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付与魔法使いは迷宮へ  作者: 灯絵 優
付与魔法使いと魔剣の継承者
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第三話

 四十四階層。

 大地は地平線まで続いているように見えた。

 空は暗く、紫の煙で覆われている。

 今まさに噴火している火山を見て、毒素を弾く魔導具を発動させる。腕輪が小さく光り、周囲の空気から苦みが消えた。対毒用の魔導具で、周囲の毒素を一定量中和する物だ。

「慎重に進もう。砂ミミズ(サンドワーム)が出た話は聞いてないけど、ここから先は情報が本当に少ないから」

 四十四階層から最高到達点の五十七階層まで火山は続く。確認されている魔物は十種類を超えているが、見つかっていないモンスターもいるだろう。

 進んですぐに出くわしたのはゴーレムだった。もしかしたらミルより低いかもしれないゴーレムが、密集するように集まっている。下層に行くほど狡猾になるモンスター達は数の暴力を覚えたかのように襲ってきた。

「的が小さいとは厄介なっ!」

 ズリエルはゴーレムに突き刺したままの剣を振り、横から飛びついて来た個体を振り払う。しかし張り付いたゴーレムはなかなか取れない。よく見れば指先が五つに分かれており、しっかりと剣を握っている。

 ゴーレムの核が煌々と輝く。

 反射的に障壁を動かしたミルは削り取るようにゴーレムを吹き飛ばす。刹那、巨大な爆発音を上げ、ゴーレムが四散した。

「く、自爆かっ」

「ズリエル、下がって立て直せ! 一番得意な事でいい!」

「承知!」

 大きく後退し、マジックバッグから取り出したのは身の丈もある大盾だ。端が研がれ刃のような光沢を放っていて、全身を隠せるほど長い。視界を確保するために、一部の素材に透明な物が使われていた。

 剣を盾の内側にしまい込んだズリエルは、四方にある持ち手から左を選び、重い盾を振った。ゴーレムが一度に三体砕け散る。まるでハンマーのような威力だ。

(私にあそこまでの威力は出せないし、障壁で同じ事をすれば魔力が持たないわ。なら――)

 尖らせた障壁を針のように核へ刺す。小さな穴はゴーレムを倒すに至らない。しかし次の瞬間、ゴーレムは茨に貫かれたかのように砕けた。中で変形させた障壁が柔らかい場所を縫うように罅を広げたのだ。

「やるねっ」

 なら僕も、とシャリオスは詰め寄りゴーレムを両断する。綺麗な断面は、しばらくゴーレムが動くほどだった。

「一度に二十四体か。動きがジャンクゴーレムそっくりだし。連戦になればきついね」

「キュルル。キュー!」

 アルブムが呼び、まだゴーレムの群れがいることに気付いた一行はげんなりする。しかし三人が武器を構える前にアルブムが高く鳴き、氷のブレスを吐いた。瞬く間に凍りついて死んでいくゴーレム達。

 九本の尻尾を機嫌良く振ったアルブムは振り返り、頭を差し出した。

 苦笑しながら撫でたミルは言う。

「アルブムがいれば百人力ですね」

「本当だね」

「キュアキュアキュア!」

 もっと褒めて良いのよとばかりに体を擦りつけられ、ミルは幸せな感触に埋もれた。

「それにしてもズリエルさんは盾の扱いがお上手なんですね」

「一般程度には扱えますので」

 謙遜しているのだろう。

 ミルは内心首をかしげたが、ズリエルがそちらの方が得意なら連携を考え直したほうが良いはずだ。

 問えば、シャリオスは次の休憩時間に話すと言った。


 四連戦で疲れてきた頃、モンスターの波が途切れた。

「何かの縄張りに入ったかもしれない」

 休憩できるかわからないが、食事を取らなければもたない。

「僕らは周辺のモンスターを見てくるね。駄目そうなら急いで場所を移すからテントの用意はいらない。アルブムはズリエルと一緒に待ってて。すぐに帰ってくる」

「キュアー? キュキュ」

「お気を付けて」

「そっちもね」

 火山地帯は視界が悪く、匂いもわかりにくい。足場も悪く、転ばないようにするので精一杯だ。

「特に爪痕とかはないね。足跡も糞も無いし、獣系モンスターはいなさそう。木も無いから鳥系のモンスターもいないだろうし、リトルスポットなのか?」

 うんうん言いながら地図にメモをしている。

「ミルちゃんはさ、ユグド以外の迷宮に行ったこと無かったよね?」

「え? はい」

 唐突な問いかけに頷くと「ならしょうがないか」と呟きながら、シャリオスは続けた。

「ズリエルのことだけど、盾職は蔑ろにされてるんだ」

「盾職? あ、盾しか使わない人の事ですか?」

「そうそう。意外とお金かかるんだって。足も遅くなるしハンマーほど威力が出ないし」

「あれで無いんですか?」

 あるよ、とシャリオスは笑った。

「一般的な話だよ。ズリエルの盾は特注で、殴っても割れない代わりに重い。常時背負って戦うのは無理だよ。あと冒険者が稼いでた迷宮領以外で就職する場合、訳ありが多いんだ。だから踏み込んだ話を聞くのは止めよう?」

