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51.青空会談

 ボロボロになった商船がガン・モードック王国トゥーヤム地区の港町に入港する。

 その光景を見る者たちが「またか」と口にしていた。

 最近、海賊に襲われて戻ってくる船が多く、交易相手のティ・クァーブ神皇国から来る商船も襲われている。

 海賊に対する腹立たしい思いはあるが、それに輪をかけて国に対する不満が高まっている。対策が後手になっているからだ。


 ◆◇◇◇◇◇◇


 電気戦艦二番艦<ハチワレ>が人工浮島<クォン・ビュー>から出港して約六日。

 ガン・モードック近海を行き交う船が、そろそろ見えても良い頃だ。

「艦長。今回はどんなルートで行きますか?」

 副艦長のグルル・カルダモンが訪ねてきた。

 艦長席でゴロロ・ローレルが、背もたれに体を預けて座っている。

「ふむ。前回と同じでいいだろ。オスカーから出港した船を何隻か相手したら北側に向かう。前回と同じ要領だ。カルダモン、俺抜きでやってみろ」

「アイ、アイ、ニャー」

 こういうのは慣れだ。自分達で考えて行動した方が身に着く。

 獲物は帆船なのでスピードは段違い。よっぽどの事が無い限り、そんなに難しい作業では無いのだ。

 オスカーの港からユー・デ・タマガー王国の東側にあるフカッサムの港までは帆船で約三十日掛かる。オスカーには転送装置が設置されているが、お偉いさん用として使用されており、一般的には公開されていない。

