19.贈り物
俺にはドラゴンの知り合いがいる。名前は竜之介。
こいつは凄い奴で、竜の加護を貰った俺は病気にならず、怪我も一瞬で治る。多少寿命も延びたらしい。まあ、怪我以外は確かめようが無いので真偽は不明だが、怪我が一瞬で治るのは確認済みだ。
あと、竜之介は時空間魔法が使える。最近、おかしな事に巻き込まれるので、その力を借りる事が多い。
そんな凄い能力のある竜之介だが、ただでは力を貸してくれない。
俺は力を借りた見返りに体を洗ってやっていた。体長が約十メートルもある体を洗ってやるのは一苦労だが、安い物だと思う。
だか、先日は他の物を要求してきた。
『たまには美味いものを食ってみたいのう』
ドラゴンの好物って何だろう。まさか、人間とか言わないよな……。
「美味い物って何だよ?」
『ほれ、お前の所の調理器具が、なにやら評判の料理を作っているそうじゃないか』
あー。旨美の事だな。
最近手に入れた炊飯器が進化して人のように話す。旨美と言う名前をつけた。
この炊飯器は四次元釜と言うとんでもない物を持っており、場所が特定できれば何処からでも食材を取ってこれるし、料理を提供することもできる。料理する空間も無限。
このとんでもない性能を使って商売をしているようだ。
旨美に竜之介用の料理を頼んだ。
俺の命令を忠実に聞く旨美は、少し間を開けてから「分かりました」と返事が返ってきた。
なんか声のトーンが何時もより低い。しぶしぶ引き受けたという感じだが、気にしないでおこう。
◆◇◇◇◇◇◇
「竜之介の料理を作ってくれないか」
ご主人様に言われれば、断る事はできません。
ただ、ご主人様に体を洗わせるような奴に料理を作るのが納得できない。
料理は提供するが、文句の一つも言ってやろう。そんな事を考えながら料理をする。
ドラゴンが食べるのだから人間の料理のサイズでは何食分も作る必要があるので面倒です。ここは四次元釜ならではの料理をしましょう。
内臓を取り除いて下味をつけた豚を数頭用意します。
業火の上に、油を引いた大きな中華鍋を置きます。
鍋へ全ての豚を投入。
中華鍋を前後左右に揺らし、鍋の中で豚達が、踊る、踊る、踊る。
旨美の特製タレを絡ませながら豪快に、炒める、炒める、炒める。
巨大なお皿へ盛り付ける。
旨美さん特製“丸ごと豚のしょうが焼き”のできあがり。
『料理が出来ました』
旨美は出来上がった料理を竜之介の前に出す。
会話は多摩川の能力強化装置を通して行っている。
「ほう。これが噂の料理か。どれどれ」
ドラゴンの大きな口で、まず一口。
眼を瞑り、モグモグとじっくり味わう。
ゴクンと飲み込んでから一息おいて、眼をゆっくり開ける。
「うむ。これは美味い。評判になるのが分かるな」
言うや否や勢いよく残りに喰らい付く。
『美味いのは当たり前です。あたしはご主人様の為に日々努力をしているのですから。貴方のように事ある毎に見返りを要求しません』
『我は、モグモグ、正当な対価を、モグモグ、要求しているだけだが?』
竜之介はよほど気に入ったのか、食べるのを止めない。
『ご主人様に過剰な労働を強いているのが正当な対価だと?』
『うむ。それに我は偉いのだ。竜族は種族の頂点に位置するんだぞ』
『それは、あなた達の世界での話ですよね。ここ地球ではドラゴンなんて研究材料にしかならないのでは?』
『ぬぐぐぐぐ。そんな事は無いと思うが、確かに地球ではドラゴンがどれだけ偉大なのか理解している者は少ないだろうな』
『全てに見返りを求めるなとは言いませんが、過剰な要求は控えて頂きたい』
『過剰な要求はしていないと思うが……』
