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49.アルバイト

 俺は多摩川菊斎。床園大学の二年生。

 俺にはまとまったお金がそこそこある。

 ひょんな事から覚えた武術。勇者風ペニ剣三刀流。

 右手には赤い剣、左手には白い剣、股間から黒い剣と頭のイカれた三刀流剣術だが、この剣術の演武を披露するライブツアーを一年ほど行った。もちろん、地球上でではない。ナーベン銀河内の主要な惑星を回り、そこそこの人気が出た。まずまずの成功と言っていいだろう。まあ、最後の方は消えるようにツアーを終えたのだが。

 この演武は親友の信濃と最上三人で行ったので、他の二人も同等である。

 ただ、稼いだ状況が特殊なので地球上では大っぴらに使えない。とりあえず、対外的には国外で料理を提供する事業でしていて、それで得た金ということにしている。

 まあ、言ってしまうと旨美がやっている異次元食堂のことだ。

 旨美は高性能の人工知能を搭載した炊飯器で自我に目覚めている。

 所有者の俺を「ご主人様」と呼び、俺のためにナーベン銀河内の星々に料理を提供して、お金を稼いでいる。


 そんな俺だが、表向きは貧乏学生を装ってバイトをしている。

 バイト先は『ファミマ』。

 大手のコンビニエンスストアではなく、個人経営のコンビニエンスストア『ファミリーマサト』。店の前には『元祖ファミマ』の幟旗を立てている。

 ちなみに友人の最上もここでバイトをしている。

 基本は客がいないので暇なのだが、お弁当が人気で昼食と夕食の時間帯は一気に人が来る。また、近所の会社にも配達している。いっその事、弁当屋にしてしまった方が良いのではと思うほどだ。