 特別な物でもなければ、この世界の標準に合わせて帆船で運んでいた。

 海賊には格好の獲物だ。

 前回と同じように一隻仕留めて離脱。次の獲物探す。

 商船は海賊が出るようになってから、交易航路を何パターンか作り、ランダムで選択するようにしていた。

 さすがに航路まで教えては貰えなかったが、速さが段違いなので頑張って獲物を探す。


 ◆◆◇◇◇◇◇


「レーダーに船影を確認。十一時の方向です」

 それを聞いた副艦長が双眼鏡を取り出す。

「やっと見つけたか。船尾に旗は……無いな。よし、狩るぞ。速度を上げろ」

 艦の速度が上がり、少し後ろに引かれるような力が加わる。

 徐々に目的の船に近づく。

「そろそろ射程に入るぞ。砲撃手は準備に――」

「レーダーに別の船影が現れました。二時の方向です」

「なんだと。二隻も相手にしてられない。目の前の獲物に集中しろ」

 カルダモンは二隻目の船は無視するようだが、ローレルは何か気になる。

 艦は現在、北北西に進路を取っている。何かあって逃げる手段を取る場合を考えると、このままではストゥルムーゲ方面に行ってしまう。

「カルダモン。指揮を代われ。なんか引っ掛かる」

「アイ、ニャー」

 艦橋の中央で指揮を取っていたカルダモンは返事をして下がる。

「獲物を東側へ逃げるように誘導しろ。二隻目は何処へ向かっている?」

「こちらに、いや、目標へ向かっているようです」

「チッ」

 ローレルは椅子に座り直し、少し前のめりになる。

「艦長。何か気になる事でも?」

 様子がおかしいローレルを見て、カルダモンは聞かずにはいられなかった。

「二隻目は苦美様かもしれない」

 その言葉で艦橋内が一気に緊張する。

「とりあえず獲物は狙うが、最悪の場合は全力で逃げるぞ」

 <ハチワレ>が商船の西側から砲撃しつつ、回り込むように目標を目指す。

 商船は攻撃を避けるため進路を少しずつ東側へ変える。

「よし、獲物は上手く誘導できているな。二隻目はどうなっている?」

「三時の方向。こちらに向かってきます。獲物を中心に時計回りで航行しています」

「横か。視認は……なんかいるな。カルダモン、双眼鏡を」

 ローレルが艦橋の右側の窓へ移動し、外を確認している。

 カルダモンから手渡された双眼鏡で二隻目の船を確認する。

 <ハチワレ>よりも一回り小さい、ダークグリーンの艦。

「護衛艦ってところか。この星の技術で作れる物ではないな」

「どうします?」

「あの感じだと、間に入って来るな」

「逃げますか?」

「馬鹿野郎。俺達は、裏では苦美様の命令で動いているからアレのやばさが分かるが、表向きはそんなの知らない海賊だぞ。見ただけで逃げるのはおかしいだろ」

「た、確かに」

「それに、戦わないで逃げたら、後でどうなるか……。とにかく腹くくれ」

 攻撃を開始する海賊達。

 砲弾を二、三発、商船に当てた所で護衛艦が間に割り込んできた。

 <ハチワレ>から放たれる砲弾が、盾になるように割り込んだ護衛艦を目掛けて放たれる。だが、護衛艦に被弾せず、手前で見えない障壁に当たり爆発する。

「艦長。やはり、こちらの攻撃は当たりません」

「とりあえず、一定の距離を保って攻撃し続けろ」

 こちらの攻撃は全く当たらないので、攻撃し続けるだけ無駄なのだが、何もしないという選択肢は後で酷い目に遭うのが分かっているので選べない。

 護衛艦が盾になり、商船が逃げるように距離を取って行く。

「ちっくしょう。何もできん! 砲撃止め。このまま東へ進め」

 <ハチワレ>は東側からガン・モードックの北側へ回り込む航路を取る。商船と護衛艦はユー・デ・タマガー王国を目指して南へ消えて行った。

 せめてもの救いは反撃してこなかったことかと、ローレルが艦長席で背もたれに体を預けて一息ついた。


 ◆◆◆◇◇◇◇


 ガン・モードック王国で、トゥーヤム地区の港町が北の玄関口であるのに対し、オスカー地区の港が南の玄関口だった。

 だが、ユー・デ・タマガー王国がオスカー地区を分取り、壁を作ってしまった。

 実際の国境は壁の外側にある約一メートル幅の道になる。

 もともとは地区を越えて普通に行き来していたので、地元民としては敵対している訳ではない。

 気軽に行き来はできなくなったが、道を挟んでお互いに店を出して商売をしていた。

 そこで話される最近の話題は海賊船による影響の話だ。

 オスカー側の店の話では、海賊が出始めてから国が商船に護衛船を付ける方針を取ったので、その分経費が掛かるが、その大半を国が負担する。しかし、全額ではないので、多少ではあるが値を上げざるを得ない。ただ、オスカーの方は何だかんだ言っても、ユー・デ・タマガー王国本土より物資は届くので品不足にはなっていないとの事。

 一方、ガン・モードック側の店は国の対応が明確に決まっていないので、被害の影響がもろに出ている。

 輸入品が届かないので品不足になり価格が高騰している。国内で生産している品も、材料が輸入品だった物は影響が出ていた。

 厳しい生活を強いられる国民の悲鳴が聞こえてくるようだ。


 そんな国民の不満な声はターフ王の耳にも届いており、城内の会議室に幹部が集められていた。

「その海賊は何処の国の奴等なんだ?」

 王は苛立ちを隠せない。

「被害を受けた者からの報告では『海の民』と名乗っていたそうです」

 商船の船員達からの報告が外務大臣の耳にまで届いていた。

「アホか。お前ら、それを信じているんじゃないだろうな。交易相手のティ・クァーブも被害を受けているのだ。ストゥルムーゲかユー・デ・タマガーのどちらかだろ」

「ユー・デ・タマガーの船も被害に遭っていると報告が入っています」

「それじゃ、残る国が黒幕か」

「それが、どうも我が国の船が襲われる前はストゥルムーゲの船が襲われていたそうです。もの凄い戦闘の末、我が国の近海で仕事をするようになったという噂が」

「国が関与している可能性は無いと言いたいのか?」

「国を特定できる証拠がありません。それよりも被害を押さえないと」

 外務大臣が国防大臣へ対処を願う。

「ストゥルムーゲとは小競り合いといった感じになっているが、オスカーがユー・デ・タマガーに占領されて、そちらも睨み合い状態だ。とても人を回せる状況ではない」

 国防大臣は人手が足りないと一蹴する。

「しかし、このままでは交易が成り立たない。商船の七割が海賊の被害に遭っています。ティ・クァーブからは海賊をどうにかするまでは交易を控えると言ってきています」

 物資は既に不足気味で値が高騰し始めている。このままでは経済が破綻すると財務大臣も進言する。

 ターフ王としても無い袖は振れないのは分かっているが、黙っている訳にも行かない。

「商船の全てに護衛を付けるのは無理だが、海上の警備を疎かにする訳にもいかないだろう。とりあえず、国境付近で小競り合いしている所から兵を回せ。それで巡視船を出して様子をみるか」

