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50.雇われ海賊

 惑星オーデンには三つの大陸がある。この星の三女神の名を取り、大陸の名をディークォン大陸、グスージィ大陸、クヌーク大陸と呼ばれている。

 多摩川菊斎の統治するユー・デ・タマガー王国があるグスージィ大陸から真東に人工浮島が作られていた。

 その人工浮島へ向かう一隻の船。黒い電気海賊戦艦<サバトラ>だ。動力は黒髪量産機達が作り出した電気。

 この海賊は苦美の手に落ちた宇宙海賊の四人とユー・デ・タマガー王国にスパイとして入り込んでいた者達で構成されている。

 ユー・デ・タマガー王国のフカッサム地区にある港を出てから約百十時間。

「シナモン、見えたぞ。人工浮島だ」

 艦長席の横に立つゴロロ・ローレルが双眼鏡を目から離し、艦長のゴロロ・シナモンに渡す。シナモンは受け取った双眼鏡で進行方向を見る。

 苦美から聞いていた人工浮島が目に入った。

「なるほど。実際、目にするとデカく感じるな」

 第一人工浮島<クォン・ビュー>は大きさ一辺約五キロメートルの正六角形になっている。

 各辺に二つずつドックが作られていて、十二番ドックまであるらしい。

 中心にはひと際高いビルがあり、半径二キロメートルくらいのエリアがちょっとした街になっているようだ。

「あんなの簡単に作っちまうんだから、洒落になりませんね」

 ローレルが呆れたように言う。

「うむ。しかも『第一』ってのが気になる。一体いくつ作ってるのか……」

 シナモンは双眼鏡をローレルに返す。

「連絡が入りました。このまま島の西側から九番ドックへ入港しろとのことです」

 ニャン・バジルが受け取った連絡を艦橋内の全員に聞こえるように言う。

「了解。九番ドックに向かいます」

 操舵手のニャン・タイムが確認の返事をする。

 ローレルはシナモンの横を離れレーダーで周りを確認する。

「ほんと、周りには何も無いな」

「位置を知らされてなければ、見つけるのは難しいだろうな」

 シナモンは苦美が「座標を知らないと辿り着けないから、他の国に見つかる確率はかなり低い」と言っていたのを思い出す。

 それにあの浮島は移動できるらしい。艦内には必ず緑髪が一人は乗ることになっているのは浮島が移動しても座標が分かるようにするためだ。

 そんな物をポコポコ作ってしまう苦美達。

 シナモンは彼女達と敵対する人達に少し同情してしまう。

 浮島が双眼鏡を使わなくても目視できる距離になっていた。


 ◆◇◇◇◇◇◇


 <サバトラ>が人工浮島<クォン・ビュー>の九番ドックに入港する。

 船が固定され、黒髪量産機の整備員と入れ替えに海賊達が船外へ出た。

 出口で待ち構えていた緑髪量産機。

「これから作戦会議をするからついて来い」

 二階建てバスのような乗り物に全員押し込められて、中央のビルまで連れてこられた海賊達。

 三十階ほど上がった広い会議室に案内され、席に着く。

 壇上には苦美が待ち構えていた。

「諸君、長旅ご苦労。ゆっくり休んでくれと言いたい所だが、これからが本番だ。より一層、気を引き締めて欲しい」

 苦美は一旦口を閉じて全員を見渡す。

「真っ直ぐ航行してただけだからな。大した苦労はしていない。これからたのしませてくれるんだろ?」

 シナモンがニヤリと笑う。

「ふっ。好きなだけ暴れてくれ。じゃあ、本題に入ろう。新たに造った船が十番、十一番、十二番ドックにある。お前たちは今から四班に分かれて行動してもらう。目標はガン・モードック王国周辺の船だ。船尾に緑の旗が無い船が対象となる。一隻の航行日数は往復で約四十五日。十五日間隔で出港してもらう」

