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30.宇宙警察

 クライド・アースキンは宇宙刑事に憧れていた。

 子供の頃に宇宙刑事の特撮物に嵌り、食い入るようにテレビを見ていた。

 その夢は潰えること無く大人になり、夢の宇宙警察の一員となった。


 惑星ケームティにあるナグヌェグ連邦国。その首都ツ・イブにクライド達が所属する第七六三警察署があった。

 そこに所属するクライドは地味で目立たない乗用車を運転し、助手席に座るトレントと一仕事終えて署に向かっていた。

 トレント・ウィンソープはクライドの上司で二級刑事だ。

 綺麗な女性ではあるが、そのおっとりとした性格は、よく二級まで昇級できたと周りの者を不思議がらせていた。

 ちなみに宇宙警察の階級で刑事は一級から六級まである。クライドはまだ六級刑事なので、一番の下っ端ということだ。


「やっと休みが取れますね」

 クライドは署で報告が終了したら三日間の休みを貰う予定だ。

「クライドちゃんは何所か行くの?」

「トレントさん、『ちゃん』は止めて下さい。何所にも行きませんよ。とにかく、ぐっすり寝たいです」

「あらあら、若いんだからパーっと遊ばないと」

 うふふと笑うトレントから連絡用の端末が鳴った。体中をペタペタ触り、どこに入れたか忘れた端末を探す。左胸ポケットに入っているのに気付き、そこから取り出して起動する。

