捜査は難航を極める
IGD学園が1週間の改装による休日が始まり、早速俺はストリーム探しの為に砂浜を訪れていた。
「始めるか」
手当たり次第だと本当に何年かかるかわからないので、出来ること全てをやろう。
まずは。
「白夜展開」
白夜を展開し、周囲のAGやギアの反応をレーダーで確認する。
…何も映らないか、まぁ期待してなかったけど。
今度は白夜自体の出力を調整し、レーダーの探索範囲を一気に上げる。
これで今は半径40kmまで探知可能。
「…なし?」
微小な何かでも見つかればいいなって思ったが…それもなしか。
うーむ…となると海底になるか。
思えばAGのレーダーって地下に弱いなって思う。
実際にワーム戦の時は地鳴り音と御影先生のお陰で反応して回避したしな。
(潜るか…)
白夜を待機状態にし、羽織っていた上着を脱ぐ。
「水着よし、シュノーケルよし」
予め下に水着を着ておいて正解だった。
ここからは海の中の探索だ。
シュノーケルを身に着け、海へと歩いて深い所に飛び込む。
(…先が見えねぇ)
ちなみにクッソ寒い。
まだ春の息吹が吹きつつあり、気温はやや暖かいといったところだが水温は違う。
冷たい。普通に身体が震える。
(あー、寒い寒い…!長時間の水泳はやめよう、風邪ひく…)
短時間で探索を行わないとな。
(黎蝶…!)
左腕から蝶の大群を少しだけ出す。
本来、水の中では一部の虫は生きられない。その一部に蝶は入っていないが黎蝶は別だ。
虫…じゃないし、本体は俺だ。
俺が死なない限り黎蝶も動く。見てみろ、まるで元々海の中を飛んでいたかのように黎蝶が飛び回っている。
さて、こんな浅瀬にいちゃ意味もない。さっさと下へと潜ろう。
息を整えて…!
――ゴボォン!!
海の中に潜った。
視界は…最悪。いくら海の中が綺麗とはいえここから先まで完全に見えるわけじゃない。
(白夜のレーダーに反応がなかったということは少なくとも海の上や地上に打ち上げられたというわけではない…となると海底とか洞窟とかになるかもな)
その…言い方は悪いかもしれないがジュリアスの話の通りならコマンド・ハリケーンを装着したまま戦っていたはずだ。
しかも最後まで。
となれば…レーダーに反応がなかった時点で水死体になって海の上に浮かんでいる訳ではない。
あ、AGは水中ではほぼ使えないぞ。
水中専用のAGとかなら使えるかもしれないが、普通のAGは水中に入った時点で稼働制限がかかりまともに動けなくなるのと搭乗者の命が最優先なのでいち早く海上に浮上しようと機体自体が勝手に上に上がろうとするから。
あと待機状態のAG、俺の白夜で言うと腕輪の状態なんだが…AGを保護するために色々な機能を削ぎ落す影響でAG自体の反応が微小あるいは消滅する。
しかも通信とかの電波などもほぼ繋がらなくなるとか。
変に機械っぽいよな、AGって。こう…水に弱い所とかさ。
水津のはしょうがない。だってあれ特殊な水でナノマシンが入っているとか聞いたし。
(しかし…何も見えねぇな)
目を凝らすが…本当に何も見えない。
一寸先は闇だらけだ。
(もう少し奥に行こう)
潜りつつ奥へと進んでいく。
この辺にも岩の壁や亀裂のような後はあるが…とてもじゃないがAGが入る大きさのものではない。
多分、もう少し先なのだろう。
どんどん砂浜から離れた海域に泳いでいく。
(…)
大分、進んだ。
周りは闇だらけで下も何も見えない。
(一旦呼吸を整えてからもう一度、潜ろう)
一度海上に浮上し、思い切り息を吸い込み息を整えて再度潜水。
(深いな…)
先程の壁や亀裂もそうなのだが下へ下へと潜っていっても底が見えない。
このまま潜り続けたら深海まで行きそうだな。
(ん、壁が…丁度いい。壁に沿って下に潜っていこう)
壁に手を添えながら下へと潜水していく。
少しずつ上からの光も薄くなってきている。
(一旦、この辺で黎蝶でスキャンするか)
左腕から先程よりも大量に黎蝶を放出し、周囲に何かしらの反応がないかを探す。
…すると。
(!!)
頭の中に来た…!
この付近にある。何か、特定の波長を発するモノが。
(この壁の裏に…?)
ちょうど今、俺が添えている壁の向こう側くらいに反応がある。
いや反応があるのは分かったんだが…どうやってこの壁の向こう側に行ったんだ?
それらしい仕掛けもないし…。
(洞窟の入り口が何処かにあるのか?)
壁に沿って周囲を探索するが…小さい穴はあるがAG以前に人一人入れる大きさじゃない。
もう少し、下に潜る。
先程と同じように黎蝶で周囲を探索しつつAGが入れそうな大きさがある洞窟の入り口を探す。
だが…見つからない。
(ここじゃないのか?)
下を見ても前を見ても…見つからない。
だが黎蝶で何かしらの反応は受け取れる。
(仕方ない…!)
一旦、この世の自然と付近と魚と壁につく貝やその他もろもろに謝罪する。
黎蝶を右腕に纏わせる。
入口がないのなら…!
(作るまでよ!!)
右腕に作り出したのは…パイルバンカー。
銃やピッケル、剣じゃ水の圧力に耐えきれず水が衝撃を完全に伝えられない。
なら…ゼロ距離で尚且つ水の水圧を受けづらい杭の射出なら…!!
(衝撃は伝わる!!)
パイルバンカーを構え壁に杭の先が接触した瞬間。
――バキィンッ!!