多摩川は数日後には地球を離れ、長期間帰ってこないらしい。なんでも、一度披露した演武が好評で、その公演のツアーが決まったそうだ。
竜之介は暇な時に多摩川の行動を見ていた。色々やらかしてくれるので見ていて飽きない。
その多摩川が長期間いなくなるので、大分暇になると考える。
暇潰しに、何か多摩川に役立つ物を捜しに行ってみるか、などと考える。
『よし分かった、たまには何かプレゼントをして、我の偉大さを示してやろう』
竜之介は残りの料理を一気に平らげると、すぐに行動へ移した。
◆◆◇◇◇◇◇
時空のトンネルをゆるゆると高速で進むドラゴンがいる。
竜之介だ。
多摩川に何か良いものはないかと考えるが、何も思いつかない。
誰かに相談と思ったが、そんな相手があまりいない。
「さて、誰に相談したものか……。そうだ、叔父貴が中央にいたな」
とりあえず、母星に戻る事にした。
向かう惑星はチ・ヤーンカ。
時空間魔法を使える竜之介だが、さすがに地球からチ・ヤーンカまでは距離がありすぎて、一回の転移では移動できない。また、エネルギーの消費も激しいので連続して使用するのは困難である。
そう考えると、原理の異なる転送を使ってナーベン銀河内に料理を提供している旨美をとんでもないバケモノだと思ってしまう。
ということで、少し時間は掛かるが、時空トンネルを使うことになった。
地球時間で三日くらいで着くだろう。
帝星チ・ヤーンカはナーベン銀河帝国の首星である。
帝国は銀河内の生命の存在する惑星をほぼ把握していて、文明レベルを七段階でランク付けされている。
ランクが上がれば税率も上がるが、それに見合った援助が帝星から受けられる。
援助を得て、その星が発展すればランクも上がるので税率も増える。
帝国としても援助を惜しまない。
また、支配惑星の監視も厳重に行っていて、ランク付けがされた時点で帝国軍の駐屯地が作られる。
帝星チ・ヤーンカには大きな大陸が二つある。一番大きな大陸を竜族が支配していて、もう一つを竜人族が支配している。
竜族が支配する国、トゥリヌ・トゥクヌは広大な草原になっており、大きな建物はあまり無い。体の大きな竜には邪魔なのだ。
竜族は物質的な物よりも知能や精神を主に向上してきた。その結果の一つが時空間を操れるようになったのだが、土地は発展していない。未だに草原の上で過す者も多い。
上級種族である竜には従者が付くことがある。従者となる種族は中級種族の竜人族だ。竜ができない細かな作業や身の周りの世話などを従者が行う。地上にある建物は従者用なのだ。交通網も地下にあり、これも竜人族用だ。
竜人族が支配している国、ニック・ディ・アング。
竜人族は直立二足歩行で身長は平均二百五十センチメートル。竜族を尊敬し、従者として仕えるには様々な試験をクリアしなければならない。
トゥリヌ・トゥクヌとは違い、都会では高層ビルが建ち並び、娯楽施設も充実している。
そんな何も無い国、トゥリヌ・トゥクヌだが、国を支える業務が行われている都市では話が違う。
中央都市トゥークオには惑星管理局があり、各惑星の情報が集められている。
竜族が使用するサイズの建物が立ち並び、多くの竜がそこで作業している。
大きな机の上に置かれているのは巨大なモニターとキーボード。
ドラゴンはモニターの前にお座りをして画面を見ている。
コンピューター本体は各フロアに一台。各席が端末となっていて、そのコンピュータにログインして使用する。
端末がずらりと並んでいて、多くのドラゴンが帝国の傘下にある惑星の管理をしている。
その中に、竜之介の叔父にあたるドラゴンもいた。
