第十二話 深想信殿
どうも、阜歩 茲子と申します。
遠くに吹き飛ばされたカリスト。サルヴィは息の根を止めようとカリストの元へ向かおうとするが、物理的に背筋が凍る。
「『霜薙刀』」
ボトッ。
「フハハッ!オレの左腕を断つとはな、なかなか鋭い刃だ。」
(危険度★☆☆☆☆と聞いていたけど…そうはいかなそうね…。)
今までの派遣者は誰もサルヴィまで辿り着かず、倒した魔物の数で満足して帰ってしまっていた。それでも数千の魔物を倒したものだから、それは満足するであろう。
対して今回、カリストたちが倒した魔物の数は六万を超える。そこまでしてようやく辿り着く、それが烏巣山の主サルヴィである。
「オレを呼び起こしたのはお前らが初めてだ。だから手加減は難しいかもな。『大牙』!!!」
サルヴィが咆哮するかのように口を大きく開けると、牙が飛び出し、アラードの腹に三本の線状の傷を負わせた。大きな出血をし、うずくまってしまった。
「くッ…。」
「こんなの序の口だぞ。オレはこんなのは基礎技だと思っている。貴様はそれすら耐えられないのか?」
「……まだ生きている…。耐えている…!!」
屁理屈とも言える反論をし、カリストが来るまで少しでも時間を稼ぐ。
―だが、飛ばされたカリストは失神し、動けずにいる。動ける兆しもない。そんなこと、アラードが知る由もないが。
アラードは再び立ち上がり、氷結を纏う。
(カリストくんは来れないのかな…。じゃあ…)
「私が単騎で此奴を倒さなければならない…!」
「いい意気だ。だが、魂のみが強くても、誰もお前を救ってはくれない!」
屁理屈とはとても言い難いセリフを吐き、次の攻撃の準備をする。
「あの小僧が来るまで、耐えられるか?」
「耐えてみせる。魂で…!!」
すでに疲弊しているアラードだが、一切の根性で無理やりにでも身体を動かす。
両手を体の前で組み、顔を俯かせ、願いながら一言放つ。
「『深想信殿』」
―――――
サルヴィは、孤児であった。
魔物を養育する、孤児施設に入れられた。
そこでは一切の関係を築くことが出来なかった。
そればかりか、常々陰口を叩かれていた。もちろんそれには気付いていたが、孤児施設の職員たちとも関係が悪かったため、相談など出来るはずもなかった。
卒業するときになっても誰も祝福してくれる者はおらず、孤独の道を延々と歩み続けていた。
「はッ、ちっちぇ魔物がいるぞ!こりゃコスパ高そうだなぁ?」
もちろん百獣之王になっていなかったサルヴィは小さな直立するネコの姿。人間との戦いを拒む中で習得した一切の戦意の隠蔽。
人間たちは申し訳なさすら感じて、剣を向けることは無かった。
―どの世界にも、どの時代にも愚かな者はいる。
申し訳なさの欠片もなく、見つけるや否や剣を向けて談笑を始める。
ここは有数の大都市で、もちろん周りには多くの人間がいる。そんな中で形態変化をしてしまえば、畏れられてしまう。討伐対象になってしまうかもしれない。
サルヴィが導き出した答えは…ネコという生物から随分離れたスピードで逃げることだった。マッハ6ほどのスピードで走り続け、ぶつかった山。人の気配はしないから、そこに棲むことにした。
それからはや十数年。山への人間の立ち入りが多くなっていた。自然があまりにも幻想的だと有名になり、一日に最低でも十人は来るようになった。
―鬱陶しいな。殺してしまおうか。
自然を魔物化させ、何人も食い殺させ、魔物たちを成長・繁殖させていった。カリストたちが辿り着いた頃にはもう、百万など優に超える数まで増えていた。
「“烏巣山一億計画”を始動する!!!」
週に一度、数分間のみ開かれる会議でサルヴィが言い放った計画。今までの繁殖に加え、人間も魔物化させていき、さらに個体数を増やす計画だ。
その会議から三週間が過ぎた今日、カリストたちが討伐依頼をぶら下げて訪れた。
―――――
生い立ちから遡った記憶は現在まで辿り着き、アラードの後ろに神殿があることに気付く。
「こんな…数十年前の話まで想わされるとは…。」
「これが私の“闔”。お前には、悔いを以って死んでもらう!」
「あぁ、オレのせいで死んだやつが大勢いる。それを死後の世界で悔い改めるさ。」
それを言ったサルヴィは既に、百獣之王を解いたネコの姿に戻っていた。
左には暖かい光。右には冷たい闇。サルヴィは右に向かい歩き出し、闇に包まれて灰となった。
直後、アラードの背後にあった神殿が標的を亡くして崩壊する。
アラードは闔の展開で力尽き、倒れ込んだ。カリストはまだ失神し動けない。そこら中に魔物がいる。
二人それぞれのそばに、全く同じ容姿の男が立っている。
「……フッ。」
口角を吊り上げ、冷笑した。




