Episode:ストリームの死
「思えば4人は俺の父さんと母さんの元で働いていたのか」
「えぇ、基本雑務はせずとにかくAGの試作運転や試作兵器の試し打ち。そのあとは軽く勉学に励み…美味しいご飯を食べて寝る。中々有意義な日々だったわ」
「…ジュリアスが言うとなんか複雑だな」
「あら、どうしてかしら」
「いや…スラム街で育ったジュリアスの発言としてみればいいのか、今のセレブなジュリアスの発言としてみればいいのか…」
「どちらでもいいわよ?」
うーん…複雑。
でも割と関わりはあったんだな。なんか仕事上のアレかと思ってたけど…まさか雇ったとは思わなかった。
本当、俺の家族は優しいな。
「そういやぁ…お前の専用機。あー…なんだっけか」
「どれだ?」
「どれって…そんなに持ってたかお前」
「いや進化とか機体が変わったとかそういうのあるから」
「…進化元」
「黒鉄?」
「そう、それだ。やっぱり作成者は」
「いや…設計図は父さん母さんだけど、開発元は吾郷技研だ」
「ならそこもダーリンと同じなんだね♡」
「?」
一瞬ハリケーンの言っていることが理解できなかった。
「あー…同じなんだよ、俺たちも」
「何が何だ?」
「開発元よ。実は…私たちの専用機の開発元は『九条技研』だから」
「…はい?」
待って?開発元が一緒…?
「何言ってるんだ?言っていることが正しければ、俺は吾郷技研でそっちは九条技研だろ?」
「だから同じじゃねぇか」
「…もしかして、吾郷技研って元々九条技研なのか?」
「そうよ」
「同僚ってそういう事かよ…」
吾郷さんに聞かないと真実は分からないが…元々九条技研で働いていた吾郷さんは九条技研所属兼今の吾郷技研の責任者…だよな?
とにかく、俺の父さんと母さんが亡くなってしまったから吾郷さんが上に上がったってことか?細かい事は俺も知らないけど。
「しかし…俺の親がタービュランスのAGを作ったとはな」
「作ったというより作って貰ったが正しいわね」
「作って貰った?」
「えぇ」
水を一口、口に含み飲み込む。
「何故?」
「そうね…それを語るのであれば次が最後の話よ」
「最後?」
「私たちが何故AGを貰ったのかを話すと同時に…『ストリームの死』を話さないといけないから」
「!!」
ついに昔話も終幕に近づいていた。
ストリームの死。
ハイエンドとの戦いで話されたタービュランスの幸せの着地点。
ストリームの仇をうち、タービュランスの名を捨て、幸せに暮らす。
…その原因について。
「…聞かせてくれ」
「勿論」
そうして俺はジュリアスの語る文言一つ一つに耳を傾けた…。
◇◇◇
そうね…まずは春斗君がギアを活性化できると発覚した辺りの話は良いわね。
多分、君はその辺りは知っていそうだし。
九条技研内に『九条の息子がギアを活性化できる』ということが流れたあたりから話しましょう。
「はぁ…全く、どいつもこいつも俺の息子を道具のように扱いやがって…」
「そうじゃないと思うけどね」
「どういうことだ?」
「私たちはAGやインフィニティギアを作り出す技研、そうなってくると春斗のAGももしかしたら作られるかもしれない、俗にいう…専用機?」
「あー…春斗専用の機体を作りたい奴がたくさんいるってことか」
「えぇ、実際に…ほら」
「32件…俺の息子、ちょっと誑かしすぎないか?」
「…貴方が言うのね」
「何か言ったか?」
「何にもないよ」
そう二人が話しているときに私たちも丁度その場にいたの。
「おはようございます」
「あぁ、おはようタービュランスのみんな。今日は…試作運用する兵器やAGもないしなぁ…あ、そうだ!」
「???」
「ねぇ、4人とも…専用機に興味ない?」
「専用機?」
「そう、自分専用のAGってこと」
その当時は興味がないわけじゃなかったの。
私たちは数多のAGを乗りこなし、数多の兵器の運用もしたの。
もし自分専用の物があったら…なんて欲しい物をおねだりする少女のような気持ちになっていたわ。
「なるほど、タービュランスたちの専用機か」
「何故専用機の話を?」
「今ね、春斗の専用機を作りたい!って思っている研究員が多くいるのよ、ほら」
「さ、32件…」
「ねぇねぇ、あの子って乗れるの?」
「活性化はできるけどって感じかな、流石に赤子にあんな兵器を持たせるわけにはいかない。でもこのまま専用機の案もなしにするのも…ね?」