モニターには幾つものウィンドウが表示されており、そこには惑星の状況が表示されていた。モニターはタッチパネルになっている。
「惑星ケームティの発展状況が予想より下回っているな。詳しい状況は」
ドラゴンはキーボードをカチャカチャと叩く。
「資源が足りていないか。少し後押しするべきかのう……」
惑星ケームティに近い惑星を検索するも、該当する惑星がない。一番条件に近い惑星が管理外だ。
「いい資源があるのに内戦などで無駄遣いしおって」
帝国の管理外なので手が出せない。手を加える事も考えるが、それは最終手段だ。
どう対応するか考えていると、モニター上に小さなウィンドウが開き、メッセージが表示される。受付に客が来ているらしい。
「はて、予定は無かったが。まぁ、いいか」
いい気分転換だと、一旦ログアウトし、受付に向かった。
◆◆◆◇◇◇◇
竜之介は時空の狭間から管理局の上空へ出る。
何百年ぶりの母国だが、管理局のエリアは大きなビル立ち並び、見ているだけで息が詰まる。そのエリアから少し離れると草原が広がる風景になる。
叔父の勤めているビルへ向かい、受付で呼び出してもらう。
しばらく待つと懐かしい声が聞こえてきた。
「久しぶりじゃな」
竜之介の叔父だ。
「叔父貴、久しぶり。仕事はいいのか?」
「うむ。適度に休憩は入れないとな。元気そうじゃないか」
「ああ、のんびりやってるよ」
そんな挨拶程度の会話をして、休憩室へ移動する。
「叔父貴、大丈夫か? 凄く疲れた顔をしているけど」
「問題が尽きないからな。まあ、それを解消するのが我々の役目なのだが。で、何のようじゃ?」
「まあ、大した用ではないんだけど、面白い奴を見つけてね」
と、これまでの多摩川のエピソードを少し大げさに話す。
「ほう。世の中には妙な物を引き寄せる者がいるのう」
「見ていて飽きないぞ。多摩川には少し世話になっていたりするので、何かお返しを考えているのだが何か良い物はないかな?」
「お前なぁ。上級種族である我らが下級種族にお返しなんかせんぞ」
「叔父貴の言う事もわかるが、多摩川の住む世界ではドラゴンが伝説上の生物で身分とか無いのだ。媚びるつもりは無いが友人として付き合っていくメリットがあると思うのだ」
「うーむ。そこまでの者とも思えんが――」
「そうだ。これを忘れていた」
竜之介は旨美から貰ったランチョンマットを広げる。ドラゴン用なので非常に大きい。
数秒ほどで料理が数品現れる。
「おお、なんじゃ。これは美味そうじゃな」
「多摩川に仕える炊飯器が作った料理だ。この銀河内で商売をしているようで、評判も高いらしい。まあ、食ってみてくれ」
「ふむ。では頂いてみるか」
叔父貴が料理をガツガツと凄い勢いで食べる。
「うむむ。美味いぞ。炊飯器で、これほどの料理が出来るとは。わしも買おうかのう」
「あの炊飯器は多摩川専用に進化したようで、この世に二つと無いものなのだ」
「そうか、残念だのう。しかし、なるほど。その多摩川と信頼関係ができていれば、このようなメリットも生まれるという事か」
「そうなのだ。何か良いのはないかな?」
料理を食べながら考える叔父貴。
「おぬし、惑星一つ管理してみないか?」
「何を言い出すのだ、叔父貴。我は管理局に勤めている訳ではないから、そんな事はしないぞ。やりたくもないし」
「いや、その惑星は管理外のやつでな」
「管理外なら余計に不味いであろう」
「まあ、聞け。その惑星は資源が豊富のようだが、戦争ばかりしていて、レベルが上がる気配が一向にない。資源も無駄遣いしておる。せめて戦争がなくなればと思っておるのじゃ。そこでじゃ。おぬしが行って戦争を止めるように導いて欲しい」
