第21話 テスラの家
吸血鬼になった!
オクタヴィアンはその男から軽く出た言葉の意味をイマイチ受け入れられなかった。
「吸血鬼?」
「そうだ。吸血鬼」
男は部屋の中に入らずに、隣の部屋に戻った。
「おまえ、こっちに来なさい」
その命令口調が気にはなったが、オクタヴィアンは棺桶から出て隣の部屋に入った。
その木がむき出しの壁の部屋には、中央に人が横になれるくらい大きな机が大きな顔をして鎮座しており、白い布で中が見えないようになっているカゴが一つ、ポツンとど真ん中に置いてあって、机の回りには古いアンティーク調のイスが三脚、無造作に置いてある。
しかしそれ以外は壁際にやっぱりよく分からない物がそこら中に無造作に置かれていて、全く整理整頓ができていないのがよく分かる。
窓もあるが、そこには黒のカーテンがびっちりと隙間なく閉まっており、外を見る事はできない。
しかしそんな事よりも、オクタヴィアンにはこの部屋の匂いがとても気になった。
どう考えても血の生臭い匂いが部屋中に立ち込めているのだ。
しかもオクタヴィアンはその匂いがとても良い、心地よい、美味しそうな匂いに感じたのだ。
「ふむ、まあ適当に座りなさい」
男は部屋の奥のイスにかけた。
オクタヴィアンは、感情を押し殺しながら入ってきたドアに一番近いイスがちょうど男とは机を挟んで対面になるので、そこに座った。
男はオクタヴィアンをまじまじと見た。
そして机の上のカゴの白い布と取ると、中から陶器のワインカップを一つ出し、オクタヴィアンに差し出した。
「これを飲みなさい」
そのワインカップには真っ赤な液体がカップに七割くらい入っている。
そしてその匂いから間違いなく血というのが分かる。
もう絶対美味しいヤツ~~~~!
すっごいいい匂いがする~~~~!
絶対血だけど、血ってこんなに美味しそうな匂いだったっけ~~~~?
オクタヴィアンはそのカップをすぐに手に取ると、男の顔を伺った。
「どうした? 飲みなさい」
そ、そんなにこれを勧められたら、飲まない訳にはいかないじゃないかあ~~~♪
オクタヴィアンはかなりバカな言い訳を一人考えながらそのカップに入っている血を一気に飲んだ。
う! 美味い! 美味すぎる!
オクタヴィアンはもっと味わって飲むべきだったと一気に飲んだ事を後悔した。
すると何か身体に変化を感じた。
何かは分からないが、何か顔や手がググっと伸びたような気がしたのだ。
男はもう一つ、カップを取り出すと、自身も味わいながらゆっくり飲み始めた。
「どうだ。美味いだろう。残念ながら今日の血はこれだけしかないんだ。許してほしい」
「え? これだけ?」
そのオクタヴィアンの態度に、男は思わず吹き出して大笑いした。
オクタヴィアンも、自分のあまりにも間抜けな態度に自分でも可笑しくなり笑った。
こうしてその場の空気が和んだ所で、男は話し始めた。
「ふむ。私は……知っているとは思うが、アリスファド・テスラ。吸血鬼だ。もうここに来て……何年だ? 百年は過ぎてると思うが……。生まれはハンガリーなんだが、いろいろあってな。ここに雲隠れしたという訳だ。まあ普段は不死の研究に没頭しているが、外にいるジプシー達と持ちつ持たれつの関係でな、奴らをワラキアの連中から守る代わりに血を少しもらったり、あ、これも今、連中からもらった血なんだ。それと医者の真似事をして助けたりしている」
やっぱりアリスファド・テスラだった……
しかし吸血鬼だったとは……それに医者って事は……ローラが来た理由が分かってきたぞ。
オクタヴィアンはそう思いながら質問をした。
「テスラさん。ボ、ボクは……」
「ふむ。まずおまえの名前を教えてほしい」
「あ、はい。オクタヴィアン。オロロック・オクタヴィアン」
「ふむ。オロロックな。オロロック。それで……何から話すんだっけ? ……ああ、そうだ。まずはおまえの身体の変化から話さんとな」
オクタヴィアンは自然と背筋が伸びた。
「オロロック。おまえは私に血を吸われてから丸二日寝ていた。その間におまえは一度完全に死んだ。死んだんだ。そこをまず理解しないといけない。そして今のおまえは死体だが意識があるというだけだ。ここを理解するには時間がかかると思う。でもそうなんだ。分かってほしい。ただ、おまえが覚えてるかは知らんが、毒を飲まされて死ぬ寸前の人間を吸血鬼にした事を私はした事がないんだ。だから何か副作用があるかもしれん。実際、すでに私とはだいぶ違う」
その言葉を聞いて、自分が死んでいると言われた事もピンと来ていないが、副作用の話もピンと来ていない。
「え~……今、ボクは生きてるし、副作用って何ですか?」
オクタヴィアンは素直に聞いた。テスラは少し困り顔になった。
「ふむ……ちょっと言いにくい話なんだが……」
「え?」
「おまえの体毛が、全て抜けたっぽい」
「え?」
オクタヴィアンはよく分からなかった。
「だから、体毛。髪の毛とか眉毛とかたぶん陰毛も全部ツンツルテンなんだ!」
「え!」
オクタヴィアンは鏡を探した。
しかしこの部屋には鏡がない!
慌てたオクタヴィアンは両手の手の平で頭を触った。
ないっっ!
ボクの命より大事な髪の毛が、
全くなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっっ!
オクタヴィアンは愕然とした。
更にオクタヴィアンは顔を触り、眉毛やまつ毛もない事に気づき、身体中の毛をチェックした。
しかしどこの毛も落ちて、抜けている!
「それとだな。あ~……と普通吸血鬼の犬歯……、牙ってヤツなんだが……それが本来なら前歯の中央から左右の三本目にできるんだ……が~……、おまえの場合は中央の前歯が犬歯になってな。ちょっとネズミみたいな感じになってしまった」
「え? ネズミ? 出っ歯?」
オクタヴィアンは慌てて自分の口元を触った。確かに前歯が妙に長くなっている。
口を閉じても前歯がしっかり顔を出す。しかも先っぽが尖っている!
オクタヴィアンはかなり動揺したが、その手を見た時、更に驚いた。
何? この手? 指が倍ぐらいに伸びてて、爪がまるで獣のように鋭くなってるっっ!
ハ、ハゲで出っ歯で、変な手まで! ……な、なんて事だ! 本当に鏡! 鏡でチェックしたい! しかし何でこの部屋は鏡がないんだっっ?
「あ、オロロック。まだ話してなかったが、吸血鬼は何故か鏡に映らない」
ウソーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!
ここまで読んで頂いて、本当にありがとうございましたっっ!!
こんなヘッポコな感じでこの先も続くんですけど、
よろしかったら続きも読んで頂けると嬉しいですっっ。
では今回も本当にありがとうございましたっっ!!
感謝♪感謝♪♪




