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8. 銭湯で英雄 後編

長い気がするので分けています。

前編から読んでもらえたら嬉しいです。

 板張りの広い部屋に一人の男が立っている。道場の主だ。筋骨隆々の長髪で、上半身は裸。下半身は袴の様な物を穿いていて、股間からペニスケース出ている。

「私が道場主のア・ナホルだ」

「ナホルよ。この者達はあのドラゴンを倒す為に現れたのじゃ。勇者の闘い方をこの者達に伝授して欲しい。だが、あまり時間は無い」

「村長。先ずは、この者達が本物の勇者かどうかです」

 ナホルが箱を持ってくる。その中には直径約三センチメートル、長さが約十五センチメートルの筒状の物が大量に入っていた。

 ナホルが一つ取り出す。

「これは勇者の使っていた剣と言われている。勇者が持てば、端が少し太くなっている方から光の刃が出ると言われている」

 なるほど。それで俺達が本物の勇者かどうか見極めるという事か。

「アナルさん。一つ聞きたい事が」

「アナルではない。ナホルだ」

 言い間違えた。

「失礼しました。ナホルさんはその筒から光の刃が出るのを見た事があるのですか?」

「無い。だが、俺は勇者が持てば光の刃が出ると信じている」

 まあ、自分から勇者と名乗ったのでは無いし、勇者じゃなければ戦う事もないか。そう思いながら、最上にも現状を伝える。

「ふむ。とりあえず、持てばいいのか?」

「無いとは思うが、気お付けろよ。万が一、刃が出て誰かに刺さらないようにな」

 最上は一つ手に取り、少し離れる。筒を握った手を前に出す。

「握っただけで刃が出るようじゃ、危なくて使えないよな。刃を出す方法が何かあるんじゃないのか?」

 最上の質問をナホルに聞くが使い方は分からないそうだ。

 最上は持っていた筒を俺に渡す。

 スイッチなどは無い。強く握っても何も起きない。

 ふと気になったのだが、ドラゴンがいるファンタジーな世界だ。魔法とかあるのだろうか? 魔力と言うのは分からないが、何か『気』みたいな物を筒へ流し込むイメージをしてみる。

