Episode:イル・アレクサンダー
「アレクサンダー!?ちょっと待て!その名前は…!」
「ダーリンは知ってるでしょ?」
「知らない方がおかしいだろ!」
アレクサンダー…フレヤの姓だ。
そうなってくるとハリケーンは間接的にアレクサンダー家の生まれということになる。
だが、待てよ…過去の話を考えるとハリケーンは少なくとも俺よりは先に生まれている。
じゃあなぜここまで姿が若い?
ジュリアスやアテナは見た目からわかる通り俺の年上と判断できる。
…多分20辺りの。
だが、ハリケーンは違う。明らかに見た目が幼い。
ぱっと見、10歳行ってるかわからない。それくらい若い。
「本当なのか…?」
「どういうこと?」
「俺より若い見た目をしてるだろ?よくありがちな見た目より歳を取ってるとか聞くが…いくらなんでも若すぎるし、つじつまが合わなすぎる」
「やっぱり?」
「やっぱり…?」
まるで自分の姿に関心がないように反応するハリケーン。
「だって、私はずっとこれだよ?」
「ずっと…?」
「ハリケーン、春斗君が混乱しているわよ?」
「え、何で?」
「…そりゃお前、自分の身体のこと話してないだろ?」
「確かに!ごめんね、ダーリン」
「あ、あぁ…」
何がどうなっているのか意味が分からない。
アテナがハリケーンに対し自分の身体の事を俺に話していない、というのは少し心当たりがある。
ハリケーンは前に俺に対して…。
『実は私もダーリンと同じなの、身体の一部が機械で出来てる』
『補強された理由は全然違うけどね、私は野垂れ死にかけたところをテンペスタに拾われたから』
と話していた。
…俺と同じなのは分かるが機械で補強された範囲が分からない以上何とも言えない。
「とにかく身体の事を話すついでに過去も話しちゃうから、しっかり聞いてね?ダーリン」
「あぁ、聞かせてくれ」
ハリケーンは俺の左側に座り、過去を話し始めた…。
◇◇◇
まずは…私の生まれは名前の通りアレクサンダー家。
二人に比べたら割と幸せに過ごしてたよ。
しかもね?ダーリンの友達のフレヤの『姉』に当たるのが私なの。
…でも、私の転機が訪れる頃はまだ生まれてなかったけど。
「お父様」
「何だい、イル?」
「本日もお仕事ですの?」
「あぁ…すまないね、もう少しで終わるから」
お父様の名前は『グレイソン・アレキサンダー』、まぁダーリンの事だし、知っていると思うけどね。
いつもお仕事ばかりで私にはあまり声もかけてくれないし、一緒にいる時も食事のくらいしかなかった。それはお母様である『マリア・アレクサンダー』も同じ。
二人ともお仕事に専念し、私との会話もろくになかった。
私は部屋の中で一人、ずっと絵本を読んでいただけ。
「白馬の王子様…」
あの頃の私はずっと寂しかった。
一緒に遊ぶ子もいなければ、話し相手も居ない。
ずっと孤独で一人ぼっち、それが昔の私。
同じ絵本を読み続け、いつか私と仲良くなれるような子が来るとずっと信じていたけど…誰も来なかった。
でも、私の大好きな絵本には大好きな白馬の王子様がいた。
その本を読み続ければ一人じゃないって思えていたから。
そんな白馬の王子様と一緒に孤独を共に過ごし、気が付けば3年の月日を重ね気が付けば学校に通えるような歳になった。
でも…そこで起きてしまった。
私の何もかもが変わった事件が。
「ふんふん~」
その日は快晴。
学校もなかったから、屋敷のお庭の花園でいつもの絵本を一人で読んでいたの。
メイドも執事も誰も居なくて、一人で静かに。
そう、家族も使用人も私の事を放っておいたせいで…。
――バァッン!!
