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付与魔法使いは迷宮へ  作者: 灯絵 優
付与魔法使いと赤服の生徒
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第五話

 ギルドで新しくパーティ申請をした。

受付担当のスプラはシャリオスのギルド証と本人を三度見して確かめていた。あらぬものを見てしまった表情なのが気になったが、気にしたら負けてしまうのだろう。

 悟り顔のミルに「気を強くお持ち下さい」と死地に向かう兵士への激励みたいな事を言っていたが、善意からに違いない。

「ベルカのレベル上げ頑張ろっか」

「ギュル、キュルルルルルル。キューキュッキュッキュ」

 全身鎧でもウキウキさが隠せていないシャリオスは、元の大きさに戻ったアルブムをしきりにモフリたおしていた。鎧なのに感触が伝わるのだろうか。謎が積み上がる。

「私達は弱いのだが、それでも一緒の方が楽しいのだろうか」

「そりゃそうですよ。私はアルブムがいるからまだ平気ですけど、やっぱり会話がないと寂しいじゃないですか。孤独だとメンタル保つのが大変なの、わかっていただけますよね?」

「う……認めたくはないが」

 あぶれ者三人組は身を寄せ合って仲間の尊さを知るのである。なんだか他人に指をさされて馬鹿にされそうだが、そんなことは関係ない。大事なのは中身。

 迷宮十二階層までは今まで通り二人と一匹、シャリオスは後ろで見学してもらった。ちょいちょいシャリオスは質問をはさみ、ミルとベルカに動きの理由を聞いた。

「ミルちゃんは見たことない戦い方だね。びっくりした。合成魔法上手なんだね」

 褒められて照れきっているミルに、ベルカも感心している。なぜかアルブムも便乗して鼻高々だ。

「私は合成魔法は眉唾だと思っていた。ミル殿が使うところ見て、ようやく存在していたのだと」

「僕も無属性魔法動かしたいな……<障壁(ウォール)>!」

 円形に出た障壁はピクリとも動かない。

「だめだ難しい。というかどうやって動かすの? ベルカは動いた?」

「数セメトが限界だった。私は剣術の方を優先して伸ばしたほうが良さそうだ」

「まあそうなるよね。……あ、来たみたいだ」

 適正かな、と呟いているとアルブムが右側を見て止まる。現れたモンスターを蹴散らすと、一度休憩しようという話になった。

「アルブム、周辺の警戒をお願いします」

「キュルグ」

「それじゃ、連携と立ち回りの話をしよ?」

「光を屈折させますね」

 杖を振ると、周辺だけ夜のように暗くなる。シャリオスは兜を脱いで、タオルで顔を拭く。

「ありがとう。やっぱりそれ便利だなぁ」

「特定の人にしか喜ばれませんが」

「へへへ。それでなんだけど、ベルカは今まで対人戦ばっかりだったよね? 小さい相手はまだ苦手?」

「装備は変えたし、来たときよりも馴れたが……改善の余地が多いと思っている」

「どこらへんが?」

「まず、一体ずつモンスターを相手にする癖が付いている。これは対人戦でもそうだ。ミル殿が押さえてくれるから何とかなるが、本来は十階層を超えられないだろう」

「うん、そんな感じ。盾の使い方を先に考えた方がいいよ。相手を受け止めるだけじゃなくて、払ったり殴ったりする。ベルカの盾は縁が鉄で丈夫だから、多少乱暴に使っても大丈夫だよ。そうすれば二匹同時に来ても対処できるし」

「詳しいのだな。シャリオス殿は盾を持っていないが、使っていたことがあるのか?」

「最初は盾を持っていたんだ。でも僕はソロだから重い荷物はあまり持てないし、マジックバッグの容量も限界がある。だから双剣に変えて攻撃を受けることから、牽制に変えたんだ」

