第十一話 烏巣山のネコ
どうも、阜歩 茲子と申します。
一旦の腕ならしに比較的小規模の討伐依頼を受け、烏巣山に入っていく二人。昼間なのに、みるみるうちに暗くなっていく。
「……モノノケでも出てきそうな雰囲気だよぉ…。」
アラードがカリストの裾をギュッと握りしめる。
「お、おう…。」
流石に積極的すぎるアラードに困惑するカリスト。
「マジでそこら中に魔物の気配を感じるな…。いっそここら辺全部刈り取れば…」
「ダメだよ!依頼主からのお達しで、山を傷つけるなって。」
危険度★☆☆☆☆とはいえ、あくまでそれは魔物の危険度。山での遭難は視野に入れない危険度だ。そして、烏巣山の山としての危険度は、獄界でも屈指の高さを誇る。
一位二位を争うほどの危険度、そんな山に放り込まれた二人。
生きて帰れる保証なんて、どこにもございません。
「け、結構深くまで来たけど、空気が揺らぐような圧倒的迫力は感じないね…。」
「とりあえず察知した魔物は全員殺してきたけど…さっきから同じ種類ばっかりだな。」
その瞬間、何者かが二人のもとへ飛びかかってきた。
「臨戦た…! 戦意無し…何者だ。」
「……。」
見た目は直立するネコ。一般的な大きさ。どこをどうみても、直立する以外は普通のネコ。
「……『百獣之王』」
「しゃ、じゃべったぁぁぁああああ!!!!!」
アラードは喋ったことに対して興奮を隠せないのに対し、カリストのほうはみるみる戦意が増幅していくネコに恐怖を感じている。
「ヴゥゥ……オレヲ探シテイタナ…。」
牙。鬣。巨大な姿。どこをどう見ても百獣の王、ライオンの姿だ。
「……臨戦態勢。『疾如風』!!!」
アルバドの迅捷を二回のみ見て、それを学習し活用した御業。カリストの独自藝術も踏襲した、最強の短期決戦創藝術だ。
「生半可ナ藝術デハ勝テナイコトハ先人タチガ証明済ミダロウ?……お前はオレに勝てないさ。」
百獣の王の姿に身体が慣れ、言葉の流暢になる。決して変換が面倒になったとかそういうのではない。
「さぁ、来い…小僧!!!」
「死んでも文句言うなよ?……スゥ、行くぞ。」
蒼白い靄に包まれ、圧倒的なスピードを見せる。
「私も行くよ…!」
心強い…!と頷き、二対一の戦いとなった。
「ふっ、何人でも来るといいさ。オレの“業”で皆殺しにしてやるよ…!」
アラードを積極的に追いかけ、鉤爪でひとつ、背中を切り裂いた。
百獣の王の脇を拳の圏内に収め、一発アラードのお返しに入れた。
「グァ…!」
靄には魔物に特化した性能を持ち、威力は並の10倍にも及ぶ。その靄に包まれた拳を喰らい、百獣の王は軽い吐血をする。
「意外とがら空きだな、俺の拳が届いちまうぜ?笑」
「存外厳しい拳だな…思わず血が吹き出てしまった。……ひとつ名乗っておこう。オレの名はサルヴィだ。」
ようやくナレーションで代名詞を使わずに済む。サルヴィは自ら名乗り、同時に一撃をカリストに入れた。
カリストは相当に飛んでいき、戦線復帰は遠くなる。
「……呆気なく終わりか。久々に、少し手応えがあったな。」
その瞬間、背筋が物理的に凍る。
「『霜薙刀』」
「……そうか、盲点だったな。」
サルヴィの背後から背中を凍らせ、左腕を断ち切ったのは、アラードだった。
「お前は既に逃げたものと思っていたが、そうか。強いのだな、お前の魂は。」
まるでアラードの心を、魂を見透かしたような達観した眼で見つめ、そう評価した。
「組としてカリストくんを支えると決めた。それで逃げるなんて、魂が弱くとも自分を許せない!」
「それじゃ、彼が戻ってくるまで“暇つぶし”をしようか。」
「私じゃやり過ぎちゃうかもよ? 命まで差し掛かるかもしれない。」
「問題ない。その程度の殺る気でなければオレの暇つぶしは務まらないだろう?」
随分と自分を大きく評価した姿勢に嫌気が差しながらも、適当な問答と同時に戦闘態勢は崩さない。
「お前は…私が殺す。」
「さぁ、出来るかな?笑」




