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付与魔法使いは迷宮へ  作者: コトブキ/灯絵 優
【一部】付与魔法使いはパーティを組みたい
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第九話

 メンバー達の足は速く、ミルは置いて行かれないようにするので精一杯だった。見かねた冒険者の一人が止まり、ミルを抱えて集団に追いつく。

 下ろされたミルは彼女を見上げた。

「足手まといにだけはなるんじゃねぇぞ、付与魔法使い! 俺はグズが嫌いだ」

「ありがとうございます!」

「はんっ! 回復魔法は多い方が良いだけだ」

「聖属性は持ってなくて……」

「お前、何しに来たんだ!?」

 ハハ、と乾いた声で笑う。頭を抱えた冒険者は赤髪をひらめかせてミルの背中を殴った。

「まあいい。死なねぇことだけ考えな」

 そう言って集団のトップへ走る。格好いいと目を輝かせているうちに入り口に入り、一気に階層を降り始めた。

「どけどけ階層主(アートレータ)討伐隊だ! 開けねぇとブチ殺すぞ!」

 うわぁ、と言ってしまいそうな怒声だ。冒険者達は慌てて道を空け、横から飛んでくるモンスターを牽制する。

「皆さん優しいですね」

「キュン」

「お嬢さん、冒険者の方々は二十階層の事を知ってるんですよ。ジャンクゴーレムは小型で人ほどのサイズです。過去、階層を上がって来たと言う例もありましたので協力するのは当たり前なんですよ」

 兵士の一人がそう言う。

「さあ、おしゃべりは終わりにしましょう。十階層を超えます!」



 十五階層から先はゴーレムの生息地とも言われる階層が続く。二十階層は一つの目安であり、適正レベルは三十を超える。

 討伐隊の周囲を途中まで護衛する冒険者。道を譲る魔法使いに、合流する者もいて、集団は増えていく。

 総勢二十名にもなろうかと言う頃十九階層の門が見えてくる。

「各自臨時パーティを組め! 数は四。後衛二人は階層の端まで下がり、護衛に前衛を一人つけろ! 周囲のモンスターに対応すべし! また、一人はジャンクゴーレムに専念。危険だと思えば退避。後衛の前衛と交代しろ!」

 短い指令の後、一斉に陣形が混じり、別れていく。ミルが慌てていると腕を引かれた。

「サンレガシ様、あなたはこちらの後衛に入って下さい。回復が使える魔法使いと、兵士が二人の四人パーティです。セオリーはご存じですか」

「ごめんなさいズリエルさん、まだ一度も組めなくて……」

「それは我々の落ち度でもあります。承知致しました」

 法衣の魔法使いが一人入り、パーティは五つに分かれた。

 二十階層は円形に広がり、横道が蟻の巣のように張り巡らされている。そこからモンスターが現れる。

「なぁに、付与魔法使いで聖属性も無いって……。あー、あんたか」

 ガックリと肩を落とした彼女は髪をかき上げる。

「私はローリイ。死なないように下がってれば良いから。そっちの使い魔は適当に攻撃させて。回復は全部私がやるから。アンタはいいからなにもしないこと。いいわね」

 叩きつけるように言われ、ミルは頷いた。唸ったアルブムをなだめていると、五チームは円を描くように広がっている冒険者の一部に混じった。

「増援が来たぞー! 前衛は交代し、治療に当たれ!!」

 凄まじい声が上がり、中心にいたジャンクゴーレムが吠えた。

 歯の無い口。喉の奥までゴツゴツとした岩肌が広がり、手足の先まで同じだった。水色の体は人のように関節がある。右手には炎の剣を持っていた。

「水耐性が強い! ゴーレムのセオリーは通じねぇぞ!」

 一人が叫んだ途端、そちらにジャンクゴーレムが反応した。

(目が無いから、音で反応してる?)

