この日が来たので妹の黒歴史を掘り返したいと思います。3
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「とりあえず、百合子さんの話をもう少し詳しく聞かないと分からないんだけど」
「ふごぉ!」
おかしな声画したと思えば、シャウラが両手で口元を押さえていた。
「……シャウラ?」
「す、すいません。まさかショタ化した推しから自分の名前が聞けるなんて思っても無かったので」
「…………そう」
持っていたハンカチをそっと差し出すと、シャウラはお礼を言いつつ鼻の下を押さえた。
「えーっと、続きをいいかな?」
「はい、お願いします」
「シャウラの話をもう少し詳しく聞かないと分からないんだけど、僕らの世界はそのゲームの世界じゃ無いと思う」
「まぁ、受け入れられないのは当然と思いますけど」
「そうじゃなくて、シャウラの話したゲームには、重要な部分が抜けていてね」
星降りの巫女には、転生者しかなれないんだよ。
「……え?」
「うん。巫女を保護するスターフォールの直系にしか伝えられて無いんだけど、代々巫女は転生者が選ばれているんだ」
「ちょ、ちょっと待ってください」
戸惑うシャウラの気持ちもよくわかる。
「僕らは転生者じゃなくて、異邦者と呼んでいたんだけどね。とにかく、ゲームとこの世界の巫女の在り方が違う以上、鵜呑みにするのは避けたいかな」
かといって、嘘だと思うには情報が精密すぎる。
シャウラとスピカを養子にしたことは調べればわかることだけど、巫女の出た村や一族なんて面倒ごとがある以上、どこの子どもだったかはあまり大っぴらにはしていない。
「嘘と断定するには情報が詳細だし、本当だと思うには、前提が違う」
「……でも、お兄さまの名前も、シャウラもスピカの名前も、全部同じなんですよ?」
「不思議、だよね」
腑に落ちない符合性。
シャウラが不安そうにこちらを見ているのが分かっていたけれど、慰めている余裕はない。
「他に、覚えていることはある?」
「他にですか?」
「何でもいいよ」
促せば、今度はシャウラは顎に手を当てて考え始めた。
「そうですね……。『星降る夜に花束を!』通称『ほしはな』は、素人が作った同人ゲームなんですけど、難易度がとにかく高くて、攻略ウィキの掲示板にはだいたい発狂したユーザーからクレームまがいの愚痴が書き込まれていました」
「そういうことじゃないかな」
「無駄に広い学園を隅から隅まで歩かないとキャラクターとエンカウントしない極悪システム。ライバル役のシャウラのステータスが強すぎて、恋愛に現を抜かすと即バッドエンドに向かいますし、選択肢を間違えるとフラグが折れるんですけど、その選択肢が毎回ランダム配置だったり」
「シャウラ、他のことが聞きたいかな?」
「正直公式設定資料集より完全攻略ガイド出せよって言う人結構いましたね。あとシャウラの意地悪のバリエーションが多くて、シナリオ回収してるのかシャウラの悪行を回収してるのか分からないとか。私が一番好きなのはフォルトイベントで、シャウラが首輪をちらつかせながらまた虐められたいの? ってフォルトに迫るシーンです」
「シャウラ……」
どうやらゲームの中のシャウラでも、シャウラらしく振る舞っているらしい。
「……あれ、首輪?」
ふと気になって繰り返すと、シャウラが嬉しそうに話し始める。
「首輪、というのは『従属の首輪』です。確かスターフォールの屋敷のなかにあるんですよね?」
「あるには、あるけど」
「それを、十三歳のときにシャウラを暗殺しに来た少年に付けるんです。で、名前をフォーマルハウトって付けて、奴隷として飼う」
「酷いね」
「ええ。フォルトはそのせいで地獄のような日々を過ごしますが、ある日突然もう要らないわってシャウラに捨てられて、スピカに拾われてから彼女の従者になるんです」
そこからヒロイン一筋のダウナー系従者ができあがっちゃうんですけど、なんてシャウラはまだ話しているけれど、フォーマルハウトなんて名前、僕は知らない。
「シャウラ。キミが襲われるのは十三歳で本当にあってる?」
「え? あってると思いますけど……」
「じゃあ、今シャウラが今十三歳なのは、分かってる?」
「……なんですと?」
ウキウキと話していたシャウラの顏が、サァと青くなっていく。
「フォルト、まだ来てないんだよね」
「えっと……」
「ちょっと、試してみる?」
ニコリと笑ってみれば、シャウラの青ざめた顔が天日干しした後のシーツのように、真っ白に変わっていった。
2021/06/27 大幅改変(2回目)