 肩まで伸びた漆黒の髪を揺らし、おっとりとした性格を現すような少し垂れた目で端末のモニターを見る。

「はーい。トレントでーす」

「ツイードだ。今、大丈夫か?」

「クライドちゃん。ツイード署長からだよ。一緒に見ましょう」

「トレントさん、『ちゃん』は止めて下さい。恥ずかしい」

 クライドは車を道の端に寄せて止めた。

 モニターに映るのはツイード・ガラフット。クライドたちが所属する第七六三警察署の署長だ。眼光が鋭く、がっしりとした体格をしている。口髭がウザイ。

「いいですよ」

 クライドはモニターに向かって言った。

「お前達の担当だった事件な、大体の事は他の奴から聞いたから報告は後でいい。その代り、別件を調査して欲しいんだ」

「署長。俺、休み取る予定なんですけど」

「おいおい、クライド。お前はもっと仕事をこなさないと昇級に響くぞ」

「今は昇級よりも布団で寝たいです」

「若いのに何言ってんだ。トレントを見ろ、元気じゃねぇか」

「そのトレントさんが寝ている分、俺が動いていたんですよ」

 クライドは少し涙目で訴える。

「クライドちゃん。そんな細かいことを気にしちゃダメですよ」

「トレントさん、『ちゃん』は……もう、いいや」

「とにかく、情報を送るから調査してくれ。簡単な聞き取りで済むと思う。頼んだぞ」

 ツイードは言うだけ言って通信を切る。

 トレントとクライドの端末が何かを受信してピロンと鳴った。


 ◆◇◇◇◇◇◇


 クライドとトレントは床園駅の改札を出て目的地を地図で確認する。

 調査対象は地球という星の多摩川と言う人物。

 まだ学生らしいのだが、宇宙港を使用する頻度が異様に多い。

 そもそも地球では宇宙港の存在を公にしていない。

 一介の学生がどうやってその存在を知り、何故それほど頻繁に宇宙港を使用するのか。

 それに一回の費用も決して安くない。金の出所も調査が必要だろう。

 何らかの犯罪に関わっているのではないか。そう思われても仕方が無いのだ。


「この賃貸マンションの五階に多摩川が借りている部屋があるようですね」

「クライドちゃん。あなたは口調がきついから気を付けてね」

「分かってますよ」

 マンションに入り、エレベーターを見つける。

 ボタンを押し、降りてくるのを待つ。

 チーン、という音と共にエレベーターのドアがスーッと開く。

 目の前には横向き置かれた洋式便器。

 固まるクライドとトレント。

 エレベーターのドアがスーッと閉まった。

「えーっと……。何ですかね、今の」

「おトイレに見えましたね」

 クライドがもう一度ボタンを押す。

 ドアがスーッと開き、やはり目の前にトイレが現れる。

「トイレ付きのエレベーター……ってことでしょうか?」

「相手がクライドちゃんでも、さすがに男の人とトイレには入れないわ」

「試しに俺だけで入ってみます」

 クライドはトイレに入ってドアを閉める。

 トイレの中には移動したい階を指定する物が何もない。

 仕方なく、そのまま出る。

「ただのトイレみたいですね。移動したい階を指定できません」

「あらあら。それでは階段を使うしかないのかしら」

「まったく。地球人というのはイカれていますね。こんなの作らないで普通のエレベーターを――」

 と、後ろの方で、チーンという音がした。

 振り返ると反対側にもエレベーターがあり、人が降りてきた。

「だ、騙された。あっちが本物のようですね」

 クライドは女性とトイレの前で話をしていたことに変な恥ずかしさを覚えた。


 ◆◆◇◇◇◇◇


 クライドとトレントは多摩川の借りている部屋まで来た。

 再度住所を見て間違っていないことを確認する。

 クライドがインターホンを押すと女性の声が返ってきた。

「どちら様ですか」

「警察のものですが、多摩川さんに聞きたいことがありまして」

「少々お持ちください」

 それから数秒してドアがガチャッと開く。

 そこから顔を出したのは真紅の髪をした美しい女性だった。

「本物の警察の方ですか?」

 クライドは胸ポケットから警察手帳を出し呈示した。

 女性は真紅の瞳でそれを見る。

「ご主人様は、ここには居ません。どのようなご用件でしょうか?」

「多摩川さんと直接お話ししたいのですが、何時お帰りになられますか?」

「ここには来ません」

「帰ってこない?」

「先日、新たな物件を借りてそちらに引っ越しました」

「引っ越し先を教えてもらえますか?」

「用件をお聞きしたいと思います」

「それは多摩川さんに直接――」

「ご主人様の手を煩わせたくありません。そもそも地球は宇宙警察の管轄外なのでは?」

「確かに管轄外ですが、そうも言ってられない場合もあります。そもそも、私達を宇宙警察と認識できている貴方も、ただの地球人ではないですね」

 少し喧嘩腰になってきて、雰囲気が悪い。

「クライドちゃん。ここは私に任せて」

 トレントはクライドと赤髪の間に割って入る。

「あなたは多摩川さんと、どのような関係なのですか?」

「私はご主人様の……愛の奴隷」

 赤髪の女性が伏し目がちに顔を赤らめて、恥ずかしそうに言う。

 クライドは頭を右手で頭を押さえる。

 イカれた建物にイカれた住人。

「それは良くないと思うわ。愛は双方で育む物よ」

 トレントはそれに対して目的とは関係ない主張をする

「ふっ、わかっていないな。一方的に尽くす愛もあるのだ」

 後ろから反論する声が聞こえてきた。

「旨美様」

 部屋の女性の視線を追うように振り向くクライドとトレント。いつの間にか二人の後ろに人が立っていた。

 今まで話していた人と瓜二つの赤髪の女性。違いは服装くらいだ。部屋の方の奴は赤いメイド服を、急に現れた奴は赤いゴスロリドレスにマントを羽織っている。

