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付与魔法使いは迷宮へ  作者: 灯絵 優
付与魔法使いと三十六階層の壁
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第一話

 魔法の発現は、生物の格が上がったときに現れる場合がある。これはお伽噺の英雄がそうだった。それほど辛く苦しい冒険を経て得る力だと、ミルはようやく理解した。

 多少の努力をした程度じゃ話にならない。どれほど努力しても手に入らないかもしれない。そんな力を望んだのだと。

 では生物としての格を上げるとは、どのような行為を言うのだろうか。

 一つはレベルアップ。

 もう一つは知識によって道を開くこと――新しい魔法の開発だ。



「<障壁(ウォール)>、<障壁(ウォール)>、<障壁(ウォール)>、<感覚低下魔法(ネーベル)>!」

 付与魔法の殆どは無属性に分類される。強化付与から行動阻害付与、回復付与魔法もそうだ。魔法の数は多く、しかし難しくないので一般人も使える。

 魔法使いも当然、付与魔法が扱える。だからパーティの能力上昇に特化するしかない付与魔法使い達は、下に見られ、魔法使いと認められない。

「アルブム、ビーフギャングを一掃したら、三十二階層の門へ向かいます!」

 飛び散る泥で頬を汚しながら、泥濘み始めた地面を踏みしめる。大型のカニモンスター――ビーフギャングがハサミを振り上げ、口から体液を吐く。

「ギュルグ!?」

「ポーション投げます!」

 体液は飛び散り地面を焼いた。飛沫をまともに浴びたアルブムの体から蒸気が上がる。ポーションを包んだ障壁を投げ、瞬時に治す。

 ウズル迷宮三十一階層。

 岩場が水気を帯び、一階層から続く空は濁り消えた。完全に岩に覆われている。壁に水晶が増えると共にモンスターの脅威度が上がっていく。

(打撃だけで倒すのは限界があるわ。かといって、水系のモンスターにアルブムの氷系の魔法は効きづらい)

 完全に相性が悪くなっている。

 今更ミルが武術を修めてもたかがしれている。

 素早くビーフギャングを倒してハサミの部分だけ回収すると、慌てて三十二階層の門へ走った。

 このやり方で三十七階層まで行くのは無理だ。

 問題点は水系モンスターに通じにくくなった攻撃のせいで、戦闘時間が長くなっていること。酸を吐くモンスターに、アルブムが攻撃をまともに受けてしまうことだ。剣のようにコーティングをかけるわけにもいかない。

 シャリオスに啖呵を切ったものの、速くも迷宮探索は行き詰まり始めていた。

 それに、

「おい、あいつだろ?」

「――で、……な? ……るな」

 一階層に戻った途端、注目されることが増えた。

 ラーソン邸の前で話したのがいけなかったのだろう。しかしあのとき、ミルは三十階層を突破した喜びで興奮し、周りが見えていなかった。一刻も早くシャリオスに話したくて頭がいっぱいだった。

 ふらつきながら、いつものようにスプラの元へ行く。前に並んでいた冒険者達が用事を済ませるのを待って席に座ると、気遣わしそうな視線を向けられた。

「階層を更新したので、鑑定をお願いします」

「こちらの水晶を握って下さい」

 出された円柱方の水晶を握ると直ぐに光り、文字が浮かび上がってくる。

 ギルドが持つ、レベル鑑定用の魔導具だ。

 用紙に写し取り、本人に告げると同時にギルド証も更新される。アルブムも前足を乗せて鑑定した。

「サンレガシ様、アルブム様の鑑定結果はこちらとなります。他にご用件はございますか?」

「三十階層付近で消化できる依頼はありますか? 無ければ掲示板を見ます」

「でしたら、採集物を三点お願いできますでしょうか? 全て二十八階層となりますが」

 手続きを終えて、一週間以上期限がある物を選ぶ。

「サンレガシ様、階層がレベル帯に合っていないかと思いますが、もう少し経験を積んでから三十階層以下の探索をした方がよろしいと思います。差し出がましいかと思いますが、一級冒険者の皆様はパーティを組んで挑んでおります」