 バシュッという音と共に筒の先から一メートル程の光が出た。

「うわっ」

 自分でもビックリして、変な声が出る。

「おお。これは正しく光の刃」

「やはり……。やはり、お主は勇者じゃったかー」

 村長がありえないほど興奮している。

「多摩川。お前凄いな」

 一度起動すると、イメージをやめても光の刃は出続けた。

 止めるには逆の事をすれば良いのだろうか? 筒へ流れる力を塞き止めるイメージをする。すると光の刃はシュッと一瞬で消えた。

 今の感覚を皆に伝えたが、誰も光の刃を出す事はできなかった。

「どういう原理なんだ? さっぱり分からん。ナホルさん。これを作ったのは勇者なのでしょうか?」

「いや、勇者もこの武器を『古代の超兵器』と記している」

「なるほど、勇者が使う前から存在していたんですね」

 最上にも情報を共有しておく。

「ふむ。今よりも進んでいるテクノロジーで作られた古代の物か。知ってるぞ、『パイオツ』って言うんだよな」

 その知識でドヤ顔をする最上を尊敬してしまいそうだ。

「それを言うなら『オーパーツ』だ」

「そうだっけ? ま、それはさて置き、お前は勇者確定だから修行頑張れよ」

「お前も手伝えよ!」


 ◆◇◇◇◇◇


 ナホルの指導が始まった。

「お前等よく聞け。ここで行われている武術は『ペニ剣』という」

 このままでは俺だけ聞く事になるので最上に通訳する。もう、普通に話せている自分が怖い。

「ここで教えている剣術は『ペニ剣』だってよ」

「変な名前だな。ふざけているとか思えないぞ」

 ナホルは説明を続ける。

「この剣術の開祖は勇者様だ。剣術名は勇者様の名前、『ペニー杉山』から付けられた。だが、その武術も時を経て、その様相は大分変化してしまった」

「勇者の名前が『ペニー杉山だって』さ」

「まったく、アナルだ、ペニスだと、ろくな世界じゃないな」

 さすがに最上も呆れ顔だ。

「私は勇者の資料を研究した。そして、より勇者の剣術に近い『ペニ剣』を身に付けた」

 ナホルは木刀を数本持ってきた。修行は木刀を使って行うらしい。それを俺達に三本ずつ渡す。

 その木刀は柄の部分が先程のライトサーベルの様な筒状になっていた。

「勇者様の剣術は三刀流だったのだ」

「これから教わるのは三刀流らしいぞ」

「あの漫画みたいに咥えるのか。衛生的にどうなんだ?」

 ナホルはペニスケースの先に一本の木刀の柄の部分を挿し、残り二本を左右の手に持った。そして、決め顔で構える。

「これが、『勇者風ペニ剣三刀流』だ!」

 『だ!』じゃねぇよ。俺達にもその格好させる気かよ。

「そうきたか」

 最上も少し引いている。

「あれが『勇者風ペニ剣三刀流』らしいぞ」

「なんだよ、『勇者風』って。学食の『煮込み風ハンバーグ』みたいじゃねぇか」

「お洒落料理みたいだな。いっそのこと、『勇者風ペニ剣三刀流 木刀を先っちょに添えて』とでもしたらいいのに」

 と、二人で馬鹿笑いしたらナホルに怒られた。

「これは由緒正しい勇者様の剣術だぞ。もっと敬意を持て!」

「まあ、まあ。アナルさん、落ち着いて」

「あーっ。俺の名は『ナホル』だ。『ア・ナホル』」

 ナホルさんは少し涙目になっている。

「君も勇者(仮)なんだから、先輩の剣術と真摯に向き合え」

 なんか『仮』が付いてしまったが、相手はドラゴンだ。遊んでいる場合ではない。

「申し訳ありませんでした。剣術、ご指導ください」

「うむ。実は三つの剣には呼び方が決まっている。右手に持つのは赤の剣。左手に持つのは白の剣。そして、残る一本は黒の剣。これからは略して赤、白、黒と呼ぶ」

 その通訳を聞いた最上が顔を曇らせる。

「なんか気になるな。わざわざ分ける必要があったのか?」

「まあ、確かにそうだが、その意味を知る術無いしな」

「そうなんだが、折角残した剣術が斜め方向に発展している気がする」

 最上が言う事ももっともだ。開祖のペニー杉山がこの光景を見たら、顔を真っ赤にして怒るかもしれないな。

「じゃ、基本から行くぞ。ハイ、赤突いて。白突いて。赤白引いて、黒突いて」

 俺は死を覚悟した。


 とは言う物の闘い方を知らないと話にならないので、(文句を言いつつも)稽古をつけてもらう。

「今日はこのくらいにしておこう。飯にするか」

 ナホルは弟子達に夕食を用意して貰う。

 出てきたのは御飯と具の無い味噌汁、焼き魚一匹、沢庵二枚。

「この魚は初めて見ますね」

 見た事の無い、目玉が飛び出た黒焦げの魚が皿に載っている。

「この島の周辺でも滅多に取れない魚だ。今日は御馳走だぞ」

 ナホルは自慢気に話す。

 それに笑顔で答える信濃。

「俺は肉の方がよかったな」

「ん? なんか言ったかな?」

「ああ。信濃が美味しそうですねって言ってます」

 さすがにそのまま伝える勇気は無かった。


 ◆◆◇◇◇◇


 この一週間、それはもう必死に修行しましたよ。命懸かってますから。

 綺麗な型を身に付けている暇は無いので、剣の振り方を一通り教わってからは、ずっと、最上と模擬戦を繰り返している。

 相手の黒の剣が邪魔で、そのままでは踏み込めない。黒の剣には黒の剣で対処する。

 微妙に腰を動かし剣先を揺らす。最上も出方を探るように剣先を揺らしている。

 この時に頭をよぎるのは、傍からどのように見られているのかだ。

 相変わらず上半身は肌がだが、下はナホルと同じく袴を穿いている。ナホルが言うには、これが正式な格好らしい。嘘くさいが、ペニスケースだけの時よりは、文明人に一歩近づいた気分だ。

