10.龍宮は騒がしい 前編
少し長いので前編と後編に分けました。
俺の名は多摩川菊斎。多摩川が苗字で、菊斎が名前だ。
変な所で区切らないように。
床園大学の一年生だが、今は夏休みなので講義はない。
暇だと信濃柳都に連絡したら、旅行にでも行くかという話になった。
運転できる最上隼にも連絡を取り、男三人で一泊二日の旅行をする事になった。
ちなみに信濃と最上は大学の同じ学科の友人だ。
車は信濃の親父さんのを借りた。メタリックブルーの軽ワゴン。
親父さんは一週間ほど出張で、その間だったら使っていいとお許しが出たそうだ。
「お前ら、免許は取らないのか?」
俺は助手席で揺られながら考える。
免許か。あると行動範囲が広がるし、荷物も運べるから便利とは思っているのだが。
「うーん。学生の間に取りたいと思っているんだけどな。通うのが面倒くさい」
「確かにな。合宿でとったら?」
「合宿か。それもありだな。信濃、一緒にどうだ」
信濃は口を空けて、気持ち良さそうに寝ていた。
時々、渋滞に嵌りながらも目的地へ向う。
海岸沿いの道に出ると少しテンションが上がった。
「おー、海だ。水平線が見えるぞ」
俺の声を聞いた信濃が起きる。
「ん。着いたのか?」
「まだだよ。それより海だぞ、信濃」
「おっ、海か。いいな。折角だから、寄っていこうぜ」
「そんな急に……」
急に寄ろうと言われて戸惑った最上だが、駐車場が視界に入る。
「あっ、あそこに止められるな。じゃあ、少し寄っていくか」
海岸は遊泳禁止なのか人は疎らだ。
水平線を見ながら最上が背伸びをしている。
「んー。天気もいいし、気持ちがいいな」
「人が少ないな。……何だ、あれ?」
海岸を見渡していた信濃が顔を止める。
その先には野良犬だろうか、三匹ほどが何かを囲んでワンワン吼えていた。
「行ってみるか」
俺は暇つぶし気分でそちらへ歩き出す。
「だ、大丈夫なのか?」
「何が?」
「あれ、野良犬っぽいけど。危険じゃね?」
「あー。へんな病気とかあるかもな。咬まれるなよ、信濃」
「お前もだろ」
「んー。俺と最上は大丈夫かも」
「えっ。何で?」
「加護持ちだから」
「何だそれ。妄想かよ」
そう思われても仕方が無い。だが、俺と最上は変な世界に迷い込み、色々あってドラゴンから加護を貰ったのだ。
ちなみに俺は、それに加えて高速処理がある。宇宙人に何か埋め込まれてからだが、集中状態に入ると周りの動きがゆっくりに見えるのだ。
ただ、これだけ聞くと高スペックな人間だが、基本的には運動音痴である。
大学に入ってから草野球チームに入ったが、守備位置さえよくわかっていなくて、皆に笑われてしまった。
まあ、そんな訳で自分の意思とは裏腹に、謎の能力が身についている。
野良犬ごときには負けないのだ。
犬に近づくと中心には十五センチメートルほどの亀がいた。
とりあえず、亀を助けることにした。
シッ、シッと言いながら手を振って犬を追い払おうとするが、逃げるどころかこちらに向かって唸りだす。
「はっはっはっ。多摩川、犬になめられているな。俺に任せろ」
最上が両腕を広げて大声を出す。
「うおぉーーーーー」
その威嚇に犬は尻尾を垂れ下げ、こちらを向きながら後退る。だが、逃げるまでには至らない。
「しぶといな」
「もう一押しだぞ」
俺は最上にさらなる威嚇を要求する。
最上は息を目一杯吸い込む。
「ウー、ワン、ワン、ワン」
犬の鳴き真似をしながら犬に近づくと、三匹ともキャウンキャウンと鳴きながらその場を去っていった。
亀は特に傷は見当たらず、元気そうなので海に返す。
何もしていない信濃が「恩返ししろよー」と言っていた。
◆◇◇◇◇
休憩を終わらせ車を出す。そこから目的の旅館は近かったのだが、道を間違えて辿り着くのに少し時間がかかってしまった。
チェックインを済ませ、部屋に案内される。八畳くらいの和室の部屋だった。
「あー。やっと着いたな」
俺はテーブルの上に置いてある茶菓子をつまみながらお茶を飲んで一息つく。
