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詩の子トワ


 


 『エヴァンタシア大陸』

 


 


 


 その昔……その名で知られた大地には、七つの里があった。


 各里の人口は、およそ10万人。

 七つの里の一つに、火の里があった。

 

 

 

 そこに詩詠(うたよ)みのトワという名の一人の少年がいた。

 トワは、5~15歳までの間を火の里で過ごしていた。

 

 

 


 草花や周囲に集まる昆虫たち、小鳥たちを眺めては、浪漫、冒険、恋唄を一冊の革表紙の本を参考に詩を綴り、句を詠む。

 

 朝日に溶け込むそよ風たちが、窓をトントンとノックして誘惑の旋律を奏でて彼に早起きと外出を強請る。


 花香る虫たちと共に野原を舞い泳ぎ、涼し気な木々の隙間を縫うようにすり抜けた先で待ち合わせた様に、エメラルドグリーンに光る秘密の入り江に出会う。

 

 

 

 碧波の上空を颯爽と歌い舞い征く、幾千万もの優雅な風切羽の主たち。


 

 今宵もここに満天の星空を招待するべく手を伸ばし、もぎ取った一枚の風切りの羽のペンで一筆認めた星降りの詩を風切羽の主に託し、そよ風と共に遥か上空へと新譜の旋律を渡らせた。


 

 花も虫も小鳥も風も、詩の子少年(トワ)が大好きで、彼と共に過ぎ行く時間がある事も知らず、星降りや詩詠みと言う悠久の楽園の扉の前で宴を開く毎日だった。

 

 

 そんな静かな暮らし振りが良く似合う、寡黙な少年だった。


読んで下さってありがとう。

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