「無理だし。帝国が管理外の惑星に手を出したら駄目じゃん」
「ナーベン銀河外の多摩川の為に、おぬし個人が勝手に導くのじゃ。帝国は関係ない」
「ひでぇ」
「その惑星は、ある一国が悪さをしているようでな。無くなれば大分変わると思うのだ。滅びた国を好きなようにしろ」
「うーむ。つまり、多摩川に一国くれてやれと……」
「獣人族の奴らは、そういうの好きらしいから丁度良いじゃろ」
確かに獣人族は地位や名誉を好む。それが一国の王となれば言う事なしだ。竜之介はそう考え、叔父貴の申し出を受けることにした。
次に向かうは惑星オーデン。
◆◆◆◆◇◇◇
惑星オーデンは四つの国が支配していて、様々な種類の獣人が生活をしている。
比較的多い獣人は狼人族、猫人族、猿人族、緒人族だ。他にも鼠人族や兎人族、熊人族等など多くの獣人がいる。
三つの大陸があり、一番小さい大陸を支配している国がティ・クァーブ神皇国。この国は他国にはできるだけ干渉しないようにしている。
一番大きな大陸はストゥルムーゲ連邦共和国とガン・モードック王国という二つの国が領地を争っていて、約二百年の間戦争が続いている。
そして、残る一つの大陸をハンペイン王国が支配している。
実はこのハンペイン王国がストゥルムーゲ連邦共和国とガン・モードック王国へ裏で武器や防具を供給していて、軍事バランスを微妙に操り戦争を長引かせて利益を得ている。
惑星オーデンのに着いた竜之介はハンペイン王国の上空から地形を確認する。
大陸の中央辺りに王都と思われる場所があった。そこより少し離れた所に開けた場所があり、そこへ降りた。
いきなり城をふっ飛ばしても良いのだが、ここは上級種族らしく紳士的に話し合いから入る事にしたのだ。
しばらく待つと、軍隊らしき一団がぞろぞろとやって来た。
鉄の鎧で統一された猪人族の人達の中に一際目立つ黄金の鎧のものがいる。
指揮官だろうか。
よし、交渉の開始だな。と、思った矢先に軍隊が弓や投石器でガンガン攻撃してきた。
竜之介は防御陣を展開しているので、攻撃が当たる事は無い。だが、非常にウザイ。
「先ずは話を聞けーーーーー!」
威圧してやると攻撃が止む。
指揮官が股間を抑えて後方へ消えていった。漏らしたか? ちょっと威圧しすぎたかも。
少しして、何事も無かったように指揮官が戻ってくる。だが、明らかに鎧の下半身が別物になっている。
「話は通じるようだな」
指揮官が一歩前に出てきた。
「当然だ。ドラゴンは上級種族だからな」
「上級種族というのがよく分からないが、まあ、いい。この地に何の用だ」
「うむ。まず、交渉の前に我の力の一端を見せてくれよう」
どうも軽く見られていると思った竜之介は、顔を上へ向ける。その目の前に集中し、そこに光が集まる。バチバチと音を立てて徐々に大きな球体となる。首をクイッと動かすと、光球が人のいないエリアへゆっくりと弧を描いて飛んでいく。
ドオオォォォン。
地に落ちた光球が爆発し、凄まじい爆風が襲ってきた。何人か飛ばされている。
「我の力を示すには少し物足りないが、このくらいにしておこう」
ドヤ顔で言う竜之介。青ざめる指揮官。
「我の望みは簡単だ。この国を我に渡せ。三日猶予をやる」
「な、何を無茶な事を」
「王族がいなくなればよい。我等に従いたくない者は、王族と共にこの国から立ち去れ。建物ごと吹き飛ばしても良いのだが、他の者への被害が大きいからな。三日経っても王族が居座るなら、王都を吹き飛ばす。交渉は以上だ」
「それは交渉と言いません。そもそも、なぜ我が国なのですか」
「他の国へ悪さをしているとの噂を聞いたぞ。それが、この星の発展を妨げている」