 吸血鬼は影に潜れるので、もしもの時の回避技は豊富だし、と付け足される。

「あとは鉄靴で蹴り飛ばしてもいいんだよ? まあ、(かじ)られないタイミングを見ないとだけど。騎士が使う特定の型は上手にできてるから、別の動きも混ぜていこう」

「わかるのか?」

「これでも色々な人とパーティを組んだからね。さ、練習をしよう。馴れてきたら自分より大きな相手で戦うことになるし。ゴーレムは僕より大きいよ」

「う、がんばろう」

「一番を目指すなら、やっぱり階層更新がいいよ。卒業生が言ってたし」

 おや、と首をかしげる。毎年生徒達が来ていることは領民すら知っている事なので、先達が経験を語ったり、見た感想があるのはわかるが。卒業生と話す機会でもあったのだろうか。

 聞くと、シャリオスは頷いて続けた。

「ユグド領にも卒業生の人が来てるんだよ。知らなかった? あ、もしかして言ったら駄目なやつなのかな……」

 毎年この時期になると、有志を集めて活動を開始するのだという。生徒が死なないように、こっそり見守るのだとか。人が少ないと騎士団から何名かやってくる場合もあるという。学園は大変そうだ。

 実は安全対策を頑張っていると聞き、ベルカは目を丸くする。

「ここまで来たら聞いても聞かなくても一緒ですよね。でも卒業生の方は優しいですね。後輩の面倒を見るために、わざわざ遠征してくれるだなんて」

 いい人が多いのだなと感心しきりになると、視線を外される。

「夢を壊すけど……生意気なガキを泣かしてやるぜってタイプが多くて、わざと生徒に雇われて、裏切ったり窮地に追い込んだりするらしい。……世の中の厳しさを教えるんだって」

「それは大丈夫じゃないですね!? なぜ知ってるんですか!?」

 小さく「鉢合わせしたことがあって」と言うシャリオスの言葉で全てを悟ってしまう。

「身ぐるみ剥いで泣かしたって言ってた。ギルドも黙認してる。荷物は後で返すらしいんだけどね」

「そ、それは……」

「ベルカさん……。エトロット様、危ないのでは」

「私も同じ事を考えた……いや、よそう。今は自分のことで手一杯だからな! 私は何も聞かなかったのだ!」

「キュキュキュ」

 話し込んでいたせいで気付かなかったが、アルブムがモンスターを端から囓っていた。おやつを食べて満足そうに口の回りを舐めている。レベル上げのためには、いろいろ注意する事が多そうだ。



 気を取り直してパーティはモンスター退治へ戻った。

「左から来てるよ! 弱点をちゃんと狙って。そうそう」

「す、少し休憩しないか!?」

「ゴーレムはもっと堅くて時間がかかる。これくらいでへばってたら十三階層には行けないよ」

「うぐっ」

「あの、投げるポーションの練習をしたいのでいいですか?」

「なにそれ。見てみたいかも」

 許可が下りたので、ミルはポーションを開けると障壁に包んでベルカに飛ばす。頭の上にかけると、驚いて後退した。

「んあ、なんだ!?」

「ポーションです! ポーションはかけても使えるじゃないですか」

「だからって頭はないだろう!? 目に染みるっ」

「盲点でした、ごめんなさいっ」

 そこまでは考えてなかった。感心しつつも状況が混乱し、モンスターにタコ殴りにされるベルカ。体勢を崩したベルカを助けるため、ミルは慌てて障壁でモンスターを遠ざけ、シャリオスが間に入る。瞬く間にモンスター達は一掃された。

「うーん、ちょっと使いどころが難しい方法だね。でも、回復の方法が増えるのは良さそう。他に何が出来るの?」

「ええと、障壁に付与をつけることが出来ます。<回復増加魔法(ヒールアップ)>を重ねがけするとポーションの効果もあがるので」

「なるほど! ね、その障壁って踏めるんだよね? ちょっと貼ってみてくれる? それで、なんでもいいけど、付与魔法つけてみて」

「いつもの堅さはこれくらいなんですが……<魔法攻撃強化魔法(アルメナーラ)>、<障壁(ウォール)>」

「おー! これ凄い! 踏んだら付与魔法が発動した。ね、これで階段つくれる?」

「こうでしょうか?」

 段差のある障壁をつくると、シャリオスは喜んだ。

「これなら空中で足場の確保ができるね!」

 三十四階層の灰色の王(バニッシャー)戦闘時に使ったのだが、そういえばシャリオスにはどうやって倒したのか言っていなかった。【火龍の師団】に入り損ねたことは愚痴ったが。

