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地獄も存外悪くない?  作者: 阜歩 茲子
第三章 烏巣山篇
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第十二話 深想信殿

どうも、阜歩フブ 茲子コココと申します。

 遠くに吹き飛ばされたカリスト。サルヴィは息の根を止めようとカリストの元へ向かおうとするが、物理的に背筋が凍る。

「『霜薙刀(アイスラ)』」

 ボトッ。

「フハハッ!オレの左腕を断つとはな、なかなか鋭い刃だ。」

(危険度★☆☆☆☆と聞いていたけど…そうはいかなそうね…。)

 今までの派遣者は誰もサルヴィまで辿り着かず、倒した魔物の数で満足して帰ってしまっていた。それでも数千の魔物を倒したものだから、それは満足するであろう。

 対して今回、カリストたちが倒した魔物の数は六万を超える。そこまでしてようやく辿り着く、それが烏巣山(カラスヤマ)の主サルヴィである。

「オレを呼び起こしたのはお前らが初めてだ。だから手加減は難しいかもな。『大牙(ダイガ)』!!!」

 サルヴィが咆哮するかのように口を大きく開けると、牙が飛び出し、アラードの腹に三本の線状の傷を負わせた。大きな出血をし、うずくまってしまった。

「くッ…。」

「こんなの序の口だぞ。オレはこんなのは基礎技だと思っている。貴様はそれすら耐えられないのか?」

「……まだ生きている…。耐えている…!!」

 屁理屈とも言える反論をし、カリストが来るまで少しでも時間を稼ぐ。

 ―だが、飛ばされたカリストは失神し、動けずにいる。動ける兆しもない。そんなこと、アラードが知る由もないが。


 アラードは再び立ち上がり、氷結を纏う。

(カリストくんは来れないのかな…。じゃあ…)

「私が単騎で此奴を倒さなければならない…!」

「いい意気だ。だが、魂のみが強くても、誰もお前を救ってはくれない!」

 屁理屈とはとても言い難いセリフを吐き、次の攻撃の準備をする。

「あの小僧が来るまで、耐えられるか?」

「耐えてみせる。魂で…!!」

 すでに疲弊しているアラードだが、一切の根性で無理やりにでも身体を動かす。

 両手を体の前で組み、顔を俯かせ、願いながら一言放つ。

「『深想信殿(シンソウシンデン)』」


―――――

 サルヴィは、孤児であった。

 魔物を養育する、孤児施設に入れられた。

 そこでは一切の関係を築くことが出来なかった。

 そればかりか、常々陰口を叩かれていた。もちろんそれには気付いていたが、孤児施設の職員たちとも関係が悪かったため、相談など出来るはずもなかった。

 卒業するときになっても誰も祝福してくれる者はおらず、孤独の道を延々と歩み続けていた。


「はッ、ちっちぇ魔物がいるぞ!こりゃコスパ高そうだなぁ?」

 もちろん百獣之王(ビーストフォーム)になっていなかったサルヴィは小さな直立するネコの姿。人間との戦いを拒む中で習得した一切の戦意の隠蔽。

 人間たちは申し訳なさすら感じて、剣を向けることは無かった。

 ―どの世界にも、どの時代にも愚かな者はいる。

 申し訳なさの欠片もなく、見つけるや否や剣を向けて談笑を始める。

 ここは有数の大都市で、もちろん周りには多くの人間がいる。そんな中で形態変化をしてしまえば、畏れられてしまう。討伐対象になってしまうかもしれない。

 サルヴィが導き出した答えは…ネコという生物から随分離れたスピードで逃げることだった。マッハ6ほどのスピードで走り続け、ぶつかった山。人の気配はしないから、そこに棲むことにした。

 それからはや十数年。山への人間の立ち入りが多くなっていた。自然があまりにも幻想的だと有名になり、一日に最低でも十人は来るようになった。


―鬱陶しいな。殺してしまおうか。


 自然を魔物化させ、何人も食い殺させ、魔物たちを成長・繁殖させていった。カリストたちが辿り着いた頃にはもう、百万など優に超える数まで増えていた。

「“烏巣山一億計画”を始動する!!!」

 週に一度、数分間のみ開かれる会議でサルヴィが言い放った計画。今までの繁殖に加え、人間も魔物化させていき、さらに個体数を増やす計画だ。


 その会議から三週間が過ぎた今日、カリストたちが討伐依頼をぶら下げて訪れた。

―――――


 生い立ちから遡った記憶は現在まで辿り着き、アラードの後ろに神殿があることに気付く。

「こんな…数十年前の話まで想わされるとは…。」

「これが私の“(ゲート)”。お前には、悔いを以って死んでもらう!」

「あぁ、オレのせいで死んだやつが大勢いる。それを死後の世界(向こう)で悔い改めるさ。」

 それを言ったサルヴィは既に、百獣之王(ビーストフォーム)を解いたネコの姿に戻っていた。

 左には暖かい光。右には冷たい闇。サルヴィは右に向かい歩き出し、闇に包まれて灰となった。

 直後、アラードの背後にあった神殿が標的を亡くして崩壊する。


 アラードは(ゲート)の展開で力尽き、倒れ込んだ。カリストはまだ失神し動けない。そこら中に魔物がいる。

 二人それぞれのそばに、全く同じ容姿の男が立っている。

「……フッ。」

 口角を吊り上げ、冷笑した。

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