 そのコンビニの店長は大学のOBで、名前は古角真人。見た目はアフロでちょっと怖いが、根は優しいおっさんだったりする。


 ◆◇◇◇◇◇◇


 俺は最上と一緒に近所のファミレスで昼食を終えてからバイト先のコンビニに向かっていた。

「どうした、多摩川。大分疲れているようだが?」

「ああ。最近、雑用が多くてね」

「雑用?」

「オーデン関連だよ。妹達が書類やら相談やらで連日のようにやって来る」

 ここで言う妹達とは、実妹ではない。旨美の妹達、炊飯軍団のことだ。ちなみに俺は一人っ子。

「ふーん。でも、そんなに用件ってあるのか?」

「あるよ。『国の予算を使うから書類にサインしてくれ』とか、『ガン・モードック王国が不穏な動きをしている』とか色々」

「任せられないのか?」

「ある程度は任せているだけど、結構とんでもない事をするから任せっきりにすると怖いんだよ。まあ、不利益になるような事は無いんだけど」

 俺が溜息交じりに言うと、最上が憐れむような表情で俺を見る。

「まあ、品出しとかは俺がやるから、多摩川は夕方までカウンターでゆっくりしてくれ」

「済まない。そうさせてもらうよ」

 そんな話をしているとコンビニへ着いた。店長が入れ替わりでお弁当の配達に出て行く。

 最上は、先ずは掃除と店内の床を掃き始める。それを横目で俺はゆっくりさせてもらおうとカウンターで椅子に座った。

 コンビニのドアが開き、客が着たと思い立ち上がる。

「ご主人様」

 黄色いワンピースに黒いマントを羽織る酸美がポニーテールにした黄色い髪を揺らしながら笑顔で小さく手を振り、真っ直ぐ俺のいるカウンターにやってくる。

「何だ酸美か。どうした?」

「ストゥルムーゲから、新たな注文が来ました」

 酸美が俺に書類を差し出す。それを受け取りざっと目を通す。

 興味を示した最上が近寄ってきた。

「そう言えば、家電を輸出するとか言ってたな」

「ああ。商品はかなり搾って洗濯機と冷蔵庫、掃除機辺りの白物にしている」

「生活が一変するだろうな。どこの……ってか、メーカーは無いのか。ユー・デ・タマガー王国オリジナル商品って感じか」

「そうなるな。商品も、あえて古いタイプにしているし」

「古いタイプ?」

「うん。洗濯機だと洗う機能しかない頃のヤツね」

「えっ? 脱水機能は付けないのかよ」

「当たり前だろ。全国民に行き渡った頃に二槽式を出す。その後に乾燥機かな。ドラム式なんて何十年も後だよ」

 俺は書類にサインをして酸美に渡す。

「アコギだ。が、商売ってそんなものか」

 最上は「さすが魔王」とか要らん事を言う。

「できれば、ガン・モードック王国も巻き込んでから新製品を出したいよな」

「そうですね。ガン・モードックにも供給するようになった場合、レベルの低い物を供給するとストゥルムーゲから型落ちを安く仕入れそうですね」

 酸美と話している最中に苦美が店内に入って来た。

 グリーン系の濃さの異なるシャツとハーフパンツ。マントは必須アイテムなので外せない。

「ご主人。ガン・モードックがまた、オスカーを取り戻そうとちょっかいを出してきたよ。いい加減うざいから軍隊全滅させちゃていいかな?」

「ダメに決まってるだろ……。そうだ、二人で協力して話し合いに持ち込めないか検討してくれ」

「話し合いですか? 応じるとは思えませんが」

「酸美の言う通りだ。力でねじ伏せた方が早い」

「苦美。それは最後の最後だ。ガン・モードックは生かさず殺さず……いや、笑ってお金を垂れ流してくれる国になってほしい」

「いやいや。多摩川、そんな国は無いって」

 横で聞いていた最上が苦笑いしている。

「先ずは戦争を終わらせたいが、難しいかな。うーん、やっぱり話し合いに持ち込みたいが、何か材料が欲しい所だな」

「材料か……。アレ使ってみる?」

「アレって? ああ、アレか。今どうしてるんだ?」

「我が国で待機させている。(けしか)けておくね」

「うん。あっ、国境付近でガン・モードックに対して商売している人いたよね。割り増し料金で売るようにしてもらおう」

 俺と苦美は顔を合わせて、ふっふっふっといやらしい笑いをする。


 とりあえずアレを嗾けて、しばらく様子見となり酸美と苦美は帰って行った。

「なるほど。こんな感じなのか」

 最上が帰って行く二人の後姿を見ている。

「ん? ああ。今みたいに二人続けてくるのは珍しいけどね。毎日、二、三人来るよ」

「バイト減らした方がいいんじゃないか?」

「そうしたい所だが、そのしわ寄せが最上の方に行くぞ?」

「うっ。それも困るな。でも、作業に支障が出ないか? 一回、店長と話した方がいいと思うぞ」

 そう言われて、このままだと迷惑を掛けそうだと思い、どうしようかと頭を抱えた。


 ◆◆◇◇◇◇◇


 バイトを終えて自宅に帰ると、秋川と谷沢がリビングで寛いでいた。

「キクちゃん、おかえりー」

「おかえり、キク君。お邪魔している」

「ただいま。二人とも夕食は?」

「食べちゃった。後は帰って寝るだけよ。お泊りして良いならするんだけど」

「先生、そんな事言っていると平瀬に怒られますよ」

「ははは。そりゃ怖い。それよりキクちゃん、谷沢ちゃんが面白い事になってるわよ」

 何か妙に秋川が陽気だ。手元の缶ビールがその理由を物語っている。

「お、面白くないです」

 谷沢がちょっとムッとした表情で缶ビールを口の運ぶ。一口飲み、下ろした缶の横にはアルバイト情報誌がある。

「アルバイトを探してるんですか? あれ、確か姫之さんはカフェでアルバイトしていたはず?」

「それがさぁ」

 俺の疑問に何故か楽しそうに秋川が話し出す。

 なんでも、谷沢のアルバイト先のカフェによく来る常連の二人組がいるらしい。年齢は二十五、六くらいのサラリーマン。大学の時からの付き合いらしく、いつも仲良く話していた。

