第一話 ようこそ、我らが地獄へ。
どうも、阜歩 茲子と申します。
その夜、僕は夜風に当たろうと河川敷を歩いていた。視界に入ったのは、ベンチにうつむいて座っていた人。ネクタイを額に巻いて酒を呑んでいる、絵に描いたような馬鹿酔い。
……目が合ってしまった。
「……おう、呑むか?」
「……呑みません、また16なので。」
内心汚ぇとか思いながら…。
「んじゃ、こっから離れな。闔が開く。」
(んぁ?げーと?)
「この櫻庭世界からサヨナラしちまうぜ?ほら行った行った。」
唐突な専門用語(?)に混乱しながら「では…」とゆっくり歩き去っていく。
ドゴォォオオオン!!!
背後から驚異的な爆発音がして、振り返ってみると……という暇もなく意識は途切れた―
―目を覚ますと、一面白い部屋にいた。200色あるとか言われそうだが、HEXカラーコードで表すと#FFFFFFほど真っ白い部屋だ。
「あ、起きましたか!こちら、櫻庭世界からの来訪者を選別する櫻庭選別拠点でございます!」
いやサグラダ・ファミリアと韻踏まなくt…
「屍!?!?!?」
「はい!あなたは既に来訪者でございます!“死んだ”という感覚がどれほど掴み難いかは存じ上げております。それを素直に、正直に受け止めてこそ“真の男”ですよ!」
(誰でも信じたくないでしょうよ!!!)と心の中でツッコみ、危うく手まで出そうになったがなんとか抑えて。
「えーっと、僕の行き先は…?」
「地獄です!☆」
秒で測れないほどの即答で、文字通り地獄の内容の通達を受け、再び記憶は飛ぶ―
―そこには天国が広がってい……るはずもなく、かと言って想像していたような、火が盛んにそこらじゅうで燃えているという“地獄”のイメージとはかけ離れた世界が広がっていた。
見た感じ櫻庭世界と似たような世界だ。ちょっと暑い、体感39℃くらい。
「よっ!ここにいるってことは新入りかい?」
見た目年齢30代前半のお兄さん(おじさん)が気さくに話しかけてきた。
「は、はは…。まさか僕の人生の行く末がこことは…笑」
「まぁー、ショックだよね〜!とりあえず新入りくんは獄門会に登録するといいよ!ここではそれが身分証明書になるし!」
めっちゃ説明口調……RPGみたいだ。空は青く澄み渡ってるし。
「なるほどです!ありがとうございます!」
他の人にも話しかけた感じ、獄門会は口並み揃えて新入り定番みたいなこと言ってたし、とりあえず行ってみようか。
“民営大協会 獄門会”。本部は地獄の首都“へレスト”にある。住宅街の中にポツンと大きく、ここはなんと50階建て!世界中の民営組織の中で1番資金力のある組織らしい。
「すみませーん、ここに所属したいんですけど…。」
「はいじゃあこの申込用紙の通りに書いて提出してね〜♪」
(多分70は超えてるおばあさんだな。)
「290だよ〜♪」
!?!?!?!?
70は盛ったかもとか思ってたのに290!?この世界はどうなってるんだ…。
「お、お若いですね…。」
「あらやだもうウッフン♡」
もう衝撃に耐えられないのでそそくさと離れて用紙への記入を始めた。
(氏名……そう言えばまだ分からないな。まぁ適当に書いt…)
「君の名前は“カリスト・エゴー”だよ。俺が言うんだから間違いない。」
突然見た目20代のお兄さんが話しかけてきた。それも、僕の名前を断定しやがった。
「……何を根拠に…?」
「俺の藝術である『真ノ眼』でなんでもお見通しさ。転生者はみんな名前を知らないから、俺が教えてあげてるのさ。」
話を聞くと、どうやら彼はアルヴェド・ナムサといい、獄門会の補助役員の1人らしい。僕のような転生者のために、ここで藝術を活用して働いているみたいだ。
この世界にはスキルのようなものがあると知った上で、さぁ次だ。
(住所…まだ定住してねぇよ……。とりあえずホームレス欄にチェックかな。)
蔑まれそうとか思いながらまぁいいかと。
「所持藝術…!!」
(……って俺持ってなくね。✝︎隠されし才能✝︎とかあるのかな?)
さっき聞いた藝術を見て、まぁまぁ大きい声を出してしまった。
(誰かそれをお見通ししてくれる人いないかな〜。さっきのアルヴェドさんなら分か……)
《―弌型藝術『風華流転』です。》
カリストの脳を流れる謎の聲は一体…!?