 そんな雑念を見越したのか、最上が攻撃してくる。腰を素早く振り、俺の黒の剣を左から叩きつけた。股間に響く。

 最上はそこから一歩踏み込み、右の剣を振り下ろす。

 俺は左の剣でそれを受け、右の剣で突きを出す。

 最上は左の剣で突きを捌きながら、後退する。

 その動きに追従し、腰を振る。

「オラオラオラオラオラ」

 最上も黒の剣で対応する。

「無駄無駄無駄無駄無駄」

 黒の剣が何度も交差し、木刀同士の乾いた音が響く。

 上達している気がしない。


 一週間は訓練期間としては短すぎるのだが、ドラゴンの脅威に怯える人達に長すぎた。

 村長が道場に来て俺達の仕上がりを見る。

「勝てそうだな」

「あんたの目は節穴か。戦いにもならんわ!」

 俺の必死の訴えを余所に、村長とナホルがこそこそと話し始めた。

「やはり無理か?」

「時間が無さ過ぎますね。やるだけ無駄だと思います」

「うむむ。だが、村民の手前何もやらないわけにはいくまい」

「そうですね。華々しく散ってもらいましょう」

 なんかやばそうだ。

「最上。逃げるぞ」

「落ち着け、多摩川」

 最上は俺を縄で縛る。

「何をしている?」

「お前が戦ってくれれば、俺は助かるのだ」

「人でなしーーー」


 ◆◆◆◇◇◇


 何故か縛られて島の北側へ来た。

 遠くの方に見えるのは、確かにドラゴンだ。

 日の当たる浜辺で丸くなっている。寝ているようだ。

「寝込みを襲えば何とかなるかもしれない。頑張れ、タマガワ」

 ナホルは縄を解いて、俺にライトサーベルを渡す。

「このアナル野朗。生きて帰ったら覚悟しろ!」

 ライトサーベルを起動させ、三本とも動作するのを確認する。問題はないようなので電源を落とす。近くまでこっそり近づく為、余計な音を出さないようにするのだ。

 覚悟を決める。

「行くぞ、最上」

「ああ。頑張って来い」

「えっ?」

「ん?」

「……お前も来るんだよ!」

「うっそ。なんで?」

「『なんで?』じゃねぇよ。いいからこい」

「まじかよ。俺、木刀だぞ」

 無理やり最上も連れて行く。

 木刀の最上が役に立つとは思っていない。ただ、何があるか分からないので、近くで待機してもらった方が多少だけど安心できる。

「最上は少し離れて待機してくれ。隙があったら攻撃する程度で」

「分かった。全力で見守る」

 こいつ、最後まで見守るんだろうな。

 まあ、しょうがない。諦めてライトサーベルを見る。

 持つ向きを間違えて無いのを確認し、ドラゴンへ向ってダッシュする。

 走りながらライトサーベルを起動。

 バシュッという音と共に光の刃が伸びる。光が風を斬り、ブゥーンという低い音が聞こえてくる。

 その音に気付いたドラゴンが首を持ち上げた。

 目の前に迫るドラゴン。

 俺はジャンプし、三本の光の刃をドラゴンに叩きつける。

 バイィィン。

 見えない壁に弾かれ、後ろへ吹っ飛ぶ。

「うわっ」

 刃を出したままでは不味い。一旦、オフにする。

 ドシャッっと背中から落ち、浜辺に大の字になる。

「ごふっ」

 何が起きた? ドラゴンに触れる前に弾かれた。バリアみたいな物があるのか?

 ドラゴンはゆっくり立ち上がり、顔をこっちに向けた。

 逃げるか防御の体制に入るか、どちらにしろ、このままでは不味い。だが、地面に叩きつけられて全身が痛くて動けない。仕方が無い。

 必殺、死んだふり。

 必ず殺すと書いて『必殺』。なのに自分が殺されたふりをする。何か変だな。

 なんて考えてたら、ドラゴンが俺の方を見ながら口を開いた。

 火を吐くのか? もうお仕舞いだ。

「はぁー。遅い。遅すぎる!」

 ……ドラゴンが喋った。てか、何が遅いんだ?

