2
そう言えば、お見合い相手の家は大学へ行く通学路だったなと、思い返す。
しかし、通学路の方は門がある方でなかったから気まずくなることも無いと思っていたのに、今塀を登っている紅い着物姿の彼女と目が合い、ものすごく気まずい。そもそも、何故着物で塀を登ろうとしているのか。謎である。
「お久しぶりですね。」
「お、お久しぶりですわ。清一郎様。」
彼女は目が笑っていなかった。それもそうだろう。なんていたって、所謂女学生がやるにはタブーなことをやっているのだから。
「どこかの帰りですか?」
「えぇ。ちょっとお散歩に…」
彼女の目から早く立ち去れという意思が伝わってくる。
「でも、ここ、門でないですよね?表までお送り致しましょうか?」
「結構です!」
かなり強い口調で否定されてしまった。
そして、同時にこの前の彼女と違うなと思ってしまった。…いや、取り繕ってた可能性もあるのだが。
「表から帰れないってことは家の人にバレたくないんですか。」
「えぇ。そんなところです。早くお引き取り願いますわ。金輪際会うこともありませんでしょうし。」
かなり言い回しがキツい。この前と本当に印象が違い過ぎて面食らう。
「まあ、1度お見合いをして断られている身なので何も言うことはありませんし、お家の人にバラすこともありませんよ。」
「ありがとうございます。そう言って貰えると助かりますわ。」
そう言って微笑む彼女。この前の義務的な笑顔とは違う、花が咲いたような笑みだ。
「それでは。じゃあ。」と、清一郎は、立ち去ろうとした。しかし、彼女が、待ってと声をかけた。
「あの。キツい言い方をしているのは自覚していますし、断ったのも申し訳ないと思っています。けれど、貴方のせいでないんです。」
「僕のせいではない…?」
「ええ。まあお気になさらずに。貴方ならもっと素晴らしい方を婚約者にできるはずですわ。だってあなたの目は、澄んでいて綺麗なんですもの。」
そう言って彼女は軽く微笑んだ。
清一郎は、再び面食らった。まさか、彼女がそんなことを言うなんて思わなかったのだ。
彼女の横を通り過ぎ、家を過ぎ去ったあと、ふと彼女を思い出すと違和感を覚えた。
彼女が着ている着物は、“紅”色だった。
しかも、彼女によくにあっている。
お見合いの時は、どんな色だっけ。清一郎は、思い返した。