「四十五日頑張れば十五日間の休みがもらえるのか。船のメンテナンスは任せていいんだろ?」

 ローレルが浮島にいる時は休ませろと言う。

「ああ。戻ってきたら、手当を出す。十五日間、好きにしてくれ」

「でも、この島からは出られないんだろ? 欲しい物は取り寄せてくれるのか?」

 バジルが手当を貰っても使う当てがないんじゃ意味が無いとぼやく。

「休暇中はここで生活してもらう。このビルの二十階から二十八階までの好きな部屋を使ってくれ。各階に数人の黒髪がいるから、住みたい部屋番号を黒髪に伝えろ。欲しい物もだ。可能な限り手配する」

 苦美はもう一度全員に目を配る。

「他には無さそうだな。タイム、お前は十二番ドックに停泊中の艦で艦長をしろ。バジルは十一番、ローレルは十番ドックの艦長だ。今まで乗っていたのは、引き続きシナモンが艦長をしろ」

「その采配には何か意味があるのかい?」

 シナモンが宇宙海賊の仲間がバラされるのを少し不満に思う。

「お前らは早く宇宙に戻りたいんだろ? この星の者より知識豊富なお前達で、立派な海賊に育てろ」

「なるほど。俺達が宇宙に行きたかったら、こいつらだけで仕事をこなせるようにしろってことか」

 確かに、この地の者達は未知の技術に対して知識が無いので、言われるがままにしか扱えない。自分達で状況を判断して、それに見合った扱いができないと宝の持ち腐れだ。いや。宝の持ち腐れで済めばいいが、今回のような海賊行為では相手も攻撃してくる。優位に進められるはずの相手に負ける可能性も出てくるわけだ。

