61.救出
惑星オーデンの海上に秘かに造られた人工浮島クォン・ビュー。
休暇中のゴロロ・シナモンはその島の中央にあるビルの一室に呼び出されていた。
相手は苦美。
質素な八帖程の部屋で四人掛けのテーブルに向かい合って座っている。
「ようやく完成したぞ。お前達に乗ってもらう宇宙船が」
それを聞いてシナモンの目の色が変わる。
「ほう。俺達もようやく宇宙へ帰れるわけだ」
「完成したばかりだが、テスト航行を兼ねてお前のアジトへ行ってもらう」
シナモンは宇宙へ帰れる喜びと、自分のアジトの場所を教えなければならない不安が入り混じって複雑な表情をする。
苦美としては要塞がどのような作りなのか見学したいだけらしい。
苦美が何処まで知っているの分からないが、猫死香のアジトになっている宇宙要塞は銀河帝国の兵器工場で作られたもので、一般的に買える物ではなく輸送中に奪ったものだ。
「拒否はできねぇんだよな?」
「諦めろ。こっちだって一筆書いたんだからな」
シナモンは苦美にアジトを奪わないという誓約書を書いてもらっていた。
拒否したら文字通り首を切られて、他の者に案内させるだけだ。
言われた通り諦めるしかない。
「いつでも出発できるのか?」
「ああ。ただ、色々と異なる所がある。実際に見せてやろう」
苦美が立ち上がり、ついて来いと首で合図する。
ビルの最上階に転送装置が設置されている部屋があり、そこへ向かう。
入り口の右手側には受付のような席があり、黒髪の量産機が座っていた。その後ろには席が二つあり、やはり黒髪が座っている。
正面には円筒形の装置が五つほど並んでいた。
「いらっしゃいませ、苦美様。どちらへ行かれますか?」
受付の黒髪が対応する。
「宇宙港へ頼む。二人だ」
「わっかりましたぁ。宇宙港へ二名様、ごあんなーい」
「了解。一番と二番を宇宙港へ繋ぎました」
受付の言葉に後ろの二人がカタカタと操作しながら答える。
「こちらへどうぞ」
受付の黒髪が向かって左側の二つの装置へ案内する。
苦美とシナモンが装置の中に押し込められる。
「準備オーケーでーす」
「はーい。転送開始でーす」
気の抜けたやり取りを聞きながら、苦美とシナモンが光に包まれて転送された。
◆◇◇◇◇◇◇
宇宙港の転送部屋から出ると、少し広めの通路を挟んだガラス窓の向こうに、ドックに停泊している宇宙船が三隻見える。
停泊しているのは緑色、桃色、そしで黒色の三隻。
どの艦も形は少し異なるが、流線型の美しいフォルムで、他ではあまり見ない形状だ。
「あの黒いのが海賊船の残骸で作り直した船だ」
苦美の言い方がシナモンの心をえぐる。
シナモンは自分の宇宙船が解体されていくのを目の前で見せられて、のた打ち回ったのを思いしてしまった。
「なんか脆そうだな。強度は大丈夫なのか?」
「我が国の宇宙重戦闘旅客艦を舐めてもらっては困る」
「何だその『宇宙重戦闘旅客艦』ってのは」
シナモンが呆れた顔をするが、苦美はその質問を無視する。
「基本的に攻撃に反応してピンポイントバリアが張られる。エネルギーが続く限り大丈夫だ」
それを聞いたシナモンは眉間に皴を寄せる。
「それはバリア用のエネルギーがあるってことか? 個別に持っていないのなら、戦闘になったとたんエネルギーの消費が跳ね上がり、直ぐ動けなくなるだろ。そんなもん欠陥品だぞ」
「しかたないな、説明してやる。確かに移動だけではなく攻撃や防御、その他全てのエネルギーは第三燃料炉に繋がっている。燃料炉は三段階になっていて、第一燃料炉に入っているエネルギーは濃縮され第二燃料炉に蓄積される。これが二系統あり、還元装置を介して第三燃料炉に濃縮還元エネルギーが蓄積されるようになっている。還元装置に繋がるのは片方だけで、繋がっていない方はエネルギーを補充するようになっているのだ」