 それも、四人パーティが基本だとスプラは言う。

「シャリオス・アウリール様のような方は一部です。彼は影に潜れますが、サンレガシ様は違います。無理をすれば命を落としかねません」

「それでもやると決めました。お気遣いくださってありがたいと思いますが……」

「三十七階層まで臨時パーティを組む事もできます! サンレガシ様が三十階層を突破した話が出た後、いくつかパーティの参加要望が舞い込みました。どれも実績を積み、十分な経験、人柄の冒険者達です。胸を張って勧めます。間違いなくサンレガシ様にとって良いお話です!」

「……少し前ならお受けしました。でも、今は駄目なんです」

「サンレガシ様、迷宮で毎年亡くなる冒険者がどれほどいるとお思いですか? 初心者は半年で三分の一が、三十階層以下は半数の冒険者が一年で命を落とします」

 迷宮とは夢と希望を求め、命を掛け金に投げる場所。尽きぬ欲望を飲み干して、時折財宝を吐き捨てて生け贄を呼び込む奈落のようなものだとスプラは言う。

 間違っていないだろう。しかし、その欲望の中に身を置くのが冒険者達なのだ。

「私はユグド領の領民であると同時に、ウズル迷宮ギルドの職員です。だからわかります。サンレガシ様に、アウリール様と同じ冒険は出来ません」

「わかっています。だから、道を探しています」

「……冒険者って、どうして頑固なのかしら」

「すみません、スプラさん」

 苦く笑う彼女は諦めたようだった。

 もう一度謝った後、ミルは席を立ち練兵場へ向かう。

「アルブム、今日の復習をしましょう。そうしたら四日ぶりに宿でご飯です」

「キュキューン!」

 喉を鳴らして喜んだアルブムは、尻尾を高速で振った。

 三十階層の探索では平均五日かかってしまう。足場が次第に泥濘んで歩きにくくなるのが原因だ。ブーツが膝上まであるおかげで足を切ったり水で冷えることがないので、靴底に工夫が必要だろう。

「アルブムの反省点は、何でしょうね? 敵の攻撃を受けないように出来れば良いのですが……数が多いし。うーん、私がアルブムに来る攻撃を障壁で受ければ良いと思いますか?」

「キュルグ。キュキュ。クルルルル……キュルッ」

「確かに魔力消費は多いです。でも、水グミに青ポーションを入れておけば、ポーションを飲むロスもないでしょう? あとは<障壁(ウォール)>で消費する魔力の節約とか、負担が少ないやり方を見つけないと」

 出来れば素早く動かせたりすると便利だ。強度もある程度必要なので、見極めるためにも実戦の中で調べていこう。

 動きのパターンや連携のやり方、回避するとき、どの立ち位置にいれば良いかを考えて、宿に戻った。

「帰ったか。晩飯は唐揚げ定食だ」

「唐揚げ!」

「キュキュキュキュ!」

「汚ぇから二人とも洗って来い」

「かしこまりましたー!」

「キュキューン!」

 へっと笑ったドーマは床を拭くためにモップを取る。無事に帰ってきたことと、自分を怖がらなくなったことに機嫌を良くしていた。

 唐揚げは一口じゃ食べきれないほど大きく、揚げたてで美味しかった。備え付けのマヨネーズとサラサラの果物ソースも脂っこいものによくあう。久しぶりに暖かいものを食べた胃が喜んでいる。