「お互いに高めあってこそ、最高の愛に至るのです」

「そんなものは幻想だ。むしろ尽くされてこそ気づく愛もあるのだ」

 そんな言い合いが続き、終わりが見えないと思ったクライドが止めに入る

「あのトレントさん。そんな事はどうでもいいので、本題を……」

 トレントと旨美がクライドの方を向く。

「クライドちゃん。何て事を言うの? とても大切な事ですよ」

「そうだぞ。愛を蔑ろにする人情味の無い奴は宇宙警察なんか辞めてしまえ」

 えらい言われようだ。

「えっと。確かに愛は大事です。でも、愛には色々な形があるので二人が言い争っても答えは出ません。それに今回の目的は多摩川に事情聴取――」

「そうですわ。あなた方の主が本当に愛を分かっているのか聞かなければなりません」

「えっ。ちが――」

「いいだろ。ご主人様が本当の愛をお前に教えてくれるだろう。付いて来い」

 クライドは『なんなんだコイツら。ふざけるな』と心の中で叫びながらも、結果的に多摩川の所に案内してくれるので、何も言わずに付いて行った。


 ◆◆◆◇◇◇◇


 五分ほど移動した所にある賃貸マンションの八階。

 旨美がドアを開けて「ただいま戻りました」と言いながら入り、その後に「お邪魔します」とトレントとクライドが続けて入る。

 廊下を進み、リビングへ着くとテーブルには多摩川と平瀬、グスージィが座っていた。

「ご主人様、この世間知らずのお嬢様に愛というものを教えてやってください」

 旨美の後ろには見知らぬ客が。

「誰? 愛? えーと……」

 多摩川はトレントの所へ行き、抱きしめる。

「あっ、ダ、ダメで、……すぅ」

 と言いながら、トレントもギュッと抱き返してしまう。

「愛とは言葉でなく、行動で示すものだ」

 多摩川は適当なこと言う。

 スパーンと平瀬がスリッパで多摩川の頭を引っ叩いた。

「ぐふっ」

「きっくん。なんで知らない人を抱きしめてるのよ」

「俺なりの愛の表現を――」

「ご、ご主人様。私にも」

 旨美が多摩川の袖を軽く引っ張る。

「旨美は日ごろ頑張っているからな。たまには良いだろう」

 旨美も抱きしめる。

「はふぅ」

 旨美が変な声を出して抱き返してきた。

 何故か旨美の後ろにグスージィが待機している。

「わたしも、わたしも」

 しかたがないので、旨美の次にグスージィ。

「むふふふ」

 最後に半ば呆れ顔の平瀬へ近づき、ぎゅぅーーー。

「ちーちゃんは特別な人だから」

「あぁん、んむっ」

 平瀬には抱きしめながらキスをした。

「な、な、な、何だこの茶番は!」

 何か怒っている男がいる。

「すまん。まだ、男を抱けるレベルには達していない」

「ち、ちがう、違う。そうではない。トレントさんも何か言ってください」

 クライドがトレントを見ると顔を赤くして呆けていた。

「あーーーっ。使えねぇー上司が!」

 クライドが頭を抱えて地団駄を踏んでいる。

「旨美。こいつら誰だ?」

「愛を知らない、心の貧しい者達です」

「そうか。とりあえず、飯でも食わしてやれ」

「分かりました。ご主人様」

 とりあえず、二人をテーブルに座らせる。

 クライドは頭を掻き毟り、トレントは真っ赤になった顔を両手で隠していた。


 ◆◆◆◆◇◇◇


 飯を食わせたら、少し落ち着いたようだ。

 コーヒーとお茶請けにクッキーも出してやる。

 改めて、何者か聞いた。

「私の名はクライド・アースキン。宇宙警察の六級刑事だ」

「私は二級刑事のトレント・ウィンソープです」

「宇宙刑事ですか。変身とかするんですか?」

「するわけ無いだろ。そりゃあ、俺だって憧れてたよ。でも、現実にあんなのは無いんだよ。実際は今回みたいに、聞き取り調査みたいな地味なものばっかりなんだよ」

 何故か突っ伏して泣いている。大丈夫かクライドさん。

「で、どのようなご用件で」

 クライドがガバッと体を起こしてこちらを睨む。

「多摩川さん。あなた宇宙港を頻繁に利用していますね。地球人にしては余りにも頻度が多すぎる。っていうか、なんで一介の学生が宇宙港の存在をしっているんだ? それに、宇宙港の使用は決して安くない。金の出所もあやしいぞ!」

「えーと」

「クライドちゃん。そんなに捲し立てなくても大丈夫ですよ。多摩川さんは悪い人ではないわ」

 トレントはクッキーをポリポリと美味しそうに食べている。

 クライドはトレントがあまりにもちょろい人だったので、がっくり肩を落としていた。

「多摩川さんも一遍に質問されては困りますよね」

 トレントさんは多摩川に対して親しげに笑顔で語りかけてくる。

「分かりました。ではまず、宇宙港を知った切っ掛けを聞きたい」

 クライドが「記録を取らしてもらうぞ」と携帯端末をテーブルの上に置く。

「宇宙港を知った切っ掛けですか。えっと――」

 多摩川は酔っ払って宇宙人の乗る電車に迷い込み、そこでダミアンと知り合ったことを伝える。そして、その電車で披露した芸を甚く気に入った人が、もう一度見たいと宇宙へ招待されたと伝える。

「なるほど。費用は相手が?」

「はい。仲間の分も相手持ちです」

「かなり頻繁にあちこちの宇宙港を使用していますが?」

「そんなに使ってますかね?」

「きっくん。ライブツアーじゃない?」

「あー。ライブツアーか」

 平瀬に言われて思い出した。

「ライブツアー?」

「はい。芸を披露した後で招待してくれた方と食事をしたのですが、話が盛り上がってライブツアーを行うことになりました。我々だけでは無く、いくつかのグループと合同のライブです。ナーベン銀河内の主な惑星を一年くらいかけて回りましたね」

