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第48話 でもあなたとは結婚しないから……

「ん……」


 オクタヴィアンは奇妙な音で目を覚ました。

 そこで目に入ってきた物は、下から見たローラの胸元から木の杭が貫かれているという光景だった。


「……ロ、ローラ?」


「オ、オクタヴィアン……」


 ローラは口から血を流しながら、横に倒れた。


 すると代わりにラドゥの親衛隊が木の杭を持ちながら、オクタヴィアンを見つめているのが目に入った。


「な、ラドゥの?」


 親衛隊は横になっているオクタヴィアンめがけて木の杭を刺しにかかった。


 しかしオクタヴィアンは、本能で霧に変わると親衛隊の後ろに移動し、また人間体に戻り、同時に親衛隊の首を鋭い両手でスパンと切った。


 親衛隊は何枚もの重なった皿が傾いて一枚ずつ落ちていくように、顔を崩しながらそのまま地面に倒れ込んだ。


「ローラ! ローラああ!」


 オクタヴィアンは木の杭の刺さったローラを抱え上げた。


「オクタヴィアン様……あんな事できるんなら、木に刺さる事なんてなかったでしょうに……」


「なんの事だよ? そ、それより木、木の杭……」


 オクタヴィアンは木の杭が、ローラの心臓を貫いている事に気がついた。


「こ、この木の杭……抜かないと……いい? 抜くよ?」


「う、うん……」


 オクタヴィアンは背中からゆっくりと木の杭を抜くと、その杭を地面に投げた。

 背中からは血がボタボタ落ち、胸も血でどんどん染まっていく。


「ローラ、ローラ、血、血……」


 オクタヴィアンはさっきまで自分の口元にあった首なし死体を見つけると、その切り口をローラの口元に持っていった。


 しかしローラは血が飲めない。


「わ、私……ダメみたい……」


「バカな事言うな! ローラは助かる! ほら口を開けてっっ」


 ローラは口を開けて流れてくる血を流し込んだ。しかし飲み込めない。


「ダ、ダメだわ……飲めない……それより空……」


 オクタヴィアンは慌てて空を眺めた。

 すでに朝焼けが始まっている。


「か、帰らないと……ロ、ローラ! 行こう!」


 オクタヴィアンは慌ててローラを抱きかかえると猛スピードで森の上空に出た。


 すでに空は朝焼けで黒からピンク色になり、大地を確認するのも容易な程明るくなっている。


 オクタヴィアンは慌ててグリゴアの待つ城へ向かった。

 そんな猛スピードで飛行する中、ローラはオクタヴィアンの顔に手を回すと、顔を近づけて小さく囁きはじめた。


「オクタヴィアン……私ね……新しい家族できてね……」


「え? こんな時に何の話だよ?」


「あのね……モゴシュの屋敷の使用……でね……ベルキと……おじさん……三人仲良くなって……オクタヴィアンもいっしょに……みんなで……馬車で旅したいな……」


「……ああ。いっしょに旅しよ」


「……ヨアナもいっしょだといいな……」


「うん……ヨアナもいっしょだよ」


「ふふ……でもあなたとは結婚しないから……」


「勝手に振るなよローラ!」


 二人は猛スピードで飛行し、森を抜け、平原を抜け、畑を抜け、トゥルゴヴィシュテの街を越えて、ついに朝日が上がる前にオロロック邸の跡地まで飛んできた。


 オクタヴィアンは地面に足をつけると、ローラを抱えたまま、一瞬で地下の隠し通路までやってきた。


「ローラ! 着いたっっ! ここまで来れば安心だよ!」


 オクタヴィアンは抱いているローラの顔を見た。

 しかしローラは目をつむったまま、反応はない。


「ローラ! 着いた! 目を開けて! 朝だから眠いの? お願いだから目を開けてっっ!」


 しかしローラに反応はない。


「ローラ! 冗談はもういいからっっ! 目を開けて! 何とかって子と旅をするんでしょ?」


 ローラに反応はない。

 オクタヴィアンの目から涙がこぼれてきた。


「ロ、ローラっっ……お願いだから目を……目を開けてっっ……お願いだよ……頼むよ……」


 ローラは目を開ける事はない。

 オクタヴィアンは全身を震わせながら、ローラをゆっさゆっさとゆすった。

 しかしローラは目を覚さない。


「ロ、ローラ……」


 オクタヴィアンは思いっきり抱きしめた。その冷たい身体は細く、すぐに壊れそうだった。そしてまたゆっさゆっさとゆすった。しかしローラに反応はない。


 オクタヴィアンはボロボロと涙を流しながらローラをゆっくりと通路の床に寝かせた。


 ローラは安らかな顔をしている。


 オクタヴィアンはその場で正座をして、ローラを眺めた。


 ローラは胸に大きな穴を空けている以外には、どこにも異常がなく、本当に寝ているように見える。


 そして何より美しかった。


 ローラ……ウソだ……。ウソだ……っっ。ボ、ボクがアイツを追っかけてなかったら……こんな事になってなかった……。何でボクじゃなくてローラが死んだ? 何で?


 オクタヴィアンに後悔の念が襲ってきた。長い指で握り拳を作り、床を殴った。


 こんな事をしても何にもならないのは分かっていた。


 しかしこうでもしないと心が落ち着かなかった。

 そして静かに泣きはじめた。


 すると城の出口からアンドレアスが顔を出した。


「ダ、ダンナっっ。ようやく帰って……これは……ローラっっ!」


 アンドレアスもローラの死にすぐに気がついた。

 そしてアンドレアスは城中に響き渡るような大声で泣きはじめた。


「あ~っっ! ごめんなさい~っっ! オラが~! オラが~~~~~っっ!」


 この声をきっかけに、グリゴアやヤコブが隠し通路にやってきた。

 そして二人の大事な人が亡くなった事を悟った。


「……グリゴア、この人、ボクの大事な人なんだ……。せめて棺桶を用意してほしい。ヨアナやエリザベタにはこれはできなかったし……」


「分かった。オクタヴィアン……」


 グリゴアは黙って静かにその場を離れようとした。


「あ、待ってグリゴア! 森の中にモゴシュの私兵団が多分わんさか隠れている。だから今から退治しに行こう」




 この頃、ブカレストのモゴシュの屋敷では、ラドゥと親衛隊四人がイラつきながら、ローラと親衛隊の一人が帰ってこない事に異変を感じていた。


「二人に何かがあったのだ……」

ここまで読んで頂いて、本当にありがとうございましたっっ!!

今回でこの章はおしまいになりますが、

お話はまだまだ続きますので、

よろしければ引き続きお付き合い頂けるとありがたいですっっ。

では今回も本当にありがとうございましたっっ!!

感謝♪感謝♪♪

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