 さっくりとした衣には味が付いていて、これも美味しいなと舌鼓を打っていると、草臥(くたび)れ冒険者の来店だ。

「五人前下さい!」

「五人前下さい!」

「さすがに今日は作れない……腕、くたくた。私、一人分でよろ」

「腹減ったー!」

「この油の香り……間違いありません、美味しいものです。美味しいものが来ます」

 祈るように入ってきた面々は、お馴染みの冒険者パーティだった。彼らはミルに気付くと「よう」と気軽に挨拶をしてくれる。

「相変わらずソロで潜ってるのか? そろそろパーティ組んだ方が良いぜ。ゴーレムとかマジきついからよ。ひたすら鉱石掘らされるのもきついけどよ」

「アンタの装備作るためって言ってんでしょー! ばぁーかなのぉ?」

「俺達の財布係がこう言って煽るんだ……。俺、これが終わったら魚釣りに行って、こっそり焼いて食う予定なんだ」

 そう言う灰色の髪の冒険者は、赤髪の女性冒険者に後頭部を殴られた。ふざけて痛がっている。仲の良い五人組だ。

「そういえば皆様、三十階層攻略はどうなさっているのですか? 足場は悪いしモンスターは強くなりますよね」

「そりゃ行かないからな。……え? なに? もしかして三十階層行くつもりなのか?」

 驚き顔で凝視され、ミルはゆっくりと誤魔化すように小首をかしげて笑う。

「アンタ馬鹿なの? 死ぬの? マゾなの?」

「……失礼ですが、ソロで行くなら剣士などの前衛職でないと、厳しいかと思いますよ」

「いえ、なんだかすみません」

 素早く唐揚げを口に詰め込んで誤魔化す。しかしジト目になった冒険者達は、珍しく静かになったかと思うとヒソヒソと囁き始める。

 大変居心地の悪い空間ができあがり、ミルが内心冷汗を流していると食事が運ばれてきた。無言で食べ始める二人。しかし他の三人はミルの背中を凝視したまま。背後からでもわかる圧迫感で、お腹がいっぱいになりそうだ。

「何と言いますが、同じ店の食事を食べた仲。出会ったのも会話をしたのも初めてではありません。あえて名乗りましょう。私の名はウィリアメイル。エルフの里からやってきた弓術師です」

 自分の皿を持ちながら、ミルの横へ移動した緑髪の冒険者は、そう名乗った。

「俺のは発音難しいからイルで良いぞ。見ての通り前衛だぜ」

「アタシはアリア。無言で食べてる二人は双子ね。頭の色が茶色いのがムム。ムムより黒いのがユユ。あいつら馬鹿だから気にしないで」

 そう言うが、まるで違いがわからない。

 右にイル、目の前にアリアが座り、唐揚げ定食の香りが三倍になった。しかし、なぜか暖かさより寒気を感じる。足下のアルブムは「キュン」とおかわりを所望し、ご主人様の危機に気付かない。

「まさか三十階層降りてるんじゃないでしょうね。ていうか名乗りなさいよ」

「し、失礼しました! ミルと申します。こちらはアルブムです」

「キュ? キュルク。キュキュー!」

 名前を呼ばれておやおやと顔を上げたアルブムが、おすまし顔で挨拶をする。大変お利口さんな様子だ。

 すると訝しげにウィリアメイルが問いかける。

「……そちら灰色狐(グリズリ)ではない?」

「え? ええ……アルブムは高貴なる女王狐(クイーンテイル)ですが」

「こんな所にいたー!」

 人差し指を指され、とっさに手の平で唐揚げを守る。アリアは「盗まないわよ! いや、そうじゃないんだけど!」と悔しそうに食卓を叩き、小さなパンが一瞬浮く。

「アンタ! マジで探してたんだけど、どういうことなのよ! 世慣れエロ女だって聞いたのに! 聞いたのに……聞いてたけど、噂がここまで当てにならないの久しぶりよね。身長は百八十セメトじゃなかったの?」

 人差し指を納め舐めるように見た後、胸部と頭頂部に残念そうな視線を送ってくる。

「私は金色の髪に透けるような肌の美女で、服の面積は体の半分もないと聞きました。男性の手を握るだけで魅了魔法(チャーム)を発動させられて、百人の男をちぎっては投げ、凶暴な使い魔の腹の中に、三百人の冒険者が収まっただとか」