苦美が凄いだろと言わんばかりに勝ち誇った態度をしている。
「全然分かんねぇよ! なんだよ『濃縮還元エネルギー』って。ジュースじゃねぇってんだよ。それに第一燃料炉が空になったら終わりだろ?」
「そうか、言ってなかったかな。私や黒髪達は人型発電機なのだ」
「……、はぁ?」
「私達は人間のように食事をして電気エネルギーを作るのだ」
「だ、だが、食料が無くなったら、結局エネルギーは枯渇するんだろ?」
「我々には独自の転送方法があってな。場所が特定できれば――」
苦美がそう言いながらマントを広げると緑髪の量産機が現れた。
「食料も調達できるんだよ」
「そう言うことか」
シナモンは理解した。海賊戦艦の中に大きな食堂があり、常に黒髪が食事をしていた。
全速力で逃げた時もエネルギーの減りが少ないのが不思議だった。あれは、常に誰かが食事をしてエネルギーを補充していたのだ。
「つまり、あの黒髪達がいないと、この国の宇宙船は動かせないってことだな」
「そうだ。お前達の物にならないと言ったのは、そういう理由からだ」
「俺達がメインクルーだと思っていたよ」
「お前達がメインクルーだぞ。シナモン、お前が艦長をやれ」
「でも、それって意味があるのか?」
黒髪達がエネルギー源であり、船を動かす船員でもある。ということは、一人でも黒髪が多い方が良い訳で、シナモン達の四人以外は黒髪ってことになる。
艦長の命令を最後まで聞くのか心配だ。
シナモンの中で不安だけが大きくなっていた。
◆◆◇◇◇◇◇
惑星ニャーブ・オーの衛星軌道上にある直径約二百キロメートルの球体状の要塞ニクQ。
宇宙海賊・猫死香のアジトだ。
一隻の宇宙小型艇が、そのニクQへ向かっていた。
メンテナンスを終えて帰還してきたマーシュとディルだ。
「やっと着いたわね」
かなり疲れた顔をするマーシュ。
「思ったより早く着いたと思うぞ」
ディルがメインで操縦をしてきたので、マーシュはかなり楽をしていた筈だ。
ディルはニクQと通信を行い、指定されたドックへ入港した。
マーシュとディルは司令室へ行き、ローズマリーへ報告をする。
「そうか。生きていたか」
ローズマリーは口には出さないが、安堵した表情をしていた。
「それよりも、問題はシナモンを捕まえた奴らだ」
マーシュが感傷に浸ってる場合では無いとローズマリーを現実に引き戻す。
シナモン達を捕まえた奴らが、この要塞にやって来る。
奴らの目的はあくまでも見学で、要塞や仲間達には一切手を出さないと言っているらしい。だが、そんなのを鵜呑みにしていたら海賊なんてやってられない。
何かしらの対策をしておきたいが、相手の技術力が想像できない。
シナモンから受け取ったデータには初めに捕まった時の情報もあった。
識別信号が『旅客船』だったので狩りに行ったら、短距離転移してきて至近距離で攻撃をされたとか、敵艦から兵は出てきていないのに移乗攻撃されたなど。
彼女達にはちょっと理解し難い内容だ。
「宇宙船の短距離転移なんて聞いたことが無いぞ」
ローズマリーがありえない情報を聞いて苦笑いをする。
「それに、いつの間にか移乗攻撃されてたっていうのも意味不明だよ。三流のホラー映画かよ」
ディルは呆れている。
三人はありえない報告を少し疑っているが、それが本当なら勝てる相手では無い。
「要塞を動かせる最少人数だけ残して退避させておこう。フェンネル、お前が指揮を取ってくれ」
「えーっ。あたしには無理」
ゴロロ・フェンネルは急に振られて、全否定する。