その時は専用機の案を全て無かったことにするのは忍びなかったゆえの判断だったみたい。
「でも…持っていいんですか?」
「専用機をってこと?」
「はい」
「まぁ…元をただせば春斗の右半身をあんなのにしたのは4人だけど」
「「「「うっ…」」」」
「でも、反省してるし今後も九条技研で働いてくれるって言うならいいかなって思ってる」
元より私たちが行く場所なんてなかったし、帰る場所もなかった。
だから…私たちは九条技研で働くためにその証として専用機の作成が決定されたの。
「うーん…戦闘データや今までの試作機運用のデータを比較すれば…こう、このAGが合うみたいなのが浮かび上がると思ったのに」
「前途多難だな、このままじゃ4機とも似た性能の何かが出来上がるが?」
「もー!白夜みたいな奴を創るしかないの!?」
「アレはやめろ…」
どうやら私たちの戦闘データを見ればAGが作りやすいと思ったらしいのだけど、私たちは似たような機体や似たような兵器を運用していたのでこれといった突出した項目が無かった。
「あー!アイディアが浮かばない…!」
「なら黒鉄の設計を進めてくれ」
「え?克樹は?」
「タービュランスのAGの案なら俺に任せてくれ、終わり次第そっちに設計図的な物を送る」
二人がそう話して、夏樹博士が作成室から退出した後、私たちは克樹博士の質問に答えていた。
「4人に聞きたいが…こういう機体が欲しい、みたいなのはないか?」
「というと?」
「今のところ、AGの製作の最前線に立つのはこの九条技研。遠距離型、近距離型、エネルギーやその他もろもろ、大体の物は作れるぞ」
「…」
どうやらデータから私たちの機体を作るのではなく、私たちの案を元に作成する方に舵をきったみたい。
当時の私たちはあれこれと案が浮かばなく、時間がかかったのだが…。
「…私は」
「ん?」
「私は、この三人を支えられるような機体が欲しいです」
最初に案を出したのはストリーム。
「支える、か」
「はい」
「…具体的にはどのように?」
「具体的には…衛生兵みたいな」
「なるほど、回復か…今まで作成してきたAGに回復機能はなかったな。いい案だ、それに沿った機体を作ろう」
「なら私は皆を守る機体かしら?」
「お、俺は守りつつ全員の攻撃を集中させるようなやつが…」
「それなら私は防ぐより先に相手をぶち抜く機体かな?」
「ははは、全員仲間思いでいいじゃないか。ならコンビネーションも考えられる機体を作成しよう」
そうして作成された機体。
『アトラクティブ・テンペスタ』
『スターン・サイクロン』
『ラブリー・ハリケーン』
…そして『コマンド・ストリーム』。
私たち一人一人に専用機が完成した。
それからは専用機を使った訓練の日々。
「くっ…!!」
「いつもと勝手が違うでしょ?」
「は、はい…!」
「夏樹!タービュランス!どうする!続けるかぁー!」
「そうね、一度休憩をはさみましょうか」
篝を纏う夏樹博士を相手に4人で立ち向かい、戦いや連携を使った訓練。
…今でも思うけど、4機相手に一人で蹂躙する夏樹博士って何者なのかしらね。
空で戦っていた私たちに克樹博士からの通信を受けて全員地面に戻り、休憩。
「おかえり、篝はどうだ?」
「えぇ、いい感じの戦闘データも取れたしそろそろ黒鉄の内部システム『戦闘効率強化AI』の設計に踏み込んでもいいかも」
「わかった。タービュランスたちの方もどうだ?」
「はぁ…はぁ…」
「ってそれどころじゃないか…一旦休め。呼吸が整い次第機体の話をしよう」
「わ…かりました…」
その日はシャワーをすぐに浴びてご飯を頂いた後、克樹博士と機体の話をみっちりしたの。
武装の説明、専用アビリティの使い方、出力の設定、そしてマニュアル操作に慣れるための指先の訓練や判断力、反射神経を鍛えるVRでの訓練…。
そんな専用AGを真の意味で自分専用の機体にするための訓練の日々を続けた。
「あー…?」
「あら、今日は春斗を連れてきたの?」
「あぁ。狭苦しい実験室に置いていてもいいことはないしな、それにまだこんなに小さい子を自宅に一人にしておくなんて言語道断だ」
「それもそうね」
「?」
…そういえば小さい頃の君にも私たちはあっているのよ?