 手を止めたシャリオスは、窺うように首を巡らせる。

 シャリオスはこれを言うためにミルを連れ出したのだ。ズリエルの耳に入らないよう距離を取って。

 恥ずかしさに頬が赤らむのを感じた。

「気がつかず済みません。そんなご事情があっただなんて。悪気はなかったのですが……」

「ズリエルもわかってるよ。嫌なことを言ってごめんね。――戦闘方法なんだけど、今まで通り剣と小盾で、不味そうなら自己判断で大盾使ってもらうのでどうかな。物がどっちでも前衛なのは変わらないし」

「その、投げるポーションの使い方が同じで良いかは、確認したいです」

「わかった。この階層は敵の数が多いけど、まだ余裕あるよね? 引きつけてもらいたいけど、魔力量はどうかな」

「全体の何割ですか?」

「僕は一度に十までできるけど、ズリエルはどうだろう? あー、そうだ。強化付与の話もしないとだよね。僕にかけてる魔法は負担になってない?」

 砂漠階層とは違い、日光による弱体はない。

 けれど、あった方が動けるのは確かだとシャリオスは言う。

「光を屈折させるのですよね? 殆ど消費してません」

「頼もしい。となると、入り口付近で連携練習を重ねて準備してから進んだ方が――待った」

 鋭く告げ、大きな手の平が行く手を遮る。杖を構えたミルは一歩後退する。シャリオスが双剣を抜き放ったからだ。

 前方から上がる土煙は小さかったが、次第に大きくなっていく。

 人の声にモンスターの嘶きが混じるのに気付き、シャリオスは内心舌打ちする。

「今いるのは――ユヒト! 緊急なら上げろ!!」

 走っていた冒険者が目視できる場所まで来たとき、聞いたこともない鋭い声でシャリオスは叫ぶ。気付いたように前方を走っていた冒険者が、カバンから取り出した何かを投げた。それは赤い煙を吐き出す。

「怪我人がいる、行こう!」

「ふぎゃ」

 小脇に抱えられたミルはそのまま風を切った。



 巨大な岩石のような四足獣はロックビースト。事切れ岩の固まりとなっているが、生きている間は体の中心から炎を吹き出していた。アルブムのブレスで倒せたが、動きは俊敏、火力は高く体力もある強者だった。

 その上に座った男が大きく笑う。【ラージュ】のリーダーであるユヒトだ。ラーソン邸にいた頃からの友達だという。

「こいつがどうしても倒せなくってよ。助かったぜ」

 ユヒトは大柄の槌使いで身の丈より大きいハンマーを振り回す。体力が有り余っている様子だが、他のメンバーは疲れ果てたように座り込んでいた。

「おら、門の前まで来たんだから、礼くらい言ったらどうだ?」

「ゼェゼェ。体力馬鹿の、リーダーと違って……ウチら、フツーッの人間だからね? なに、ゼェゼェ、マジでバケモンすぎっしょ。――俺はアークライト・スターズ。アークさんって呼んで! ……ゼェゼェ。あ、だめ。モウダメ格好付けられない……」

 槍使いの青年はそう名乗ると、髪をかき上げて白い歯を輝かせたと思えば、背中から大の字に倒れた。

「あの、よろしければポーションを飲みますか?」

「持ち込める量にも限りがあるだろ? 休めば勝手に戻るんだから、いらねぇよ。気持ちだけ貰っとくぜ。……にしてもちっちぇな」

「へぶっ」

 大きな手が頭を押さえるように乗った。腕一本で膝が曲がるほど重い。

「あ、こら! いじめるなら行くぞ」

「わりぃ、思ったより軽かったわ」

 手を払ったシャリオスは唸った。

 いつにない行動に驚いていると、背後から伸びてきた手に掬い上げられ、アルブムに乗せられる。

 持ち上げたのはズリエルだ。大きな耳が左右に動いている。滑らかな動きに思わず凝視してしまい、慌てて視線を外す。

「モンスターが集まって来ています。いったん四十三階層に退避しましょう」

「おう、そうだな。落ち着いて話も――治療もできねぇな」

 刺さった岩を抜いてポーションをかけたものの、未だ意識が戻らない鼠人族の女性がいる。

「僕は先駆け。ズリエルは先頭。ミルちゃんとアルブムは殿(しんがり)で」

「まだ走るのー!?」

 とヘロヘロになりながら後に続いていく【ラージュ】のメンバー。総勢六人の少人数パーティだった。

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