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しばらくは大きい戦争がないとされている少しだけ安定している時代であるこの国。
ここはいくつかある地方都市のひとつ。大きい川は、海に流れ着いている。大きい川の左右に街があり同じ都市ではあるものの住んでいる層が違う。
そんな都市に住む学生の清一郎は、悩んでいた。
そこそこの年齢になるとお見合いの話が持ちあがる。
清一郎自身、結婚する気は無い。しかし、祖父から出された命令、大学卒業と同時に結婚をすること、そのために、あと1年で婚約相手が決まらなければ祖父が見繕った相手と結婚させるという、それを守らなければならない。
そもそも、お見合いをして、結婚なんてナンセンスだと思う。現に、清一郎の両親は恋愛結婚であった。しかも、国際結婚ときた。母親は、今でこそあまり珍しくは無いものの当時は女として珍しく職があり、しかもそれが通訳者であった。たまたまこの国に派遣された異国のお偉いさんの通訳をしていたら恋に落ち、その人が引き上げるときに一緒に国外に行き一人息子を産むと同時に亡くなるという当時にしては本当に珍しい破天荒なことをしている。(今も珍しいが。)
母親は、一人娘だった為清一郎は、祖父にとって唯一の孫でもある。ただ、数年前までは一切聞かされていなかった。何故なら、この国に居なかったからだ。
この国には、父が亡くなってからきた。
父方の家族はもう居ないから何かあったらこの国を頼れと言われて。しかしいざ頼ると自分を跡取りとしか思われていない。
祖父は自分の先が長くないことを見越してさっさと身を固め当主になって欲しいらしい。そんな祖父とは当然そりが合う訳もなく、喧嘩ばかりしていた。他の都市の大学に行ったのもその為である。
一応お見合いしていますよという体裁を保つため、大学の友達が、「2番目の兄貴が婿入りした先の次女がお見合い相手を探している」と言われてとりあえずお見合いをしただけである。しかも、その次女はかなりの確率で婚約破棄をされているらしい。体裁を保つためのお見合いなら断りやすいかなと思ったのも事実で実際、お見合いをしてすぐにこちらからでなく、あちらの家から清一郎が半端者だから無理だと断りがかかった。
そう、お見合いは無かったことになったのである。清一郎は、万々歳であった。もう、お見合い相手と関わりあう事もそうそうないと思った。では、なぜ困っているのか。
今、目の前で、塀を登ろうとしているお見合い相手がいるからだ。