「何言ってんだい。アンタは私の妹で、副司令官なんだよ? 仕方ないね。ディル、サポートしてやんな」
「へーい。じゃ、ちゃっちゃと始めちゃおうか」
ディルは嫌がるフェンネルの肩をガッチリ抱えて部屋を出て行く。フェンネルの嫌がる声が徐々に小さくなっていく。
「まったく、困った奴だ。少々甘やかせ過ぎたか」
ローズマリーは肩肘をついて溜め息を吐く。
「ははは。じゃあ、私はもしもの時に緊急脱出できるようにしておこうか」
「そうだな。頼んだよ」
ローズマリーはマーシュが二人の後を追うように部屋を出て行くのを見届けてから、面倒な事になったと頭を抱えた。
◆◆◆◇◇◇◇
宇宙海賊・双狼牙の海賊艦<風牙>の牢屋に、猫死香の者達が押し込められていた。
<風牙>が猫死香の海賊艦<猫の尻尾>へ攻撃を開始し、戦いが始まった。<猫の尻尾>は歪時空間航行を終えた所を攻撃され、後手後手に回って全力を出せずに負けた。
<猫の尻尾>の外壁には数箇所の穴が開いていて、横っ腹に<風牙>の先端がめり込んでいる。<風牙>に特攻された後、移乗攻撃のために爆弾で開けられた穴だ。
歪時空間航行で疲労していた船員達は抵抗空しく捕まった。
そして今、<風牙>の牢屋に押し込められている。
オレガノとミントは個室に、他の者達は大部屋に放り込まれていた。
全員手枷を付けられ、オレガノとミントは足枷も付けられている。
<双狼牙>の副賊長バウ・ロースが数人のお供を従え、オレガノのいる牢屋に入った。
「よう、オレガノ。久しぶりだな。元気そうじゃないか」
ロースは手足を枷で繋がれて床に座っているオレガノを嬉しそうに見ている。
何度か戦闘をしたことがあるが、決着がついたことが無かった。
猫死香の方針は「無駄な戦闘はしない」だ。
戦闘になってしまたら、隙を見つけて逃げる。特に<双狼牙>の連中は力押しの奴らが多いので隙がだらけだ。ちょこちょこ攻撃して、さっさと逃げていた。
しかし、こうなってしまってはどうにもならない。
「こんな所まで出張って来るとは、お前んとこは相当不景気のようだな」
「今回は情報集めだからな」
「情報収集だと?」
「シナモンが行方不明だってな。そこら辺を詳しく聞こうか」
「言う訳ないだろ。バカなのか?」
「てめぇ、立場が分かってねぇようだな」
ロースがオレガノの頭目掛けて蹴ろうとするが、オレガノが体を捻りそれを交わす。その行動がロースの感情をさらに逆なでにする。
お供の者がオレガノを無理やり立たせ、天井から吊るす。逃げられない状態にしてから、ロースが好き放題殴る蹴る。
「無理に話さなくていいぞ。その間、俺達のサンドバックとしてトレーニングに付き合って貰うだけだ」
ロースが息を整えながら言う。目の前のオレガノはぐったりとして動かない。
「ふん。気絶したか。下ろしたら隣に行くぞ」
ロースは汗を拭きながら隣へ移動する。
当然、ミントも口を割らない。
数時間経ってオレガノが目を覚ます。体中が痛い。
「がふっ」
口の中に鉄の味が広がる。
「起きたか。オレガノ」
隣のミントがかすれた声で話しかけてきた。
「ミントも大分やられたようだな」
「ああ、痛くて動けねぇ。で、どうするよ。この程度の牢なら直ぐ出れるだろ」
「うーん。そうなんだが、宇宙船の中だし、仲間も捕まってる。どうにもならんな」
「暫くは様子見って所か」
「そうだな。……この船動いているのか?」
「わからないけど、そんな気配は無いね」
「そうか。まいったな」
オレガノはあちこち痛くて考えがまとまらない。気が付くと二人とも眠りに付いていた。
◆◆◆◆◇◇◇
惑星オーデンの宇宙港のドックでは新造された宇宙重戦闘旅客艦<黒髭>が出航する準備がなされていた。
