第三話 神話との邂逅
どうも、阜歩 茲子と申します。
アルバドが永遠に憎しみ続ける、その正体は―
そんな事情はハナから知らないカリストは、獄門会への所属申請の申込用紙を書き終わり、多分70超えてるくらいと思いきや290とか言いやがったおばあさんに提出したところだった。
「はい、全部書いてあるね♪じゃあシルシを発行するからちょ―っと待っててね~♪」
シルシ。つまり獄門会の会員証のようなもので、この世界での身分証明書となる。
「ざっと3時間くらいだからそこら辺散歩してきていいよ~♪」
(意外とこっちの世界でもまぁまぁ時間かかるのね…)
言われるがまま、ヘレストを散策することにした。
「団子~!団子はいかが~!?安いよ~!!!」
この世界にも団子はあることを認識。値段の確認へ移ります。
(せ…1000円…。たけぇ、というか通貨は櫻庭世界の日本と同じなのか。)
一応、地獄での1円=日本での1円と考えてもらって結構です。そこら辺は各自の想像にお任せします。
(まぁ味を確かめるって意味でも買ってみるか。…って、カネなぁぁぁあああい!!タスケゴエ!!!)
《獄中で円を稼ぐ正当な方法は、定職に就くことです。例えば、―》
簡単にまとめると、協会に所属していれば魔物(悪さをはたらく動物種)の討伐依頼を受ける。他にも名前教えおじさんのアルヴェドのようなサポート職や、290の受付のおばあさんのような受付職、団子屋のような販売職など。つまり、討伐依頼以外は全部櫻庭世界と変わらない。
つまり、僕は今すぐに稼ぐことは不可能と。
(な…何もできなくね…!?)
団子屋の近くで頭を抱え悩んでいると…
ドン
「あ、すみま―」
見上げると、眼が紅く光る見た眼20代前半の男性が立っていた。
「……。」
無言の重圧を出しながら眼を細め、ひとつ、言葉を放つ。
「貴様……私が見えているか。」
(ど、どういう質問だ…!?)
思えばここら辺ではあまり見ない、白装束に全身を包んだ服装だ。
「は…はい。」
「そうか、私が見えているか…。」
言う同時に、彼は右腕を振り上げた。その瞬間、後ろから複数の大きな悲鳴が聞こえた。
振り返ってみると、腕が吹き飛んで行った人や身体を縦に両断された人、後ろの建物も多く斬られていた。
「な…何をした!!!!」
「まぁ、そういうことだ。さぁ、これからお前は大変だな。」
何かを言い残して、シトシトと去っていった。恐怖心からかどうしても追いかけられなかった。
「おい!あの斬撃、コイツのほうから来たぞ!!」
「お前ェ!!!俺の嫁に何してんだァ!!!!!」
「私の夫を……よくも無惨な姿に…!!」
泣き叫ぶ声がすべて僕に集まってきた。
「お前のせいで…俺の…!」
わけもわからず僕の脳の全領域が困惑で埋まっていた。
前方からナイフを構えて走ってくる姿が見えた。流石にやばい…。
至近距離5m。
3m。
1m。
50cm。死ぬ―
「『反駁』」
間に入って、アルバドはナイフを構えた男を数十m突き放した。
「ア、アルバドさん…!!」
「おいお前らァ!このちびっ子は悪くない!!」
どうやら彼は協会内外問わず実力が知れ渡っているようで、街の人も彼が喋ると一斉に黙った。暗黙の了解とでも言うべきだろうか。
「…だが、斬撃の方向的に彼しかいないだろう…!」
「“見えないナニカ”だとしたら?」
(見えない……さっきの人、自分が見えていることに驚いていた…!)
「見えないなんて当てにならん!実際に存在しているあいつがやった!!」
人間というものは押し付けてでも責任を作り上げたい生物だ。
「はっきり言おう。真犯人は―」
それを聞いた街中の人々は一斉にアルバドを、精神的にも物理的にも攻撃した。先ほどのナイフを構えた男もそれに乗じ、彼を刺し殺そうとした。
(なっ、この数は流石に反駁では処理しきれない…!)
―不可能ならば、可能なものを作ればいい。その結論の先にあるのは……
「『反駁・乖』」
周囲360°、全方向の人間を数十m吹き飛ばした。やはり、顔に憎しみを貼り付けてアルバドは去っていった。カリストも追いかける。
「あの……アルバドさん。」
「なんだ。」
やはり、対応が冷たくなっている。
「さっき言ってた真犯人の…」
「“オルアクトース”か。」
“オルアクトース”。先ほど、カリストに「貴様……私が見えているか。」と質問した白装束に全身を包んだ人。つまり、
「街の人々を斬り刻んだ人…。」
「ヤツは神話の生物だ。獄界神話に出てくる七聖導の一柱だ。そのオルアクトースと同じ個体ならば、実年齢98000を超えることになる。」
(きゅ、98000…!?)
街で見たヤツの見た眼は20代前半に見えた。それが、聞く限り98000以上だという。
「そして、ヤツに俺の両親は殺された。俺も、数年前“逢ってしまった”のだ。」
「ご、ご両親を…。」
「君は見たところ弌型藝術を持っているな。君にもぜひ、ヤツの討伐に協力してほしい。」
そういえばタスケゴエさんが僕は弌型藝術を持ってるって言ってたな。でも、
「アルバドさんのほうが強いんじゃないんですか…?」
「俺は歴が長いだけだ。藝術自体は最底辺、弎型さ。」
その瞬間、空気が揺らいだ。
夕日の逆光で輪郭だけが映し出される。
「その“ヤツ”とは……私のことか?」
その影は、眼を紅く光らせていた―