「ホント疲れたよ。ナビ通りだったらこんな事にならなかったのに。信濃が曲がったほうが近いなんて言うから」
「俺が言ったのは、もう一本先だって。そっち曲がってたらもっと早く着いたはず」
「ほんとかよ。あやしいな」
「まあ、無事着いたし、いいんじゃないの。それより夕食までまだ時間あるんだし、温泉行こうぜ」
俺はお茶を飲み干し、早々に浴衣に着替え始める。
「そうだな。後でゆっくり入るとしても、飯前に軽く汗を流して運転の疲れをとった方がいいな」
「広い風呂は久しぶりだ」
二人の着替えを待って、三人で温泉に行く。
思ったより他の客もいたので、暴れたい衝動を抑えて大人しく温泉を楽しむ。
そのあとは夕食だ。
別室の広い部屋で、すでに他の客が舌鼓を打っていた。
海に近い旅館だからか海鮮料理がメインで、肉中心の生活をしていた俺達(信濃はラーメン中心)には凄く新鮮だった。
食事を終えて部屋へ戻る。
「料理は期待していなかったんだが、ここは当たりだな」
最上はそう言いながら部屋のカギを開ける。
「刺身を久しぶりに食ったぞ」
「信濃がラーメン以外の物を食べているの久しぶりに見たな」
「学食ではラーメンが多いからな。多摩川とはファミレス行ったりするから他のも食っているぞ」
「お前はファミレスでも、ラーメンを食ってるだろ」
最上が「信濃は本当にラーメン好きだな」と笑いながら部屋へ入る。すでに布団が敷いてあった。
「さすがにまだ眠くないな」
「信濃は車の中でも寝てたからな。少し食休みしてから、もう一回温泉に……ん?」
布団の敷いてある先にテーブルが寄せて置かれており、そこに緑色の変な物体がある。「あの緑のはなんだ?」
「大きいな。」
「部屋間違えた? あ、鍵開けたんだから、間違ってはいないのか」
三人で恐る恐る近づくと、それが動いた。人だ。緑色の全身タイツを着ており、目の周りだけ赤く塗っている。よく見ると背中には甲羅を背負っている。
泥棒にしては派手な格好をしている。
「仲間を助けてくれたのは君達だね」
俺は何の事を言っているのか分からなかったが、信濃はすぐに反応した。
「おー。その脇抱えているのは、犬に絡まれていた亀だな」
確かに、ここに来る途中に助けた亀を右脇に抱えている。少しぐったりいるようにも見えるが……。
「私の名はラーフ。仲間を助けてくれたお礼をしたい。一緒に来てくれないか?」
怪しい奴がおかしな誘い方をしてくる。
「俺たちを何処へ連れていく気だ? 体育館の裏か?」
「体育館というのは分からないが、我々の国に招待したい。小さい国ではあるが」
「仲間と相談したい」
「分かりました。明日の夕刻に仲間を助けて頂いた場所でお待ち致しております」
そう言って窓から帰って行った。
「アメコミの忍者亀みたいだったな」
俺達は出来の悪いコスプレを見て何かモヤモヤするものがあったが、とりあえず、今日は温泉を満喫する事にした。
◆◆◇◇◇
三人で話し合った結果、招待に応じる事にした。
泊まっていた旅館に迎えに来ていた事を考えると、無視して行かなかったら追ってくるのではないかという考えに至ったのだ。
一人の時にアレが現れたら対処できない。
チェックアウトして浜辺へ向かう。
「まあ、お礼をしてくれるって言うんだから大丈夫でしょ」
「確かに助けたの事実だから文句を言われる事は無いと思うけど」
意外と楽観的な信濃に対して、最上は懐疑的だ。
浜辺に着いて待つこと数十分。人もまばらで日も沈み始めた。
そんな太陽を背に海から何かがやってくる。バシャバシャとかなり派手だ。
数人の緑の怪しげな人達が大きな物を担いでこちらへ向かってくる。
「なんだあれ?」
「乗り物っぽいな?」
「御神輿を担いでいるって感じだね」
謎の乗り物を担いだ者達が「えっほ、えっほ」と掛け声をかけながら海から出てきて、俺たちの前まで着て止まった。
乗り物がゆっくり下ろされるとドアが開く。それを見る俺達に緊張が走る。
そこから出てきたのは昨日の出来の悪い忍者亀。だた、一箇所違うのは目の周りが青く塗られている。
