第八話 命を賭した業
どうも、阜歩 茲子と申します。
アザーの“闔”、“心魂迷宮”に閉ざされてから数分が経った。
「迷路…っぽいけど、出口とかあるのか?」
『もちろんある。せいぜい頑張れ。』
その瞬間、突如呼吸ができなくなった。
ゴボッ!
(な、なんだ!?急に呼吸が…!?しかも身体も重くなった…!)
《体内に海水が流入しました。おそらく、四方八方が海水で満たされているものと考えられます。》
『お気付きかな?』
カリストはひとつ、失念していた。アザーの藝術はあくまで幻影属性。幻影の闔、物体化の有無はアザー側が操作できる。その上、物体化をOFFにしたタイミングで幻覚作用を用いればさながら迷宮に入ったまま海水に浸すことができる。
カリストはその絶望から逃げ出すために迷宮を壊そうと、壁に向かって無限に殴り続ける。
『まぁまぁ、大人しくそこで溺死するといいさ。私の闔の結界は、直接的なダメージ要因がない・脱出が可能な代わりに強固だからね。』
アザーからの説明を聞きながら、考えている。
(強固でも壊せはする。高火力一撃業をぶち込めば、割れる!)
肺に残った最後の空気を使って、詠唱し、放つ一撃。
(ふぅ……。)
「―『嵐旋』!!!」
握り拳の周囲の水分子がひとつの方向へ集中する。その方向は……
バギィィイイインッッッ!!!!!
アザーの闔が割れた。結界が壊れたのだ。
海上に浮いた後、カリストは急いで陸上へ泳いで行った。
「はぁ、はぁ、はぁ……生き残った…!」
「!?……見事だ。私の結界は五芒星の中でも随一の強度。それを破ると―グガァッ!?」
喋り途中のアザーの腹に一撃の拳が突き刺さる。大量の血を吐き出し、座り込んだ。
「……私は…君を殺さな……ければなら…ない……。上からの…絶対命令……なんだ。」
「お前の事情は知らん。アルバドさんを殺したんだろう。それは事実として残っている。」
「アルバド……か。」
昨晩、19時10分のこと。アルバドがカリストとの通話を終え、向かおうとしているところに現れた影。
「……この路地に人がいるとはな。ここは私の領域だ。入った者には厳罰を下さなければならない。」
「ここは獄界が定めた永久公道だ。私道ではない。有り得ない。」
アルバドが言ったことが正しい。しかし、その影は自分第一だった。
「うるさい。私が定めたことが世界の定めだ。歯向かうなら、またひとつ業を背負おう。」
「いいだろう。臨戦態勢…早期決着『迅捷』!」
「私も早期決着と行こう。『幻刄』」
アルバドがエンジンをかけた瞬間に、地面からの無数の棘が下から身体を貫いた。
「ガッ!?」
そのまま倒れ、間もなく命も燃え尽きた。
その皮を着て、およそ15分後にカリストたちの前に姿を現した。
「……うむ、多少の血は同じだな。実に着やすい皮だ。」
岬で解散し、闇の中に消えながら言った言葉だ。
「やはり……殺さなけれ…ば、ならない!」
威勢よく言ったものの、大量に吐血する。
(どうせ私は死ぬ。ならば命懸けでもひとつ…!!)
様子が変わった。今生の別れを惜しむこともなく、むしろ死にに行くような様子に変容した。
「『幻』!!!!!」
獄界には“源業”というものがある。その藝術で出せるすべての業の根源。基本、一文字+数文字の手助けを経て業となる。その手助けが無い“源業”は、精細に業を操れる神の所業であるか、大きな力を持つ者が大きな物を代償にしてようやく放てる究極の一手。
それを、放った。自らの命を賭して放つ一手。すべては目の前の敵を葬るため。カリストを更なる地獄へ突き落とすため。
「物理守!!」
間一髪でガードを全方向に展開した。
―しかし、意味は無かった。
ドォォオオオオン!!!!!
岬から半径5mが範囲となり、カリストの精神を蝕んだ。
「さぁ……虚無に蝕まれるがよい……。」
アザーは一言を言い遺し、魂が尽きた。
「……なんだ、これは…!?」
カリストの脳内には永遠を生きている“虚無”が映し出される。脳のリソースの9割がそちらの処理に集中し、日常にはまともに集中できない。
「タスケゴエェ!!!治してくれェ!!!!!」
切羽詰まった声で呼んだが、
《申し訳ありません。強大な呪術により解呪が出来ません。》
(はぁぁああああああ!?!?!?ゔッ!?)
無限の情報を処理しきれずに脳がショートし、硬直し、倒れ込んだ。
ザズッ。
「アザーの“源業”を食らっちゃったか〜。」
現れたのは、アラードだった。
次号、巻頭カラー!
……とか言ってみたいですね。まぁ、私は漫画描けないので叶わぬ願いですが。