「メンバーの選別は艦長に任せる。二日後から任務を開始しろ。以上だ」

 そう告げて、苦美が会議室を出て行く。

 それを見届けてからバジルが口を開いた。

「一応、宇宙で活動したいって要望は聞いてくれているみたいですね」

「アジトが気がかりだ。できるだけ早く宇宙へ戻るぞ」

 シナモンが皆に発破を掛けるように大声で言った。


 ◆◆◇◇◇◇◇


 初めまして。ミャウ・ハモンです。

 ストゥルムーゲ連邦共和国で外交官をしていますが、この国は狼人族が多いので、猫人族の私は少々肩身の狭い生活をしています。まあ、今月いっぱいで退職するんですけどね。

 今日は『発電機』なるものが生活をどのように変えたのか、調査したいと思います。

 何で、外交官の私がこんな事をさせられているのか疑問は残ります。しかし、これも最後のお仕事と思い、頑張りたいと思います。

 今いる場所はストゥルムーゲ連邦共和国の首都クグサーム。

 ユー・デ・タマガー王国からレンタルしている人型発電機はクグサームを中心に貸し出されています。

 評判はかなり良いようで、連日のように役所へ問い合わせの連絡が入ります。ユー・デ・タマガー王国へも貸出台数を増やして頂くよう連絡済みです。

 では早速、実際に使っているご家庭にお邪魔して、感想を聞いてみましょう。


「すいませーん」

 ハモンは近くの家へ移動し、ドンドンドンとドアを叩く。

 ガチャッとドアが開き、透き通るような白い髪をしたメイド服の女性が出てきた。

「どちら様でしょうか?」

「連絡をしていたミャウ・ハモンですが」

「はい、承っております。どうぞお入りください」

 白い髪の女性が入りやすいようにドアを大きく開け、家の中へ入るように促される。

「お邪魔します。ちなみにあなたは?」

「私は人型発電機、<白ノ339>です。三百三十九号とお呼びください」

 白髪はそう言って胸に書かれている番号を見せた。

 話していると部屋の奥から二人の狼人族が現れる。

「いらっしゃいませ。この家の主、ガウ・サーブァです」

「妻のガウ・サームェです」

「お邪魔します。ミャウ・ハモンです」

 挨拶を交わしていると、白髪は自分の作業に戻っていった。

「早速ですが、来客の対応はメイドさんがするんですか?」

「はい。最近は物騒で、不審な客も多いのです」

 レンタルしている家だと、ほぼ白髪が出てくるようだ。実際に強盗を捕まえたケースもあるらしい。

「防犯にもなっているのですね。それは凄く安心です。他に何かできるのですか?」

「炊事や洗濯、掃除など家事全般はできますね。手の空いた妻が近くで仕事を始めることができました。家計にも大助かりです」

「なるほど。でもそれは、あくまでも付加価値ですよね? 本来の実力はどうなのでしょうか?」

「私達には詳しいことは分からないのですが、普通に食事を取ることで、そこの黒い箱にエネルギーを蓄えてくれるようです」

 サーブァが部屋の隅に置いてある蓄電器の所へ案内する。

「この黒い箱にコンセントというものがありまして、そこに使いたい家電のプラグを差し込むと、エネルギーが供給されて使えるようになります」

「蓄電器は固定されているんですか?」

「いえ、かなり重いので固定しなくても大丈夫ですね」

「ちょっといいですか。んっ。なるほど、持ち上がらないですね」

 ハモンが試しに持ち上げようとしてみるがびくともしない。

「いくつかプラグが刺さってますね」

「はい。色々使っていますが、冷蔵庫と洗濯機はもう手放せないですね」

「冷蔵庫とはどのような物ですか?」

「こちらへ」

 と、サーブァが冷蔵庫まで案内する。

 高さ一メートルくらいの白い立方体の箱だ。片開きドアが一つ付いている。

 サーブァがそのドアを開けると箱から冷気が出てくる。

「食物を冷やしておく箱です。これで食品を腐らず保存できますし、冷たい飲み物が何時でも飲めるんですよ」

「凄いですね」

 驚きの表情で絶賛するハモンだが、以前クルーズ船に乗せてもらった時に、もっと高機能の冷蔵を見せられた。

 あの時は個人的な用があると言われ、酸美と個室で会っていた。大統領達もユー・デ・タマガー王国で実際に使われている家電と送られてきた家電の差がどれくらい有るのか分かっていないだろう。

 そのあと、掃除機やトースター等を見せてもらったが、どれも機能的に劣るような物ばかりだった。だが、初めて家電製品を手にした人達は何かに魅入られたように製品の良さを口にしていた。

 ハモンの脳裏には見えない糸で多摩川に操られる大統領達の映像が映し出されていた。


 ◆◆◆◇◇◇◇


 ハモンは街を調査した結果をレポートにまとめて局長に提出した。

 局長は机で踏ん反り返りながら、そのレポートをざっと目を通した後、ふんっと鼻を鳴らして机の脇に置いた。

「ご苦労だった。そう言えば君は今月いっぱいで退社するんだったね。君のように優秀な人材が辞めてしまうのは残念だよ」

 散々嫌がらせをしておいて白々しい事を言う。

 狼人族の局長は他種族に厳しい。ハモンも族ハラを散々受けてきた。他からの誘いもあり辞める決意をしたのだ。

「優秀だなんて。局長にはいつも怒られてばかりでしたから」

 八割は嫌味だったがな!