「着て頂き有難うございます」
そう言いながら深々と一礼した。
「昨日の人ではないよね?」
「申し遅れました。私はクライと申します。ラーフの兄です。私達の国、龍宮王国へご案内しますのでお乗りください」
中に入ると四人がゆっくり座れる位のスペースだった。俺の横にはクライが座り、向かいには信濃と最上が座った。
両側には窓がついて外が見える。
「では出してくれ」
クライが外に向って言うと、乗り物がスッと担ぎ上げられる。そして、担ぎ手が「えっほ、えっほ」と言う掛け声と共に動き出す。
凄く揺れる。酔わないか心配だ。
「その龍宮王国へはどれくらいで着くのですか?」
「そうですね、二時間くらいでしょうか」
「みんな同じ格好をしていますね?」
信濃が思い切って聞いてみた。
「亀闘騎士団の正式なユニホ-ムです。私が団長を勤めさせて頂いています」
そういえば、担ぎ手の人達は眼の周りが黒かったな。
外の風景が陸地から海の中になる。
最初は魚の泳ぐ姿などを見て非常に幻想的な風景を見入っていたのだが、海の青い色が徐々に濃くなり、ついには何も見えなくなってしまった。
◆◆◆◇◇
しばらくの間は何も見えなくなり、雑談で暇を潰す。
少し周りが明るくなり、外を見ると洞窟のような所を通っているようだった。
それから十分ほど経ったくらいで、乗り物が海から出る。
揺られながら門を通り抜けると民家やお店らしきものがちらほらと見えてくる。人々が普通に生活をしているのを見ると、海の中を通って来たのを忘れてしまいそうだ。
お城の前で乗り物から降りると一人の男が迎えてくれた。
「本日はお忙しい中、ご足労頂き有難うございます。私は案内人を勤めさせて頂く、グラッドです」
俺達はグラッドに自己紹介をして、中を案内してもらう。
そこかしこに装飾が施された煌びやかな通路を通って行く。
着いた部屋は広く落ち着きがあった。そこには大きな長テーブルが中央にあり、その席に座る。
「この度は仲間を救って頂き大変有難うございます。ささやかではございますが、お食事をご用意いたしましたので、ご堪能ください」
見たことも無い料理が次々と運ばれてくる。
「こんなもてなしを受けていいのか?」
「折角だから頂こうぜ」
「そうそう。そういうのは後で考えよう」
俺の思いを余所に最上と信濃は御馳走に手をつける。俺だけ食べないのも失礼だろうと思い、頂く事にする。
食べ始めてから、しばらくすると歌や踊りなどが行われる。素晴らしい出し物を見ながら、美味しい料理に舌鼓を打つ。最高の一時を送った。
至福の時を送っていると、一人の女性がこちらへ来る。歳は同じくらいに見えるが、妙に品がある。青く長い髪が印象的だ。
「仲間を助けて頂いたそうですね。有難うございます」
美しい女性を目の前にして、ほろ酔いの最上が余計な事を言う。
「あれくらい、大した事無いですよ。むしろ、これだけのもてなしを受けると、もう少し何かしないといけない感じですね。えーと――」
「私はこの国の第二王女のオーツと申します。そう言って頂けると助かります。実はお力を貸して頂きたい事が有りまして」
「えっ?」
俺を含めた三人の手が止まる。やはり、そんなに美味い話はなさそうだ。
「実はこの国の一部の者達が地上へ進出するべきだと立ち上がり、内乱が起きてしまいました」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って。話がでかすぎる。俺達三人が力を貸してもどうにもならないかと……」
「あなた達に助けて頂いた亀吉は、力を貸してくれそうな人を探す目的で地上へ行きました。亀吉はあなた達から只ならぬ力を感じると言っています。どうかお力を――」
「しかし、喧嘩の仲裁とかならまだしも、内乱なんて……なあ?」
「御馳走になって申し訳ないけど、力ではどうにもならないような……」
最上と信濃もあまりにも無謀な願いに困り果てた顔になっている。