「どこで聞いたのよ。っていうか明らかにモンスターじゃない」

「ええ。嘘だと思っていました。匂いでわかりますし」

 自分の悪い噂に尾ひれと背びれが付いたのだけは理解した。したくはなかったが。

 まあ兎に角、とふたくちで唐揚げを食べたイルが、咀嚼しながらフォークをミルに向けた。

「実績の方を本人様から聞いて、本当のところを知ろうぜ。もぐもぐ」

「サンセー。アタシら【空の青さ】ってパーティ。到達階層は三十五。クッソダサいパーティ名はあっちの二人が勝手につけたやつだから。アタシの趣味じゃないから、そこんところよろしく」

「えー、俺好きだよ? 空の青さ! 青い空、良いよね。空気も美味いしさー」

「話が脱線するから止めてください」

「ワリワリ。で、ミルさん……さんとか痒いな。ミルでいいや。あんた三十階層ソロで突破したって本当か? 俺達パーティに入ってほしいと思って探してたんだよ」

「パーティ!?」

 反射的に飛び上がりそうになり、慌ててテーブルを掴む。シャリオスとの約束がある今、パーティは組めない。しかしこの仲良し五人組の一員になったら絶対楽しい。そう思えば思うほど口がもぞもぞと動いてしまう。

「三十階層を突破したのは本当です。けれどすみません、先約があるのでパーティ加入は無理なんです」

「嘘の鱗片すら香りませんね」

「あんた義理堅いんだなぁ」

 さん付けが痒いと言いながら、最終的にあんた呼びになってしまった。

「まあそうよね。シャリオス・アウリール相手じゃ分が悪い……あらっ? 悪いのはあっちじゃないのかしら?」

「まぁ、下に潜るなら俺らじゃちょっとな。ってことで、臨時パーティ頼むときあると思うけど、そんときはよろしくな!」

「え、いや……お断りしましたよね?」

「ミルさん」

 す、と涼しげな視線で見下ろされ、縫い付けられたようにウィリアメイルの瞳を見つめてしまう。

 彼女は厳かに告げた。

「我々は同じ店の食事を食べた仲……困ったときはお互い様です」

 そうでしょう? と問いかけられ、神々しくも凜々しいエルフのすまし顔に、つい頷いてしまう。

「じゃ、アンタの話」

「ひゃっ」

 まるでミルが正気に戻る前に意識を反らすがごとく、鼻先をつついたアリアは、パンを千切った。細い指先は冒険者でも後衛。肉体的な戦術を主としない事を物語っている。イルが前衛、ウィリアメイルが後衛、残りの二人は後衛職に見えないところから、彼女は魔法使いだろうか。武器は全員マジックバッグに入れているのかもしれない。装備も町人と似た服装だ。

「噂は大体聞いてるわ。次のターゲットはシャリオス・アウリールなんでしょう?」

「誰のこともターゲットにした覚えがないのですが……」

「あーはいはい。そうだったわね。まあでも、アタシらのパーティ断るのは、そっちの先約があるからでしょ? なに、ソロで行く気?」

 三十七階層に、と続ける。

 頷いたミルに大きな嘆息を返し、アリアはパンを口に放り込んだ。半目の顔に「馬鹿らしいこと聞いちゃったわ」とでかでかと書いてある。

「迷宮には二種類の冒険者が潜ると聞きます。命知らずと馬鹿、あと運のない奴」

「なんですかウィリアメイルさぁーん。三種類ですけどー?」

「ええ、私も思いました。相手は酔っ払いだったので仕方ないと思い、引き下がった記憶が」

「アンタおちょくってるの? 寝てるときに脇腹くすぐるわよ? え? くすぐるわよ?」

「食べてるときに下半身の話するの、止めてください」

「どう聞いたら下半身なのよ! 上半身以外の何ものでもないでしょ!?」

「手つきが卑猥でした」

「被害妄想!?」

「……まぁさ、一応俺らも三十五階層まで降りたことあるんだけど、聞くか? あんたは三十四階層まで行ったみたいだけどさ。困ってることがあるなら話てみろよ。助言くらいはしてやるぜ?」