 よく見ると顔の側面に大きな穴が空いている。耳だろうか。

 傷ついた冒険者が周囲に転がり、匂いに反応したモンスターが集まってくる。回復魔法の使い手が一カ所に集まり、集中的に治療している場所もあった。

 野営地に現れた賊を退治しているかのようだ。暗い階層に松明の明かりがぽつぽつと浮いているように見える。

「くっそかてぇなぁ!」

 大剣使いが振り下ろした刃が弾かれる。すぐさま武器を変え、ハンマーに持ち替えた。

 ジャンクゴーレムは吠え、口から大量の炎を吐く。周囲を薙払うような炎の渦に、溜まらず後退した前衛に変わり、魔法使いが各々攻撃を開始する。直撃した属性魔法はしかし、ジャンクゴーレムに傷一つつけなかった。

「アルブム!」

「キュン!」

 白い煙を上げ、本来の大きさに戻ったアルブムは突進した。ミルの背丈を超え、九本の尻尾が膨らむ。

「キュオオオー!」

「よくやったぜ!」

 吐き出された氷のブレスが、ジャンクゴーレムの足を凍らせた。片足が鈍くなったゴーレムに、前衛が飛びつくように肉薄する。全身に剣撃を浴びながら、ジャンクゴーレムは冷静と言えるほど単調に、凍り付いた足を地面に叩きつけた。氷が粉となって落ちていく。

「クッソガ!」

 弾き飛ばされた冒険者に回復魔法がかけられていく。ジャンクゴーレムは高く飛び、氷を砕くと同時に、地面にクレーターを作った。足場が不安定になった冒険者達はたたらを踏み、怪我人も出た。

「クォオオオオオ!」

「下がれぇええええええ!」

 ジャンクゴーレムが仰け反りながら吠える。そして、口から大量の岩を吐き出した。ミルはとっさに障壁を張り防ぐが、総崩れになりかけた。後方に控えていた前衛が直ぐに前に出る。

「ジリ貧だ」

 ズリエルが言う。マントをはためかせ、膝をついていた。ローリイが直ぐに回復魔法をかける。

 ジャンクゴーレムは堅く、弱点である水属性も効果が低い。近づけば魔剣や岩を吐く魔法で牽制され、足場は悪くなっていく。他のモンスターも現れ、多勢に無勢。なぜ数が必要だとスプラが言ったのか、ミルはやっとわかった。

 ジャンクゴーレムは高く飛ぶと、腕を回し一番近い冒険者から順に襲い始めた。音を立てていなくとも、まるで目があるかのように。ゴーレムは本来足の遅い生き物だが、ジャンクゴーレムは足が速い。全ての弱点が覆されている。

節操無しの岩人(ジャンクゴーレム)!」

 なぜその名が付いたのか。百聞は一見にしかずとはこのことだ。

(氷で動きを封じることはできた。でも、私は属性魔法が使えない。別の手で封じ込めるには関節を狙うしかないわ)

「ズリエルさん、援護をします。アルブムをよく観察して下さい!」

「アルブム、<障壁(ウォール)>!」

「キュン!」

 体を一抱えほどのサイズに変えたアルブムはミルの張った障壁にのると、ぽんと飛び上がった!」

「<障壁(ウォール)>、<障壁(ウォール)>、<障壁(ウォール)>!」

「いったいなにを――」

 十六枚張られた障壁はジャンクゴーレムの周囲を囲むように展開される。障壁を踏んだアルブムは跳ね、ジャンクゴーレムに襲いかかった。それは天井をも地面に変えたような縦横無尽の攻撃だ。

