第十六話 釜山型訪日人
どうも、阜歩 茲子と申します。
ゲルミー村、烏巣山での討伐依頼を完遂し、新たな街へと旅に出る。
(堕天を討つには僕の言葉を信じさせる“実績”が必要だ。そのためにも…!)
ゲルミーも小さい村だったが、そこから1kmでも離れるともう何もない平原が、地平線にまで広がっている。この地は獄際機関“NPO”、National Planes Orchestraが管理する官営地のひとつ。だが、ここは広すぎるため交通を制限すると非常に不便になるため、例外的に一般人の通行が認められている。
「この平原、端から端まで100kmあるらしいよ。」
「ひゃひゃひゃ100km!?!?!?!?」
日本のフルマラソンの二倍以上。そんな事実を突きつけられたアラードは「戻ろ」と言って引き返そうとする。
襟をガッと掴んで引きずりながら行きましょうね。頑張れカリストくん。
そんな景色が何も変わらない面白みもない200kmを数週間かけて越え、ようやく着いたのは…
「「「「「大海原」」」」」
見渡す限りの水平線。振り返ったところで半径200km圏内には何も無い。
「うん、行こうか。アラード。」
「ちょちょ、正気アンタ!?!?」
「もちろん、この先にはとてもすごい素晴らしい何かがある。はず!!!!」
「“はず”を強調しないで!!!!!」
結局カリストが押しに押して。アラードが押しに押されて、水平線に向かって泳ぐ羽目になりましたとさ。
「NPO情報だとこの海はたった50kmらしいから大丈夫だよ、すぐ終わる。」
「さっきの1/4って考えたってねぇ…長いもんは長いんだよ?」
途中あった島で休みながら数日かけてしっかり泳ぎきって、着いた。第一村人とでも言おうか、ひとりの住人が真っ先に話しかけてきた。
「君たち釜山から泳いだの!?大変だったねぇ。」
「「釜山??」」
二人で首を傾げたが、間髪入れずにその住人が口に出した一文。カリストにとっては衝撃以外の何物でもない一文だった。
「ようこそ、獄界唯一の安息の場、日本自治区へ!!!」
「に、にっぽん…!?」
「え、カリスト、“ニッポン”を知ってるの?」
「あぁ、僕の故郷だよ…。地獄にも…あったのか…!」
思えば釜山、大韓民国の都市名だ。50kmというのも釜山から対馬の距離がおおよそそのくらい。
「さ、釜山から来た人は首相と挨拶する取り決めだ、案内するよ。」
なかなか豪華なお出迎えだ。それもそのはず、50kmもの海路を泳いでこなければここには来れないのだ。それほどの度胸を持ち合わせた人、首相様が謁見する相応しい。
なんとこの島には車がある。大陸よりも文明が進んでいる。この島の国会は全員櫻庭世界の日本出身、技術力がある人が来てもおかしくはない。稀にある反発は日本国憲法に則り、デモとして鎮圧している。逆に、しっかり日本国憲法に則り人権が保障され、税金ももちろんある。憲法に則った法律も制定されていく。
ここは、紛れもなく“日本国”そのものだ。故郷が日本である証明は、その時代を生きた日本人しか知らない情報でパスワードのように訊かれる。もちろん毎回質問内容は変わる。
「マジで、こりゃ日本だぞ。」
現世であれば京都府に該当する場所に着いた。清水寺や伏見稲荷神社の存在はもちろん、和食店も無数に。さらに一般店舗も景観に配慮した地味な看板になっている。現代を生きた日本人がどんどん流入しているようだ。
ここは静岡県と山梨県の県境。フジサンのテッペンだ。自然に山は無かったため、有志の者たちが組織を立ち上げて土を積み上げて、諸々すごい技術を使って、標高3776mの人工山を完成させた。
「この標高を人工で…すごい。」
故郷を懐かしむカリストはもちろん、アラードもその“人工”に惹かれ、絶句していた。
―――――――――――
首相官邸。その中で最も高い位にある部屋、大黒室。首相と一人の大臣が話している。
「総理。釜山型訪日人が二名、いらしたようです。」
「…豊暁49年、今年は多いな。今回はそうだな、[俗称「なろう」のウェブサイトの正式名称は?]にしようか。」
「御意。在日人の確認が終わり次第、大黒総理のもとへお連れいたします。」
総理大臣、首相になった瞬間に苗字が変わり、大黒となる。傍から見れば世襲のようにも見える。
(―また、来てくれたな。在日人だと、嬉しいが。)