「その期間は?」

「去年の十一月からです」

「ふむ。あれ、一年って言ってなかったか? それっだと、まだ、三、四か月しかたってないぞ?」

「はい、今ライブツアー中ですね」

「なんで此処にいるんだ? これからまたライブツアーに出かけるのか?」

「えーと、今ライブツアーをやっている俺が、今年の十一月にツアーを終えて、去年の十一月に飛ばしてもらいました。そこから地球で生活しているのが此処にいる俺です」

「……はぁ?」

「休学とかしたくないんで過去のライブツアーに出発する日に飛ばしてもらったんです」

「そんなの無理だろ。いい加減なことを言うな」

「そう言われても実際に、竜之介に飛ばしてもらってるし」

「竜之介?」

「はい。ドラゴンの竜之介です」

「ドラゴン? ドラゴンって言ったか? それこそあり得ない。竜種は最上位種だ。獣人にそのようなことをする事は無い。嘘もいい加減にしろ」

「おい、ポリ公。その考えはナーベン銀河内での考えだろ。地球では大きなトカゲだ。ご主人様を侮辱すると引っこ抜くぞ」

 旨美がクライドを睨みつける。何を引っこ抜くつもりなのかちょっと怖い。

「旨美だまってろ。とにかく、疑うなら竜之介に会って聞いてくれ」

「竜種に話なんか聞けるか!」


「トレントさん、何か聞いておくことは?」

 クライドが振るとトレントが身を正し、多摩川に向き合う。

「では、多摩川さん。一つお伺いします」

「は、はい。何でしょう?」

「多摩川さんは何で複数の女性を囲うような不純な生活をしているのですか?」

「「へ?」」

 多摩川とクライドが変な声を上げる。

「えっと、旨美とグスージィ様は人間ではないので、恋愛対象にならないというか……」

「つまり、恋人はこの黒髪の女性だけだと?」

「はい。俺の恋人はちーちゃんだけですよ」

「た、多摩川さん、鬼畜です」

「えっ?」

「恋人以外の女性は人と認めないのですね……」

「ち、違います。旨美もグスージィ様も体は機械人形です」

「人形扱いなんて、おもちゃ扱いなんて酷すぎです」

「ふふっ。ご主人様のおもちゃ。それもありですね」

 旨美が変なことを言い出す。

「あーっ、もう。旨美の本体を連れて来ます。人型旨美はスタンバイに移行」

「えーっ。あまり見せたくないですが、命令ならば仕方ないですね」

 多摩川は席を外しキッチンへ行く。変わりに旨美が席に座った。

 キュウゥゥン、という音と共に旨美は目を瞑り微動だにしなくなる。

 戻って来た多摩川は赤い炊飯器を抱えていた。

「これが旨美の本体です」

「ああ、ご主人様に抱きかかえられて幸せです」

 炊飯器が喋っている。

 多摩川が炊飯器を撫でた。

「あっ、あっ、ご主人様。止めて下さい。そんなことされたら――」

 炊飯器がピーッと蒸気を吹いた。

 トレントとクライドが炊飯器を見せられて戸惑っていたので、早々に元に戻した。


 ◆◆◆◆◆◇◇


「ここにいると頭がおかしくなりそうだ」

 クライドが頭を抱えながら言う。酷い奴だ。

「とっとと終わらそう。ダミアンって人に会って話を聞きたい。どこにいるか分かりますか?」

「どこだろ。白鳥商会の本社かな? 旨美、分かるか?」

「ご主人様。ダミアンは今、支店の立ち上げで惑星オーデンにいます」

 旨美の量産タイプ、通称レイミーこと赤の三号がダミアンの監視、いや、サポート要員として送られている。

 ダミアンの動向はレイミーから旨美へ逐一報告されているようだ。

「あ、そうなんだ。スケジュール分かる?」

「一週間滞在してから、本社へ戻るみたいです」

「オーデンは行き難いから、本社に戻る途中で会うのがいいかもしれませんね」

「まてまて、惑星オーデンとは? あまり聞かない星だな」

 クライドが携帯端末のマップで検索している。

「レベルが低くて、銀河帝国の傘下に入っていない星です。確か傘下に入っている惑星でで一番近いのが惑星ケームティだったかな」

「なに? 私たちの所属する第七六三警察署のある星だぞ。そんな未開の星が近くに……あるな。確かに、宇宙規模で言えば近いか」

「行き難いですよね。なので――」

「さっきから行き難いって言っているが、行ったことがあるのか? 何の目的で?」

「あはは、当たり前だ。多摩川は惑星オーデンのユー・デ・タマガー王国国王だぞ。本来、そんなに気軽に話せる相手では無いと知れ」

 グスージィがクッキーを齧りながらクライドを睨む。

「こ、国王?」

 クライドとトレントが多摩川の方を向いて固まる。

「オーデンの三女神の一人である、このグスージィが認めたのだ。間違いない」