「そんな悠長な。そもそも寄せ集めの兵を乗せた巡視船で海賊に勝てるのですか? 見たことの無いような攻撃をしてくると聞いています」

 外務大臣が不安を隠せない。

「キサマ、我が兵を愚弄するのか?」

「愚弄されたくなかったら、もっと成果を出せ!」

「そう言うキサマだって、何の成果もあげてないのに大きな口を叩くな!」

 国防大臣と外務大臣が口論を始める。

「喧嘩は止めよ。それより、巡視船を出す案に異論があるなら代案を出せ」

 みんなの視線が外務大臣に集まる。文句だけなら誰でも言えるぞという重たい視線だ。そんな中、意を決して開く。

「ユー・デ・タマガー王国の護衛船は海賊船の攻撃を高確率で防いでいるようです。この力を借りるというのも一つの手ではないかと思われます」

「あの国に借りを作れというのか?」

「そもそも、元ハンペイン王国とは敵対する関係では有りませんでした。どういった経緯で王が代わったのか分かりませんし、確かにユー・デ・タマガー王国の使者は無礼でした。ただ、新しく王になった者はまだ若いと聞きます。こちらが大人の対応をとってもよかったのかもしれません。一度、顔を突き合わせて話し合っても良いかと」

 ストゥルムーゲ連邦共和国との関係もある。頭ごなしに突っぱねて敵を増やすのも良くないと言うのも分かる。

「……ふむ。面白い。その話に乗ってみよう。段取りは任せたぞ」

 ただ、話し合いが上手く行くとは限らない。巡視船の方も進めろと王は言い、この会議が終了した。


 ◆◆◆◆◇◇◇


 多摩川はアルバイト先の個人経営のコンビニ『ファミマ』で品出しをしていた。そこへ知り合いがやって来る。

「タマちゃーん。マッチいる?」

 そう言って店に入って来たのは草野球チームの四谷さん。小太りで髪が薄い。ポジションはキャッチャー。ちなみにマッチとは古角真人(こかどまさと)のことで、このコンビニの店長である。

