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寮での会話は、結局不毛に終わった。噂もただの噂。七十五日もすれば忘れるだろう。
潤詞は、不満そうだったが、関係者の従三が、どうでもいい、興味のない態度をしていた為、それ以上深く下げることもできなかった。
清一郎が気になった、『紅い着物』の謎も解決しなかった。
(いや、別にいいのだけれど。ただの着物だし。白を着る時もあれば紅を着る時もあるだろう。何も決まりじゃないし。)
そう思って、濁すことにした。
次の日。清一郎は、寮を出て町に繰り出すことにした。
大学は、富裕層が住んでいる側にあるが、大学に通っている奴らが全員お金持ちかと言えばそうではない。現に清一郎はお金がない。祖父を頼らないと決めているからだ。だから、いるものは全て川を渡った方の庶民向けの町で買うようにしている。ここは、海が近いせいか、魚介類や、貿易品が豊富だ。
(まあ、じいちゃんの所の方が魚も貿易も盛んなのだけれど。)
じいちゃんの所に越してきて、何もかも違う環境でてんやわんやしている時にふと立ち寄った骨董品店で、見た故郷の硝子細工は、自分を慰めるものだったな、なんて思い返しながら町のお店を覗いていく。
お店の中の貿易品のひとつである本やアクセサリーは、どれも懐かしいものばかりである。
(この字、こっち来てから見なくなったからなあ。)
輸入品を扱う古本屋を覗いて思う。異国の言葉と離れた生活をやってても読めるもんだな、なんて。
『シロヘビ伝説』『紅い瞳』『異国の兎は白くて赤い』と異国の言葉で胡散臭いタイトルが並べられている。誰が読むのだろうか?
庶民向けのためか本やアクセサリーなど粗悪品が多いものの、あっちの国でも似たようなものだから差ほど気にならずに見ていられた。
転々と移動しながら品物を覗く。今日は、ペン先を買いに来たのだけれど、それよりも他のものが懐かしくて仕方ない。
あっという間に時間が過ぎてしまう。そろそろ門限も近くなった為最後は、馴染みの店である骨董品店に寄ることにした。