艦橋では艦長席にシナモンが座り、操縦席にニャン・タイムが座る。通信を担当するのはニャン・バジルで、レーダーを担当するのはゴロロ・ローレルだ。
彼ら四人以外は黒髪量産機がエネルギーの供給を兼ねた船員として船を動かす。
「ボス。<桃鶴>より通信。『いつでも発進できる』だそうです」
バジルが通信機に向かったまま伝える。
今回の航行は苦美が別件で同行できないため、塩美が同行することになった。
「こっちの状況は?」
「こっちもオーケーっす」
シナモンの確認にタイムが答える。
「バジル、発進すると塩美様に伝えろ。タイム、発進だ」
<黒髭>がゆっくりと動き出し宇宙港を出ると、後を追うように<桃鶴>が出航する。
徐々に速度を上げる<黒髭>。その後を一定の間隔で続く<桃鶴>。
シナモンは苦美から先日聞いたことをみんなに伝えてある。
苦美達が人型発電機で、宇宙船のクルーであり、エネルギーの供給源だということを。
人間と同じく食事をして電気エネルギーを作るらしい。
しかも、独自の転送技術を持っていて食料は何所にいても調達できるようで、エネルギーを大量に消費する宇宙船の転移も可能になっている。ただ、色々と制限もあるようだ。
海賊船もそうだったが、この宇宙戦艦にも大きな食堂がある。
初めは何でこんなに広いんだと設計ミスを疑ったが、話を聞いて納得した。
転移や戦闘に入った時はエネルギーを多く必要とするので、多くの黒髪量産機が食事を取りに食堂に集まる。
知らない人が見たら、「戦闘中に飯食ってんじゃねぇ」と怒るだろう。
シナモンはふとそんな事を思い小さく笑った。
「ローレル、<桃鶴>は付いて来てるか?」
「気持ち悪いくらい同じ間隔で付いて来てるぞ。人間じゃ無理だな」
「まあ、蓋を開けたら納得だけどな。よし、予定通り歪時空間航行に入るぞ」
シナモンは背もたれに深々と体を預け特殊航行に備える。
今回はテスト航行を兼ねて猫死香のアジトまで行くのだが、別の目的もある。
なんでも、惑星オーデンに危機が迫っているという噂があり、色々と人を動かして確認しているらしい。
この<黒髭>も遠回りして、その確認作業に多少なりとも貢献することになった。
話し合って決めた観測ポイントでデータを収集する。
先ず、<黒髭>が、続いて<桃鶴>が歪時空間に消えていった。
◆◆◆◆◆◇◇
双狼牙の海賊長バウ・カルビが宇宙海賊艦<雷牙>に乗っていた。目的地は弟のバウ・ロースのいる所だ。
ロースの乗る<風牙>が猫死香と接触。戦闘になり、体当たりをかまして動けなくなっているそうだ。
戦闘には勝って生き残った敵は牢屋にぶち込んであるらしい。
勝利したからいいが、もう少し戦い方を学べとカルビは思った。
「お頭、見えてきましたぜ」
「さっさと引き離して帰るぞ」
<雷牙>が<風牙>へ向かって進む、<風牙>の真下に横付けした。
<猫の尻尾>の横っ腹にめり込んだ<風牙>の先端を引き離す作業に取り掛かる。
思ったより時間が掛かったが、どうにか引き離すことができた。
<猫の尻尾>は勿体無いので、二隻で牽引して持ち帰る。
少し進んだ所で、レーダーに反応が。
「お頭、宇宙船がレーダーに引っ掛かりましたぜ。識別反応は『旅客船』」
「こんな所に旅客船? おかしいだろ。一応、戦闘態勢に入れ」
徐々にその旅客船が近づいてくる。
漆黒の宇宙船、<黒髭>だ。形状は海賊のゴツゴツした物と異なり、つるんとしたフォルム。防御力は低そうだ。
<風牙>から『獲物だ。狩る』と通信が入り、牽引していたチェーンを切り離し、<黒髭>に向かって行く。
軽率な行動を心配し、<雷牙>も後に続く。
<風牙>が<黒髭>を射程に捉え、攻撃を開始する。