「力をお借りしたいのは内乱自体ではないのです」
「と、言うと?」
「地上への干渉をしないのは、我が国の守護神である龍神様の意向でありました。反乱軍は我が国の力の象徴でもある龍神様を罠に嵌めて無力化してしまいました」
「力の象徴が負けちゃ駄目でしょ」
「何でも地上で手に入れたアイテムを使ったらしいのです」
「そんなアイテムあるのか?」
「地球の物じゃないのかもな」
信濃の疑問に俺の頭の中で宇宙人の田中さんが過る。
「龍神様を助けて頂きたいのです」
龍神様を助けるか。反乱軍を一掃するよりはましだが。
「ちなみに、無力化ってどんな状況なのかな?」
「はい。龍神様を囲むように六本の柱が立てられており、それが結界となっているようです」
「柱を壊せばいいのか? そこまで分かっているなら俺たちじゃなくても可能では?」
「反乱軍が立ちはだかっており近づく事ができません」
「そうなると俺たちでも無理っぽいな」
「少し時間をくれ。三人で相談したい」
「分かりました。よい返事を期待しております」
王女は一旦、退出した。俺達は三人で向かい合う。
「どうする?」
最上がドリンクを一口飲んでから口火を切る。
「どうするって、モグモグ、どうもできないだろ」
信濃が料理の盛られた小皿を片手に、食べながら答える。
「いや、俺の言う『どうする』は、どうやってここから逃げようかと言う事だ」
「そだね。最上の言う通りだ、モグモグ。何かただでは帰れない雰囲気だよね」
「まあ、海の中っぽいから、逃げ道なんぞ無いのだが。どうする? 多摩川」
「一つ気になるのが、反乱軍の目的だな」
「ああ。地上へ進出って言ってたな」
「和平の交渉って、モグモグ、感じじゃないね」
「内乱で終わるならいいのだが、下手に反乱軍が勝って地上へ来られるのも厄介だよな」
「多摩川の言いたい事は分かるが、どうする事もできないだろ」
「結界を構成している柱を壊すくらいなら、できそうな気がするんだよな」
怪訝な顔つきになる二人を見ながら、俺はもう一人の友に協力を仰いでみるのだった。
竜之介はこちらの状況を把握していた。
以前は暇で寝てばかりだったらしいが、俺と会ってから変わったそうだ。
俺が変な事に巻き込まれてないか、しばしば確認しているらしい。もちろん、親切心ではなく興味本位でだ。
俺には宇宙人に謎の機械を埋め込まれている。この機械は翻訳機の機能があるらしく、これを介してドラゴンの竜之介と何時でも話せるようになっている。
『面白い事に巻き込まれているではないか』
「面白くねぇよ。手を貸してくれ」
『暇だしな、いいぞ。何をして欲しいのだ? 我が行って全てを蹴散らしてやろうか?』
「お前が暴れたら、この国ごと無くなりそうだから、それは無しだな。龍神の居場所は分かるのか?」
『折角、大暴れできると思ったのにな。ふむふむ、大体分かるな』
「じゃあ、飛ばしてもらう事は可能だな。渡してある武器はある?」
ペニ剣三刀流を広めろと託されたライトサーベルは竜之介に預けておいた。あんなオーバーテクノロジーの物を近くに置いておきたくなかったのだ。
『預かっている剣か。我くらいの大物になると異空間のアイテムボックスがあるからな。何時でも取り出せるぞ』
「あと、信濃っていう友人がいるのだが、コイツにもお前の加護って付けられるかな?」
『別に構わんが、それなりの見返りが欲しいぞ』
「分かってるよ。これが終わったら体を洗ってやるよ」
『ふむ。いいだろう』
「竜之介に龍神の所まで飛ばしてもらえるぞ」
「えっ、戦うのか? 武器なんて無いだろ」
「最上、あるんだよ。お前にも馴染みのある武器が――」
俺の目の前の空間が少し歪む。俺はそこから細長いアタッシュケースを取り出す。
「お、おい。まさか銃か?」
信濃はテレビで見た殺し屋をイメージしているようだ。
覗きこむ二人の前でアタッシュケースを開ける。
そこに入っていたのは、最上も知っているペニスケースとライトサーベルだった。
「ペニ剣一式かよ。萎えるわー」
