第十三話 思い通りには
どうも、阜歩 茲子と申します。
倒れ込んで動けない二人。口角を吊り上げた同じ容姿の男がそれぞれのそばに立っている。
「……フッ。」
その冷笑でカリストが目を覚ました。
「ん……ハッ!」
即座に立ち上がり、藝術を出す体勢をとる。しかし、その男は手を上げフリフリと振っている。
「ははっ、僕に交戦の意図はないよ。警戒しないで結構さ。」
「なぜここに来て…冷笑までしている…。」
臨戦態勢を崩さず警戒はしたまま、立ちすくんでいる。
男の手から出る微かな緑色の靄がアラードを癒していた。やがて目を覚まし、アラードも即座に臨戦態勢をとった。
「何者!!!」
「おお、君を助けてやったのになんて酷い。」
冷静な格好を崩さぬまま驚いている“フリ”をしている。
「『霜薙刀』!」
音速を超えるスピードの斬撃が1mにも満たない距離にいる男に向かうが、ヒョイっと避けられてしまった。
「危ないなぁ。これで心臓斬られたら死んでしまう。」
冷静を欠かずに淡々と無感情な言葉を並べる。
(―すごい違和感…。)
二人の思いが合致した。そんなことは気にも留めず、男はサルヴィの灰を拾い集め、飲み込んだ。そして、影へと消えていった。
カリストがアラードと合流し、共に烏巣山の山道を下山の方向で歩いていると、カリストが突然立ち止まる。
「……『塵旋風枯』」
言った途端、周りの森林が根こそぎ刈り取られ、更地が出来上がった。ぴったり半径50mの真円。
「か、カリストくん!!依頼主から“森を傷つけるな”って!!!」
突然の出来事に困惑に尽きる。
「出てこいよ。戦場は用意したぜ?」
「……バレているとは、察しがいいな。」
木の陰から出てきたのは、先ほどの男。先ほどとは違い、殺意に満ち満ちている。
「俺は弱いし、二対一でいいか?」
「あぁ、どうかかろうとも僕を倒せやしないさ。」
殺意と共に、過剰とも言える自信も漲っている。
「と、その前に話をしないか?もしかしたら生きて帰すかもしれない。」
「……聞こう。」
「さっき、そこにいる嬢ちゃんがサルヴィを殺しただろう?そこで、一対一の交換条件だ。その嬢ちゃんを差し出したらお前は帰してやる。」
突然のドス黒い声。蒼い眼を光らせて言い放った、おぞましい交換条件。それを呑むはずもなく、無言で体勢をとる。
「それが答えか。出来れば女を持ち帰りたかったが、甘んじて受け入れよう。」
蒼い眼をますます光らせ、口角も吊り上げて高揚した様子で体勢をとる。
「呼びづらいだろう、名を言おう。僕の名は“シーファ”。七聖導の一柱さ。」
((……獄界神話!!!))
〔紅〕アクトス、他五柱と共に七聖導に数えられる〔蒼〕シーファ。
「僕の傀儡の一員であったサルヴィが殺されて、憤りの極みだ。その上、女一人すら持ち帰れないと来た。殺す。」
感情が前面に出た。次々と本音が漏れ出て、感情を制御できないほどに憤っているようだ。
「…ともかく、やっぱり交戦の意図があったじゃないか。」
「そりゃそうさ。嘘も方便ってね。」
言い終わる前にカリストが風刃を創り出し、首まで差し掛かる。
「こんなの折ればいいのさ。」
「折ったところで風は無限だぜ?」
半笑いながら緊張は途絶えない。アラードも霜太刀を創り参戦する。
一方からカリストが襲い、そのコンマ数秒後にアラードが死角から襲い来る。どう速く対応しようとも一撃は受けてしまう。
(二対一は受けるべきではなかったか…?いや、僕なら殺せる。僕だから…!)
一瞬の気の迷いで二撃を受けてしまった。
「おうおうさっきから防戦一方だなぁ!?さっきの自信はどうしたァ!!!」
―……忌々しい。
小声でボソッと呟き、その中でも二人は戦略を変えながら着々とシーファの傷を増やしていった。シーファも連撃の中で隙を突いて少なからず反撃するが、アラードの神託“仨神癒”の回復のせいで雀の涙だ。
(…我慢だ。ヤツには大技がある。それを出すまではスピード違反だ。)
「絶望を与えてやる…!」
意気を声に出し、七聖導の意地を見せる。
「『神覇気』!!!」
草を枯らし、木を枯らし。環境破壊は気持ちいいZOY☆とまでは行かずとも、次元を超えた覇気で双方数十m吹っ飛ばした。幸いに真逆な方向に吹っ飛んでいったため、策略には完璧だ。
「…ハァ、ハァ。回復は今のうちだな。どうせ風使いの男はすぐに来る。だが、1on1に持ち込めたら僕が勝つ。」
そう言っている間にカリストが木々の陰から飛び出してシーファへ向かうかと思いきや、それを素通りしてアラードのもとへ向かった。
「お前の策略は見え見えなんだよ!そんなんじゃ引っかかんねえぞ。」
(…今、風使いの男を音速で追って殺すべきか…?いや、それだと女を処理できるか分からない…。ん?女は手中に収めれば…)
そんなことを頭で巡らせている間に、カリストはアラードのもとへついてしまった。既に覇気での策略は失敗した。なかなか思い通りにはいかない。だが、回復自体は完治するまでに終わり、それだけでも覇気を使った価値はある。
「今までのお前らの攻撃は無に帰した!!絶望したか?なァ、なァァアアアア!?!?」
完全に感情が自我のすべてを蝕み、当初のような冷静さは微塵も失われていた。
「まぁいいさ。ここからは藝術も使おうか。なぁアラード!」
「合点承知の助!!『霜薙浪裏』」
ふっる。と言った感想は置いておいて。
「『風華流転』」
「領域発動中は…がら空きなんだなぁこれが!『絶体水獄』」
二人にそれぞれ伸縮性の高い水の牢獄をあてがえ、
「ははは!この牢獄に入ったが終わり、ここで溺れて人生の垂れ幕は下がるのだ!!!」
高らかに笑った直後、水が一瞬にして氷へと変わり、割れた。
「なぁ、俺らの藝術見てねぇの?どっちも氷だろうが。」
あっ、と愕然した情けない顔を見せ、膝から崩れ落ちる。満天の星空を見上げ「ハハッ」と高笑いした。空から降ってきたひとつの輝きを握りしめ、地面を叩きつける。
「遅かったな。『趨向浪』!!!」
瞬きをする間に浪が常に襲いかかる闔が完成していた。
(「まったく〔紅〕め、予定より七分も遅かったな。)
「さぁ、お前らにはこの水獄の中で僕と闘ってもらおうか。」
「全部凍らせばいいんd…」
凍らせようにも、浪の勢いでその氷を即座に破壊した。
「ここは無限の水が湧く。どう足掻いてもこの水害から逃れることはできっこないさ。」
「「………。」」
足掻こうにも足掻けない。トドメを刺せた状況であっただけあって、悔しさが脳内に充満する。
「これを啓いたが最期、君たちの運命は僕が握っている。」
再び、冷笑している。