「店長はパチンコに行きました」

「何やってんだ。あのおっさんは」

「行ったばかりですから、当分戻ってこないかと。どんな用件ですか?」

「うん。実はね――」

 四谷さんは小さな会社の社長をしている。このコンビニは、その会社へ昼と夕方にお弁当を届けている。

 最近、女神達が店先でスイーツを売り出して、近所で評判になってしまった。

 四谷さんの社内でも凄く評判が良いようだ。社員から、特に女性社員からの要望で、このスイーツもお弁当と一緒に注文できないかと言う相談らしい。

 四谷さんは「また来る」と言って帰っていったが、そういう話だと、こっちに話が飛んでくる。

 前もって状況は確認しておこうと女神達に話を聞きに行った。

 当初はどらクレープの店だけだったのだが、人気が有るうちに手を広げようと店が三つになっていた。

 店長も唖然としていたが、材料費を引いた売り上げを全て店長に渡しているので、何も言えない。

 女神三人はあくまでもコンビニのアルバイトとしてやっているようだ。

 屋台が三つなって、扱う商品も増えた。

 グスージィは引き続きどらクレープを売っている。

 クヌークは「飲み物が欲しくなるわよね」とフラッペの店を出し始めた。

 ディークォンはちょっと塩気が欲しくなった人のためにクッキーの店を出した。

 三店とも長蛇の列を作っている。

 とても話しができる状態ではなさそうだ。


 そんな中、グスージィの店に並ぶ列で何か揉めているようだ。

 金髪量産機が客を列から連れ出して口論しているようだ。

 心配になったので状況を確認する。

「どうした。何か問題でもあったのか?」

「ご主人様。この方、出禁になっているのに隙を見ては列に並んでしまうんですよ」

「スイーツの店に出入り禁止って、どんなヤツだよ」

 見た目は普通っぽい女性。サングラスとマスクをしていてバケットハットを被っている。顔が分からん。

「ご主人様。この女は、あの時の問題児です」

「あの時? あぁ、なるほど」

 異臭騒ぎの中心人物になったアナウンサー、峰谷香蘭だ。

「なんで、私が出禁なのよ。大体、店員が食べたい物を頼めって言ったのよ。なんで、私だけこんな仕打ちを受けるのよ!」

「しかし、こんな所で何してるんですか? 仕事は……」

「殆どキャンセルになったわよ! てか、アンタ何者よ?」

「この方は我々の主だ。あまり無礼な態度をすると本気でぶち込むぞ。大人しく帰れ」

「主? ご主人様とか呼ばせてるって、あなたかなりヤバい人ね……。はっ、つまり、あなたが責任者ね。あの娘たちの所為で仕事が減ったのよ。責任取ってよ」

 とんでもない言いがかりだ。多少同情はするが、俺にはどうすることもできない。

「申し訳ないのですが、撮影許可の際に『何かあっても、そちらの責任で』と言ったはずです」

「そんなぁ。私は何も悪くないのに、何でこんな目にあうのよぅ。責任とってよぅ。ふえぇぇぇん」

 峰谷が両手で顔を押さえる。が、ちらちらと指の隙間から、こちらの様子を覗き見る。

 下手糞か!

「嘘泣きしても駄目ですよ。とりあえず、手土産あげるから、それを持って迷惑かけた所へ行ってみたら?」

 俺は金髪に何か手土産になるものを持ってこさせ、峰谷に手渡した。

「あ、ありがとう。あなたが文句を言われる筋合い無いわよね。ごめんなさい。これを持って、もう一度謝罪してみるわ」

 峰谷は手土産が入った紙袋を大事そうに抱えて、力なく去って行った。

 まあ、美人アナウンサーとして、これからもっと売れて行くという矢先に、テレビに晒してはいけない顔を出してしまったのだ。少し心が折れてしまっているのかもしれない。

 頑張って立ち直ってほしい。


「何者ですか? あの女」

 いつの間にか背後に酸美が立っていた。

「この前取材に来たアナウンサーなんだが、女神達に巻き込まれて職を失いかけている可哀想な女だ」

「ふっ、しょうもない女ですね」

 酸美は痩せこけた野良犬を見るような目で峰谷を見ていた。

 容赦ない仕打ちだな。

「それより、何かあったのか?」

「はい。ガン・モードックから会談をしないかと連絡がありました」

「おっ。向こうから来るとは、かなり切羽詰ってるのかな。内容は聞いてる?」

「そうですね、海賊の対処がメインで、他はその場で、という感じみたいです。ただ、場所が指定されていまして……」

 提示された会談場所はオスカー地区とヤームグートゥ地区の境界上。

 どうも、自国に俺達を入れたくないし、自分達が得体の知れない国に入るのも嫌という理由らしい。

 ガン・モードック王国の国王は肝っ玉がデカイのかチッコイのかよく分からん。

 だが、せっかく向こうから会談を持ちかけてくれたのだから、これを生かさないと駄目だろう。

 場所は好きにして貰う。ただ、日程はこちらにも講義の都合がある。できるだけ合わして貰うよう酸美に動いてもらおう。


 ◆◆◆◆◆◇◇


 多摩川はガン・モードックのターフ王と会談を行うため、惑星オーデンにやって来た。

 ユー・デ・タマガー王国の王宮ビルからディークォン大陸のオスカー地区へ転送装置を使って移動する。

 会談場所は国境上――ただし、ガン・モードックはオスカー地区をユー・デ・タマガーの領地と認めていないので、国境とは言っていない――なので、転送装置からはかなりの距離がある。