「そんな根も葉もない噂を誰から――」
「我が信頼する者から聞いたのだ。惑星管理局局員だから信頼度も高い」
「惑星管理局? 何ですか、それは。そんなものは無いですよ」
「ナーベン銀河帝国帝星チ・ヤーンカにある」
「妄想が酷すぎまて、何を言っているのか理解できません」
「ええい。とにかく、猶予は三日だ。これ以上話すことは無い」
疲れた竜之介は、その場で休む体勢になる。
途方に暮れる指揮官。
妄想ドラゴンは交渉という名の強要をしてきて、こちらの話を聞く気が無い。
武力を行使しようにも攻撃が当たらない。というか、ドラゴンの方が攻撃力が高く、本気を出されたらものの数分で全滅するだろう。
指揮官は仕方なく兵を引き上げるのだった。
◆◆◆◆◆◇◇
ハンペイン王国の城内にある会議室。
円卓を囲んでいる面々に緒人族のハンペイン王が怒りを露わにする。
「何故、予が国を追われねばならんのだ」
ハンペイン王国は緒人族が多いが、当然他の種族も住んでいる。そして、それはこの会議においても同じである。狼人族や猿人族等いろいろな種族がいる。
この国は王の直下に六つの組織があり、各組織のトップと王の七人で会議が行われていた。
国防組の組長は狼人族で、名をガウ・マスタードという。軍事力を持つ組織の組長である彼は王の次に影響力がある。
国の財産を管理する財務組の組長ブー・ユズは緒人族で王の甥にあたる。
外国との交渉などを行うのは、外交組の組長フガ・コショーも緒人族で王の甥だ。
ハンペイン王国国王ブー・ハンペイン三世はユズとコショーの三人で外国へ武器の輸出を行い戦争を長引かせて利益を得ていた。
他の幹部はその行為に否定的だったが、国のトップが行っている事もあり強く言えないでいた。
「王の言う通りです。軍は何をしておるのだ」
ユズが口を挟んできた。王と共に甘い汁を吸ってきた生活が危ぶまれているのだ。
マスタードが説明しているのに理解してくれない。
「何度も申しておりますが、こちらの攻撃が全く効かないのです」
「全く効かないと言う事はないであろう」
王の理解力の無さにマスタードのイライラが募る。
「全く効かないのです。そもそも、こちらの攻撃は見えない壁のような物で遮られ届かないのです」
「本当に? ちょっとは当たってるんでしょ」
「だから、届いてないんです! しかも、向こうは一撃で城を、いや、街を吹き飛ばす攻撃力があるんです。戦いにすらならないんですよ」
「では、どうするのだ?」
「我々にできるのは被害を最小限にする事です」
「して、その方法は?」
「相手は知能が高いと思われます。下手な小細工をしても見抜かれるでしょう。向こうの要求を受け入れるのが一番被害が少ないかと」
「その要求とは、どんな内容だったかな」
「この国を支配する王族の国外へ排除し、代わりに彼がこの国の王となる事のようです」
「何故、予が国を追われねばならんのだ」
「王の言う通りです。軍は何をしておるのだ」
マスタードはいい加減にしてくれと頭を抱えた。
伝説の生物が絶対的な力を見せつけてから要求を突きつけてきた。
対抗できる術は無く、被害を最小限にするには要求を呑むしかない。大半の者が……いや、国外へ追放される王族以外はそう思った。
そうなるとやる事は一つ。
王族を縛り上げて竜之介の前に差し出した。
ハンペイン三世の怒りは、当然、竜之介に向けられる。
「お前が邪悪なドラゴンか。何故このような事をするのだ」
「なんじゃ、こいつは……。ああ、お主がこの国の王か」
「『ああっ』ではないわ! 貴様の所為で予がどれだけ迷惑を被っているか」
「アホか。お主の所為で迷惑を被っている人の方が多いだろ」
