第63話 公ではない
日も落ち、城の大広間から入る日差しもほぼなくなり、部屋にかけてある松明の灯りだけがゆらゆらと揺れている。
その揺れる灯りで照らされるヴラド公の顔は、もう人の顔ではなくなっていた。
そのヴラド公は、モゴシュを残忍な手口で木っ端微塵にして、大興奮して喜んでいる。
「フハハハハハハハハ! 面白いな、人間とはあんな風に爆発するのか! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
グリゴアは完全に人ではなくなったヴラド公を見て、恐怖した。そして無意識に左肩に刺さった矢の傷をかばった。
「……グリゴア……。どうした? まさか私が貴様を殺そうとしてると思っているのではあるまいな? 安心しろ。貴様にはそんな事はしない。貴様には私の仲間になってほしいと思っている。貴様は私に一番忠誠を誓ってくれていた。どうだ? 同じ吸血鬼になって、新しい王国を作り上げないか?」
グリゴアは耳を疑った。狂っているとしか思えない。
「……な、何をおっしゃってるんですか? ヴラド公? 新しい王国って? ワラキアを守る為に公になったんじゃなかったんですか?」
グリゴアは恐怖と戦いながらも、返事を返した。その言葉にヴラド公は、「ふ~」とため息をついた。
「なあグリゴア。考えてもみろ。私がこれまでにこの国にたいして尽くしてきた礼儀の数々を。私が国をよくする為にしてきた全ての事を。その政策をして、国民達はどうだ? あの時はいい顔をしていたが、今は私が宗教を変えただけでそっぽを向き、ついには私を殺しにかかってきた。グリゴア、いいか? 私は妬み嫉みの話をしているんじゃない。もうこの国は私を必要とはしていないのだよ。貴様は私に最後まで着いてきてくれた。そんな貴様だから、こうして一緒にならないかと誘っているんだ。貴様もこの国からそっぽを向かれているのは分かっているはずだ」
「そ、それは……」
「それに人間というのはすぐに不平不満を言い、争いを始める。それはここの民も同じだ。だから私のような強靭な力でねじ伏せた方が、争いなどなくなり、むしろ平和な世の中が訪れる。そうは思わないか?」
グリゴアは、ヴラド公の言葉に説得力を感じた。
確かに人間は常に争っている……ヴラド公の言う通りだ……
「し、しかしヴラド公。それで本当に人間は幸せになるのですか? それにヴラド公を支持している人間が全くいなかった訳ではないです! それをそんな……」
「それは貴様がまだ人間だからだ。私と同じに吸血鬼になってしまえば、考えは変わる。それに私を支持していた者達は、当然仲間として迎えるつもりだ。私にもそれぐらいの度量はある」
グリゴアはヴラド公の言葉にはやはり説得力を感じた。
しかし……
「さあ、立ち上がって、私の所へ来るがいい」
ヴラド公はグリゴアに手を差し伸べた。
グリゴアはその手を見ると、何か催眠術にでもかかったかのように手が前に出そうになった。
しかしその手を一生懸命にグリゴアは引っ込めた。
「ち、違う! 違います! 何かおかしいです! ヴラド公! どうしちゃったんですか?」
グリゴアの態度にヴラド公はまたため息をついた。
「グリゴア~……。貴様は分かってくれると思っていたのだがなあ……。それとそのヴラド公……、公。公という呼び名な。私はもう公ではない。それにただの人間でもない。そんなちっぽけな枠に収まる者ではなくなったのだよ」
「ならば文字通り“悪魔の子”の意のドラクリアと呼べばよろしいですか?」
いきなり二人の間にテスラが現れた。グリゴアは驚き、ヴラド公は目を細めた。
「テスラ……。私の名前は龍の子であって、悪魔の子ではない……しかし、悪魔の子も悪くないな」
そうヴラド公は言い終わると、いきなりヴラド公の左手がテスラの首根っこを捕えた。
しかしテスラは顔色一つ変えない。
「テスラ……。アリスファド・テスラ……。いい度胸だ。貴様の本はよく使わせてもらったよ。しかし本人は私の政策を気に入っていなかったようだな……」
「ヴラド公。誠に失礼ながら、私はあなたの政策には反対の立場でした。そして、今からあなたがなさろうとしている事にも反対です」
「なぜかね? 貴様は長く生きている吸血鬼。貴様ほどの力があるのならば、世界を我が物にできると言うのに」
「私はあいにく世界征服には興味がありません。私は不老不死の謎が解ければそれで良いのです。ただし、あなたを研究対象としては興味はありますがね」
これを聞いたヴラド公は目を丸くした。
「研究対象? それはどういう事だ? 非常に面白そうではないか」
「ええ。研究対象です。私はオリジナルの吸血鬼に噛まれた後に、オリジナルの血を身体に入れた人間を見た事がありません。そういう意味でドラクリア。あなたは非常に興味深い」
「フフフ、オリジナル? オリジナルとは、ラドゥの事か? ヤツは私と同じ能力を持っていたのだろう? 何故ヤツがこの力を使わなかったのか貴様には分かっているのか?」
「ええ。私の家に彼は来て、怪物にならない方法を教えてくれと聞いてきました。なので私は、吸血鬼の能力以上の事はしない事だと答えました」
首根っこを掴まれながら、テスラは顔色一つ変えないで答えた。ヴラド公はテスラの顔をじっと見て、笑い始めた。
「フハハハハハハハハ! 怪物? 何だ? つまり貴様は今のこの私を怪物と呼ぶのだな? やはり貴様はとんでもなくすごい男だ! この状況において、そんな事を言う。こんな失礼な! こんなに私を見下した! こんな事が言える貴様には感服したよ! しかしな、このまま私は貴様を生かしておくほど、甘くないぞ!」
ヴラド公は左手に力を加え始めた。しかしテスラは顔色一つ変えない。しかし後ろで見ていたグリゴアは焦った。
「そ、それはやめてください! ヴラド公!」
「うるさい! グリゴア! 私の事はこれからドラクリアと呼べ! ヴラドは死んだのだ!」
グリゴアはその言葉に打ちのめされた。
ここまで読んで頂いて、本当にありがとうございましたっっ!!
この先もまだ続きますので、
よろしかったら引き続きお付き合い頂けると嬉しいですっっ。
今回も本当にありがとうございましたっっ!!
感謝♪感謝♪♪




