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第28話 ドアの向こうのエリザベタ

「では君の奥さんの所へ向かうか」


「はい」

 

 エリザベタがなぜそんな事をしたのか聞かなければ! なぜボクを殺そうとしたのか? なぜヨアナやローラまで殺そうとしたのか? この際全部聞かないといけない!


 血で満たされたオクタヴィアンはそう覚悟を決めた。


 しかし足元を見ると、またヨアナがバロのお腹に突っついて血を吸っている。

 オクタヴィアンはヨアナを両手で「もう行くよ」バロから引き剥がした。


 するとヨアナの下半身から血がダラダラボタボタと流れているではないか。


「わ! 何? ヨアナどうした?」


「え? 何が?」


 持ち上げられたヨアナは全く分かっていないようだ。


「ふ~む……これはだな。おまえの娘が血を飲み過ぎて、勝手に排出してるんだ。本来なら身体が満たされると血を飲むのをやめるんだが、この子の場合はそのストッパーがないらしい」


 二人を見たテスラが困り顔で説明してくれた。


 オクタヴィアンはヨアナを下ろすと、しゃがんでヨアナの顔を見た。

 ヨアナはまだ物欲しそうな顔をしている。しかし顔は返り血で真っ赤である。内臓の肉片などもくっついている。


 オクタヴィアンはため息をついた。


「もうやめよ。お母さんのトコにいこ」


「……分かった~……」


 ヨアナはなくなく承諾した。

 その証拠に未練たっぷりに先程までかぶりついていたバロのお腹を眺めている。


 そのお腹は、ヨアナがかぶりつき、常に口を動かしていたのを象徴するように、汚い大きな穴がポッカリと空き、その中の内臓はズタズタに噛み切られ、赤い血やドス黒い血や体液がヒタヒタと浸かっている。そんな状態だった。


 オクタヴィアンはその傷口を苦い顔で見ると、ヨアナの顔を優しくそむけさせて目線を外させた。

 その時、テスラは思い出したかのように「やっておかねば」と言うと、一瞬のうちにバロの死体にかぶりついている屍食鬼のアナの首を素手でスパンと切り落とした。


「屍食鬼は全部片付けないとな。何があるか分からん」


 階段に転がったアナの顔がゴロゴロと階段下まで落ちていく様子を見送ったオクタヴィアンとヨアナは、テスラと共に一瞬でエリザベタの部屋の前に移動した。


 そこには五匹の元人間、屍食鬼達がエリザベタの部屋の前に群がっている。

 どうやらドアは鍵がかかっているようだ。


 しかしそれ以前に、屍食鬼達は知能がほぼないようで、ドアをどうしていいか分からず、バンバンと叩いてみたり、ドアの端を爪で引っ掻いたりしている。


「ふ~む。倒してもいいか?」


「え、は、はい」


 テスラはオクタヴィアンに確認を取ると、両手を胸の所でクロスにして爪の先まで伸ばし、一瞬にして手を広げて五匹の屍食鬼の首を落とした。


 この早技にオクタヴィアンは驚き、首が切断されて血を吹き出しながら崩れ落ちた屍食鬼達の首に、ヨアナは喜びながらまた食らいついた。


 そんなヨアナを「もういいでしょ?」と言いながらオクタヴィアンは屍食鬼から引き剥がして抱っこした。


 そしてエリザベタの部屋のドアをコンコンとノックした。


「エリザベタ! 無事か? ボクだ! オクタヴィアンだ!」


 ドアの向こうからの返事はない。三人は顔を見合わせた。


 死んだ? いや、生きてるはずだ!


「エリザベタ! ボクだ! 返事をしてくれ!」


 返事はない。


「テスラさん。ドア、蹴飛ばしますか?」


「ふ~む……やむえんな……」


 オクタヴィアンはヨアナを下ろすと、ドアの前に立ち、かまえた。


「いい? エリザベタ! 今からドアを蹴り飛ばすから気をつけるんだよっっ」


 そうオクタヴィアンはエリザベタに注意を促した。


「よ~し……じゃあ蹴るよ~!」


 オクタヴィアンは元気よく更に叫んだ。


 すると、慌てたエリザベタの声が響いた。


「ちょっとやめてよ! そんな野蛮な事しないで!」


 エリザベタは元気そうだ。オクタヴィアンは安心した。しかし肝心の話を聞いていない。


「エリザベタ! 君には聞きたい事が山ほどあるんだ! ここを開けてくれ!」


「お母様~! わたしも来たよ~! 開けて~!」


 ヨアナも叫んだ。


「え? ヨアナ? ヨアナも来てるの? あなた! オクタヴィアン! あなたも化け物になったの? 絶対開けないわっっ!」


 そういえばヨアナがさっき、自分の顔を見たら逃げたと言っていたな。しかもこの感じでは間違いなくこのドアを開ける事はないだろう。

 