「アルブム、関節を狙って下さい。右からどうぞ! <障壁(ウォール)>、<鈍足魔法(スロウ)>」

 逃れようとしたジャンクゴーレムの関節部分に灰色の障壁が刺さり、動きを一瞬止める。すかさず一撃が入り、右肩が凍り付いた。

「<障壁(ウォール)>、<魔法攻撃強化魔法(アルメナーラ)>!」

 障壁が赤い光を吸収し、それを踏んだアルブムの体がほの赤く光った。

「なるほど。付与魔法付きの障壁。触れれば効果ありか」

 動きの鈍くなったジャンクゴーレムを見て、口端を釣り上げたズリエルが走り出した。攻撃を始めた一人と一匹に釣られるように冒険者達が殺到する。慌てて障壁の位置をさげた。

「クォオオオオオ!」

「<光障壁(ウォール・ルクス)>!」

 掬い上げるように杖を振る。仰け反りながら吠えるジャンクゴーレム。岩を吐く直前、堅く口を塞ぐように障壁を張り攻撃をとめた。攻撃が跳ね返され、地面に沈む。

「畳み掛けろ!」

「おお!」

 堅い表面が削られていく。倒されたジャンクゴーレムは立ち上がることを許されず、指の端から砕かれていく。

 二十階層、節操無しの岩人(ジャンクゴーレム)の討伐は三時間後に決着した。

「サンレガシ様」

「お疲れ様でした、ズリエルさん」

 青ポーションを置いて、ミルは息を吐く。長い闘いでくたくただった。

「魔法攻撃を防いだ手腕、見事でした」

「ありがとうございます。この後は解散でしょうか?」

「ええ。ジャンクゴーレムは全て持ち帰り、分配されることになります。本来ならばもっと時間がかかっただろう一戦でしたが、サンレガシ様のおかげです。今日の一戦を見て、冒険者達があなたを見る目も変わるでしょう」

 ふと真顔にもどったズリエルは続けた。

「未だあなたの不当な噂を流している人物を特定出来ていません。お気をつけ下さい」

 それは例の猫人族の事だろう。彼女を見つけたという話は聞いていない。もしかしたらユグド領を離れているのかもしれなかった。

「おいアンタ。ミルっつったか」

 それはミルを討伐隊まで運んでくれた、赤髪の女性冒険者の声だった。彼女は仁王立ちすると、銅色の瞳でじっと品定めをしてくる。

「レベルは。そっちの使い魔もだ」

「ええと、私はレベル二十七。アルブム三十四レベルです」

「おい【番犬】、こいつの素行はどうなんだ」

「その呼び名は好かんから止めろ。サンレガシ様は見ての通りお優しい方だ」

「だといいがな。――アンタ、何しに迷宮へ来た」

「自分に出来ることを見つけるためです」

「なら俺と一緒に三十四階層へ行っちゃくれねぇか」

 静かに告げられた言葉には懇願が込められていた。女冒険者は前髪をかき回すと、懐から赤い宝石を二つ取り出す。

「俺は【火龍の師団】っつーパーティを組んでたが、濁流の都でメンバーとはぐれた」

 三十四階層の別名は濁流の都。散り散りになったのは階層主(アートレータ)に出くわしたせいだという。【火龍の師団】は壊滅状態になり、彼女の両親も帰ってこなかった。

 けれど、龍族には宝珠があり、血縁者は生死がわかる。まだ死んでいないと彼女は言う。

 何度か【火龍の師団】も捜索をしたが階層主(アートレータ)が行く手を阻んでいるという。

「親が生きている理由はわかってんだ。食料庫に保存されてる」

 そして二週間ごとに入れ替えるのだそうだ。行方不明になったのは十日前。あと四日しか残っていない。【火龍の師団】はギルドに救助クエストを出した。メンバーを集め、最後の救出策戦に臨もうとしている。

「どうして私に声を?」

「アンタの乗れる障壁は動かせるだろう? 俺達の目的は救出だ。あれが使えれば階層主(アートレータ)と戦わずに助けられるかもしれない」

 どうだと問いかけられるが、そもそも三十四階層に行くのが無理だ。

「改めて名乗ろう。俺の名はユーギ。返事は明日まで待つ。ギルドホールまで来てくれ」

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