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付与魔法使いは迷宮へ  作者: 灯絵 優
付与魔法使いと暗黒魔法使いは邂逅する
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第十話

「あんた達やったわねぇ。ほら一面に載ってるわよ」

 と差し出された新聞は王都発行のものだった。ユグド領に現れた【遊び頃(タドミー)】が追い払われた記事が大きく掲載されていた。

 ススルの死亡は確認されているが、死んだ後現れた事もあって、未だ死亡扱いになっていない。もう一人の【遊び頃(タドミー)】はゴーンと言う男で、あと少しの所を逃がしてしまったという。

 三人が駆けつけたときには跡形もなく消えていたので、姿も見ていない。

 新聞をアリアに返すと本日のメニュー、ローストビーフサラダとエビフライが運ばれてくる。白いソースがたっぷりと衣と絡んでいた。

 ドーマの店も無事に元通りになった。新築の匂いがする以外同じに見えるのだが、なんと洗濯場が外にできた。汚れたときは足だけ洗って入れと言われた。

 エビフライの付け合わせにはキャベツとレモン。スープは(マチリ)のつみれだ。またお米が採れたと言う事で、本日はパンではなく、ふっくら炊いた白米となっている。

「おかわりください!」

 早速かき込んだシャリオスは美味しそうに頬を膨らませている。

 あれから【遊び頃(タドミー)】の話は聞かない。どこかの施設が爆破された話もないので、領内は落ち着きを取り戻していた。

「御領主様も肩の荷が下りたご様子でした。お二人のご尽力に感謝致します」

「それにしてもびっくりですよね。ズリエルさんが引き続きパーティに入ってくださるなんて。他の一級冒険者の方にもされているんですか?」

「ただのお目付役。僕達が迷宮で捕ってきた物は全部領主様に筒抜けになるし、ズリエルはお給料とパーティの配分両方貰うんだ。ずるいよね」

 そうシャリオスは唇を尖らせる。迷宮ギルドで決まっている契約は抜け道もある。しかし今回は破れないだろう。相手が領主じゃ分が悪い。

 ぶすくれシャリオスは、エビの頭を丸囓りした。口の回りにソースと衣がべったり付いている。

「お二人の今後を懸念されてのことでしょう。どうも、迷宮外で起こる事件の方が多そうだ」

 そう言ってジロリと入り口を見ると、入ってこようとしていた亜人種が、ズリエルの着ている兵士用のマントに恐れを成したかのように逃げていく。

 全ての業務を免除されたズリエルは、領主の勅命で二人のパーティに臨時メンバーとして登録された。いつまで続くかわからないが、これから四十階層から下を探索することになる。

「厄除けと思ってください。迷宮内でも、分け前分の働きは必ずします」

「そうじゃないと困る。地上でもよろしく」

「無論」

 そう言うとなぜかズリエルはミルの皿にエビフライを一本置いた。困って見上げると鉄面皮のまま厳かに言う。

「僭越ながら、サンレガシ様はもう少し食べられた方が良いのでは。二人分は無理でも、少しなら増やせるでしょう。先ほどから何度も――」

「おまち」

「――浮いておられる」

 数セルチ浮いた尻を直しながら「母上」と思わず言うと「違います」と返ってくる。尻尾がふわりと揺れ、アルブムがおやと顔を上げたが、直ぐに興味は逸れて二本目のエビフライに夢中になった。アリアはアルブム捕獲計画を未だ諦めていないようで、今度はエビフライで釣ろうとして失敗している。

「それ良い案!」

「ぜんぜん良い案じゃないです」

「ところで次の迷宮攻略はいつ頃に? 荷物をまとめるので、予定をお聞かせ願いたく」

「明日からでも構わないよ。といってもしばらく魔石集めだけど。急いでないし、明後日からはどう?」

 一瞬にして二人の目から生気が消える。あれだけモンスターにモンスターらしい事をさせず哀れな最期をとげさせたのに、まだ足りないというのか。そんな思いが湧き上がる。

 気を取り直したズリエルが咳払いをした。

「四十四階層からは火山、五十一階層からは火山の海でしたね。こちらでも準備を進めましょう。お二人は何階層まで目指しておられるのですか?」

 鎧の新調は終わり、火山へ行く準備もできた。白いゴーレムでは防ぎきれずとも、水の羽衣は、本来火山地帯で有効な装備だ。

 すると話を聞いていたアリアが、にんまり顔で口を挟んだ。

「そりゃぁ兵士様、最下層でしょ? 新しい力、新しい力ァ、ぷぷー」

「や、止めるのですアリア。人の夢を笑うなどブフフフッ」

「もう! 意地悪です!」

 静かに食べていたウィリアメイルは腹を抱えると別室へ逃げていく。扉を閉めても声が聞こえてきた。

「僕は良いと思うけどな、ミルちゃんの目標」

 膨らんでる頬を押されて空気を吐くと、ねじ込むように薄く空いた唇にエビフライが刺さる。目を白黒させていると、シャリオスは自分の白米をミルの茶碗に一口増やした。

「でも、それにはもう少し大きくならないと。まだ成長期だし」

 「お父様」と言う言葉はエビフライと一緒に飲み込まれていった。バイザー越しにうっすら見える目に魅了されたかのように、いつの間にかもう一本増やされていたエビフライに手をつけてしまう。


 【遊び頃(タドミー)】の一件も大事なく終わり、ミルは人心地付いた気分になった。闘いが終わった直後は記者達に探し回られたものの、ズリエルが追い払ってくれたので落ち着いて生活ができた。

(ズリエルさんは、私の護衛なんだろうな)

 湯船に浸かっていると、いろいろと考えてしまう。

「アルブム、どう思います? やっぱり七十六レベルの元冒険者ですよ? 私兵ですよ? 善意で貸してくれる訳がないですよね……ふぅ」

「キュアキュー?」

「そうですよね。うーん、このままじゃ駄目ですよね」

 それより前洗った、と背中を見せたアルブムは尻尾を揺らして催促する。

「はいはい、綺麗に洗えましたね。よし、今日はふやけるほど洗ってあげますからね。ふやけるほどに、ふやけるほどにー」

「ギュ……」

 それは嫌だなと身を引き気味のアルブムを引き寄せて、手の平に石鹸を擦りつける。泡立てて耳の裏を指先で揉むと痒そうに動いた。

「うーん、やっぱり洗ってもくちゃい。……耳の中をお店の人に洗浄してもらった方が良いんでしょうか。うーん、お店があるのかしら?」

「キュキュン?」

 とりあえず全身を洗って乾かす頃にはくたくたになっていた。奮発して買ったオイルを薄くアルブムの毛に塗ってあげると、ツヤツヤになる。

「キュー! クア」

「はいはい、今日はもう寝ますからね」

 枕元に置いたランプを消す。すると隣に置いてあった円柱状の細工の中に、月明かりで花が浮かび上がる。ススルの残した宵闇の花を樹脂で固めた物だ。

 なんとなく捨てられずに持っている。毒素は無く、今はただのインテリアだ。

「ススルさん……」

 いつからかはわからない。操られていた時期も不明だ。間違いなくススルは犯罪者なのだが、【遊び頃(タドミー)】がやり直す機会も時間も奪ったのは事実だ。

 それがたまらなく、許せなかった。

四章(完)

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