 鉄道を敷く暇が無かったので、馬車を使う。道が少し粗いので、ちょっと酔いそうだ。途中で休憩を入れながら一日かけて移動した。


 次の日、会談場所へ行くと国境上に長テーブルが置かれていた。

 俺はテーブルを挟んでガン・モードック王国のターフ王と握手を交わした。

 挨拶を早々に終わらせ本題に入る。

 お互いに言いたい事はあると思うのだが、先ずは海賊対策について。

 ガン・モードックの状況は苦美から報告を受けている。巡視船を出しているようだが、ほとんど機能していない。まあ、当然だ。

「つまり、うちの護衛船を借りたいと言うことですね」

「そうだ。いくらで借りられるのか聞きたい」

「まず、護衛船なので海賊の攻撃から守ることしかできませんが、それでいいのですよね?」

「うむ。ちなみに倒す手段は検討していないのか? ストゥルムーゲ近海では互角にやり合ったと聞いているぞ?」

 クルーズ船での交戦がガン・モードックにも伝わっているようだ。どの程度伝わっているのか分からないが、適当な理由を言って誤魔化す。

「えーと。結局、倒せてないんですよね。攻撃する分のコストを防御に回した方が効率が良いと判断しました。レンタル料は要相談ですが、貸せるのは二隻までですね」

「ふーむ。まあ、無いよりはいいだろ」

「ただ、貸すにあたって条件があります」

「条件だと?」

「はい。ストゥルムーゲとの戦争を止めて頂きたい」

「……それは難しいな。そもそもディークォン大陸全土がガン・モードック王国の支配地だったのだ。勝手に独立を宣言して反旗を翻したのは向こうだからな」

「しかし、ストゥルムーゲに向ける力があるなら、その力を海賊に回すべきではないのでしょうか? 我が国としては戦争を良しとしていないので、そんな国に支援はできないです。終戦とまではいかないまでも、休戦にはできませんか?」

 なかなか首を縦に振らないターフ王をどうにか説得して、一時休戦することに同意させた。

 次の話がオスカーについて。

「おめぇら勝手に居つくなよ。とっとと出ていけ」

 この地はガン・モードックの領地だと、ターフ王が主張する。

「この地は暗殺行為の対価として頂いたが、貴国を牽制する目的でもある。貴国が我が国へ要らぬ手出しをするなら、この地から更に領土を広げます。撤退することはありませんが、大人しくしてくれるのであれば、進行はしないと思ってください」

「そんなの認められるか!」

「こっちも命を落としかけましたからねぇ。何もしない訳にはいきませんよ。オスカーは我が国の領土として統治させて頂きます。……そうだ、その代りと言っては何だが、とても便利な製品をレンタルしましょう」

 などと、わざとらしくも強引に人型発電機を紹介する。

 当然、未知の技術で理解が殆ど及んでいないが、冷蔵庫と洗濯機の実演をした。

 ガン・モードックの連中は、その様子を初めは胡散臭そうに見ていたが、次第にその有意義さに首を突っ込んできた。

 そして、追い討ちを掛けるようにストゥルムーゲにも期間限定でレンタルしていて、かなり高評価たと告げた。

 結果はガン・モードックにも一か月間のお試し期間を設けて無料で貸し出すことになった。

 オスカーの領地は平行線で進み、進展は無し。

 そもそもオスカーへ侵攻する際に、ガン・モードックには伝えたうえで行動している。言い換えれば、ガン・モードックの軍では押さえられなかったのだ。

 力技では取り返したくても取り返せない。

 その後は他愛の無い話を交わして会談を終えた。


 ◆◆◆◆◆◆◇


 多摩川は概ね期待通りの結果になった会談を終えて、地球へ帰るためにオーデンの宇宙港で重戦闘旅客艦<青龍>に乗り込む。

 行きの時もそうだが三百メートル級の宇宙船に客が多摩川のみ。何かすげぇ勿体無い気もするが、王様だとそんなものかと納得する。

 一応、どの宇宙船にも多摩川専用部屋があるらしい。

 宇宙船によって造りは変えているようだが、<青龍>は中国風のインテリアで統一されていた。

 多摩川がソファに腰掛て一息つくと、旨美が自ら給仕をする。

 テーブルに置かれるのは、お茶とお茶請けの和菓子。

 ずずずっとお茶をすする。

「旨美。白髪量産機の生産は順調か?」

「はい。ガン・モードックへ送る分も含めて計画通り進んでいます」

「そろそろ、ストゥルムーゲの無料貸出期間も終わるな。引き続き有料で借りて欲しいものだが、交渉の方は大丈夫か?」

「お任せください。新しく雇った大使も内情に詳しいので役に立っています」

「あと、生活排水とか問題になってない? 汚水処理施設の有用性を説いてあげてね」

「ふっ。着実に我が国無しでは生活がままならない状況になっていますね。分かりました。建設費は多少割り引いて、維持費・人件費をマシマシで設定しておきますね」

「お主も悪よのう」

 押し殺したような二人の笑い声が、広い室内の空気を少しだけ緩めた。


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