がっかりする最上を見て不安になる信濃。
「何だよペニ剣って。てか、俺は戦い方も知らないし、お前らの言う『加護』とかもないから、断固拒否する」
「まあまあ、信濃。これに触れろ」
アタッシュケースを出した空間から、竜之介の大きな爪がニュッと出ている。
「何これ?」
言われるがままに、信濃がそれに触れるとバシュッと音がして一瞬光に包まれる。
「これで信濃も加護持ちだ。竜之介の体を洗うのが義務だから忘れないように」
「なんだよそれ。呪いかよ」
「おっ、信濃も今日から加護持ちか」
「実際、加護もらってから体調がいい気がするんだよな。ドラゴンの体洗うだけで健康になれるんだからお得だぞ?」
「そう言われると、少し食いすぎて腹が重かったのがスッキリしている気がする」
「……信濃、無意識に漏らしてないよね?」
「そんなわけない! いや、そんな事より、俺は戦い方なんて知らないから、やっぱり拒否する」
「確かに戦力にならない人間を連れて行くのもな……そうだ」
俺は竜之介に連絡を取り、考えを伝える。竜之介も面白そうだと俺の考えに乗ってくれた。そして、俺達の目の前に一人の男が現れる。
「おっ。来た来た」
「マジか……」
「誰だよ!」
竜之介に呼んでもらったのは、俺と最上にペニ剣三刀流を教えたア・ナホルだ。
ナホルは急に周りの風景が変わって、何が起きたのか分かっていない。
「信濃。この人は俺達に剣術を教えてくれた、アナルだ」
「私の名はナホルだ。お前はタマガワじゃないか。何が起きた」
「ナホルさん。こいつは俺の友人の信濃。コイツにもペニ剣を伝授してくれ。一週間くらいでお願いします」
俺は唐揚げっぽいのを小皿にとって、ナホルに渡す。
「うーむ。ペニ剣を広める為なら仕方あるまい」
ナホルは「美味いなコレ」と唐揚げをあっという間に平らげてしまった。
「なるほど、稽古をつけてもらえばいいってか。信濃、頑張れよ」
「最上は監視役で一緒にな。できればライトサーベルを使えるようになってね」
「え?」
にこやかに笑いながら言っていた最上が一瞬で真顔になる。
そして、三人が目の前から消えた。
グラッドから「他の方達は?」と聞かれたので、「修行中。すぐ戻ってきますよ」と答えておいた。
◆◆◆◆◇
反乱軍を率いているのはラーフの弟のアンガーだ。
手柄が欲しいアンガーは、今こそ地上へ進出すべきと主張した。それに賛同する若い兵士も少なくなく、正規軍に対立する軍隊が出来てしまった。
結界に封じられている龍神を前にして、アンガーが大きな溜め息をついた。
「はーっ、困ったな。軽い気持ちで言った一言が大事になってしまった」
近くに部下が一人しかいない事を確認して言う。
横に立つ、腹心のエースケだ。
「今更、無かった事にする訳にもいきませんね。まさか龍神様を捕らえてしまうとは思いませんでした」
「あり得ないよな。味方同士で戦ってもしょうがないのだが」
「副隊長がやる気満々ですからねえ。隊長の座も狙っているようです」
龍神様を捕らえたのも、副隊長のシャロウが指揮したらしい。何所からか手に入れた強力なアイテムを使ったようだ。
「『止めた』とか言ったら、殺されそうだな……」
どうした物かと思案していると、一人の兵が近づいてきた。
「隊長。敵に妙な動きがありました」
「どうした?」
「地上の者を招き入れたようです」
「地上の?」
「はい。二、三名の地上人が城の中へ入ったとの報告がありました」
「分かった。報告ご苦労」
「はっ。失礼します」
報告した兵がその場から去っていく。
「エースケ、どう思う?」
「何か仕掛けてくるのかもしれませんね」
「うーむ。前線をシャロウに任しておくのは不味いな。あいつのことだから討って出てしまうかもしれん。龍神様には申し訳ないが、もう少し我慢して頂こう」
「そうですね。今、龍神様を開放したら、我が軍は一気に殲滅されてしまいますね」
どう被害を少なくして、事態を収束させるか。ゆっくり考える時間が欲しいと思うアンガーだった。