叩き、立ち上がる御影。
それに臆せずテンペスタは告げる。
「白夜の反応はあるのよね?」
「あぁ」
「…信じるしかないわ」
「信じる、だと?」
「えぇ。春斗君の無事を」
「…」
テンペスタの言う事は…賛成せざる負えなかった。
AG行動隊や教員たちのAGとしての実力が高くても相手は自分たちのテリトリーで待っているような状態、まともに戦えるかどうかも怪しい。
となれば…信じるほかない。
「…クソッ!!」
ドカッと椅子に座る御影。
「別に貴方の気持ちが分からないわけじゃないわ」
「…そうか」
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