「…え」
私は撃たれてしまった。
「ごほっ…げほっ…」
血が噴き出し、声を上げられずその場で倒れる。
助けを求める声を出したかったけど…私は家族にも、使用人にもほったらかしにされていたから…声を上げても誰も助けに来てくれないって考えていたの。
わかるでしょ?誰も構ってくれない。
お仕事に夢中で家族にも話してくれない、ディナーの時でも必要最低限の話しかしないんだから。
…こんな人たちに助けを求めたところで来るわけないって。
「かはっ…」
「…持っていけ」
声を上げることもなく、力なく倒れた私は全身真っ黒な人たちに担がれ車に乗せられ、屋敷を後にさせられた。
◇◇◇
「…は」
「これがまだ身体が人間だったころの私かな」
「ちょっと…待ってくれ」
話されたことは少ないが、衝撃があまりにもデカすぎる。
しかも…ハリケーンの親を知っているが故のショックがすごい。
「でも私で反省したみたいで良かった、だってフレヤは幸せそうに生きてるしね」
「…お前はいいのかよ」
「いいよ、どうせ私の事なんぞどうでもよかったと思うしね」
「…」
何も…言えない。
言えるわけがない。
かける言葉が見つからない、なんて言えばいいんだ。
「ダーリン、続きを話してもいい?」
「ちょっと…聞かせてくれ」
「何々?」
「…何で、そんな普通に語れるんだよ」
「何で?それは過去だからだよ、しかも覚えている人もいないんだからさ」
「覚えている人…?」
「だってさ、私が撃たれた後のアレクサンダー家が取った行動は何かわかる?」
「…知らない」
「フレヤが生まれたってことは私を忘れたって事じゃん、探しもせずに」
「!!」
俺は、息を忘れるくらい驚いてしまった。
今のハリケーンからは怒りや憎悪などの感情を感じない。
…もう、気にしていないんだ。
忘れられたから忘れる。淡々と忘れたんだ、血のつながった家族もアレクサンダー家の使用人の事も。
いらないから捨てる、みたいな感じで自分に構ってくれない人を頭から完全に消し去った…。
実際、昔のハリケーンに構わないせいで人を捨てさせられたのなら…あり得る。
「じゃあ続きを話すよ?」
「あぁ…」
俺は重い感情に支配されながら、もう一度ハリケーンの声に耳を傾けた。
◇◇◇
じゃあ攫われた後を話すね。
まずは…私は弾丸で身体を貫かれてしまったし、子供の身体だったから死にかけていたけど、私を攫った連中は私の肉体を改造し始めた。
あ、先に行っておくけどダーリンのbutterflyとかじゃないからね?
単純に私の肉体をナノマシンや機械で改造し始めた。
しかも、麻酔なしでね。
激痛だらけの肉体、どれだけ悲鳴を上げても、もがいても、誰も助けてくれないし、ずっと硬い板に押さえつけられるだけ。
助けてくれる人なんていなかった。読み漁っていた絵本のように…助けに来てくれる白馬の王子さまなんて存在しない。
誰かを信じて待つ、なんていうけど…私は『誰を待てば良かった』の?
家族すら、使用人すら、白馬の王子様すら…助けに来ないのに?
…そうして私は肉体を改造させられ、人身売買の商品として扱われた。
『一生肉体が成長しない身体』『一生幼い女の子供』ってね。
「さぁ!次は一生肉体が成長しない女の子供です!では…オークションを開始!」
首に鎖を付けられ、無理やりステージの上に立たされ、気持ち悪い男たちの目線を一方的に受けながら私の価値を勝手に決めさせられる。
そうして私の価値が決まり、名も顔も知らない男に売り飛ばされ、人が入ると思えない木箱に詰められ何処かへと連れていかれたの。
(お腹…空いたなぁ…)
その時から…おかしくなったんだよ。
誰も助けに来ない。
なら、わたしはどうすればいいの?
ずっと独りぼっちな私は誰と一緒に居ればいいの?
何で私だけこんなつらい思いをしないといけないの?