泡が発せられると共に壁の一部が破壊された。
(もう一ッ発!!)
今度は左腕に黎蝶を纏わせ、もう一度パイルバンカーで壁に杭を発射!!
――バギャァッ!!
また泡が出始め壁が抉れた。
(よし!息が続く限り左右交互のパイルバンカーで壁に穴をぶち空けろ!!)
それから俺は黎蝶で左右交互にパイルバンカーを作り出し、杭を発射し続け壁に打撃と衝撃を与えて壁を抉っていく。
海上に上がり呼吸を整えまた潜り、そして殴る。
それを繰り返し続けた。
何回も何十回も何百回も。何秒、何分、何時間かかろうとも。
ーーー
「はぁッ!!はぁッ!!ふぅ…大分…時間がたったな」
また海上に上がった…空を見ると朝に見た青空はいつの間にか山吹色に変わっていて、日が海の中へと消えかけていた。
もう夕方ってことは…9時間近く海にいたのか。
もう寒さ感じないし、右手はしわっしわになってる。
「もう少しやろう」
幸いにも念のために出しておいたIGD学園の外泊届…。
『しばらく帰りません、探さないでください』って書いた紙を机の上に置いておいたからな。
念には念をって奴だな…我ながら自分をほめたくなるな、ほんの少しだけ。
「さぁ…もうひと頑張りだ!」
自分を鼓舞し、もう一度潜った。
◇◇◇
その頃、学園では…。
「九条からの応答は!!」
「全く呼びかけに反応しませんし…白夜の反応がキャッチできません!」
「あの馬鹿…ッ!!」
混沌を極めていた。
何があったのか?
これは…9時間前までさかのぼる。
「い、一応…春斗に挨拶しておくか。一週間とはいえ長いといえば長いからな!」
時雨葵が何に対する念なのかわからないが、地元に戻る前に春斗に挨拶をしておこうと思い春斗の自室に赴いた。
そしていつものようにドアをコンコンと叩く葵。
「春斗、起きているか?」
返答はない。
この時点ですでに春斗は部屋を出て砂浜に到着して探索の準備をしていた。
「…まだ寝ているのか?その…入るぞ?」
この時、若干葵は期待していた。
寝ている春斗を起こしつつ、ちょっと雑談的な事が出来るかもしれないと。
他意は…ややあった。
そうして葵が春斗の私室に入るが…勿論いない。
「居ないのか…ん?」
そうして見つけた春斗の外泊届の紙。
「―――ぇ」
魂が抜けたようなかすれた声が口から出る葵。
『しばらく帰りません、探さないでください』と書かれた紙。
ちなみに春斗はこういうつもりで書いていた。
『しばらく(タービュランスのストリーム探しとは口が裂けても言えないので)帰りません、(巻き込むわけにはいかないので)探さないでください』
と明らかに一言二言足りない。
これを見た葵は…。
『しばらく帰りません(もう見たくない)、探さないでください(会いたくもない)』
春斗はIGD学園にいる全員に失望あるいは嫌悪して出て行ったのかと勘違いした。
するだろう、これは。
「嘘…うそ…はると…が」
そこへ。
「は、春斗さん?祖国に帰る前にあいさつに来たのですが…って葵さん!?何故泣いているのですの!?」
「こ…これ…」
「これは…ぇっ…?」
と春斗にあいさつに来た葵、フレヤ、アイヴィー、レベッカ、アナスタシア、水津、雪華、椿、青葉がこの外泊届の書置きを見てしまい春斗の部屋の中は湿気及び涙で文字通りいっぱいだった。
そこへ。
「な、何があったんですか!?」
「…アイツ、まさか9人に手を出したのか?」
柊木先生と御影先生が現れた。
「何があった?」
ずびずびになりながら葵は御影先生に春斗の外泊届の書置きを見せた。
「たわけかお前ら」
「ふぇっ…?」
「アイツが嫌ってここを出ていくなんてこと天地がひっくり返ってもあり得ないだろう。どうせ一言足りんだけだ」
御影先生の発言は的を得ていた。
なんだかんだ言って春斗は仲間たち全員に絶大な信頼を置いている。
そんな男だ。どうせしれっと戻って来ると御影先生は思っていた。
しかし…。
「み、御影先生!!」
「何だ」
「びゃ、白夜の起動をキャッチしましたが…すぐに消失しました」
「その起動したときの場所は何処だ」
「…砂浜です」
「…は?」
「ここからかなり離れた場所に白夜の軌道を確認し、一瞬のうちに反応が消えました」
柊木先生からの言葉に各々の思考回路が一致した。
春斗が出ていく→浜辺で白夜を起動し、すぐさま消えたということは誤作動か何かが起きた→海の中に入った可能性が高い→書置きには『探すな』と。
つまり…。
「も、しかして…春斗…は」
「笑えないぞ…!おい柊木、探すぞアイツを!!」
「は、はい!!」
春斗は自殺してしまった可能性が高い、ということ。
そして現在に戻る。
今、柊木先生と御影先生が周囲のAG行動隊に九条春斗の捜索届を出していた。
流石に公に出来るようなことではない為秘密裏に行われている。
なお、柊木先生も御影先生も白夜の信号が途切れた浜辺近くの海域を死に物狂いで探索しているが勿論見つかるわけがない、当の本人は更に先の海域で海底にいるからだ。
…そして他の生徒というよりヒロインの方々は何をしているのかというと。
「「「「「「「「「―――。」」」」」」」」」
保健室のベッドで仲良くうつ伏せになっていた。
目元には泣いた後がくっきりとついている。
「はぁ…」
今日限りは…IGD学園は別の意味で平和ではありません。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