「死んだふりなんぞしてないで、起きろ」

 ばれている。ゆっくり体を起こし、ドラゴンの方を見る。

「話せるなんて聞いてないぞ」

「島民には通じないからな。お前、翻訳機があるだろ。なら宇宙共通言語が話せる」

 ドラゴンの通り言う通り、宇宙人に埋め込まれた装置は宇宙共通言語なら学習無しで話せるらしい。使った事なかったけど。

「なるほど。で、何が遅いんだ?」

「ここに来る事に決まっておるだろう。この島にお前を呼んでから、どれだけ待ったまったことか」

「俺等を呼んだ? この島に?」

「うむ」

 『うむ』、じゃねーよ。こいつの所為かよ。

「勝手に呼ぶなよ。酷い目にあっていたんだぞ。いったい何の用だよ」

「背中が痒くてな。体を洗ってもらおうかと思っている」

「アホか。何で俺等がお前の体を洗わなきゃならないんだ」

 俺とドラゴンが戦闘せずに話しているの見て、最上が近づいてきた。

「多摩川。戦わずに済んだのか?」

「ああ。俺達をここに呼んだのはコイツらしいぞ。体を洗ってくれとか言い出してる」

「そうか。既に呼ばれているんだから、単に怒らすのは損だぞ。上手く交渉しないと」

「交渉?」

「そうだよ。呼んだんだから、元の場所に返してもらう事も出来るんだろ? それは絶対にやって貰うとして、体を洗うなら別途何か報酬を貰えるように交渉しろ」

 なんか最上がたくましく見える。戦闘に関しては雑魚にしか見えなかったのに。

 しかし、最上の言う事ももっともだ。上手く話して元の場所に返してもらわないと。

「おい、ドラゴン……。その前にお前の名前は何だ?」

「我の名は竜之介だ」

「そうか、竜之介か。俺の名は多摩川。こいつは一緒にここへ呼ばれた最上だ。で、話を戻す。この世はギブアンドテイクでな、何かして貰うなら、それに見合う報酬が必要なのだ。まず、俺達を勝手にここへ呼んだのだから、元の場所に返して欲しい」

「うむ。事が済んだら返してやろう」

「体を洗うなら別途何か報酬がほしい。あと、その作業を二人ではキツイ。道具も必要だし村人の協力が必要になるな。ちょっと待ってくれ」

 勝手に話を進める訳にも行かないな。村長の意見も聞きたい。

「最上。村長を呼んできてくれ」

「オーケー」


 最上は意外と早く戻って来た。村長はナホルに背負われている。

 経緯を村長とナホルに話す。

「と、言うわけですが道具と人手を借りたいのです」

「人は四、五人いればいいかの。ナホル、手配を頼む。道具も適当にな」

「分かりました。直ぐに手配します」

 ナホルは勢いよくその場を立ち去った。

「村長、竜之介に何か要望はありますか?」

「竜之介? ああ、ドラゴンの事か。正直、洗い終わったら、とっととこの島から出て行って欲しい。そして、二度と来ないでほしいのじゃ」

「そうですか。なんとか伝えてみます」

 上手く怒らせないように伝えたいな。俺達が帰る前にヘソ曲げられると困るんだよ。

「竜之介。村の人々は伝説のドラゴンが現れて、非常に怯えている。今回は俺達で体を洗ってやるが、終わったらこの島を離れて欲しいそうだ。そして、できれば次回は別の所に行って欲しいそうだ」