「この子が春斗君?」
「えぇ、私たちの可愛い息子」
「…」
流石にその時は罪悪感があったわ。
依頼とはいえ赤子の身体を引きちぎるなんてことをしてしまったことを。
「その…えっと…右腕は」
「もう大丈夫だ、本人も何一つ不自由なく動いている。とは言うがまだはいはいだがな…」
あの頃の春斗君は可愛かったわ。
私たちの罪悪感が吹き飛ぶくらい可愛らしくて、ほっぺはもちもちで。
…失礼、話を戻すわね。
それから私たちは訓練の日々を繰り返した。
連携をより強固にし、専用機を理解し完全に使いこなし、ギアについても理解し始め…。
それから6年の月日を重ねた。
「はぁっ!!」
「いいねぇ…!」
「これもだ!」
私たちの連携もかなりの連度となり、夏樹博士に冷や汗をかかせられるくらいになった。
…えぇ、冷や汗よ。
たかが6年程度で夏樹博士に勝てるわけがないじゃない。6年の月日を訓練に当てた分、夏樹博士も強くなるんだから。
しかも…克樹博士にも勝てなかったから、私たち。
ほぼ生身でAGを投げ飛ばしたとき、一瞬理解できなかったわ。
ねぇ春斗君。対AGスーツでAGを投げ飛ばすことは…出来ないわね、そんなに首を横に振らないで頂戴。
そんなある日…起きたのよ、最悪の転機が。
「…流石に今日の訓練は無しかな、こんな悪天候の中AGで空を飛んだりしたら危険だし」
その日は空は真っ暗で雨は止まず、強風も吹いていたの。
日本でいう台風が直撃してしまったから。
「春斗は?」
「どうやら早めに学校が終わって今家についたって」
「そうか…なら俺たちも早めに切り上げて家に帰るとするか」
「タービュランスたちはどうする?私たちの家に来る?」
「うーん…」
「せっかくだしおじゃましない?九条春斗君の成長も見たいし」
「身長は大きくなったぞ?」
「どのくらいなのかしら?」
「今が小学2年生で、身長は129㎝。平均身長よりも大きいしクラスじゃ一番大きいっていってたな」
「尚更会いたいな」
「なら行きましょうか」
ストリームと夏樹博士の意見に従い、私たちは九条家の家におじゃますることになった。
しかし。
――ビーッ!ビーッ!!
次の瞬間、研究施設全体に警報機が鳴り響いた。
「…何が起きた?」
克樹博士は落ち着いた口調のまま、研究施設の警備に通信。
すると。
『九条博士!研究施設周囲に正体不明の生命体が現れ、こちらに一斉攻撃を仕掛けてきています!』
この九条技研の周囲に正体不明の生命体が現れ、この施設を攻撃しているとのこと。
「生命体…?解析情報はあるか?」
『転送します!』
「…何だこれは」
そうしてビジョンシステムで展開された情報。
真っ黒の装甲に緑色の閃光を輝かせる狼のような生命体。
…春斗君なら、それが何なのか分かるわね?