 その常連の一人が、いきなり谷沢に告白したらしい。友人に相談はしてなかったようで、隣の友人が抜け駆けされたとばかりに、そいつも告白してきた。

 常連二人の「俺の方があなたを愛している」合戦で耳が腐りそうになっている所へマスターが現れる。そして、その争いに何故かマスターも加わった。

 散々褒めちぎってから「さあ、誰を選ぶのだ」と谷沢に詰め寄る三人。

 最後の方は結構大きな声になっていたので、周りの客も気付かないフリをしながらも、事の成り行きがどうなるか興味津々となっていた。

「えっと、あの、私には、お付き合いしている人がいますので、申し訳ないですが……」

 その言葉に固まる三人。

 確かに去年の秋頃に付き合っている人がいるか聞かれたので、いないと答えた。でも、それから数ヵ月経っているのだ。

 一応、確認してから告白するべきだったのでは? と思ってしまう。

 まあ、どっちにしろ断るのだが。

 周りの客は三人が居た堪れなくなり、お会計をして店を出て行った。

 うな垂れる三人。重苦しい雰囲気に包まれる店内。

 ドアを開けた新たな客が何かを察し、そのまま立ち去る。

 そんな地獄のような状況が数十分続いた。

「そんで、結局バイト辞めてきちゃんだよね」

「何で先生はそんなに楽しそうに話すんですか。こっちはバイト先を探さなきゃならないし、色々迷惑被ったんですよ」

「いやー、何か妄想恋愛学の新たなジャンルが開拓できそうで、ちょっとワクワクしてるのよね」

 秋川の楽しそうな雰囲気を横目に、谷沢が腹立たし気な表情で缶ビールを煽る。

「た、大変でしたね。なるほど、それでアルバイト情報誌を持ってるんですか。何か良いバイト先は有りましたか?」

「無いなぁ。あんな状況を味わうと、少し二の足を踏んでしまう。当分はバイト無しですごそうかな」

「谷沢ちゃん、バイトしなくて大丈夫なの?」

「仕送りはあるので、遊ばなければどうにかなるかと。ただ、ここで夕食を取らせてもらう回数が増えるかも」

「わかった。私も谷沢ちゃんに付き合う。毎日ここで夕食を食べよう。どの道、キクちゃんのお世話になるんだ。それが少し早まるだけの話。いいよね? キクちゃん」

「佳月さんは既にほぼ毎日来ているのでは? まあ、いいですけど」

 おかしな事が起きるのに理由は無い。気が付いたら巻き込まれているのだ。

 変な物を引き寄せると言われる多摩川は、谷沢が変な所で苦労しているのに少し仲間意識が芽生える。

「姫之さん、苦労してるんですね。挫けず頑張ってください」

「え? う、うん。まあ、キク君ほど苦労はしてないが」

 ぐふっ。不意打ちのカウンター。

 バイトの後にはちょっとダメージがでかい一発だ。……あっ、そうだ。

「姫之さん。時給低いけど『ファミマ』でバイトしてみませんか?」

「それって、初代の店か。人を雇うほど儲かってないって噂だが」

 周りからはそう思われているのか。店長に同情してしまう。

「もう一人雇うというか、俺の代わりで。最近、オーデン関係の雑用が飛び込んできて、バイトに支障が出そうなんですよ。まあ、店長にはこれから相談になるんだけど」

 谷沢からは「キク君の役に立てるなら」と了承を得たので、明日、店長に相談することになった。


 ◆◆◆◇◇◇◇


 惑星オーデンのユー・デ・タマガー王国に(そび)え立つ王宮ビル。千メートルはあるそのビルの一室で、ある者達が集められていた。

 集めたのは苦美。

「諸君。ご主人様よりミッションを賜った」

 苦美の横には世界地図が投影されたスクリーンがある。

「今度の目標はガン・モードック周辺だ。ただ、気をつけてもらいたいのは我が国の漁船も漁に出ている」

 苦美が説明している相手は苦美が抱えている海賊だ。

 先日、会談のためにストゥルムーゲの大統領を乗せたクルーズ船を襲った連中である。

 ストゥルムーゲが手を焼いていた海賊をユー・デ・タマガー王国の船が撃退したように見せかけている。ストゥルムーゲ近海からも手を引いたように見せかけ、ユー・デ・タマガー王国へ一旦待機させていた。