「これなら崖でも空でも大丈夫だし、跳ねられるし! ミルちゃんとパーティ組むの楽しいね」

「いや、まだ臨時パーティなので」

「三十階層へ急ごうか」

「……二人とも私の事を忘れてるだろう」

 あまりにも喜ぶので動かしてあげていると、恨みがましい目で睨まれた。愛想笑いして誤魔化すが、ベルカは嘆息するだけだ。

「大丈夫、レベル上げレベル上げ」

「不安になってきたな」

 ベルカのレベルが二十になったのは翌日だった。



 三人と一匹は宿で集合し、そのまま迷宮へ向かう。迷宮前で待ち合わせると、シャリオスが人に絡まれるからだ。よくわからないが、応援団のようなファンクラブのような人達がいて、彼もしくは彼女たちは一人の時にしか話しかけてこないという。ルールでもあるのだろうか。不思議に思うが、探っても碌な理由が出てこないと思うので止めた。

 ちなみにシャリオスは宿を変えたがったが、臨時パーティは駄目だと言われたのだという。

「そう言えば、どうしてパーティを組まないとラーソン邸を出られないのですか?」

「知り合って数ヶ月……ようやく質問された」

「そこは感動するところなのか? おっと、アルブム! 私がやるから下がってくれ」

「ギュ」

「経験値がほしいだけですよ」

 鼻に皺を寄せていたアルブムは、角持つ兎(ボーンラビット)を取られるわけじゃないとわかって機嫌を直した。最近グルメになってきて、宿の食事もそうだが、気に入ったものをたくさん食べたがる。ゴブリンは一口囓って止めていた。

 心の距離が縮まった気がする、と呟いているシャリオスの言葉は、聞かなかったことにした。

「ウズル迷宮の最下層がわからないのは知ってる?」

「たしか、最高到達が五十七階層でしたよね」

「五年前にようやくね。で、迷宮の最下層には途轍もない宝物があるって言われているでしょう?」

 見たことがない魔導具や目の眩むような宝物、アカシックレコードの一部が見つかる事もある。それは天井知らずの価値をもたらし、技術、学問、国力すら動かす。

「ウズル迷宮は最下層まで攻略されてない。今のところ、他の迷宮より価値あるものが出ないんだ。濁流の都で採れる高額アイテムも素材も、他の迷宮に比べると見劣りする。最下層まで情報が出てるほうが、冒険者も対策を立てられるでしょう?」

 簡単に言えば、流行っていないのだという。他の迷宮に行ったことがないが、この人の多さと活気より凄い領地があると聞いて目を丸くする。

「領主は領地経営のためにも最下層へ到達し、類い希なる財宝を地上に持ちかえることができる冒険者を望んでる」

 だから私財をなげうち、一級冒険者を優遇するのだという。

「僕は三十七階層を突破したとき一級冒険者指定を受けた。他の冒険者もそうだよ」

 二年前の事だった。それは四十階層に行くのに二年もかかってしまったという意味でもある。全てシャリオスがソロだったのが原因だ。

「一級冒険者達は、顔繋ぎできれば、よりパーティに優れた知識と人脈を得られる。ソロならパーティを組めば、更に深く潜ることができる。だから領主は僕にパーティを組ませたい。でも、僕は長続きしないんだ。途中でいなくなっちゃうし」

「なるほど、ユグド領に残ってもらうために引き留めてるんですね。シャリオスさんはもっと潜れるはずだから、パーティを組むようにと」

 慌ててミルが遮ると、死んだ魚のような目をして頷いた。

 首をかしげたのはベルカだ。

「途中でいなくなるうんぬんはわからないが、シャリオス殿が宿を出たがっているのを領主が阻止しているのか? ……なぜだ? 何か落ち度でも?」

「食事が口に合わないんだ。気も遣うし」

 ゲソッとしたシャリオスが言うには、料理はとても美味しいが腹に溜まらないのだという。初日、使用人が青い顔をしていたのに気付いて、領主の懐事情も気になってしかたないらしい。一級冒険者向けの料理なので、高い食材が豊富なのだとか。

