表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地獄も存外悪くない?  作者: 阜歩 茲子
第一章 地獄取扱説明書
3/18

第三話 神話との邂逅

どうも、阜歩フブ 茲子コココと申します。

 アルバドが永遠に憎しみ続ける、その正体は―


 そんな事情はハナから知らないカリストは、獄門会(ヘル・バース)への所属申請の申込用紙を書き終わり、多分70超えてるくらいと思いきや290とか言いやがったおばあさんに提出したところだった。

「はい、全部書いてあるね♪じゃあシルシを発行するからちょ―っと待っててね~♪」

 シルシ。つまり獄門会(ヘル・バース)の会員証のようなもので、この世界での身分証明書となる。

「ざっと3時間くらいだからそこら辺散歩してきていいよ~♪」

(意外とこっちの世界でもまぁまぁ時間かかるのね…)

 言われるがまま、ヘレストを散策することにした。


「団子~!団子はいかが~!?安いよ~!!!」

 この世界にも団子はあることを認識。値段の確認へ移ります。

(せ…1000円…。たけぇ、というか通貨は櫻庭世界(サクラバ)の日本と同じなのか。)

 一応、地獄での1円=日本での1円と考えてもらって結構です。そこら辺は各自の想像にお任せします。

(まぁ味を確かめるって意味でも買ってみるか。…って、カネなぁぁぁあああい!!タスケゴエ!!!)

《獄中で円を稼ぐ正当な方法は、定職に就くことです。例えば、―》

 簡単にまとめると、協会(ギルド)に所属していれば魔物(悪さをはたらく動物種)の討伐依頼(クエスト)を受ける。他にも名前教えおじさんのアルヴェドのようなサポート職や、290の受付のおばあさんのような受付職、団子屋のような販売職など。つまり、討伐依頼(クエスト)以外は全部櫻庭世界(サクラバ)と変わらない。

 つまり、僕は今すぐに稼ぐことは不可能と。

(な…何もできなくね…!?)

 団子屋の近くで頭を抱え悩んでいると…


 ドン


「あ、すみま―」

 見上げると、眼が紅く光る見た眼20代前半の男性が立っていた。

「……。」

 無言の重圧を出しながら眼を細め、ひとつ、言葉を放つ。

「貴様……私が見えているか。」

(ど、どういう質問だ…!?)

 思えばここら辺ではあまり見ない、白装束に全身を包んだ服装だ。

「は…はい。」

「そうか、私が見えているか…。」

 言う同時に、彼は右腕を振り上げた。その瞬間、後ろから複数の大きな悲鳴が聞こえた。

 振り返ってみると、腕が吹き飛んで行った人や身体を縦に両断された人、後ろの建物も多く斬られていた。

「な…何をした!!!!」

「まぁ、そういうことだ。さぁ、これからお前は大変だな。」

 何かを言い残して、シトシトと去っていった。恐怖心からかどうしても追いかけられなかった。

「おい!あの斬撃、コイツのほうから来たぞ!!」

「お前ェ!!!俺の嫁に何してんだァ!!!!!」

「私の夫を……よくも無惨な姿に…!!」

 泣き叫ぶ声がすべて僕に集まってきた。

「お前のせいで…俺の…!」

 わけもわからず僕の脳の全領域が困惑で埋まっていた。

 前方からナイフを構えて走ってくる姿が見えた。流石にやばい…。

 至近距離5m。

 3m。

 1m。

 50cm。死ぬ―


「『反駁(スプロフノ)』」

 間に入って、アルバドはナイフを構えた男を数十m突き放した。

「ア、アルバドさん…!!」

「おいお前らァ!このちびっ子は悪くない!!」

 どうやら彼は協会(ギルド)内外問わず実力が知れ渡っているようで、街の人も彼が喋ると一斉に黙った。暗黙の了解とでも言うべきだろうか。

「…だが、斬撃の方向的に彼しかいないだろう…!」

「“見えない(・・・・)ナニカ”だとしたら?」

(見えない……さっきの人、自分が見えていることに驚いていた…!)

「見えないなんて当てにならん!実際に存在しているあいつがやった!!」

 人間というものは押し付けてでも責任を作り上げたい生物だ。

「はっきり言おう。真犯人は―」

 それを聞いた街中の人々は一斉にアルバドを、精神的にも物理的にも攻撃した。先ほどのナイフを構えた男もそれに乗じ、彼を刺し殺そうとした。

(なっ、この数は流石に反駁(スプロフノ)では処理しきれない…!)

 ―不可能ならば、可能なものを作ればいい。その結論の先にあるのは……

「『反駁・乖(スプロフノ・カイ)』」

 周囲360°、全方向の人間を数十m吹き飛ばした。やはり、顔に憎しみを貼り付けてアルバドは去っていった。カリストも追いかける。



「あの……アルバドさん。」

「なんだ。」

 やはり、対応が冷たくなっている。

「さっき言ってた真犯人の…」

「“オルアクトース”か。」

 “オルアクトース”。先ほど、カリストに「貴様……私が見えているか。」と質問した白装束に全身を包んだ人。つまり、

「街の人々を斬り刻んだ人…。」

「ヤツは神話の生物だ。獄界神話に出てくる七聖導(セブンス)の一柱だ。そのオルアクトースと同じ個体ならば、実年齢98000を超えることになる。」

(きゅ、98000…!?)

 街で見たヤツの見た眼は20代前半に見えた。それが、聞く限り98000以上だという。

「そして、ヤツに俺の両親は殺された。俺も、数年前“逢ってしまった”のだ。」

「ご、ご両親を…。」

「君は見たところ弌型藝術(トップ・テクニケ)を持っているな。君にもぜひ、ヤツの討伐に協力してほしい。」

 そういえばタスケゴエさんが僕は弌型藝術(トップ・テクニケ)を持ってるって言ってたな。でも、

「アルバドさんのほうが強いんじゃないんですか…?」

「俺は歴が長いだけだ。藝術(テクニケ)自体は最底辺、弎型(ワース)さ。」



 その瞬間、空気が揺らいだ。

 夕日の逆光で輪郭だけが映し出される。



「その“ヤツ”とは……私のことか?」



 その影は、眼を紅く光らせていた―

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