「め、女神?」

「意識体として存在していた女神様に機械人形の体を依り代として使ってもらってます」

「多摩川は私のお気に入りだ。あまり不遜な態度をとると、ぶち込むぞ」

 グスージィは頬杖をついて、ニィと笑う。何をぶち込むのか気になる。

「えっと、ひょんなことから統治する事になってしまって、先日、即位してきました。あーっ、でも、地球では一学生ですから」

 トレントが「王様なら側室がいて当たり前ですねぇ」とか言い出す。

「分かりました。いや、正直よく分からない。多摩川さんが本当に国王なのかも含めて、一度、惑星オーデンへ行って確認してきます。また、こちらにお伺いするかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」

「これから行くんですか?」

「はい。これも仕事なので」

「では、一人案内役を付けましょう。旨美」

「はい、ご主人様。甘美と連絡を取りますので、少々お待ちください」

 それから五分ほどして、旨美がマントを広げると青い髪の女性が現れた。

 青髪量産機、青の六号。青いメイド服に胸には『青ノ6』という名札が張られている。

「お待たせしました、ご主人様」

「うん。トレントさん、クライドさん。この娘を連れて行ってください。量産機同士で通信ができるので、向こうに着いた時の対応がスムーズになります」

「ありがとう。協力に感謝する」

 クライドがそう言いながら玄関へ向かう。それを追うようにトレントも着いていく。

 多摩川は玄関まで見送る。

「多摩川さん。色々ご迷惑をおかけしました。名残惜しいですが失礼します」

 トレントはそう言っているが、多摩川の手を掴んで離さない。

 何か言わないと離してもらえそうに無い。

「いつでも遊びに来てください。歓迎しますよ」

「ありがとうございます」

 トレントが手を滑らすようにゆっくりと離れて行く。

 イラついたクライドがトレントを引っ張って行った。


「もう、きっくんが変なことするから、トレントさんの様子がおかしかったわよ」

 平瀬が厳しい目つきで多摩川を見る。

「以後気を付けます。しかし、宇宙警察か。そんなのがあったとは。やっぱり、帝国の傘下に入っているのが対象なんだろうか?」

「ご主人様。正式には宇宙警察連盟です。加盟すれば対象地区に入ります」

「そうなの? 惑星単位なのかな?」

「国としてでも加盟できますね。自前で刑事を用意する場合は宇宙警察学校を卒業する必要があります。そうでなければ派遣してもらうことになります」

「なるほど。ユー・デ・タマガー王国で加盟しとくか。何かあった時の為に」

「分かりました。調べて手続きを進めます。駐在所を作りますか?」

「城の近くに交番作って、王宮ビルの空き室に住んでもらおう。格安で」

 平瀬はその考えを聞き「アコギだ」と呟いた。


 ◆◆◆◆◆◆◇


 クライド達は惑星ケームティから警察の小型宇宙船で惑星オーデンまで行く。

 少々時間がかかったが、惑星オーデンに無事到着。

 クライドとトレントが甘美の案内で主要な人物達に会い、聞き取りを行う。そして、ライブツアーと国王の件を理解する。

 聞き取りを終えた二人は惑星ケームティまで戻り、ツイード署長に報告した。

「ご苦労だったな」

「みんな良い人達だったので、思ったよりスムーズでしたよ。ね、クライドちゃん」

「そうですね。私からすると少しクセが強すぎですが。調査が終わってホッとしています。できれば当分会いたくないですね」

「そうか。まあ、しばらくゆっくりしてくれ。あと、これな」

 そう言ってツイードが二人に書類が渡された。

「何ですか、こ……」

 クライドが書類を見て固まる。

「どうしたの? クライドちゃん」

 トレントは震えているクライドを見てから、自分も書類に目を通す。

「え?」

 そこに書かれていたのは異動の辞令と昇級。

「一か月後に惑星オーデンのユー・デ・タマガー王国に駐在してもらう。それまでは外回りは無しだ。身辺整理しておいてくれ。ワンランク昇級は無理な人事異動を飲んでもらう対価だ」

「でも、数日前まで宇宙警察の事も知らなかったはずですよ。加盟してない国に派遣すると言うことですか?」

 トレントは意外と冷静に受け止めている。

「わしにも分からん。異例の速さで加盟している。あの国はやばいかもしれないな。まあ、決定事項だから諦めてくれ」

 クライドは衝撃の辞令と寝不足でぶっ倒れた。


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