<風牙>から次々と放たれる光弾。
<黒髭>は被弾しそうな弾だけをピンポイントバリアで防ぐ。
負けじと<黒髭>からも攻撃を開始した。
真正面から激しい攻防が開始され徐々に近づいて行く二隻。
<雷牙>は少し離れた後方から<風牙>の後を追う。
やはり只の旅客船では無いようだ。<風牙>の攻撃を真正面から受け、しかも反撃までしてくる。
このままでは正面衝突。どちらかが矛先をずらす。いや、へタレのロースが先に回避行動をとる。そこで重い一撃を正面に喰らわすためにエネルギーを溜める。
「ん? うおっ。お、お頭。下方に船影」
「なに?」
「攻撃来ます」
「ぼ、防御。急げ!」
<桃鶴>が<雷牙>の下方向に転移を終えた直後に攻撃をする。
<雷牙>に迫り来る数発の光弾。防御が間に合わず、一発被弾してしまう。
溜め込んでいた高エネルギー弾が暴発し、<風牙>のエンジンに命中してしまう。
カルビは<風牙>と通信する。
「ロース。下からの攻撃にやられた。<風牙>を捨てろ。盾にして時間を稼ぐ」
「ちくしょう、いつの間に。分かった」
<風牙>は衝突を避け右へ舵を切る。<雷牙>は下からの攻撃を避けるために<風牙>の上方へ。
<風牙>は捨てる覚悟なので防御に全エネルギーを回す。
<桃鶴>は攻撃しながら上方へ。<黒髭>は<風牙>の横をすり抜け、こちらへ矛先を向けるため旋回に入っている。
<風牙>から小型艇が何隻か発進し、<雷牙>の格納庫へ移動する。
<雷牙>は<桃鶴>と<黒髭>の矛先がこちらへ向く前に、その場を全速力で離脱する。
準備していた歪時空間航行に入り、<雷牙>はその場から消えた。
◆◆◆◆◆◆◇
<桃鶴>はボロボロの<猫の尻尾>を確認する。
船内で戦闘があったようで、中もボロボロになっていた。船内で生存者を見つけることはできなかった。
<黒髭>は<風牙>へ黒髪量産機を送り込み、時限爆弾がセットされていないか確認する。
慌てて逃げたようで、それは無かったが、逃げ遅れた者達が抵抗してくる。
さすがに逃げ切れないと悟ったのか、程なく投降してきた。
捕まえた奴らから<猫の尻尾>の生存者がいるというのを聞きく。
確認のため、シナモン達四人が出向いた。
牢屋に押し込められている仲間を発見し、その中に散々痛めつけられたオレガノとミントがいた。
「オレガノ。しっかりしろ」
シナモンがオレガノの体をゆっくりと起こす。
「ん? ボスじゃないですか。ロースはどうしました?」
「奴はこっちの攻撃に尻尾を巻いて逃げた」
「くっくっく。ミント聞いたか。また、生き延びたなぁ」
「そうっすね。一発殴り返したかった」
「はっはっはっ。二人とも思ったより元気そうだ。全員、<黒髭>に運ぶぞ。怪我しているのは医務室へ」
運ばれるオレガノが「薬はいいから酒をくれ」と騒いでいた。
<黒髭>は<猫の尻尾>を、<桃鶴>は<風牙>を牽引して航行する。
本来なら真っ直ぐアジトへ向かうべきなのだろうが、エネルギーの尽きることがほぼ無い状態をいいことに、引き続き遠回りして確認作業をこなしつつ航行する。
「オレガノ、ミント。気分はどうだ?」
シナモンが医務室へ二人の見舞いに来た。
二人は包帯でグルグル巻きにされているが、普通に酒を飲んでいる。
「やる事無くて、飲みすぎる」
「二日酔いで頭がいてぇ」
そう返す二人を見て、シナモンはこいつら意外とタフだなと思う。
「それよりボス、この船は何処に向かってるんですか?」
「分かってるんだろ」
「やっぱり、アジトですか」
「他に選択肢が無かったからな。案内するしかなかった」
ミントはコップをシナモンに渡し、酒を注ぐ。
三人は久しぶりの再会にぶっ倒れるまで飲み続けた。