「はっはっはっ、そうだったかな? ちなみに、次の職は決まっているのかね?」

「はい。知人に誘われているので、頼ろうと思っています。ちなみに私が途中で担当を代わってもらった件は順調でしょうか?」

「ん? ああ。ユー・デ・タマガー王国の大使館の件か。土地は用意した。後は自分達でやるそうだ。来月辺りで大使が着任する予定だ。君は辞めてしまってるから会えないな」

「残念ですね。でも、引き継いでもらった件が問題ないようで良かったです」

 一番気掛かりだった件が順調なようで安心した。

 これで心置きなく辞められると少し表情がほころんだ。


 ◆◆◆◆◇◇◇


 俺はバイト先のコンビニで掃除をしながらチラチラと外を見ていた。

 店の外では女神達がお祭り屋台でスイーツを売っている。

 目を放した隙に女神達が勝手に始めたのだが、初日から少し利益を出す。

 まあ、赤字ではないからと、店長のご好意で暫く続けさせることにした。

 そんなスイーツ店がご近所で噂になり、評判に吸い寄せられた客が長蛇の列を作るようになってしまった。しかも、そんな客がついでにとコンビニへ入る。多少ではあるがコンビニへも貢献されているので止めさせる理由がない。

「気になるのか? 多摩川」

 最上がカウンターから声を掛けてきた。

「そりゃ気になるよ。だって、今日はテレビの人が来てるんだぜ」

「ああ、今日だったのか」

 毎日のように長蛇の列を作るスイーツ屋の噂を聞きつけたテレビのローカル局から取材させてくれと連絡があった。しかも生放送らしい。

 店長は「いいんじゃない?」と軽い返事をしていたが、変な胸騒ぎを感じた俺は「何があってもそちらの責任でお願いします」と言っておいた。

 ちなみに、色々と面倒になりそうなので、コンビニの方は映さないようお願いした。幟旗(のぼりばた)も今日は出していない。

「まだ来てないのか?」

「いや、『テレビだからって優先できない』って言ったら、キチンと並んでくれたよ」

「じゃ、もう来ているのか」

 最上カウンターから出て窓際に移動して列を確認した。

「あー。あれか……って、峰谷香蘭(みねたにからん)じゃん」

「有名なのか? アナウンサーとかよく分からんのだが」

「床園大学の卒業生だよ。ミス床園に選ばれた美人アナだぞ」

 熱心に語る最上だが、ローカル臭が酷くて今ひとつ凄さが分からない。

 俺も窓際で確認する。確かに美人だ。


 そんな美人のアナウンサー、峰谷の順番が回ってきた。

「スタジオのみなさーん。並び始めて約一時間。やっと順番が来ました」

 カメラに向かって声を掛けてから、屋台の方を向く。

「こんにちは、凄い人気ですね」

「いらっしゃいませ。ありがとうございます」

 クヌークが当たり障りのないように対応する。

「毎日これくらいの人が来るんですか?」

「今日は少し多いかも。でも、大体こんな感じです」

「そうですか。どれも美味しそうですね。一番人気はどれですか?」

「そうですね……やはり、バナナチョコやイチゴチョコが人気ですね」

「なるほど。では、イチゴを――」

「いかーーーーーん!」

 峰谷の注文を遮るようにグスージィが割り込む。

「……えっと?」

「いいか。人気が有るから美味しいのではない。食べたい物を食べるから美味しいのだ」

 もっともらしい事を言うグスージィだが、実は事前に旨美からアナウンサーのデータを貰っていた。アナウンサーの一番喜ぶものを食べさせて、お店のイメージアップを図るつもりなのだ。