「前線の状況は?」
『数に押し切られつつあります!クソ…!!があっ!!』
「どうした?おい!!」
『―――』
「…やられた箇所と監視カメラを見るに正面から突撃してきている。そして狙いが施設の破壊なら正面から突撃する必要もない、となれば」
「私たち?」
「…いや、この施設にいる全員だろう。皆殺しにするつもりだろうな」
克樹博士が淡々と告げる。
狙いは…『この施設にいる全員』と断言した。
「タービュランスが迎撃に行きます」
すぐさまストリームは私たちでの迎撃を考えた。
しかし。
「いや、逆だ。お前たちは逃げろ」
「え?」
克樹博士は告げた。
私たちに『戦う』のではなく『逃げろ』と。
「な、何故ですか?」
「…理由は時間がないから大雑把に話すぞ。まず生命体をここに寄こしてきた首謀者が分かった」
「えっ!?」
「しかもその首謀者は君たちの元の雇い主の『桐生』であることに間違いはない。現に生命体は道に迷いもせずに職員がいるロビーや研究室に突撃している。となるとこの研究施設の構造を理解していなければこんなことはできない。次に何故ここを襲うのか。一つ目が私たちが桐生の二人をこの施設から強制的に退去させたからだと思う、それでもう一つの理由が…君たちに逃げてほしい訳だ」
「…」
「タービュランスではなかった君たちがここにいると知ったからだろう。ついでで殺すつもりと俺は考えている」
この時の克樹博士の判断と予想は今になって分かったけどほぼ合っていたの。
桐生の狙いは九条技研の職員全員の抹殺、AGの強奪、そして…裏切り者である私たちの殺害。
理由は…知っているって顔ね?
インフィニティギアやアーマーギアという害をこれ以上増やさない為。
自分勝手な正義で犠牲を顧みない…何とも悪役らしい行動だこと。
「なら克樹博士も夏樹博士もすぐに脱出を」
「…私たちはできない」
「な、何故ですか!?」
「この世に公表してはいけない情報や奪わせてはいけないものがあるの」
「…あのガキのことか」
「えぇ、春斗の情報だけはここで消さないといけないの。ここを襲ってきた連中や他の勢力たちに愛する息子の未来を守るためにも」
克樹博士と夏樹博士は脱出しなかった。
貴方の未来を守るために、この九条技研に残る『九条春斗』のデータを完全に消去しなければならない。
「だからタービュランス、君たちはこの実験施設から一刻も早く逃げろ」
「しかし!」
「…ならこの場ではっきりと言おう!」
ダンッ!と机をたたき、克樹博士は私たちに言い放った。
「君たちタービュランスは九条技研から強制退去だ。今すぐにここから出ていけ」
私たちが九条技研から『解雇』されたという事。
状況は分かっていた通り、タービュランスを逃がそうとしたという事。
九条博士二人なりの優しさだとすぐさま理解した。
でも…置いてはいけなかった。
私たちの恩人でもある二人を置いて。
「…テンペスタ」
「…」
「逃げよう。ここで逃げないと二人に失礼だし、逃がそうとした思いに泥を塗ることになる」
「…分かったわ。ハリケーン、サイクロン」
「あぁ」
「でも大丈夫なの?こんな悪天候で飛んで」
「これは賭けよ。とにかく今は…逃げることだけに集中して」
そうして私たちは夏樹博士と訓練した時に使った空への射出装置の方へ向かって走り出した。
…その時、私は振り返り二人の方を見た。
「…データ削除全体の10%。そっちは?」
「黒鉄のAIに色々詰め込んでいる。このまま完成に近づけて吾郷がここに来たら渡して逃げさせる。そのあと生存者の確認をしたのち俺も削除に踏み切る」
「…了解。あの子の為に頑張るわよ」
「あぁ!」
それが…私が見た最期の二人ね。
君の為に…頑張っていたわ。
そうして後から私も射出装置にたどり着くと、射出装置の向いている方向がいつもの方向とは違い、出力もいつもよりも格段と上がっていた。
あの人は強制退去と言っていたけど、本気で私たちを逃がすつもりで射出装置も動かしてくれていた。
その時は九条博士二人なりの見送りって思って…私たちはAGを装着し射出装置に乗り込み悪天候の中、空へ打ち出された。
「ッ!!?」
いつもより出力が強かったため、全身に少しばかり負荷がかかったが一瞬で制御完了し、不可もなく飛行し始めた。