 オクタヴィアンは困った。

 ヨアナに至っては、母親に完全拒否された事が分かったので、今にも泣きそうな顔をしている。

 そんなヨアナの頭をオクタヴィアンは撫でながらドアに向かって話し始めた。


「わ、分かったよ。だったら開けなくていい。開けなくていいから、何でボクやヨアナに毒を飲ませたのか教えてくれ!」


「それよりもあなたも化け物になったのか教えなさいよ! なったんでしょ! 認めなさいよ!」


 相変わらずの当たりの強さにオクタヴィアンは話す気力がなくなりそうになった。ヨアナも悲しそうな顔をしている。そしてこのやりとりを見ていたテスラは、少し呆れていた。


「君の奥さんは私達より化け物かな?」


「あー……そんな事は~……」


 テスラの素直な感想にオクタヴィアンはまたまた困った。内心、「確かに」と思ってしまったからだった。

 しかしこのテスラの声がエリザベタにも聞こえた。


「ちょ、ちょっと待って? 誰か他にいるの? 誰よ?」


 三人は顔を見合わせた。


「あ~……そうですな。これは失礼致しました。ふむ。初めまして。私はアリスファド・テスラと申します。普段はカルパチアの山奥で研究にふけっている者です。今回は縁がありまして、オロロ……オクタヴィアン君と参上した次第です」


「あ、あなたも化け物なんでしょ?」


「はい。奥様の思っているとおり、化け物です。実は旦那様を化け物に変えたのも私です」


「な、や、やっぱり! オクタヴィアンは化け物のなったのね! こ、ここは開けないわよ! 明日になって、この屋敷の様子がおかしいってグリゴアが気づいてくれるまで、ここから出ませんからね! そ、そうよ。隠し通路から城に逃げた人だって誰かいるはずだわ! わ、分かった? ここは開けません! そ、それに何よ! 紳士みたいな言葉使いして! 結局化け物なんでしょ? 私は騙されませんからね! 早くカルパチアに帰りなさいよ!」


 この怒涛のブチ切れ方に三人はまた顔を見合わせた。


「ハハハハハ! 奥様。おっしゃるとおり、私は紳士のフリをして話しております。実際はそんな男ではない。しかし初対面……顔は見てないですが……失礼のないように懸命に話しておるのです。しかし私の話も聞いてほしい。今、床を見る事はできますかな? 先程、このドアを叩いていた屍食鬼……化け物達を退治しました。その為、ドアの下から血が滲んでいっていると思うのですが……」


「え? キャッ!」


 テスラが話終わる前にドアの向こうで叫び声が聞こえた。どうやら床の下の血に気がついたらしい。


「あ、あなたねえ。こ、こんな所で油を売っていてよいのですか? 私は一昨日、オクタヴィアン達が出かけた後、家の私兵団のグリゴアに『オクタヴィアンがヴラド公を毒で殺そうとして失敗して間違って娘にそれを飲ませて、娘と乳母を連れて逃走した』って話しましたのよ。グリゴアの部下が出かけたのは昨日の朝一からですからもう二日経ちますわね。あなたの研究しているカルパチアのお宅まで行ってしまいますわよ。そりゃ見つかって問題ないんでしたらいいんですけど♪」


 半分キレた様子でエリザベタの声がドアから聞こえた。これにはテスラの顔色が変わった。


「何ですと?」


 オクタヴィアンもそんな事は想像していなかったのでかなり驚いた。

 テスラは深刻な表情で頭に手を当てた。


「オロロック。私は行かねばならん。私が守っていたジプシー達が危険な目にあう可能性が出てきた。それにアンドレアスも犬小屋で寝ているはずだ。先程飛んでくる時にジプシーを見てから行くべきだった……」


「わ、分かりました、テスラ。お気をつけてっっ」


「おじさんバイバーイ」


 何も理解していないヨアナは無邪気にあいさつをした。テスラは笑みを浮かべヨアナの頭を撫でた。


「ではな。日の出までに戻って来るんだぞ。それと、ここにいる屍食鬼達は全員殺して朝日を浴びせて燃やしてしまうように。でないと、吸血鬼の存在が世に知れて我々が危険だし、殺しそびれると残った屍食鬼が人間を襲ってネズミのように広がる可能性がある。それだけは止めないといかん! 分かったな! しかし、無理はするなよ!」


「え? は、はい」


 オクタヴィアンはとんでもない事になっているかもと、事の重大さに少し気づき始めた。


 そしてテスラは姿を消した。

ここまで読んで頂いて、本当にありがとうございましたっっ!!

こんな感じでこの先も進みますので、

お付き合いして頂くと嬉しいですっっ。

では、今回もありがとうございましたっっ!!

感謝♪感謝♪♪

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