「うっ」

 峰谷アナはグスージィの力強い発言に、なんか説得力を覚えてしまう。

 どうしようとカメラの方をチッらと見る峰谷。

「周りを気にするな。お前の今一番食べたい物を注文すればいいのだ」

「私の一番食べたい物……」

 店頭のメニューを見詰める峰谷。

「わ、私の食べたいのは……」

「迷うな。欲望の赴くままに頼むがよい!」

「私が食べたいのは、ド、ドリアンとシュールストレミングのどらクレープ」

 データに匂いフェチとあったので強烈な物を二つ用意しておいたのだが、グスージィも二つとも頼むとは予想外だった。だが、注文されたのだから、作らせるしかない。

「承った!」

 グスージィは焼きあがったどらやきの皮をディークォンに渡す。

「どれだよ、そのシュールなんとかって」

「その厳重に蓋をしてある容器に入っている。頼んだぞ」

 距離をとるグスージィ。

「これか。よいしょっと――」

「ディークォン、ダメ!」

 クヌークが止めるが間に合わない。

「ん? うおおおおおぉぉぉぉぉーーーーー」

 絶叫して倒れるディークォン。客も何人か倒れている。

 ちなみにシュールストレミングは「世界一臭い」と言われる塩漬けにして発酵させたニシンの缶詰。

「ああぁん、なんて臭いんでしょう」

 そう言って、うっとりとした表情をする峰谷。

 ディークォンが倒れてしまったので、仕方なくクヌークが対応する。顔にタオルを巻くが全然役に立たない。

「ご、ごんなのだどぶなぁ。うぐぅ」

 クヌークが涙目になりながら、どらやきの皮にシュールストレミングを乗せる。

「あ、あどば、ど、ドヒアン。グフージィ、はだれてだいで、でづだっでー」

 クヌークは気を失いかけながら、ドリアンとホイップクリームを乗せる。

「ど、どうぞ」

 峰谷にどらクレープを手渡して力尽きるクヌーク。

「そ、それでは頂きますね」

 峰谷は震えて半分気を失っているカメラマンの方を向いて、どらクレープに齧り付く。

「はあぅわああん。臭いわ、もの凄く臭い。臭くて臭くて、とても美味しいです」

 峰谷はその匂いで顔を歪めながらも、どこか恍惚とした表情をお茶の間に届けてしまった。

 周りは悪臭でパニック状態。

 近所の人が異臭で警察に連絡を入れたようで、パトカーまで来てしまった。


 ◆◆◆◆◆◇◇


 ガン・モードック王国のトゥーヤム地区にある港町から一隻の商船が出港した。

 行き先はティ・クァーブ神皇国。

 クヌーク大陸を支配する国だが、オーデンの三大陸の中では一番小さい大陸だ。

 戦争を行うストゥルムーゲ連邦共和国とガン・モードック王国、裏でそれを支援するハンペイン王国。

 そんな国と関わりを持ちたくないのだが、如何せん一番の小国なだけに資源も少ない。

 さすがに貿易をしない訳にはいかないのが現状なのだが、それでも最小限に抑えていた。


 その商船を遠くから確認する黒い船。電気戦艦三番艦<ミケ>だ。

「バジル艦長、十時の方向、ガン・モードックの商船です」

「ようし」とバジルは艦内放送用のマイクを取る。

「野郎ども、獲物を捕捉した。射程内まで近づくぞ。狙撃手は準備しておけ」

 商船を横から狙える位置へ移動するよう操舵手に指示をだす。

 遠くから商船と並走する形にし、速度を合わせる。

 ゆっくりと横から近づく<ミケ>

「射程内に入りました」

「砲撃開始。弱らしてから移乗攻撃に入る。それまではこの距離を保て」

 バジルの合図で攻撃が開始される。

 剣や槍で切り合って戦っているこの世界で、遠くから砲弾をぶち込んでくる得体の知れない船。さぞ恐ろしく目に映るだろう。

「命中率が悪いぞ。無駄に打たず、ちゃんと考えて狙え」

 商船なので向こうからの攻撃はほぼ無い。

 これは訓練でもある。射程内にいるのだから当てられるはずだと発破をかける。

 実際はそんな簡単ではないのだが、あまり命中率が高い距離だと目標がすぐ沈んでしまうのでこれぐらいが丁度良い。


 ある程度砲撃した所で少し近づき二、三発当てる。

「移乗攻撃に入る。相手も必至だから気を抜くな」

 バジルが合図し、商船に接舷する。

 それと同時に海賊達が商船へ雪崩れ込む。

 元々はスパイとして他国からユー・デ・タマガー王国に入り込んでいた者達で、それなりの戦闘訓練は受けている。それに加えて苦美達により再教育されているので、そこら辺の兵士より十分強い。