「ガン・モードックの船だけ狙えばいいんですね?」

 宇宙海賊<猫死香(ニャンデスカ)>の船長、ゴロロ・シナモンが椅子に踏ん反り返って任務を確認する。

「それだと我が国が疑われるだろう。攻撃してはいけない船には船尾に緑の旗を付ける。ガン・モードックの船もたまに見逃してやれ」

「面倒臭いですね。全部、沈めちゃえばいいのに」

 ゴロロ・ローレルが海賊らしい意見を言う。

「ガン・モードックを干上がらせるのが今回の目的だが、無償で働くのはつまらんだろう。物資は必ず全て頂いておけ。船はギリ帰れるくらいまでで、決して沈めるなよ」

「しかし、それだと直ぐに荷物が一杯になるのでは? オスカーの港に預ける訳にはいかないですよね?」

 ニャン・バジルが効率が悪いとぼやく。ユー・デ・タマガー王国と繋がりがあると分からせてしまう。

「安心しろ。同型の船を三隻用意した。四班に分けて行動してもらう。足りない人手は黒髪で補うが、あくまでも船内活動のみだ。目撃されて変に勘ぐられるのは避けたい。あと、ディークォン大陸より南東に浮島を建設中だ。荷物はそこに預けろ。他に質問は? 無いようなら以上。行動に移るように」

 苦美が話を締めくくり、海賊どもが動き出す。


 ◆◆◆◆◇◇◇


 谷沢にアルバイト先を勧めた次の日、一緒に俺のバイト先のコンビニに来た。

「へー。きっくん、そんな事してたんだ。利益は出てるの?」

 アフロヘア―の店長に事情を説明した所だ。

 表向きの国外で料理を提供する事業をしているて、それに関する雑用が割り込んでくることがあり、バイトに支障が出そうだと伝えた。

 店長は事業の方に食いついてしまった。

「それなりに出ていますね」

「やるね。どんな料理を提供してるの?」

「料理長に任せているので料理内容はわからないです。私は管理がメインなので」

「そうか、残念だな。うちの弁当のバリエーションも増やせるかと思ったのだが。……で、なんだっけ?」

「その事業で急な雑用が割り込んできたりするので、バイトに支障が出る前に相談しにきたんです。谷沢さんが丁度バイトを辞めて空いていたので、代理を頼めるかなと思い一応来てもらいました」

「なるほど。ふーむ」

 しばし考え込む店長。

「やはり経営状態は厳しいのですか?」

「ん? きっくん、何言ってんだ。あれだけ弁当が売れていて厳しいわけないだろ。三人雇うのに問題は無いんだが、谷沢は三年だろ? 就職活動で忙しくなるのに大丈夫か?」

「私は卒業後、キク君の事業を手伝うので就職活動はしないです」

「そうなの? じゃあいいか。きっくんも接客を優先してくれれば、多少の割り込みはいいよ」

 店長は俺の割り込みを作業を特に問題と感じてはいないようだ。谷沢をあっさり雇用しているし、なんというか、色々とぬるい作業環境だと再確認してしまった。


 ◆◆◆◆◆◇◇


 谷沢が『ファミマ』でバイトを始めてから十日ほど経った。

 真面目に仕事をするし、顔見知りということもあって店長からの評価が高い。しかも、谷沢目当ての男性客も少し増えているようで、店にも貢献しているようだ。

 たまに、お弁当を作る作業も手伝っているようで、店長のお袋さんと奥さんとも親しくなっているらしい。

 やはり、共通の話題があると話が盛り上がるもので、自宅で谷沢とバイト先の話をしていると横で聞いていた女神達が興味を持つ。

「アルバイトとはそんなに楽しいのか?」

「グスージィ。仕事なんだから楽しいわけないだろ」

「あら、ディークォンは分かってないのね。私達のように決められた仕事をするだけではないの。趣味を仕事にしている人もいるのよ」

 クヌークは「人は私達とは違う」と言う。

 意識体として目覚めた時から星を管理する作業をしてきた。そこに選択肢は無かったのだ。

「必ずしも楽しいとは限りませんが、働いた対価としてお金を貰っているのです。頑張って働いたんですから、報酬を貰う時はやっぱり嬉しいですよ」

 俺の言葉はお金を使ったことの無いグスージィにはピンとこない。

「ふむ。よくわからないな。キク、私もアルバイトしてみたいぞ」

「おお。面白そうだな。俺もやってみたいぞ」

 ぎょっ。困ったな。グスージィとディークォンに勤労意欲が沸いたが常識に欠けるのでまともに作業はできない気がする。偏見だろうか?