 いつも宿に来ては十人前以上食べていく姿を思い出し、納得する。けれどベルカは首をかしげるだけだ。

「それは投資だろう? 何を遠慮することがあるのだ?」

「一般庶民に言われても……。お貴族様とは感覚が違うんだよ?」

「そうなのか?」

「いや、私に聞かれても困りますが」

 何話してるのー? と鼻先をお腹に押しつけてたアルブムを撫でる。尻尾が全身に巻き付き、幸せな感触が体を包み込んでくる。

「シャリオスさんはラーソン邸にいても安らげないのではないでしょうか。だから、お金を払ってでも別の宿で休みたいのでは?」

「そういうことか。ならばウズル迷宮を攻略してほしい領主が、理由をつけて引き留めるのもわかる」

「ユグド領を出るつもりはないんだけどなぁ」

「領主はそうとらない。客人を満足させるのは貴族として当然のことであり、シャリオス殿は伝えていないのだろう?」

「言ったらややこしいことになると思って……」

「正しい判断だ」

 不満を伝えれば領主はベルカのように気にする必要はないと言うだろう。領主として当然の出費だし、面子に傷が付く。しかし太鼓判を押されたら、シャリオスはもっと気が休まらなくなるに違いない。

「このままパーティを組んでラーソン邸を出るのが、最も穏便だ」

「だよね。――ミルちゃん、はやく三十階層に行ってね?」

「ははッ」

 これ以上ない墓穴を掘りつつあるのでは。目を避けている問題の数々をうっすら感じ、乾いた笑いが漏れる。

 なぜシャリオスはパーティが長続きしないのだろうか。実力で言えば一級品なのにである。知りたいが知りたくないという矛盾を感じながら十三階層へ足を踏み入れた。

 ベルカは盾の使い方や立ち位置の確認と、引き続きレベル上げ。ミルは投げるポーションの練習だ。

「盾はこう。腰を落とさないと直ぐに飛ばされるよ。ほら来た!」

 アルブムが連れてきたゴーレムはベルカと同じくらいの大きさだ。のしのしと進む速さは歩いているより少し早い程度。これがゴーレムの全力疾走である。

「っ! 重いな」

「キュキューン?」

「アルブムはしばらくお休みですよ。ベルカさんと私の練習なので」

 ふーん? と首をかしげたアルブムはお座りをすると尻尾に前足を乗せ寛ぎ始める。まるで強者の余裕――というよりも、アルブムは三十四階層まで疾走できるほど強いのだが。

「そう言えば、迷宮の難易度ってどうなっているんでしょうか?」

「ウズル迷宮? まだ最下層がわからないけど、最高到達までならランクAだね。難易度が高いのに良い物がでないって言うのが冒険者的な評価。あ、ベルカ、剣の刃こぼれに気をつけて!」

「岩を、切るのだからっ! このっ。刃こぼれくらい、するだろう!?」

「ちゃんと切れば大丈夫だよ! ――ただ、他の迷宮は六十階層前後で終わってることが多いから、見たことないアイテムが出るんじゃと思って挑戦してる人が多いよ。僕もそのクチだし」

「皆さん、いろいろ考えているんですね」

 一番近い迷宮だからと選んだが、とんでもない場所だったらしい。新規で来る冒険者もそれなりのレベルか、すでに固定パーティを組んでいる者が殆どなのだそうだ。

 ミルは、どうして自分がパーティを組めないのか、別の角度からの理由を知った。

(初心者冒険者が少なかったのね)

 駆け出しは低ランク迷宮から挑むのがセオリーらしい。

 思い出せば、郵便物盗難事件の被害者、シェッドもパーティを組んでいるようだった。もしかしたら、レベルも高いかもしれない。

 知らないことばかりで目から鱗がポロポロ落ちる。冒険者の常識講習があったら受けたいくらいだ。

 ベルカに指示を飛ばしているシャリオスは落ち着いている。初めて挑む階層ではないから当然だが。

 なんとなく頼もしく感じたミルだった。

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