第十八話 こんな青春、
どうも、阜歩 茲子と申します。
辺りは火の海と化している。建物なんてものは原型を留めず、燃え尽きて黒ずんだ木片がそこら中に散らばっている。まさに惨状というに相応しい。
その中でカリストと若い男が対峙している。カリストは刀を構え、男は手をかざしながらカリストを見下ろす。
「その程度か、小僧!!!」
額から流れる血と汗が混じった液体を腕で拭い、彼へ叫ぶ。
「まだまだ…俺には守るべきものがある…!!!」
カリストの傍らにはもう虫の息のアラードが倒れている。
「いい心意気だ。だが、もうまともに動けないだろう。」
身体の節々から血を流しているカリストには、とても動けるようには見えなかった。
――見えなかった、だけである。
大きく息を吸い、唱える。
「『■』」
――――――――
路地裏に猫が通る。
「意気揚々と翡翠討伐を掲げたけど、どこに本部があるかも知らねぇぞ?」
「まぁ、そこら辺は地元の人の聞き込みで…。」
割と無策に始まった翡翠討伐物語。
「まー今は情報集めがてら、日本を観光しよー!!!」
アラードは中々お気楽なようだ。
案内されたため今は京都にいる。多くの国宝がある京都、カリストはそこを片っ端から案内してやるつもりだ。
「さ、行くぞ。アラード!」
「うん!」
それから二人は清水の舞台から飛び降りたり、伏見稲荷大社へ鳥居を一基贈ったり、八ツ橋をたくさん食べたり。ひたすらに京都を楽しんでいた。
旅館へ着いた。和食の食事を済ませ、部屋でくつろいでいる。
「日本、綺麗だね。そんなに綺麗な場所から、こんな修羅溢れる地獄まで突き落とされたんだ…。」
「まぁでも、別に悪かったなんて思ってないよ。毎日が楽しいさ、RPGの異世界に飛ばされたみたいな感覚だよ。」
「あーるぴーじー?」
「ときにはスキルを使って悪と戦って、ときには親しい人が殺されて、ときにはずっと一緒にいる君と出会って。清水の舞台から飛び降りたことなんて櫻庭世界でも無かったしさ。」
思いふけり、顔も赤くなってきたところだ。
「さ! 日本にはお風呂ってのがあるんだよ! 行こ!!」
「また新しい日本だ!」
強引に話を断ち、話題転換。アラードは興味津々に食いつく。
…だけど、風呂?
―大浴場前。
「さ、流石にまずいって!!!」
顔を真赤にして小さな声で叫んでいる。悲鳴に近い。
「何が? お風呂なんて知らないから教えてよ! 一緒にいなきゃ教えられないでしょ??」
まぁ、概ね予想通りに動いていただいて…。赤らめた顔を落ち着かせるために話題を変えたのに、変えた先ではさらに爆発させる原因を作ってしまったようですね。
「……じゃあ、大浴場じゃなくてさ…。」
この旅館には各部屋に風呂が完備されています。アラードがこの態度であれば。当然混浴コースでしょう。
「それじゃあ、[よくわかる!はじめてのお風呂講座!!]を始めます。」
「初心者向け情報誌のタイトルだ! わくわく。」
「まず始めに、服を全て脱いでくださ―」
以降、全カットです。
はい。
風呂場から二人、浴衣姿で出てきた。
「お風呂っていいね! 開放感もあるし!!」
「…そ、そうだな…。」
今にも噴火しそうな真っ赤な顔をどうしましょうか。
「もう遅いし、寝ようか。」
「うん! …ベッドは?」
「これも日本、布団!! [よくわかる!はじめてのお布団講座!]をはじm」
この夜、結局寝たのは深夜の三時だった。
―回想。
この一日。京都旅行と遅寝旅館、まるで修学旅行をしたかのような青春だった。中学時代、不登校だったから修学旅行も行かなかったんだ。
「お、ケン! コース決め進めようぜ!1」
「あ、ショウ…僕全然学校来てないのに…いいの? そんな図々しく修学旅行だけ行くなんて…。」
「ハッ、何言ってんだよ。旅行なんて一人でも多いほうが楽しいだろ??」
その笑顔に何度救われたことか。だけど、そんな笑顔をしてくれたのはショウだけだった。他のクラスメイト、班員でさえも僕を見向きもしなかった。
聞こえたんだ。“なんでケンって、修学旅行だけ行く気なの?”って。その言葉は、ショウの笑顔以上に重く僕の背中にのしかかり、僕をぺしゃんこに潰した。
結局、修学旅行の当日は不登校として休んだ。中学校に思い出はない。僕は中卒として引きこもりになった。いよいよ高校に進学したショウとも疎遠となり、僕の仲間は母親以外にはいなくなった。
引きこもりになってから半年が経ち、母親の口も利かなくなってしまった。その夜、夜風に当たろうと河川敷を歩いていた。
(もう、死のうかな。お母さんも食費が浮いて楽になるよね。)
「河童の川流れ…僕は河童じゃないから、ただの溺れてる人だな。故意だけどさ。」
最期にそんなことを口走っていると、若めのスーツ男性が話しかけてきた。
「ねぇ君、死のうとしてない?」
まさに図星としか言えない言葉が投げられた。
「まだ君も若いでしょ? 死んじゃったら地獄行きが確定だよ…!」
そう言われて日和ってしまい、もう少し歩き続けることにした。
そこで現れたのが、絵に描いたような馬鹿酔い。あとはもうご存知の通り、地獄に堕とされた。
そして、今に至る。
(こんな青春、櫻庭世界でもやりたかったなぁ。どこで道を間違えて、不登校になっちゃったんんだろうな。)
少しずつ意識が遠のいていく。
(でも、櫻庭世界でできなかったこと、やれて良かったな。やっぱり、地獄も存外悪くない?)
―そして、眠りにつく。
書くのが下手な青春回でした。
なかなか、楽しかったです。