「そうなのか。昔は歓迎されたのだがな。そう要望されたのでは仕様が無い」

 表情は分からないはずなのに、何か寂しそうだった。


 ◆◆◆◆◇◇


 ナホルが自分の道場の門下生を四人ほど連れて来た。

 門下生はナホルと同じく上は裸で下は袴姿。ペニスケースは付けていない。四人とも右手にはデッキブラシのような物、左手にはバケツを持っている。

「よし、皆でドラゴンの体を洗え」

 ナホルの指示に門下生は凄く嫌そうな顔をしている。

「先生。本当に大丈夫なのですか?」

 ナホルは門下生の言葉をそのまま俺にぶつけるようにこちらを見る。大丈夫じゃなくてもやるしかないだろ。なんて思いながら、大きく頷く。

「大丈夫だ。さっさと終わらせるぞ」

 ナホルがそう言い、皆が渋々ドラゴンを洗い始める。よし、俺は何も言っていない。何かあっても勘違いしたナホルの責任だな。

 俺は竜之介の指示を体を洗っている人達に伝える。痒い所を重点的にデッキブラシで洗う。

「ようし、俺も手伝うか。顔にブラシは駄目だろ。タオルで拭いてやる」

 最上が要らぬやる気を出してきた。手には汚い雑巾を持っている。

「りゅ、竜之介。最上が顔を拭くから目を閉じていろ」

「おお、すまぬな。頼んだぞ」

 最上は「こいつ、きったねぇな」、「全然落ちねぇ」、「くっさ」などとブツブツ言いながら竜之介の顔を拭いている。言葉が通じないから言いたい放題だ。


 皆の協力で竜之介の体を洗い終え、門下生達は道具を持って帰っていった。

「竜之介、気分だどうだ?」

「うむ。さっぱりしたぞ。もう洗って貰えないとは残念だのう」

「まあ、村の要望だからしかたないな」

 隣にいる最上が俺の肩を叩いてくる。

「多摩川、報酬を忘れるなよ」

「報酬は立ち去ってもらう事だろ?」

「それは村の人達への報酬であって、俺達には関係ないだろ。俺頑張って顔拭いたんだぜ。何か欲しいぞ」

 正直な所、俺は元の場所へ返して貰えれば、それでいいと思っていた。だが、最上は労働分の報酬はキチンと貰えと言う。

「竜之介。俺と最上は村とは関係ないから、別途報酬が欲しい。と、最上が言っている」

「そうか。いいだろう。だが、金品は持ってない。『竜の加護』で良いか?」

「『竜の加護』か凄そうだな。どんなものなんだ?」

「そうだな。毒などの異常状態に耐性が付く。あと、傷など負っても回復が早いぞ」

 体を洗って貰う報酬にしては過剰な気もするが、折角だから貰っておこう。

 最上にもそれを告げると「ついに俺も加護持ちか」と言っていた。現実とファンタジーの世界の区別がつかなくならないか心配だ。


 竜之介に加護を貰い、後は元の場所へ帰してもらうだけだ。

 戻る時間もある程度選べるらしい。

 こちらに来て一週間以上いるが、銭湯に入った時に戻れるようだ。

「村長さん、ナホルさん。お世話になりました」

「気をつけてな」

「お前の世界でも、ペニ剣を広めてくれ」

 絶対嫌だ。ペニ剣は二度と使いたくない。

 そんな思いを込めて、借りていた剣と袴を返す。

「これは勇者にしか使えない物だ。お前にやる」

 ライトサーベルなんてオーバーテクノロジーな物は持っていてもじゃまなのだが、要る要らないで揉めるのも後味が悪いので、貰っておく。

 てか、剣より袴が欲しかった。返してしまったので、ペニスケースしか身に着けていないのだ。

「じゃあ、竜之介。頼む」

「そうだ、多摩川。お前は翻訳機があるから、我と何時でも話せるようにしておいてやろう。何かあったら頼るがよい」

「ありがとう。ありがたく使わせてもらうよ」

「うむ。では、元の場所へ帰すぞ」

 竜之介がそう言うと、俺と最上が光に包まれていく。


 ◆◆◆◆◆◇


 光が体に纏わり付き、徐々に密度が濃くなる。

 ブクブクブク……ゴボッ。

 水の中じゃねえか。

 もがく様に水から出る。

「ぶはっ。はぁはぁはぁ」

 周りを見て、ここが銭湯の中だと認識する。勢いよく湯から出てきたのだ。

 人がそこそこいるので、俺達が銭湯に来てから少し時間が経っているようだ。

「やっと戻って来れたぞ。ん?」

 何か股間を押されるような違和感がある。

 視線を下へ向けると、湯に浸かっているおっさんがいる。そのおっさんの頬をペニスケースの先端でグリグリ突いていた。

 あっ、やべぇ。背中でアートしている人だ。

 おっさんの怒りが爆発する寸前で、俺とは反対側でバッシャーンと大きな水しぶきが上がる。

「ぶっは。はぁはぁ。戻って来れたようだな。ん?」

 最上のペニスケースの先端が、おっさんの鼻の穴に刺さっていた。

「うわっ。やべぇ、アートマンだ」

「貴様ら喧嘩売ってのか、ごらあぁぁ」

 当たり前だが、かなりの御立腹だ。

「逃げるぞ」

「おう」

 俺と最上は素早く浴槽から出て脱衣所へ。

 追いかけてくるおっさんが滑って転んでいた。

 俺達は荷物を回収し、銭湯から走って逃げる。

 しばらく追いかけて来たおっさんも、どうにか撒くことができた。

 この後、『どこかの部族が深夜に走り回る』という都市伝説が生まれた。


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