4.初めての彼女の店に入って
その店は道路の角にあって、その角部分に入口があり、そこに入っていくと右側にカウンター、その上にはPCのモニターが置いてあって、入口から少し入った所に10cmくらいの段差があった。
ボーイ氏に予約がフリーかを聞かれ、私は「○○さんを予約している加藤ですが」と答えた。
そうするとボーイ氏はPCを確認して、他のボーイ氏に待合室に向かう様に「お客様をご案内して」と指示を出した。
カウンターの外にいるボーイ氏が私を奥の待合室に誘導し、数メートル程先まで歩いていくと右側に部屋があり、3面に椅子が貼り付けてあるような構造だった。
入った左側には飲み物を出すためのカウンターがあり、後で段々と知るのだが、こういうきちんとした接客スタイルが昭和当時のソープのスタイルらしいのだ。
令和の今、この業界はもう斜陽産業だから、この様な感じのところは一部の高級店にしか残っていない様で、この様な大衆客相手のこの店に残っているのは、まさにその古き良き時代の名残なのだろう。
私が奥の席に座るとボーイ氏が飲み物のメニューとおしぼりを持ってきてくれた。私は初めてだったから、なるほどこういうきちんとした扱いなんだなあと、変な感心をしてしまった。
その時はたしか冷たい緑茶を頼んだが、メニューにはビールもあった様に思う。
5月だったから晴れで20分も歩けばうっすら汗もかくからおしぼりは有難かった。
ボーイ氏が番号札と緑茶、そして封筒を持ってきたボーイ氏はこう言った「封筒に入浴料以外の金額を入れて女の子に渡してください」と、そうか、だからホームページには入浴料しか記載がないのか、他はあくまでもサービスに対して私が払うお金だからだ。
私は最初の店がこの方式で強く納得したのでそれ以降の所謂「総額」表示にはずっと違和感があって、この理由こそが本来正しいあり方なのだろうと思わされている。
総額表記は分かり易いけども、この業界としての建前文化としてのあり様としては極めて無粋で店主導のあり方だ。
そうは言っても、その金額は事前に電話で確認していたから分かっていたが、丁度の金額が無かったので少しまごついていると、それを察したのかボーイ氏は「両替ができますよ」と私に提案をしてくれた。
ボーイ氏は私の札を持って待合室から出て戻ってくると、目の前でその封筒に当該金額を入れて残りの金額と封筒を私に渡した。
落ち着いて待合室の壁面を見ると、ホームページでは隠れていた部分が無い女の子たち(とは言っても熟女だが)の写真が貼ってあった。私はそれを見て初めて今日会う彼女の顔を知った、芸能人に例えるという絶望的な語彙力の無さで言えば和久井映見的な女の子だった。
そもそも顔にロゴがかかっていて、想像すら出来なかったから期待は全くしていなかったのだけれども、それを見て私は安堵した。
10分くらい経ったか、ボーイ氏が私の番号を呼び通路へ誘導した。通路の右側を見るとカーテンがあって、その先には階段があるようだった。
ボーイ氏は「行ってらっしゃいませ」と言ってカーテンを開けると、その先には狭い階段があり、その踊り場で彼女が待っていた。
白い短いスカートと胸部分を隠す服でおへそがそのまま見えていた。私は心の中で、ああけっこう綺麗な人で良かったとあらためて思ったのである。
私が階段を上がっていくと彼女は「はじめまして」と言って私の右手に優しく片手を添えた。
その場面で話した事はこちらも「はじめまして」と言ったのは憶えているのだけれど、後で彼女に聞くと「なんで、すみませんって謝るのかが分からなかった」と笑っていた。
やっぱりそれなりに緊張していたのだろう。
今では慣れて、いや勿論初めての人には緊張するけども、「すみません」は言わなくなった。
それも、この時の経験を毎度まいど思い出すからだ。