しかし…悪天候の影響は出ていたの。
周囲のレーダーはほぼ機能せず、定期的な強風により機体のバランスが崩れかけるのもしばしば。
「やっぱり…ほぼ目視での判断になるわね…皆は?」
『これと言って問題なしだ』
『こっちも』
「ストリームは」
『…大丈夫だけど、マズいかもね』
「どうしたの?」
『後ろから何か来てる』
「…え?」
『今、先頭にテンペスタ、右翼左翼にハリケーン、サイクロン、最後尾が私。それで射出されると同時に後ろを振り向いたんだけど…あの生命体の一匹と目が合ってしかもこっちに飛んできてる』
「何ですって!?」
その時、ストリームからの報告は…冷や汗をかかせるほどの戦慄が走った。
なんの生命体なのかすらよく分からないモノがこっちに向かってきているという事で恐怖はあり、私たちは振り返った。
次の瞬間。
『キィィィィッ!!』
雨粒と雲を裂き、巨大な鴉が私たちを目掛けて急降下してきた。
両翼には鋭い刃のようなものが付けられ、くちばしも鋭利で刺されれば一たまりもないと一瞬で理解できる。
すぐさま私たちは戦闘状態を取りつつ、4機別々に展開し鴉の様子をうかがった。
『何だアイツ!』
「敵であることは間違いないわ』
『なら…やっちゃおうよ』
『総員、周囲に気を配りつつ戦闘開始!今のところは一匹しかいないけど、数が増え次第撤退を考えて!』
ストリームの合図とともに私たち四機による戦闘が始まったわ。
元々私たちのコンビネーションは夏樹博士に冷や汗をかかせる程度。
でも…今になっていえるけど、あの当時の夏樹博士に冷や汗をかかせられるコンビネーションがあったという事。
鴉は私たちの前には手も足も出ずに一方的に翼や胴体を撃ち抜かれ海の中へと落ちていった。
『ふん、俺たち相手にかなうと思ったか!』
「案外あっけないわね」
『今のうちに逃げるよ!』
そうして4機が一か所に集まり、編隊飛行状態になり逃亡しようとした。
次の瞬間。
――キィィィィンッ!!!
『がはっ…!?』
「ストリームッ!?」
海に落ちたはずの鴉がまた空へと帰り咲いた。
『キィィィィ!!』
『傷が塞がってやがる!?』
『どうなってるのあれ…』
「ストリーム!!」
私は海に落ちていくストリームをギリギリ抱えることができ、空へ戻り鴉から距離を取る。
「ごほっごほっ!?」
「ストリーム!」
「だ、大丈夫だから…ね?」
「…このタイミングの嘘は笑えないわよ」
「本当に大丈夫だから…ゴホッゲホッ!!?」
口から血を吐き出し、AG用のスーツに斜めに切り裂かれた向こう側には、傷と血が大量に流れている。
じわじわとその傷の個所からAGスーツに血がにじんで広がっていく。
「あー…もう、回復回復…!」
ストリームの機体には人体や機体を回復することが出来る『ナノマシン医療装置』が搭載されていた。
専用アビリティとは違い、完全に援護に偏った武装の一つ。
それに期待するしかなかったが。
「くっ!!?」
あの鴉は必要以上に私とストリームを狙っていた。
『オイ!俺を狙いやがれ!!』
『狙いづらい…!!』
サイクロンもヘイトがずっと私たちに向き続けていたせいで、攻撃しずらく、ハリケーンも誤射になりかねず変に射撃することが出来なかった。
「このままじゃ…!!」
「ごほっ!て、テンペスタ…」
「何!今忙しいの!戯言は後に」
――私を置いて逃げて。
「…は?」
私はストリームが言ったことに理解が追い付かなかった。
「どっちみち、ここで回復しきっても私は3人に追いつけない」
「何故…?」
「エネルギーだよ、パワーエネルギーが私の方が少ないし、なによりさっきの負傷でまともに飛べないし…」
「違うわよ。私が聞いているのは」
「何で逃げてって言ったかって事?」
「…えぇ」
「私たちは逃げないといけない。逆を言えば誰か一人でも逃げれば済む。考えてもみなよ、もしここで私を背負って逃げ続けるか戦い続けても最終的には数が減っていってコンビネーションもまともに出来ずに全滅だってあり得るんだよ?」
確かにストリームの言っていたことは的を得ていたわ。
でも仲間を置いていくことはできない。それは春斗君もわかるでしょ?
