第四話 神話の御業
どうも、阜歩 茲子と申します。
「―その“ヤツ”とは…私のことか?」
紅く眼を光らせる“ヤツ”が、アルバドとカリストの会話に割って入ってきた。
アルバドは急いで鞘から刀を抜き、
「臨戦態勢!『迅捷』!!」
“迅捷”。効果が切れると同時に大きなデバフを食らう代わりに、全能力が爆発的に上がる短期決戦向けの芸術。獄門会の最高峰階級に達すると、全員に渡される共有型のものだ。
「貴様は弱いのだ。“私が見える者”としては弱すぎる。」
「弱くても可能な限り抗うのが、俺の信じる道だ。“諦め”なんて言葉、俺の辞書にはない!!」
「相当ポンコツな辞書なようだな。それよりも興味があるのは貴様だ、カリスト!!!」
アルバドを放ってカリストのほうへ向かう。
「カリストの前に俺をやれ!彼は未成熟だ。もうしばらく日を待てば、君の興味ももっと強くなるだろう。」
「……目障りだな。」
紅く光る眼を、蔑むように細めてボソッと放った言葉だ。
「言っただろう。貴様には心底興味が無い。私の視界から消え失せろ。」
「俺は…お前を殺すまでここを退かない…!『反…」
アクトスは腕を振り上げた。
(……!!!)
カリストはアルバドの手を握って引き付けた。
「『界刈』」
次の瞬間、アルバドの後ろにあった建物が横に両断され、倒壊した。
「……危なかった…。助かった、カリスト。本当に感謝する。」
「つまらん命を…。身を挺してまで守るような命では無い。」
「それを決めるのは僕だ。決定権は行動権を持つ者にある…!」
ちょっと名言くさく言ってしまい、気恥ずかしさが心に充満する。
「お望み通り、僕が立ってやる。」
カリストはゆっくりと拳を強く握り、口を開く。
「『風華流転』!!!」
カリストは全身に風を纏う。足に纏い、俊敏になる。拳に纏い、繰り出す速度が上がる。
カリストの周囲の風を操作し、自身にとって追い風、相手にとっては向かい風になるように。
「やはり……弌型だな!!貴様が持つ藝術は!!!!」
アクトスは最高に口角が上がり、これを愉しんでいる様子。一方カリストは口角が下がり、警戒と恐怖で満ちている様子。
「ハァァァアアア!!!」
先に仕掛けたのはカリスト。俊敏な足と俊敏な拳で一方的に殴り続ける。
「フッ、まだまだ未熟だ。あの弱き者の言う通り…。」
僅かな笑みを浮かべた。その間も夢中に、ひっきりなしに殴り続けるカリスト。
「ここで殺せば勿体無い。『界転』」
カリストの拳が空振った。そこにはもう、アクトスはいない。逃げられたのだ。瞬間転移をして逃げられた。
「……逃げられた!」
「これは知らなかったから対策のしようがある。幸いはこちらにはほぼ怪我がないしな。」
思えば向こうからの攻撃は“界刈”の一発のみ。それも完全に避けたから、転んだ時の擦り傷程度しか被っていない。
「ヤツの“界刈“は残念ながら対策のしようがない。空間自体を斬る御業で、どうガードしようとも断たれるからだ。」
(タスケゴエ!何かしらのガードには対応してるんじゃないか!?)
《アクトスの藝術は空間属性です。そして、ガードの芸術もランク分けされて複数ありますが、その全てがの物理守か、特殊守に分けられます。そして、その二種とも空間属性には何にも為しません。空間属性の御業には……》
「避けるが最適解ですか…。」
「そうだ。」
結論だけ持っていかれて、タスケゴエがやや不服そうだ。
「俺はアイツに手も足も出ない。お前の協力が必要だ。良かったら、組を組まないか?」
2人以上のグループで相互に協力することを保証する条約のようなもの。協会の最小単位でもある組。
獄門会の言わば“最強”に組を誘われたカリストは、もちろん困惑。だが、
(藝術がイマイチってことは、実力だけで勝ち上がってきた猛者…。基礎戦闘なら圧倒的。そんな人に直接指導していただけるなら…!)
「よ、喜んで!!!」
《シルシの発行が完了したようです。獄門会本部へ赴いてください。》
あ、忘れてた。
獄門会に着いた。
「すみませーん。」
「あ!やっと来た〜♪」
290のおばあさんにしっかり覚えられていた。ちょっと嫌な気分だ。
「シルシはこちらよ♪」
免許証やPASM○のような小さめのカードだった。身分証明書にしてはありきたりすぎるサイズ感と大きさだ。
《シルシを私が記憶し、失くしても複製発行が可能です。》
なんというか、タスケゴエさんめっちゃ有能だね。
(じゃあ…記憶しておいて。)
《了解です。現在タスケゴエSSD 4TBのうち、2.86TB使用中です。》
まぁ損は無いし…―めっちゃ容量食ってる!?
満月が雲におおわれ、陰る。
地獄の櫻庭世界方面からの入口から、乾いた笑い声が聞こえる。
「はい、また1人。どんどん情報が集まるね。」
ザッ
「調子はどうだ?ガグル・エバー。」
見た目年齢30代前半の気さくなお兄さん(おじさん)の前に現れたのは、
「お久だね、アクトス。今で合計964人かな。シルシによる個人情報の収集は。」
「そうか。1000人に達したらまた弋型藝術『扶ケ聲』で伝えてくれ。」
「もちろんさ。君との組もあるし、破れないよ。」
タスケゴエの正体、謀略とは…!?