竜之介は呆れながら、横にいる狼人族に目を向ける。
「で、我に何をして欲しいのだ? ブレス一吹きで王族など一瞬だが?」
さらっと怖い事を言う竜之介に王達が蒼ざめ、慌ててマスタードが答える。
「お待ちください、ドラゴン様」
「我の名は竜之介だ」
「竜之介様ですか。私は国防組長をしている、ガウ・マスタードと申します。王族には国外へ退去してもらいますので、命を取るのは御容赦して頂きたいのですが」
「そうか。面倒くさそうな奴なのであまり関わりたくないな。直ぐに実行せよ」
そう言われたガウ・マスタードが指示を出すと王族がどこかへ連れて行かれる。なんでも、港に船が用意されていて、王族が到着次第、出航するらしい。
マスタードは竜之介に今後の事を聞く。竜之介が王となりこの国を統治すると思っていたからだ。
だが、返ってきた答えは、彼の友が統治し竜之介はサポートに回ると言う。
友の着任までに時間が掛かる為、その間は竜之介が指示を出す。
とりあえず、城の近くに竜之介の居場所を作ることになった。
◆◆◆◆◆◆◇
多摩川一行はライブを終えて地球へ帰ってきた。大学へ普通に通う為、竜之介の時空間魔法で地球を発った次の日へ飛ばしてもらう。
戻った日から数日後、竜之介が意気揚々とした声で話しかけてきた。
俺の体内に埋め込まれている能力強化装置を介して。
『多摩川よ。お主の為に国を盗ってきたぞ』
何を言っているのかよく分からない。『くに』ってなんだ? ……くぎ、釘かな? 釘を持ってきたのか。でも、そんなの頼んでないよな。いらないとか言って機嫌を損ねるのも悪いし、ここはありがたく貰っておくか。
「そうか、わざわざ済まないな。で、どれくらい持ってきたの?」
『ん? 一つだが』
「ひとつ……」
一つって、釘一本ってことか。いや、それはないか。一箱ってことかな?
そんな感じで悩んでいると。
『ふっ。さすが多摩川。一つでは満足せんか。わかった。全て盗ってこよう』
そう言って、話が途切れた。
「全てってどういうことだ? うーむ、分からん」
多摩川は足掻いても何もできないと考え、放置することにした。
数日経って、そんなやり取りを忘れかけていると、竜之介から再び連絡が入る。
『多摩川。申し訳ないが王がいなくては軍を動かせないそうだ』
いきなりである。何をいているのか一ミリも理解できない。
「王? 軍? 何を言ってるんだ?」
『我の力で盗ってもいいのだが、国力を示した方が後々良いと思うのだよ』
「だから、何を言っているんだ?」
竜之介が暴走気味なので、落ち着かせて話を聞く。
話を理解した俺は事の重大さに震える。
「いらん。何で俺が王様やらなきゃいけないんだ。断固として拒否する」
『しかし、既に王族を国外に追放してしまったぞ』
「なんて事してくれてんだ!」
『そういう訳だ。諦めて王位に即け』
「無理無理。大体、俺まだ学生だし」
『学びながら働いているのもおるだろう。国外追放した王族を好ましく思っていなかった者も多かったようで、今更戻られても困るようだ。お主が行くしかないだろ』
「絶対嫌だーーーーー!」
竜之介との言い合いも結局敗北に終わるが、卒業までは待ってもらう事になった。
その間は竜之介が代理で統治する。
ただ一回、顔見せだけはしておこうという話になり、次の連休に惑星オーデンへ行く予定だ。
ハンペイン三世が国外に追放されたことで国名が変更となる。
タマガワの国と言う意味で名付けられた、その国の名はユー・デ・タマガー王国。
という事で、おでんの具のはんぺんがゆで卵に……もとい。
惑星オーデンのハンペイン王国がユー・デ・タマガー王国になりました。