「私一人の命で3人が逃げれるのなら、まだマシでしょ?」
「何が…マシよ」
「…」
「ふざけないで!!私たちは…昔からずっと一緒で、今もこれからも…!」
「わかってるよ。正直…まだ死にたくない。でも…全滅よりいいじゃん」
「貴方…何をふざけたことを」
「テンペスタ」
「!!」
この時、ストリームが私に向ける目付きが変わったのを理解した。
「これは戦いなんだ。昔のスラム街の時のように弱い物は淘汰され、強い者が蹂躙する。それが『戦場』…私たちは、いや私が相手からの不意打ちを受けちゃったからこうなったの。今は私たちが『弱者』。だから逃げるしかないの」
「…エース」
「その名前は言っちゃダメでしょ?」
「わかってるわよ!!でも…」
「なら、これを託すよ」
そういってエースは…何かを私に手渡した。
それは金色のペンダントで、中には…私たちが九条技研で撮った集合写真が入っていた。
「これは…?」
「実はさ、夏樹博士にお願いしたんだ。大切にしている写真を保管出来てずっと持っていられるようにするにはどうすればいいかって」
「それが…これなの?」
「うん。私の一番大切な物、これがあれば」
私は…その日、雨の下で涙を流した。
もう流した雫が雨粒なのか涙なのかすら理解できないまま涙を流した。
そして…決断した。
「必ず…迎えに来るから」
「うん。待ってる、ずっと」
「…死なないでよ、エース」
「勿論だよ、ジュリアス」
その言葉を発したと同時に、エースの身体は完全に治癒された。
「うわ…エネルギーの半分くらい持ってかれた」
「…」
私は腕で涙をぬぐい、ハリケーンとサイクロンに指示を出した。
「二人とも…撤退よ」
『はぁ!?ストリームは…』
「…エネルギー的にも彼女は逃げきれない」
『…置いていくの?』
「えぇ。必ず迎えに行くと約束をして」
『そう。だから三人とも、逃げて』
『て、テンペスタはそれで良いの』
「黙って!!もうこれ以上、私の決意を揺るがさないでッ!!」
『す…すまん』
「…」
そうして私たちは鴉と一人で戦い続けたエースを置いて…飛び去った。
九条技研周囲から抜け、飛び続けた。
飛び続けているうちに雨がやみ、休める場所を見つけたのち三人で九条技研近くの海辺まで行き、彼女を探した。
…でも見つかることはなく。その代わりに一つのメッセージを受け取り、九条技研襲撃の事件がニュースで流れた。
『九条技研内で大規模な事故が発生し、研究職員及び九条夏樹、九条克樹博士、その他関係者が死亡したことが判明しました。警察は事件の内容と何が起こったのかの解明に進むために…。』
やられた。
大規模な事故とニュースで報道されたことで納得した。
事件の首謀者である桐生は襲撃したということをもみ消し…エースを殺したことすら隠したことに。
◇◇◇
「…ということがあったのよ」
「…」
言葉を…失った。
しかも話の中に出ていた鴉と狼。
ハイエンドだ。ということはその時点で青葉と椿は翠蝶、赫蝶になっていたという事か。
「そういえば、受け取ったメッセージにはなんと?」
「…これよ」
そう言ってジュリアスは胸元にあるペンダントを開き、契約書を取り出した。
「契約内容が彼女から送られてきたメッセージよ」
「え」
「この文字を一言一句、自分で書いたの。エースとの契約を守るために」
契約内容が、ストリームからの最期のメッセージ…。
『貴方たち3人は私を置いて幸せになりなさい』