子供っぽい疑問を持ち続けた末に見つけたの。
答えを。
(好きな人…♡)
私を迎えに来なかった白馬の王子様。
いっその事、迎えを待つんじゃなくて…私から行けばいいって♡
「さて…早速楽しませてもら」
「王子様じゃない」
「あ?がはっ!?」
「うるさい」
木箱を開けて私に手を伸ばしてきた男に、近くに転がっていた木の破片を喉に突き刺して、その男の身ぐるみを剥がして来て…。
「王子様…♡」
名もなき道を歩み始めたの。
全ては王子様に会うために。
◇◇◇
「そんなわけで歩き始めたの」
淡々ととんでもないことを話したハリケーンに俺は驚きながらも机に拳をたたきつけた。
「そんなわけって…!?軽く言うなよ!?とんでもねぇじゃねぇか!肉体を勝手に改造された!?」
ハリケーンに対して声を荒げて問いただしてしまった。
「うん」
「うんって…もう少し憎んだり」
「もう憎む必要はないの」
「な、何で…!?」
ハリケーンの言っていることに理解が出来ずにいると、俺の左肩に手を添えられる。
添えたのは…ジュリアス。
「春斗君。その人身売買をした貴族は今も地獄を見て居るわ」
「は…?」
「もー、私が言おうと思ったのに…」
「ハリケーン…その貴族って?」
「ガリアルド家だよ?」
「!!?」
その名を聞いた瞬間、また驚いてしまった。
ガリアルドは…ルゥサの性の名前だ。
時間を考えればルゥサは生まれていない。そうなると…生まれる前からそんなあくどいことをしていたのか!?
「それで地獄を見てるって?」
「アイツらなら…あー…誰だったか?」
「桐生萎羅と桐生枯葉」
「そう、その二人と一緒に地下施設で働いてるぜ」
「地下施設?」
アテナの言ったことに疑問を持つ。
「ねぇダーリン」
「うん?」
「ダーリンって体力ある?」
「まぁ多少は」
「じゃあ24時間ずっと休まず働ける?」
「うーん…試したことはないけど丸一日は厳しいかもな」
「それをずっと繰り返してるよ、ガリアルド家関係者とその二人は」
「あー…察した」
文字通り地獄を繰り返してるんだな。
地下施設で。
…なるほど、今になって納得できた。
ルゥサの身柄を預かったのはハリケーンだし、あの二人を預かったのはタービュランス。
何をするもタービュランスの自由ってことか。
まぁ…地獄にいるやつらに言う事はひとつだな。
(自業自得、ご愁傷様)
この一言に限る。
「それで…5年近く歩き続けたけど、倒れていたところをテンペスタとエース、そしてアテナに拾われたって感じかな」
「5年も歩き続けたのか!?」
「だって会いたかったんだもん」
「…」
俺は心の中で思った。
ハリケーン…じゃなくてイルの執念ヤバくね?って。
「…それで身体が成長していないのは身体を改造されたからってことか」
「うん。まぁ…ある程度は成長したかどうか分からないけどね〜。あ、肉体で言ったら10歳くらいだけど、中身はどうなんだろうってくらいだし」
「何も聞いてなかったら頭の中おかしくなるな」
「ね~」
「…いやイルのことなんだけどな」
「あ、イルって呼んでくれるの!?」
「本当の意味でタービュランスを知れたと思ってるからな」
って言わないと誤解が生まれそうなんだよ…。
「これでとりあえず三人の過去を知れたんだな?」
「そうね」
「でも…何故ジュリアスたちが俺に謝るんだ?それっぽい理由もなかったが」
そこだ。
三人の過去を知ってもなお、俺は何故謝りたいのかの理由が見つからなかった。
「…これの続きにあるわ。私たちが謝りたい理由が」
「???」
「とりあえず次は…4人が集まって、飛行機に乗って対象を排除しに行ったところの話をするわね?」
「わかった、でも少し休憩させてくれ」
「そうね…少し水分補給などしましょうか」
そうして俺は軽く水を軽く飲んで椅子に背を預けた。
「ねぇねぇダーリン」
「ん?」
するとイルは俺の左側から移動して、俺の右に座り俺の右手を握る。
「ふふっ…♡」
「何だ急に…笑い始めて」
「いや…やっぱり私の目に狂いはなかったって思ってね?」
「???」
◇◇◇
私は…初めてAGで戦う男の子を見た。
赤い蝶を身にまとい、黒い剣と白い鎧に身を包んだ…私の『王子様』。
あの時に感じたの。
私の王子様はこの子だって…♡
それから何度も何度もダーリンの戦いを見て、最終的には純白の王子様になった。
やっぱり、白馬の王子様は…春斗君♡
あー…♡本当に大好き♡
◇◇◇
「…!!?!?!?!?!」
「ダーリン?」
「い、今…物凄い寒気を感じたんだが!?」
「気のせいじゃない?」
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…