 制圧するのにそれほど時間は掛からなかった。

「艦長、全員縛り上げました。船内に広い部屋があったので、そこに全員押し込めてあります」

「うん。お宝は全て運び出せ。あと、この船だとガン・モードックまでどれくらいだ?」

「三日もあれば帰れるかと」

「ふむ。じゃ、二日でいいだろ。食料も二日分を残して頂いておけ」

「分かりました」

 戦闘隊の隊長が敬礼をしてその場を去る。


 バジルは副艦長を連れて、縛り上げられている者達の部屋に入った。

 縛られている者達をざっと見渡す。

「ふーむ。おい、雑用係を二、三人連れて来い」

「分かりました」

 副艦長が部屋を出て行った。

「広い部屋だな。船長はどいつだ?」

 全員がバジルを睨みつける。

「私が船長だ。貴様らどこの国の者だ? こんなことをして只ではすまないぞ!」

 狼人族の男が吠えている。

「俺達は何処の国にも属していない。強いて言うなら海の民だな。地上と違って色々と大変なんだ」

 バジルは適当に答えてやる。

「お、俺達をどうするつもりだ?」

「命だけは助けてくれ!」

 堰を切ったように緒人族が騒ぎ出した。身なりが良いので商人と思われる。

「うるせぇな。命が惜しかったら口を開くな」

 後ろでドアが開く。

「艦長、連れてきました」

 副艦長の後ろに二人の男。

「おう、来たか。いいか、お前ら。こいつらを見ろ」

 バジルは顎で縛られてる奴ら指す。

 連れてこられた二人はそう言われて目を向けるが、バジルが何を言いたいのか今ひとつ理解できない。

「ふーっ。お前ら人が良すぎるぞ。アクセサリーや時計をしている奴がいるだろ。財布は取ったのか? 金目の物は全て貰っておけ」

 二人の男が「へーい」と縛られている人達から根こそぎ奪って行く。

「大人しくしてれば、命までは取らねぇ。しばらく我慢してろ」

 バジルは縛られている奴らに向けて言いながら部屋を出た。


 ◆◆◆◆◆◆◇


 バジルは<ミケ>に戻り、艦橋の艦長席に座る。

 一息つくと副艦長が飲み物を持ってきた。

「浮かない顔をしていますが、何か気になる事でもあるんですか?」

 バジルは差し出されたコップを受け取る。中はコーヒーだった。

「みんなを早く一人前にしないと思ってな」

「艦長も星外の人でしたね。やはり、早く戻りたいですか」

 副艦長はバジルがコーヒーを一口飲むのを見ている。

「まあ、それもある。それよりも厄介な事がね」

「厄介な事?」

「商船を襲ってたら、当然護衛を付けるようになる。ガン・モードック王国はいいんだが、俺らはユー・デ・タマガー王国も相手にするのを忘れるなよ?」

「あっ。……出てきますかね?」

「出てくるだろ。苦美様が顔を突っ込まない訳がない」

 それを聞いた艦橋内のみんなが苦美の楽しそうに笑う顔を思い浮べ、空気が一気に重くなった。


 以前の後書きにも載せました簡易地図ですが、エディタ上で作ったので比率がおかしいですね。どうにもならないのですが、少し手直しをして再度挑戦。

 あくまでも簡易的なものですから。


 惑星オーデン簡易世界地図改

                北

 ┌──────────────────────────────┐

 │   ┌──┐                       |

 │   │テ神|                       |

 |   └──┘                       |

 |          ┌─────┬─────┐       |

 |          │ ス連国 | ガ王国 |       |

西|          │     │     │       |東

 |          └─────┴─────┘       |

 |                              |

 |          ┌─────┐             |

 |          │ ユ王国 |      浮島→■   |

 |          └─────┘             |

 └──────────────────────────────┘

                南


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