『私は一足先に消えちゃうけど、貴方たちなら大丈夫』
『もし代わりのストリームを見つけたら、その縁を大切にするのよ』…か。
こんなにも契約書がボロボロなのは…きっと3人がこの契約を果たすために頑張り続けたという証明であり、ストリームが生きていたという証なのだろう。
「…」
「今は十分幸せよ、特にこれといった不満や問題点もないし…でもエースがいたのならもっと幸せだったと思うわ」
「俺も…そう思ってしまうよ」
ジュリアスの言葉には同意せざる負えない。
むしろごもっともと言える。
エースとの契約は一生達成されることはない、何せ契約者がもう居ないのだから。
「結局今も見つかってないんだよな」
「あぁ。ストリームの遺体や元のAGである『コマンド・ストリーム』も見つかってない」
「…そうか」
淡い期待になるかもしれないが…もし、ストリームが生きていたのなら。
話を聞く限りストリームのコマンド・ストリームは今のAGでは見ない回復機能がある。
確率はゼロに等しいといえば等しいが…『回復機能で生きている』という1%の確率が存在しているなら。
(探す価値はありそうだ)
丁度、学園は明日から1週間ほどお休みだ。
どうやら学園や施設の設備やAGの新調などと言ったことが一気に行われるらしいので授業はお休みで訓練も原則禁止。
俺からしたら暇でしょうがない。
誰かしら誘って何か遊びに行こうかなと思ったが…。
葵からは
『す、すまん…今回の学園の休みで実家に帰るんだ。一緒に遊ぶことはできないが、もしまた機会があれば誘って欲しい。その…二人っきりで』
フレヤとアイヴィーからは
『申し訳ありません、その1週間の間に重要な会議がありまして…』
『私はそのアレクサンダー家の護衛として出席する…だからすまない』
レベッカからは
『ご、ごめん…お母さんに会いに行くために飛行機のチケット取っちゃったから遊びに行けない…あ、もしよければ春斗も来る?』
アナスタシアは…そもそも誘える雰囲気じゃなかった。
『アンセル私だ、例の件だが…あぁ、首尾は?…完璧だ、明日祖国に帰るその際に作戦の決行を…』
水津と雪華さんは
『ごめん…明日はAGの開発品の発表会とかがあるから…』
『私はその付き添い~、こんな可愛くて天才な妹をいついかなる時でもお姉さんが守らないといけないから』
『も、もう…』
青葉と椿は
『春斗…ごめんなさい、どうしても青葉と二人っきりで過ごしたいです』
『お兄ちゃんごめん…』
…青葉と椿に関しては本当に二人で過ごしてくれ。
というわけで全員忙しそうなのでちょっと俺も捜索の手伝いをしようと思う。
「ジュリアス」
「何かしら?」
「俺も探してもいいか?」
「急ね、構わないけど…どうしていきなり?」
「あー…」
思えばこの三人はタービュランスだった。
学園の情報を教えるわけにはいかないしな…。
「ちょっと明日から大体1週間ほど暇なんだよ」
「学園は?」
「その辺は諸事情ってやつ」
「…調べたら」
「今この場で黎蝶をまき散らす」
「冗談よ」
そんなわけで俺が捜索の手伝いをすることになった。
淡い期待でもほんの少しの光があるなら手を伸ばす価値がある。
(俺が何度そんな一寸の光に手を伸ばしてきたと思っているんだ)
見つけよう。
ストリームを。
願おう。
彼女の無事を。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