 【火龍の師団】のことも聞いていたらしく、じゃれ合っている仲間二人をスルーして、イルが水を向ける。

 困っている事と言えば足場が悪いこと、アルブムとの連携だ。

「攻撃力が足りないのは致命的だな。魔法はアリアの専門分野だが、あいつは火属性に適性がある。あんたと相性は悪いし助言は無理そうだな。他に知り合いの魔法使いはいるか?」

「え、ええ。講習の時に知り合った方なら」

「じゃ、そいつに相談して、良い方法が無いか聞いたらどうだ? いいじゃん時空魔法。格好良さそうだし、何が出来るかあんまり知らないんだろ?」

「ざっくり調べはしたのですが……」

「講師より知ってる自信があるなら、止めても良いけどさ。そうじゃなきゃ伝手は頼るもんだぜ? 俺もさ、いろいろあってやっぱり伝手って大事だなって思ったんだ」

 言って、何やら遠くに思いをはせてしまう。噛みしめた唐揚げが美味しそうなので、ミルも付け合わせのキャベツをマヨネーズと共に食べた。シャキシャキして美味しい。

「まあ聞いたら死ぬわけじゃないんだし? ダメ元でガンガン行きなさいよ。アタシら命張ってるんだから。遠慮して死んだら笑い草よ」

「仰るとおりです。ところで、地面がぬかるんでいるなら凍らせてはいかがですか? 高貴なる女王狐(クイーンテイル)は氷魔法が使えますよね」

「なにそれ夏にほしい。高値で売れそう」

 一度水にさらしているな、と密かに下ごしらえの方法を探っていると、じゃれ合いから二人が戻ってきた。

 身の危険を感じたアルブムは「キュ!?」と距離を取った。こっちゃこーいと唐揚げで釣ろうとしている。じりじり近づいてくる様子に、アルブムはミルをチラ見して、助けを呼んでいる。

「地面凍らせるって、滑ったらどうするんだ?」

「あら、転べば良いじゃない。転ぶのが人生よ。ぷぷー!」

「酷い女だな。こういうのになったら、嫁のもらい手が無いから気をつけるんだぞ?」

「何ですってアンタ!?」

「とりあえずさー、酸だろ? 足場だろ? んで、攻撃。駄目な所は、わかってれば何とかなるって! ってことでおかわり!」

「攻撃面は候補が一人いるのですから、シャリオス・アウリールが仲間に加わるよう考えた方がいいのでは? ようは三十六階層を通り抜ければいいのですし」

「それじゃつまらなくね? だって迷宮だぜ? 冒険だぜ? 出会いと別れ。命のやり取りしてるから、メシも旨いんだしさ」

「やぁねぇ。避けられる戦闘までやるなんて。頭に筋肉でも詰まってるの?」

「ミルさんは、シャリオス・アウリールと組みたいだけなのでは?」

 どうなのだと聞かれ、慌ててしまう。

 シャリオスと組みたいと思ったのは本当だ。放っておけないのも。しかし迷宮を求めたのは家族を安心させ、冒険者として身を立てるためだ。そのために新しい魔法の発現、自分に出来ることを探すのがミルの目標だ。

 言うと、あからさまにアリアは笑う。むかつきを通り越して清々しいほどの大笑いだった。

「ぷぷー! アンタお伽噺の英雄様にでもなるつもり? 夢って良いわよねぇ。砕けるまでは」

「やさぐれ女だけどさ、こいつにも夢が――」

「チェストー!」

「ぐへっ! なにすんだ! 頭からいろんな物が出るかと思ったぜ!?」

 フォークで頬を叩かれたイルは目を白黒させる。それに「黙れ小僧!」「俺の方が年上なのに……」と返して暴れ出す冒険者二人。そっと距離を取った。

「まったく、食事中に騒がしい。……失礼ながら、その夢は困難です。けれど、前例がないわけではありません。笑われる夢ですが、気をしっかり持ってブフッ」

「今一番笑ってるのは、ウィリアメイルさんですよね」

「失礼。ちょっとお花摘みに……」

 別室からヒイヒイ笑う声が聞こえ、それは彼らが店を出た後も続いた。

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