「そう言われましても、バイト先を見つけるのも大変なんですよ。やりたいと思っても直ぐには無理ですよ」

「わざわざ探さなくても、キクの手伝いでいいぞ」

 だんだん逃げ場が無くなっていく。

「私も雇われている側なので、勝手なことはできないんですよ」

「雇い主に断わればいいのではないのか?」

「ですよねー」

 一歩も引かないグスージィに諦めさせるの無理だと、ここにはいない店長に深く頭を下げた。


 ◆◆◆◆◆◆◇


 バイト先のコンビニに付いてきた女神達。

 控室でテーブルの向かいには店長がいる。

「きっくん。一気に三人も追加で雇う余裕はないぞ」

「アルバイトをしたことの無い三人なので、少し経験したいだけなんですよ。日本の常識に欠ける所があるので、見張ってないと心配でして。給料は無くても良いので働かせてもらえませんか?」

 女神達を外国の親戚と言う設定で店長に説明した。クヌークはそれほど乗り気ではないのだが、二人が心配だと付いてきてしまった。

「しかし働かせておいて給料を払わない訳にはいかない。仕方ない。一か月。一か月だけ雇うよ。あと、見習いってことで給料半額にしてくれ」

 かなり無理を言って、女神達を雇ってもらった。まあ、すぐに飽きるだろうから、一か月でも長いかもしれない。

 とりえず、俺が監督という感じで、三人に指示をして仕事を進める。

 昼と夕方以外は客の少ないコンビニだ。三人掛りで作業をするとあっという間にやることが無くなる。

「キク、暇だぞ。他にやることはないのか?」

「今三人でやって頂いた作業を本来は一人でやるんですよ。後は客が来たら対応するだけですね」

「うーむ。その客が来ないのだがな」

「夕方になればお弁当目当ての客が押し寄せるので、それまではゆっくりしてください」

 俺がそう言うと女神三人は固まって何やらコソコソと話し出す。

「やる事が無くてつまらないのだが」

「グスージィ。客が来ない店で接客作業って、変だよな」

「グスージィもディークォンも無理に雇ってもらったんだから文句言っちゃだめよ」

「でも、クヌークよ。そもそも客待ちというのが間違っていないか?」

「よく言った、グスージィ。客は呼び込むものだ。行くぞ!」

 三人は勢いよく店外へでたが、呼び込みと言うものがよく分からない。

「残念な女神どもだな。私が手を貸してやる」

 見かねた旨美が突然現れ、しゃしゃり出る。

「客を呼び込むには新商品を売り出して、それを餌にして客を呼び寄せるのだ。一番良いのはスイーツだな」

「しかし、新商品と言ってもすぐには出てこないぞ」

 無茶を言うなとディークォンがぼやく。

「こんな事もあろうかと秘かに巷で人気のある品をリサーチ済みだ」

 そう言って、旨美は駐車場の空きスペースにお祭り屋台を出す。

 そこでどら焼きの皮を作り、その上にあんこと生クリームに苺をトッピング。

「どらクレープだ! 食ってみろ」

 差し出されたスイーツを受け取り頬張る女神達。

 美味い。美味すぎる。

 おかわりを要求する女神達に「お前らは売る側だ」と一蹴し、作り方を伝授。服装もコンビニ風メイド服に着替えさせ、可愛らしさを強調する。

 何やら目新しい物に惹かれる人達。もともと近所の客が多いので、噂が広まるのも早い。

 あっという間に人だかりが出来ていた。


「きっくん。どうなってんだ?」

 店長に問われるが俺にも分からない。

「すみません、店長。目を離した隙にあんな事になってました。正直、何であんなことになているのか見当もつきません」

 俺と店長はコンビニの前でボー然と立ち尽くしていた。


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