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襲撃されようそうしよう。2

▼2-2



 それにしても……。


「シャウラ、ちょっといい?」

「お兄さま」


 私が自室に戻ってしばらくすると、シリ兄ィがやってきた。

 ソファに座る私の隣に腰掛けると、お兄さまは私の顔を覗き込んでほほ笑む。


「どうだった?」

「どうだった、って……」


 使用人との橋渡しや、これからのシャウラとしての振る舞いの齟齬を一気に解決してみせたと考えれば有能なのだろう。私自身謝りたいと思っていた矢先にこんなイベントが発生して、助かっていないと言えば嘘になる。

 だけど。


「やってくれたな……って感じなんですけど」

「ははは」


 お兄さまは笑っているけれど、笑いごとじゃないって。


「覚醒したのがわかっちゃったら、暗殺イベントも発生しちゃうじゃないですか!」

「そうかなぁ?」


 いや、そうだろ。

 だってあんた最初に「罠」って言ったじゃない。


「お兄さまは、私を疑ってるんですね」

「疑っているというよりは、確証がほしいって感じかな?」


 いやそれ、おんなじじゃないですか。

 確かにいきなり妹の中身が異世界人と入れ替わったら疑わない方がおかしいとは思うけど、なにも命を懸けて証明させなくてもいいのではないでしょうか。


「もし私が殺されたらどうします?」

「そんなことは無いと思うけど……」


 あ、今「スピカがいるし」とか「他の候補者を探すかな?」とか続けて言いそうになったな。くそう、その通りなだけに言い返せない。


「でも、お兄さまは先程味方でいてくれるって言ったじゃないですか!」

「僕は今もシャウラの味方だよ」


 ポンポンと頭を撫でてあやされるけど、中身がアラサーの私にはあんまり効かない。自分で言ってて悲しいけど、今は推しが頭を撫でてることにときめく余裕が無い。


「フォルトは必ず来ますって」

「うん。だからちょっと期間を設けてみたんだよ」

「期間?」


 トントンと、お兄さまはソファのひざ掛けを叩き始めた。癖なんだろうか。


「シャウラはフォルトがくるときのことで、他に思い出せたことはある?」

「……無い、です」


 シャウラに「従属の首輪」をはめられた過去は、フォルトにとって絶望の始まりだった。飽きたと言ってスピカに投げ捨てられるその時まで、彼は心が死ぬまでシャウラに苛め抜かれる。自分を殺しにかかった人間だからこそ、地獄を見せてやりたかったのだろう。シャウラはフォルトのことを人間扱いしなかった。


「フォルトが可哀想なことだけしか……」


 自分の命がかかっているというのに、私の頭の中には同情しか沸いてこない。シャウラ被害者の会があるなら間違いなく彼が終身栄誉会長だもの。


「シャウラの記憶によると、その暗殺は十三歳の間に起こったんだよね?」

「そうです」


 シャウラが十三歳のときにことが起きたのは間違いない。穴が開くほど読んだ資料集には確かにそう書いてあった。


「で、シャウラは自分の誕生日がいつか覚えてる?」

「……ええと、半年後?」


 公式設定では確か秋のはじめだったから、少し肌寒い春先の今、だいたいそのくらいだろう。


「うん。だからね、十四歳までの半年間、ずっといつ来るか分からない暗殺者を待つより、ちょっとだけ期間を短くしてみようと思ったんだ」

「覚醒したという噂を流すってことですか?」

「ううん。いっそパーティを開こうと思って」

「……パーティ?」

「そう。シャウラの星降りの巫女、覚醒おめでとうお披露目パーティ」


 パチパチとのんびり手を叩く兄は、いっそ悪魔ではないだろうか。


「いつパーティを開くつもりですか!?」

「三か月後」

「早い!」


 社交界とかパーティとか全然分からないって!

 しかも私が主役!


「無理です! 絶対無理!」

「やってもらわなきゃいけないし、慣れてもらわなきゃ困るよ」


 有無を言わさず笑顔のまま正論で押し通っていく兄に、言葉が出ない。


「それにシャウラも新しいドレスが欲しいって言ってたし」

「それは私であって私じゃないです!」


 前のめりに否定すれば、シリ兄ィはニコニコと笑って私の肩を叩く。ポンって、これ知ってるぞ。無理を言う上司がよくやってたやつだ。


「シャウラは、そのフォルトが来るのはパーティの前と後どっちだと思う?」

「……え?」


 お披露目パーティなんてされたら、フォルトを雇った人たち(ゲームでは明かされていなかったけど、ファンの間では王室だろうとか言われてたっけ)は、きっと目障りに思うだろう。


「前、でしょうか?」

「うん。暗殺なんて物騒なことをするきっかけに丁度いいと思わない?」

「思う……わけないでしょーっ!」


 思わず口調が百合子に戻ったけれど、怒鳴ってみてもシリ兄ィは笑うだけで、撤回する気も無いらしい。


「そもそもスターフォール家自体が巫女にかこつけて爵位を貰ったハイエナ一族とか言われてるしね。どこから刺客が来てもおかしくもないし」

「随分な言われようですね」

「あながち間違ってないからね」


 後から知ったのだけれど、スターフォール家は本当に巫女にかこつけてありとあらゆる分野に手を伸ばし、その全てにおいて成功を収めたやり手の一族だった。他の貴族のように武功や忠誠心でもなく、神力ひいては巫女の力でのし上がったとなれば、王族としても煙たい存在なのだろう。


「シャウラの言っていることが本当かどうかもわかるし、他へのけん制にもなるし、一石二鳥」

「私の払うリスクが高すぎる!」


 なんて叫んではみたものの、シリ兄ィはただ笑うだけで、私の話を聞いてくれはしなかった。


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