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カルシウムではない

作者: かねこふみよ

 あったなあ。

 思い出したのは、もう6年も前のことだった。僕は高校受験を控えて塾に通っていた。志望校には科目の試験の他に面接があった。たしか、入試の数日前だったはず。マンツーマンの個別指導のもう授業が終わりかけの時間だったと思う。1年通って、先生の仕草で80分の時間の在り方が分かるようになっていた。「(面接があるから)緊張する」とか言ったと思う。「なんでも初めてってのはそんなもんだ」と大学生のアルバイトではない、今にして思えば30歳を過ぎたぐらいの先生があっさりと答えた。文面にすると、冷たい態度とか親身になってないとかになるのかもしれないけれど、先生はこういう人でこれこそが僕の肩の力を抜かそうとしてくれていると分かっていた。「自己PRとかどうしようかなって」。僕は部活でレギュラーにもなれなかったし、成績は学年で真ん中よりちょっと上の方くらいだった。「僕はカルシウムですとは言わんだろ」。自分で特徴のないと思っていた僕のボヤキに、先生がさらっと答えた。僕は無性におかしくなった。教室にはパテーションで仕切られているとはいえ他に生徒も先生も、教室長もいる。爆笑を抑えるのに必死になるほどに、そう愉快になった。理科の授業で生物の体を習った。ああ、そうだ。みんな炭素でできているし、タンパク質でできているし、カルシウムでできている。もちろん他の要素が絡んで。同じでも違う。あいつともあの子とも。「君は○○君と違って」とか説明されていたらきっとあんなふうに楽にはならなかった。そうだ。「僕は単にカルシウムではない」。妙な自信が高揚感となった。面接は結局それでも緊張したし、ぎこちなく答えたような気がする。実はあまり覚えてないのだ。先生にボヤき、予想外のアドバイスをもらい、勇気が出て、やっぱり緊張の面接があった。この時系列ははっきりしていて、高校に合格したのも事実だ。

 今僕は斎場に戻って来た。火葬の間、以前はできていた控室で飲食が今はできない。いったん家に帰っていたのだ。係の人が案内をし、父や母やおじさんおばさんにならって、足を踏み入れた。台には知った、病気で痩せてしまった祖父はいなかった。発掘された化石のようだった。合掌をして箸で骨を拾った。祖父は一風変わった人だった。一風変わった、と言えるくらいだからそのエピソードは一つや二つじゃない。スズメを素手でつかんだ。魚の煮つけを作ろうとして弱火で炊いたままにしたら汁がすっかりなくなって魚が焦げてしまった。腹痛を我慢するために下戸なのに酒を飲んでごまかそうとしたけれど脂汗が出るほどやっぱり痛いので病院に行ったら尿管結石だった。などなど。好きなところ嫌いなところ、あった。良い評判悪い評判、ちらりでもなく聞いたことがある。そんなのがじいちゃんだった。台の上の骨がおおよそ木箱の中に入った。係の人が刷毛で細かい白い結晶を塵取りに収め、箱の中に注いだ。罪貸さなかった骨の上に、喉仏の骨を最後に置いた。木箱の蓋が閉められ、風呂敷で包まれた。合掌をして、送迎車に向かった。僕は出る前、室を振り返って見た。僕は泣きはしなかった。


 じいちゃんはカルシウムではない。


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